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広い室内に無数のテレビモニターが整列して並び、それが大画面となって、無数の人間に情報を与える。
大画面とは別に、パソコンのモニターも机一つ一つに並び、その机も長い列を作りながら何列もある。空いているところもあるが、ほとんどの机には軍服に「司令部」と書かれた腕章をしている人間が、パソコンを見ながらキーボードを叩いている。インカムからは様々な情報が行き交っている。
吸血鬼殲滅部隊の本司令部では瀬戸内海にある第一ゲートと太平洋にある第十一ゲートの二つを常に監視している。どちらも日本の領域に浮かび、吸血鬼の進軍が絶えない。
日本は二つのゲートの為、監視体制が他の国よりも厳しく、常に緊張状態を強いられる。
その司令部の長である司令部長は三人いる。第一ゲートと第十一ゲートをそれぞれ担当し、そして司令部全体とゲートそれぞれの担当部長をまとめる司令部総司令官の三人だ。
いまの時間を担当している第十一ゲートの司令部長の今成は大画面のモニターを見ながら、コーヒーを啜る。
既に冷めたものだが口元寂しいので飲んでいるものだった。定点カメラで映し出される二つのゲートは開く様子もない。このまま自分の持ち時間まで何事もないのを願うが、世の中甘くない事を重々に承知している。
一ヶ月前から監視システムが異常状態になり、吸血鬼の人数やクラスの正確な情報が読み取れず、死人は出なかったが、怪我人を異常なまでに出してしまった。
技術部や観測班・回収班が連日連夜でシステムの構築、アップロード、機械の入れ替えで、何とか異常事態を脱出できたが、一人、優秀な軍人を帝國に拉致されてしまった。
元帥や上層部の判断で一ヶ月後に見つからなければ死亡判断されるらしい。
殲滅部隊最強と言われた夜神凪中佐だ。最強と言われても吸血鬼に勝てないと言っているようなものだ。
これ以上どうすることも適わないのかもしれない。ただ、奴らの餌になることを享受するしか生きる選択肢はないのかもしれない。
冷めたコーヒーを空にして机に置く。部屋全体を見わせるように、吹き抜けの二階部分にせり出した空間に司令部長の机が並んでいる。
他の二人は休憩のためここには居ないが、何かあれば三人で対応することもある。
今成司令部長は第一ゲートの映像を見る。ゲートと呼ばれるが本来は「ブラッドゲート」と呼ばれる扉で、吸血鬼の世界と人間の世界を繋げている。
あちら側からは自由に出入り出来るが、こちら側は中に入ることも出来ない。技術が違いすぎるのだ。
世界の技術部が総員で解明しているが、それでも難しいらしい。いつになったら自分たちもあちらの世界に行けるのか見通しが出来ない。まだまだ先の話なのかもしれない。
「技術の進歩の違いなのかねぇー。アチラさんの頭の中を見てみたいよ」
今成はボヤいて、机の引き出しからガムを取り出して噛み出す。タバコを吸いたくてもこの部屋では吸えないので、苦し紛れにコーヒーやガムで紛らわしていく。
それはいつもの事なので司令部のみんなも気に留めてもいない。いつもと変わらない日が過ぎると思っていたが状況が一変する。
突然、司令室に警報音が鳴る。司令部の人間は自分達の作業を止めて大画面のモニターを確認する。
すると第一ゲートから帝國のヘリが二機現れたのだ。今成はマイクのスピーカーをONにして命令していく
「総員A級警戒体制に移行!観測班、人数・クラスの判別作業急げ!動ける部屋の人間を報告しろ!モタモタするな!」
「「「了解!!!」」」
命令と同時に一斉に自分達の仕事をこなしていく。今成も椅子に座り、大画面のモニターを睨む。
ゲートの映像が隅の方に移動して、画面には線画のゲート周辺の地図が現れる。そして光る点で吸血鬼のヘリを表してその点は何処に行くのかを表示する。
「今成司令部長!!解析データのなかに夜神中佐の記章のデータがありました!!もしかしたら夜神中佐が乗っているかもしれません!」
「はっ!?なんだって!急いで第一室長と藤堂元帥に連絡を!司令部に来てもらうようにしろ!」
今成は考えが具現化したのかと思ってしまった。夜神中佐の安否を考えていたのだ。
その時にゲートからの侵入と夜神中佐の記章の発振器を感知したのだ。驚きはしたが軍にいる以上何かしらの不可思議現象はあるのかもしれない。
だが、今はこの発振器が何処まで信用出来るのかだ。本人が付けてなくても、電波は受信する。勿論死体でもだ。
発振器だけでは正確な情報は得られない。歯痒い思いだけが募る一方だった。
ーーーーー判断は元帥と室長に委ねるのがいいのか?
