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自分が普段から使う寝室のベッドに、壊れ物のようにそっと眠っている夜神を横たえる。
夜神が帝國に来て二週間、このベッドは使われる事はなかったが、今日の夜からまた使うと思うとため息がでる。
夜神を下ろして、隅に置かれているラフな服に着替えると、ベッドに潜り込む。

頬には乾いた涙の跡が残っているが、それさえも整った夜神の顔を十分に引き立てる演出の一部になっている。その顔をしっかりと堪能したルードヴィッヒは腕枕をして抱きしめる。
白い肌はルードヴィッヒに執拗にまで付けられた、鬱血の跡が異常なまでに残されている。
「さびしいなぁ、折角、再開出来たのに。仕方がないことだけどね。一眠りしたらお別れかぁ・・・・・ん?あぁ、眠っていても私を求めるのかい?本当に凪ちゃんは可愛いなぁ。憐れなぐらい可愛いよ」

ウッディとオリエンタル調の混ざった深みのある香りを求めて、眠りながらもルードヴィッヒの胸元に顔を寄せる夜神の頭を撫でながら薄ら笑いをする。
「可愛い。けどそんな事を私以外してはいけないよ?私は嫉妬深いからね?あ~~ぁ、離したくないなぁー。このまま鳥籠に閉じ込めようか?だって、白い小鳥だもんね?でも、約束したからね。嫌われたく無いし、残念だけど、我慢するしかないかぁー」
独り言を眠っている夜神に聞かせると、布団ごとキュッと体を抱きしめ目を閉じる。
眠る時間は短いが、少しでも夜神を堪能するために、ルードヴィッヒも眠りについた。


ローレンツは登城するなり、ルードヴィッヒと打ち合わせしていた事を次々にこなしていく。
ヘリの手配や操縦者、血液投与した動物や昆虫、そして鳥籠だ。
それら必要な事を全て終わらせると、ルードヴィッヒの生活する部屋に向かう。
扉をノックして入ると、いつもの詰め襟の軍服姿のルードヴィッヒは机に向かって書類仕事をしている。
「おはよう、ローレンツ。朝から精が出るね。一仕事終えた感がするけど?」
「・・・・・おはようございます。えぇ、一仕事終えましたよ。白いお嬢さんを人間の世界に帰す準備をね!所でそのお嬢さんは何処に居るんですか?」
引きった笑顔でローレンツはルードヴィッヒに答える。

いつものことながら、この陛下はっっ!!
内心舌打ちの三つほどして、肝心の人物の居場所を聞く。

「あぁ、凪ちゃんは私の部屋で眠っているよ。暫くは眠るようにしてあるから、どんな事をされても起きないよ。さて、着替えさせないとね。ローレンツ悪いけど凪ちゃんの軍服を持ってきて貰えるかい?」
「軍服が必要ですか?ドレスでもいいと思いますが?」
「必要だよ。あの軍服の襟の記章は発振器なんだよ。軍のレーダーに突然、凪ちゃんの発振器が現れたら楽しいと思わないかい?」
ルードヴィッヒは歪んだ笑みをローレンツに向ける。
その顔は心の底から楽しんでいる笑みだ。

「まぁ、驚くでしょうね。理由は分かりました。すぐに持ってきますよ。白いお嬢さんの準備だけはしていて下さいね。すぐにでも動けるように、こちらは全て整ってますから」
「別れを惜しむ間も与えないのだね。ローレンツは意外と悪魔だね。わかったよ・・・・・所で確認したいのだけど?」
「何でしょう?」
ルードヴィッヒが珍しくローレンツに確認してくるのを、驚いてしまい顔を見る。
真剣な眼差しを向けてくるのに只事ではないと思い、こちらも真剣な表情になる。
「凪ちゃんは赤と黒どちらが似合うと思う?軍服は黒だから迷っているんだよねー。あえての白もい」「ちょっとまて!何の話だ!色の話?どっちでもいいわ!真剣に聞いた私が馬鹿だった!」

