豹変したお兄様に迫られました【R18】

Rila

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17.戸惑い

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 邸に到着してからもルシエルは私の手を離そうとはしなかった。
 だけど、私にはいけないことをしているような背徳感を抱き、彼が扉を開く瞬間に掌を引き剥がしてしまう。

(あ……、手を離しちゃった。お兄様、怒ってるかな……)

 おそるおそるルシエルのほうに視線を向けると、彼は穏やかな顔で私のことを見つめていた。

「そんなに怯えた顔をしなくても大丈夫だよ」
「……っ」

 彼は私の心情を読み取ってるかのように答えると、小さく笑っていた。
 そこには不満そうな態度はなく、いつもの少し意地悪そうな顔があり、私は少しほっとする。

「それよりも、何かあったようだね。少し騒がしいな」
「え?」

 彼は視線を邸の中に向けると、目を細めて小さく呟いた。
 私はその言葉にハッとして追うようにして視線を中に向けると、たしかに彼の言うように執事や使用人達が忙しなく動き回っている。
 そんな時、私達の存在に気付いた執事がこちらに近付いてきた。

「ルシエル様、フィリーネ様、お戻りになられたのですね」
「何かあったのか?」

「はい。旦那様と奥様はつい先程、領地へと向かわれました」
「領地へ……? どういうことだ。僕は何も聞いていないけど」

 当然、私もその話は初耳だった。
 突然のことに訳が分からず困惑した顔を浮かべていると、ルシエルはそれに気付いたのか私の手を握ってくれる。
 そして視線が合うと『大丈夫だよ』といっているかのような目配せをした。

「旦那様からお二人に伝言を預かっております。居間のほうへ……」
「いや、ここで構わない。見ている限り、緊急を要しているように見えるからね」

 ルシエルの言葉に執事は一瞬顔を顰めると「分かりました」と言った。
 そして、今起こっている状況を話始める。

「実は、お二人が邸を出ている間に、ある一報が届きました」
「一報?」

 私の頭の中は少し混乱していたので、二人の会話を聞いていることしか出来なかったが、ルシエルはしっかりとした態度で接している。

「はい……。領地にいる執事から定期的に連絡は来るのですが、今回はそれとは異なり緊急を要した連絡が入ったんです。それを聞いて旦那様と奥様は、直ぐに領地へと向かわれました」

 執事はしっかりとした口調で話していたが、どことなく彼の表情からは戸惑いを感じる。
 その様子から、良くない事が起こっているのではないかと想像してしまう。
 私は再びチラッとルシエルのほうに視線を向けると、彼の表情は先程よりも険しくなっているように見えた。
 きっと彼も何かを感じ取っているのだろう。

「はっきりと言ってくれ」
「実は、アイリーン様が見つかったと連絡があったのです」

「は……?」

 その名前を聞いた時、ルシエルの口からは信じられないと言った声が響く。
『アイリーン』という名前を聞いて、私はどこか既視感を覚えた。
 そしてそれの正体がなんなのか、直ぐに気付く。

(う、そ……。アイリーン様は、死んだはずじゃなかったの……?)

 その名は、死んだことになっていた、ルシエルの本当の妹の名だ。
 私はこの邸に来てから、一度も彼女の姿を見たことがない。
 どうしてそうなったのか詳しい理由は知らないが、もうこの世にはいない存在だと濁すように聞かされていた。
 そして、この邸の者達はその名を口にすることをタブーとしているようで、誰も口にしない。
 
(本当に、アイリーン様は生きているの? 私、ここに来て十年以上になるけど、一度もお姿を見たことがないわ。今のお兄様の態度からしても、知っているとは思えない……)

 再びルシエルの顔を窺うと、彼の表情は先程よりも険しくなっていて、何か考え事をしているのかずっと黙ったままでいる。

(やっぱり、お兄様も生きていることは知らなかったのかも……)

 皆が口を噤んでいるので少し気になり、以前ロゼに聞いたことがある。
 彼女も、詳しい事は知らないらしい。
 ロゼは私と年齢が近く、当時の出来事をあまり覚えていないようだ。
 長年公爵家に仕えている両親に聞こうとすると「あなたは知らなくていいことよ」と濁されてしまうとか。

「旦那様と奥様は、その事実を確認するために身の回りの準備をされて直ぐに領地へと向かわれました。恐らく、確認などをするために一ヶ月程はあちらに滞在するのではないかと……。事実が分かるまでは、お二人はここにいて欲しいとのことです」
「……そうか」

 執事の話を聞くと、ルシエルは静かに短く一言だけ呟いた。
 私は戸惑った顔で「お兄様」と弱弱しく答えると、彼の表情は柔らかくなる。

「にわかに信じられないことで少し驚いてしまったけど、大丈夫だよ。フィーのことは絶対に僕が守るからね」
「え?」

 ルシエルが何故そんな言葉を口にしたのか、私には良く理解出来なかった。
 取り乱さないようにして、そんな台詞を言ってしまっただけなのかもしれない。
 彼にとってアイリーンとは血を分けた本当の妹なのだから、戸惑うのも当然だ。
 だから、その時の私はその言葉に対して疑問を持たなかった。
 
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