今成は責任を押し付けるわけではないが、一瞬考えてしまう。何処まで判断したほうがいいのかをだ。
もし、生きているなら下手な判断は出来ない。
今成は夜神中佐の事は上に任せる方向にして、他の吸血鬼の対応に専念することにした。
「はい、第一室の長谷部です。・・・・・夜神の記章の発振器?了解した。直ちに向かいます」
長谷部は司令部からの連絡を受けると、部屋にいた七海や式部、相澤、庵の四人の顔を見る。
四人も長谷部の言葉にすぐに反応して、それぞれしていた作業をやめて長谷部を見る。話の内容が夜神に関する事だったからだ。
「第一ゲートから吸血鬼の反応を確認した。その時に夜神の記章の発振器の電波も受信したとの事だ。但し生死は不明、また本人確認も出来ていない。藤堂元帥とどうするか決めるため、今から司令部に行く」
長谷部は椅子から立ち上がり部屋に居る四人に説明する。
「俺も司令部に行きます。ここにいる人間は皆行くと思いますよ。庵青年も勿論行くだろう?」
七海は椅子から立ち上がり、全員が行くことを意思表示する。それにつられて他の三人も同じく立ち上がる。
「分かっている。来るなと言っても来そうだからな。ならば急いで司令部に行く」
「「「了解!」」」
無表情だが、僅かばかり眉を寄せた長谷部を先頭に第一室の隊長クラスの三人と学生の庵は部屋を出ていった。
司令部に行く廊下を歩いているときに、廊下で話している長谷部 貴也少佐と藤堂 義武少佐は、司令部に向かう第一室長と隊長クラスの物々しい雰囲気に何かあったと思い、失礼だと思いながらも声を掛けた。
「失礼します。長谷部室長何かあったんですか?」
「藤堂少佐、帝國から吸血鬼が数名侵入してきた。その中に夜神の記章の発振器を感知したと連絡があったんだ。だから今から司令部にいく。元帥も来てきるはずだ」
「夜神中佐のですか・・・・・我々も同行してもいいでしょうか?」
「任務はどうした」
「本日は内勤です。何かあれば速対応可能です」
「・・・・・許可する」
「ありがとうございます」
長谷部は二人の考えや思いが、痛い程わかる為勝手だと分かっていたが許可してしまった。
ーーーーーー職権乱用だと言われればそれまでだが・・・・
長谷部は無表情で先頭に立って司令部に向かう。その後ろを大所帯になってしまった第一室の面々が続く。
一刻も早く明確な情報を入手して、助けに行けるのなら早く助け出して安否確認をするために。
大画面とは別に、パソコンのモニターも机一つ一つに並び、その机も長い列を作りながら何列もある。空いているところもあるが、ほとんどの机には軍服に「司令部」と書かれた腕章をしている人間が、パソコンを見ながらキーボードを叩いている。インカムからは様々な情報が行き交っている。
吸血鬼殲滅部隊の本司令部では瀬戸内海にある第一ゲートと太平洋にある第十一ゲートの二つを常に監視している。どちらも日本の領域に浮かび、吸血鬼の進軍が絶えない。
日本は二つのゲートの為、監視体制が他の国よりも厳しく、常に緊張状態を強いられる。
その司令部の長である司令部長は三人いる。第一ゲートと第十一ゲートをそれぞれ担当し、そして司令部全体とゲートそれぞれの担当部長をまとめる司令部総司令官の三人だ。
いまの時間を担当している第十一ゲートの司令部長の今成は大画面のモニターを見ながら、コーヒーを啜る。
既に冷めたものだが口元寂しいので飲んでいるものだった。定点カメラで映し出される二つのゲートは開く様子もない。このまま自分の持ち時間まで何事もないのを願うが、世の中甘くない事を重々に承知している。
一ヶ月前から監視システムが異常状態になり、吸血鬼の人数やクラスの正確な情報が読み取れず、死人は出なかったが、怪我人を異常なまでに出してしまった。
技術部や観測班・回収班が連日連夜でシステムの構築、アップロード、機械の入れ替えで、何とか異常事態を脱出できたが、一人、優秀な軍人を帝國に拉致されてしまった。
元帥や上層部の判断で一ヶ月後に見つからなければ死亡判断されるらしい。
殲滅部隊最強と言われた夜神凪中佐だ。最強と言われても吸血鬼に勝てないと言っているようなものだ。
これ以上どうすることも適わないのかもしれない。ただ、奴らの餌になることを享受するしか生きる選択肢はないのかもしれない。
冷めたコーヒーを空にして机に置く。部屋全体を見わせるように、吹き抜けの二階部分にせり出した空間に司令部長の机が並んでいる。
他の二人は休憩のためここには居ないが、何かあれば三人で対応することもある。
今成司令部長は第一ゲートの映像を見る。ゲートと呼ばれるが本来は「ブラッドゲート」と呼ばれる扉で、吸血鬼の世界と人間の世界を繋げている。