ルードヴィッヒの間抜けな話を途中で遮って、ローレンツは大声で叫ぶ
「大事だよ?凪ちゃんに合う色は沢山あるけど、その中でも一番を選ばないと可愛そうだろう?」
「・・・・・・・あーーー、赤でいいんじゃないですかー、ドレスも赤が多かったしー、赤が合うと思いますよー・・・・・これでいいですか?」
色々と面倒くさくなって、棒読みのセリフをローレンツは、明るくなった窓を見ながら言う。
「心がこもってないけどなぁー。そうだよね。やっぱり赤が合うよね。ありがとうローレンツ。早速着替えを用意しないとね。軍服は任せたよ」
「・・・・・・了解しました。では一旦、失礼します」
軽く一礼して部屋を出ていく、ローレンツの姿を確認したあと、ルードヴィッヒは寝室に向かう。

寝室には穏やかに眠っている夜神がいる。いつもは悪夢にうなされているが、夢の操作をやめたのだ。そのおかげか寝息も安らかなものだ。

寝室のテーブルにはルードヴィッヒが迷っていた色のスリップが並べられている。その中から赤色のスリップを掴み、眠っている夜神の元に行く。

眠っている人間に着せるのは一苦労したが、何とか着せることが出来たルードヴィッヒは満足気に顔を歪める。
白い肌は、夥しい鬱血の跡があり、事情の激しさ、異常さを物語っている。そこに絹の光沢とふんだんに使われたレースの赤いスリップが艶を添える。

そこにローレンツがやってきて、夜神の軍服を手渡す。袖を通すだけで、前は開けたままにする。
禁欲的な軍服と性欲を掻き立てるスリップの、矛盾した格好をさせられている夜神は何も知らず、なすがままの状態で着替えさせられて、ルードヴィッヒに抱かれて、城の屋上まで連れて行かれる。

屋上ではヘリが待機していて、いつでも移動できる状態で皇帝の登場を待っていた。
やがて、夜神を抱いたルードヴィッヒとそれに続いてローレンツが現れる。
ルードヴィッヒはヘリに搭乗すると、人が一人入れるぐらいの鳥籠に夜神を入れ込む。
眠っている夜神の両手をそれぞれ、籠に括り付けていく。その際に赤く彩られた爪を見て、そこに軽く口付けをする。
そして眠っている夜神の両頬を包み込むと、薄く開いている唇に、自分の唇を重ねて口付けをする。
抵抗なく舌が入り込み、夜神の口内を蹂躪する。舌を吸い、硬口蓋や軟口蓋をなぞる。
舌で遊ばれる度に「ぅん・・・」と鼻に掛ける甘えた吐息を漏らしていく。
やっと満足したのかルードヴィッヒは、口の端から伝う涎を垂らした夜神を見て、法悦の眼差しを向けてヘリから降りた。

代わりにヘリに搭乗した侯爵達を一瞥すると、ローレンツが居るところまで行きヘリを見つめる。その時に傷つけられた右目を一撫でする。
やがてヘリは上昇して、ルードヴィッヒ達にプロペラの強風を浴びせて屋上から飛びだった。
「あーあ、等々行ってしまったよ。凪ちゃんに折角会えたのに。またお別れかぁ」
口調は別れを惜しむような物だが、声色は一切、残念さを感じさせない。そのちぐはぐさをローレンツは胡乱げな眼差しを向ける。

この陛下は腹の底が読めないほど、何を考えているのかわからないのだ。滑稽なやり取りをしたと思ったら、非情にもなる。時には愛情深い一面もある。一癖も二癖もあるのだ。

ローレンツはため息をして懐から懐中時計を取り出して時間を見る。その行為だけでモヤモヤした心を幾ばくか、落ち着かせることが出来る。
「陛下、そろそろ公務の時間です。今日も沢山あるので、しっかりと働いて下さい」
「あぁ、分かっているよ。本当に仕事の鬼だな。では行こうか」
先程までのやり取りは、まるでなかったかのように振る舞う皇帝を見て、ローレンツは夜神が城に居たのは、気のせいだったのかと思うほどだ。
それほど切り替えが早く、後に引いてないのが何か不気味に思うほどだ。

ーーーー本当に読めないほどわからない人だ

ローレンツは先に歩き出したルードヴィッヒに続いていく。
この皇帝の摩訶不思議な光景の一部に不気味さを感じながら。
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