ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

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竹刀が床に突く音を聞いて、倒れていた学生達は何とか立ち上がり、もう一度夜神に向って走り竹刀を振り下ろす。
だか夜神は片手で竹刀の柄の部分を掴むと、それを奪い二刀流の構えをする。

いきなりの二刀流で、どう対応したらいいか分からない学生達は、夜神の舞う様な剣さばきに為すすべもなく、技を次々にくらい飛ばされて動けなくなった。

「もう、おしまい？」
息一つ乱さず、小首を傾げて倒れている学生に声をかける。その声に「！！」と気づいた教育係達が夜神の前に駆け寄り敬礼をする。
「夜神中佐！ありがとうございます。お手を煩わしてしまいすみませんでした。学生達も満足だと思います」
何故か引きった顔で夜神を見る教育係達に、ますます分からない顔で「そう？」と対応している夜神中佐を、周りの見学者はなにか恐ろしい者でも見るような顔をしている。

小さな声で「人が飛ぶとか初めて見た」や「昨日の鬼指導は、本当だったんだ」などと言った声が聞こえる。
その声を聞いて庵は「あ～あ」とため息と共に小さく声を出していた。
昨日の今日だ。夜神中佐のあの飛ばしと、自分の激突を見ていた者が口々に言ったのだろう。そして今に至る訳だ。

自分の順位は学生なら皆知っている。自分もここに居る学生の順位を知っている。
夜神中佐に挑んで行ったのは皆、成績上位の者達ばかりだ。
だからなのかも知れない「お俺ならもっといける。あいつは十位だ」と、そして教育係にでも頼んだんだろう。

夜神中佐にとって成績は関係ない。上位だろうと関係なく飛ばす、それは自分より弱いから。
昨日のWSの戦闘を学生で知っているのは庵のみだ。他の学生はD・Cクラスの戦闘しか知らない。
恐ろしい速さで繰り出す剣技と、圧倒的強さ。
彼女が何故、軍のトップに居るのかを目の当たりにした自分だけが分かる。
だからだろう。学生達の「あいつより」の考えの結果、夜神中佐に挑むがまさかのこの有り様。

夜神は夜神で駆け引き無しで素のままにいつも通りに・・・・・・した結果が、この飛ばされて床に激突の惨状を生み出したのだろう。
学生は驚愕、教育係は顔面蒼白、夜神は「なんで？」と三者三様の考えがこの空間を埋めている。誰が幕引きするんだろう？俺には無理だ！

庵は何故か遠い目で周りを見てしまっていた。その時、いつも聞いている、ケラケラ笑いが道場の扉から聞こえてきた。
その笑い声に夜神以外の全員が振り向く。

「おーおー見事に全員が、床とお友達になってやがる。やーがーみー！飛ばすだけが教える事じゃねーって、部屋で言っただろう？善処するって言ってなかったか？」
七海は無精ひげを撫でながら、床で踞ってうずくまっている学生を見て、夜神の方を見る。
その顔はいつもと違い少しだけ険しい。

「庵君には善処した。学生達は初めてだったから、どの程度出来るのか見たくていつも通りにしだけだけど？問題でもあるの？」
「あー分かった。うん、分かった。とりあえず全力で学生達の願いを叶えてあげたと。その結果が初日の庵青年みたいに飛ばして、激突させたわけだな。」
「叶えるの意味が分からないんだけど？けど実力は見たいもの。だからいつも通りにしたんだけど、駄目だったの？」
「いや・・・・・お前に色々と説いていきたいが、とりあえず今回は流す！」

七海は天井を見て「あ～天然なのか融通がきかないのか分かんね～」とぼやき、夜神の前で固まっていた教育係の集団を見る
「まーそういうわけだ。とりあえず伸びてる奴らを医務室にでも連れてけ」
「・・・・七海少佐に感謝します」
一同は七海に敬礼をして、それぞれの担当する学生を肩に担ぎ出て行く。

「おらー見学は充分見ただろう。そろそろ持ち場に戻れー。じゃねーと室長達が怒鳴りこんで来るぞー」
手をパンパンと叩き見学者に声掛けをする。見学者達も我に返り、ゾロゾロと出て行く。
残されたのは夜神と庵と七海の三人だけだ。

庵は事態の収拾に貢献した七海に改めて称賛の眼差しを向ける。夜神は意味が分からない顔をして七海を見る。七海は苦笑いで二人を見るという、三者三様の眼差しが道場を支配した。