16 / 28
16.帰りたくない
しおりを挟む
楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだ。
カフェを出た後、再び街を歩き回っていると辺りは薄紅色に染まり始めていた。
「フィー、そろそろ帰ろうか」
「……はい」
私は空が薄暗くなり始めた頃から、ずっとそわそわしていた。
出来れば、まだ帰りたくはない。
だけど、そんなことが出来ないことは分かっている。
今のこの時間は私にとっては魔法にかかったかのような、夢のような時間だったからだ。
(もう、終わりなんだ……)
「どうしたの? その顔、帰りたくないって言ってるみたいだね」
「……っ!? そ、そんなことないですっ!」
すごく残念に思ってしまったことで、私は感情をそのまま表に出していたようだ。
それをルシエルに指摘されて、私は慌てるように否定してしまう。
勢いよく答えてしまったため、ルシエルはおかしそうにクスクスと笑っていた。
「フィーは本当に嘘を付くのが下手だね。可愛いな。でも、それってまだ僕と二人でいたいってことだよね」
「……っ」
図星をつかれて恥ずかしくなったが、私は小さく頷いた。
先程思わず否定してしまったのは、ただ恥ずかしかっただけであり、この気持ちを否定するつもりは更々なかったから。
「僕もまだフィーと一緒にいたいけど、そろそろ邸に戻らないと父上も母上も心配するよ」
彼の言っていることは尤もだ。
私だって出来る限り、両親に心配を掛けたくはない。
「……だけど、フィーが望んでくれるのなら、今晩また部屋に行ってもいい? 勿論、誰にも気付かれないように行くから」
「え? 宜しいのですか?」
「うん、僕は構わないけど……、フィーはいいの?」
「私……?」
突然の提案に私が戸惑っていると、ルシエルは小さく口端を上げた。
その表情に私がぞくりと体を震わせていると、彼の口元が私に耳のほうへと移動する。
「僕達は思いが通じ合った。だからもう遠慮をするつもりはないよ。僕を部屋に招くということは、前回の続きをするということになるけど、フィーにその覚悟はある?」
「……っ!?」
耳元で囁かれていることでさえ戸惑っているというのに、そんなことを言われて私の表情はみるみるうちに沸騰したかのように熱に包まれていく。
(それって……)
「ふふっ、本当にフィーは素直に反応するね。その様子じゃ、意味は分かってくれたと思っていいのかな。今日の夜までに考えておいて」
「……っ」
ルシエルはにっこりと微笑みながら言った。
その表情には何かの思惑が見え隠れしているようで、私は戸惑いを隠すことが出来ない。
「さて、帰ろうか」
「は、はいっ」
ルシエルは何事もなかったかのように私の傍からぱっと離れると、再び手を繋いで歩き出した。
私の心臓は、それからずっとバクバクと鳴り響いたままだった。
カフェを出た後、再び街を歩き回っていると辺りは薄紅色に染まり始めていた。
「フィー、そろそろ帰ろうか」
「……はい」
私は空が薄暗くなり始めた頃から、ずっとそわそわしていた。
出来れば、まだ帰りたくはない。
だけど、そんなことが出来ないことは分かっている。
今のこの時間は私にとっては魔法にかかったかのような、夢のような時間だったからだ。
(もう、終わりなんだ……)
「どうしたの? その顔、帰りたくないって言ってるみたいだね」
「……っ!? そ、そんなことないですっ!」
すごく残念に思ってしまったことで、私は感情をそのまま表に出していたようだ。
それをルシエルに指摘されて、私は慌てるように否定してしまう。
勢いよく答えてしまったため、ルシエルはおかしそうにクスクスと笑っていた。
「フィーは本当に嘘を付くのが下手だね。可愛いな。でも、それってまだ僕と二人でいたいってことだよね」
「……っ」
図星をつかれて恥ずかしくなったが、私は小さく頷いた。
先程思わず否定してしまったのは、ただ恥ずかしかっただけであり、この気持ちを否定するつもりは更々なかったから。
「僕もまだフィーと一緒にいたいけど、そろそろ邸に戻らないと父上も母上も心配するよ」
彼の言っていることは尤もだ。
私だって出来る限り、両親に心配を掛けたくはない。
「……だけど、フィーが望んでくれるのなら、今晩また部屋に行ってもいい? 勿論、誰にも気付かれないように行くから」
「え? 宜しいのですか?」
「うん、僕は構わないけど……、フィーはいいの?」
「私……?」
突然の提案に私が戸惑っていると、ルシエルは小さく口端を上げた。
その表情に私がぞくりと体を震わせていると、彼の口元が私に耳のほうへと移動する。
「僕達は思いが通じ合った。だからもう遠慮をするつもりはないよ。僕を部屋に招くということは、前回の続きをするということになるけど、フィーにその覚悟はある?」
「……っ!?」
耳元で囁かれていることでさえ戸惑っているというのに、そんなことを言われて私の表情はみるみるうちに沸騰したかのように熱に包まれていく。
(それって……)
「ふふっ、本当にフィーは素直に反応するね。その様子じゃ、意味は分かってくれたと思っていいのかな。今日の夜までに考えておいて」
「……っ」
ルシエルはにっこりと微笑みながら言った。
その表情には何かの思惑が見え隠れしているようで、私は戸惑いを隠すことが出来ない。
「さて、帰ろうか」
「は、はいっ」
ルシエルは何事もなかったかのように私の傍からぱっと離れると、再び手を繋いで歩き出した。
私の心臓は、それからずっとバクバクと鳴り響いたままだった。
0
お気に入りに追加
652
あなたにおすすめの小説



軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した
Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる