推し活ぐー！

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移動観覧席機能がある体育館には、新入生を待つ保護者がすでに座っている。
この移動式観覧席は空間を最大に利用するために取り入れられたもので、体育館は講堂の役割も果たすことができるようになる。
後方にいくほど席が高くなっていて、後ろの人も前の人の頭でステージが見えない、自分の子供の顔が見えない等がないよう配慮されていて……。
「穂香！穂香っ！、もう入場！！」
背中をトントン叩いて、小声でひー君が知らせてくれる。
「あっ、うん。今行く！」
入場するために体育館入口で待機していたのは、我らが、エンタメ科、総勢７名だ。
もう一度言おう。
女子４名、男子３名の、計７名だ。
私は、あんまりにもびっくりして、頭の中で、パンフレットに載っていた、学校自慢の移動観覧席機能の説明文を諳んじてしまっていた。

時は少し戻る。
「えっ、少な、すっくなっ！！」
李衣菜ちゃんは、教室の扉を開けるなり、大声で話す。
もうすでに着席していた女の子２人と、男の子２人が、教室後方に入ってきた私達をいっせいに見た。
と、同時に、教室前側の扉が開く。
「はい、皆さん揃ってますね。あ、森乃さん、瀬口さん、文月さんは、それぞれ、黒板に書いてある席にかけてください」
背の高い、糸目の男のスーツを着た人は、私達に向かって支持を出す。
７人分しか席がないから、前の列が３人、後ろの列が４人という配置になっている。
えと、誰だろ、このタイミングで教室に入ってくるってことは、担任の先生なのかな。
「はーい、先生！でもさーちょっと、少なす……」
李衣菜ちゃんは元気よく返事をして、先生のまん前の席に着席したんだけど、左斜め後ろの席に座る私に話し続けるのをやめない。
李衣菜ちゃんの隣の席は両隣とも女の子だ。
そして、私の左隣はひー君、右隣は前髪が長い男の子、そして、その右隣は髪の短い男の子だった。
「はい、瀬口さん、これから先生話すから、静かにしてくださいね。」
静かに注意しているんだけど、正直、ものすごく怖かった。
糸目の先生は、その目の印象からか、怒っているのか、笑っているのか、それとも何も考えていないのか、全く表情がよめない。
「はーい……」
李衣菜ちゃんですら圧を感じたのか、背筋をピーンと伸ばして座るしまつだ。
私もびくっとしてしまった。
「ら……ラスボス？？」
私にしか聞こえなさそうな小さな声で、前髪の長い男の子が呟いていた。
うん、同感。
何か、すごーーーく強い敵役って感じ。
「これから、出席番号順に並んでもらいます。中学生として恥じない態度で臨んでくださいね」
そして、再び圧のある説明口調。
ーーーーこの人には逆らってはいけない。
多分この少ないクラスメイト全員がそう思ったと思う。

時は戻って、体育館。
普通科、特進科に続き、エンタメ科が入場すると、小さな騒めきがおきる。
そりゃあ、そうだ。
だって、７人しかいないんだから。
左隣の席に座っている、特進科の生徒だって、見たところ４０人くらいはいる。
クラスメイトの少なさもそうだし、先生がちょっと怖そうなところもあいまって、ここでやっていけるのかなって不安になる。
だけど、そんな態度を少しでも見せたら、お父さんが安心できないことうけあい。
私は、何にも不安に思っていませんよーというきりっとした顔で入場したつもりだ。
私達が座ると、今度は、どよめきがおこった。
次の入場は、芸能科。
誰か、有名人でもいたのかもしれない。
私は、きりっとした顔を崩さず、ステージ上を見つめる。
私なりの立派な中学生像を演じているつもりだ。
しかし、この前の壇も備え付けじゃないんだよね。
でも、後ろの暗幕を照明の力からか、ちゃんとステージになっている。
確か、大型スクリーンも設置できるって書いてあったけど、今日は使わないのかな。
とつらつらと考えていたら、右隣に芸能科の面々が座り出す。
普通科も特進科の子も身を乗り出すみたいにして、芸能科の子達を見ていた。
私はあんまりジロジロ見るのも失礼かなと思って、大型スクリーンはどこにしまわれているのか探すことにした。
前の方にあるって書いてあったよね。暗幕の後ろ？
それとも実は天井とか？
私はキョロキョロしないように目だけで、間違い探し気分だ。
と、突然、右手に熱を感じて、びっくりして自分の手を見る。
それに重ねられていたのは、誰かの大きな手。
意味が解らなくて、私は誰かの手をたどって腕、肩を見上げ、そしてようやくその人の顔を見る。
「やっと会えたね、プリンセス。」
バチーーンとウィンクを決めてきたのは、
ーーーーーFIZZERの紫担当、紫苑寺シアン君だった。