あちら側からは自由に出入り出来るが、こちら側は中に入ることも出来ない。技術が違いすぎるのだ。
世界の技術部が総員で解明しているが、それでも難しいらしい。いつになったら自分たちもあちらの世界に行けるのか見通しが出来ない。まだまだ先の話なのかもしれない。
「技術の進歩の違いなのかねぇー。アチラさんの頭の中を見てみたいよ」
今成はボヤいて、机の引き出しからガムを取り出して噛み出す。タバコを吸いたくてもこの部屋では吸えないので、苦し紛れにコーヒーやガムで紛らわしていく。
それはいつもの事なので司令部のみんなも気に留めてもいない。いつもと変わらない日が過ぎると思っていたが状況が一変する。
突然、司令室に警報音が鳴る。司令部の人間は自分達の作業を止めて大画面のモニターを確認する。
すると第一ゲートから帝國のヘリが二機現れたのだ。今成はマイクのスピーカーをONにして命令していく
「総員A級警戒体制に移行!観測班、人数・クラスの判別作業急げ!動ける部屋の人間を報告しろ!モタモタするな!」
「「「了解!!!」」」
命令と同時に一斉に自分達の仕事をこなしていく。今成も椅子に座り、大画面のモニターを睨む。
ゲートの映像が隅の方に移動して、画面には線画のゲート周辺の地図が現れる。そして光る点で吸血鬼のヘリを表してその点は何処に行くのかを表示する。
「今成司令部長!!解析データのなかに夜神中佐の記章のデータがありました!!もしかしたら夜神中佐が乗っているかもしれません!」
「はっ!?なんだって!急いで第一室長と藤堂元帥に連絡を!司令部に来てもらうようにしろ!」
今成は考えが具現化したのかと思ってしまった。夜神中佐の安否を考えていたのだ。
その時にゲートからの侵入と夜神中佐の記章の発振器を感知したのだ。驚きはしたが軍にいる以上何かしらの不可思議現象はあるのかもしれない。
だが、今はこの発振器が何処まで信用出来るのかだ。本人が付けてなくても、電波は受信する。勿論死体でもだ。
発振器だけでは正確な情報は得られない。歯痒い思いだけが募る一方だった。
ーーーーー判断は元帥と室長に委ねるのがいいのか?
今成は責任を押し付けるわけではないが、一瞬考えてしまう。何処まで判断したほうがいいのかをだ。
もし、生きているなら下手な判断は出来ない。
今成は夜神中佐の事は上に任せる方向にして、他の吸血鬼の対応に専念することにした。
「はい、第一室の長谷部です。・・・・・夜神の記章の発振器?了解した。直ちに向かいます」
長谷部は司令部からの連絡を受けると、部屋にいた七海や式部、相澤、庵の四人の顔を見る。
四人も長谷部の言葉にすぐに反応して、それぞれしていた作業をやめて長谷部を見る。話の内容が夜神に関する事だったからだ。
「第一ゲートから吸血鬼の反応を確認した。その時に夜神の記章の発振器の電波も受信したとの事だ。但し生死は不明、また本人確認も出来ていない。藤堂元帥とどうするか決めるため、今から司令部に行く」
長谷部は椅子から立ち上がり部屋に居る四人に説明する。
「俺も司令部に行きます。ここにいる人間は皆行くと思いますよ。庵青年も勿論行くだろう?」
七海は椅子から立ち上がり、全員が行くことを意思表示する。それにつられて他の三人も同じく立ち上がる。
「分かっている。来るなと言っても来そうだからな。ならば急いで司令部に行く」
「「「了解!」」」
無表情だが、僅かばかり眉を寄せた長谷部を先頭に第一室の隊長クラスの三人と学生の庵は部屋を出ていった。
司令部に行く廊下を歩いているときに、廊下で話している長谷部 貴也少佐と藤堂 義武少佐は、司令部に向かう第一室長と隊長クラスの物々しい雰囲気に何かあったと思い、失礼だと思いながらも声を掛けた。
「失礼します。長谷部室長何かあったんですか?」
「藤堂少佐、帝國から吸血鬼が数名侵入してきた。その中に夜神の記章の発振器を感知したと連絡があったんだ。だから今から司令部にいく。元帥も来てきるはずだ」
「夜神中佐のですか・・・・・我々も同行してもいいでしょうか?」
「任務はどうした」
「本日は内勤です。何かあれば速対応可能です」
「・・・・・許可する」
「ありがとうございます」
長谷部は二人の考えや思いが、痛い程わかる為勝手だと分かっていたが許可してしまった。
ーーーーーー職権乱用だと言われればそれまでだが・・・・
長谷部は無表情で先頭に立って司令部に向かう。その後ろを大所帯になってしまった第一室の面々が続く。
一刻も早く明確な情報を入手して、助けに行けるのなら早く助け出して安否確認をするために。
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