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17.悪魔の契約
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「ぁあっ、……っ、はぁっ……」
私の荒い吐息と甘い声が、止むことなく室内に響いている。
体中を愛撫され尽くし、至るところに彼の所有印である赤い痕が刻まれていく。
「漸く全身に俺の痕を残せたな。後は、ミアと一つになるだけだ」
「一つに?」
私はぼーっとした顔で聞き返すと、ルーカスは私の頬にそっと手を添えた。
黒かったルーカスの瞳は、いつの間にかまた赤く染まっていて、その瞳は真っ直ぐに私だけを捉えている。
「そうだよ、ミアと交わるんだ。それが終われば漸くミアは俺のいる世界へ行けるようになる。生身の人間が向こうの世界にそのまま行こうとすると、おかしくなってしまうからね。そうならないための準備をずっとしてきたんだ」
「……どういう、こと?」
「俺に触れることで、ミアは少しずつ耐性を付けていった。あとは最後の仕上げだけだ。そうすればミアとこれからもずっと一緒にいられる。俺のこと、好きだと言ってくれたよな?」
「ずっと、一緒に……? 私、これからもずっとルーカス様と一緒にいられるんですか?」
私が頬を赤く染めながら呟くと、ルーカスは優しく微笑んで「そうだよ」と答えた。
本当は嬉しいはずなのに、体は震えている。
まるで体が拒否反応を起こしているかのようだ。
「ミア、俺を受け入れて。ミアのこと、一生大事にするよ。ミアだけを愛すると誓おう」
ルーカスは真っ直ぐ私を見つめて、静かに誓いの言葉を告げた。
彼の瞳を見れば嘘を言っていないことは何となく分かる。
それに好きな人とずっと一緒にいられることは、きっと幸せなことなのだとも思う。
だけど、彼は自分で人間ではないと宣言していた。
私の血を吸っていたので、吸血鬼か何かなのかもしれない。
もしかしたらあの厄介な攻略対象者たちよりも危険な存在だってこともあるはずだ。
そう思うと少しだけ怖い。
「あ、あのっ……」
「ん? どうした?」
「ルーカス様は何者なんですか? さっきから言ってることが良く分かりませんっ。ルーカス様のいる世界ってどこのことですか?」
ここは前世とは違い、魔法が存在して聖女もいるようなファンタジー世界だ。
だから、吸血鬼がいたとしても不思議ではない。
私が僅かに擦れた声で問いかけると、彼の口端が僅かに上がった。
「俺が人ではないと話したことは覚えてる? 悪魔と伝えるのが一番分かりやすいかな」
「悪魔……。吸血鬼ではなく?」
突然の言葉に私は耳を疑った。
だけど冗談を言ってる様子には見えない。
それに狂人というわけでもきっとないのだろう。
彼が悪魔というのであれば、聖女である私とは対になる存在ではないのだろうか。
「ミアは吸血鬼を知っているのか。それならば話は早い。そう、俺は吸血鬼であっているよ。人間界に久しぶりに聖女が現れると予言を聞いて探しにきたんだ。ミアのことを、ね」
「え?」
(私が聖女であることを知っているってことは、ルーカス様も転生者なの……?)
「昔から、聖女の血は極上だと言われているんだ。機会があれば味わってみたいと思っていた。だけど、聖女って言うのは気まぐれで、どの時代に現れるのか全く予想が付かない。その上、この世界のどこに現れるかも分からないような存在だ。ミアのいる世界では災厄に見舞われる時に現れるとか、救世主的存在だと思われているみたいだけど、別にそんなことはない。平和な時代に突如現れることも過去にはあったからね」
「私が聖女だと分かっていて近づいたの?」
彼はすらすらと話を続けていたが、私の表情は次第に暗くなっていく。
今の話を聞いている限り、彼は聖女の血を求めてこの人間界にやってきたような言い方に聞こえる。
私が震えた声で問いかけると、ルーカスは口端を上げた。
「先に近づいてきたのはミアのほうだろう? 最初はミアが聖女だなんて分からなかった。俺がこの学園に来たのは聖女に選ばれた女がいるって噂を聞きつけたからだ」
「それって、ローゼマリー様のこと?」
私がそう聞くとルーカスは「ああ」と答えた。
「俺はこの学園に来てから、とりあえずローゼマリーに近づくことを考えた。ミアにあの日、出会ったのは本当に偶然だ。まさか、ミアのほうから俺に近づいて来るだなんて思わなかったよ。俺としては探す手間が省けて助かったけど」
「そん、なっ……」
(ルーカス様は私ではなく、聖女の血が欲しかっただけなの?)
「ミアから出ている不思議な匂いは気になっていたけど、その時はまだミアが聖女だとは思ってはいなかった。気づいたのは恋人のフリを頼まれた頃くらいだったかな」
「…………」
話を聞いてる限り、私は何も知らずに自らルーカスに近づいていったみたいだ。
そう思うと、ショックと後悔で頭の中がいっぱいになる。
「俺にとっては好都合だったよ。フリでも恋人同士なら警戒されることなくミアに触れられるから。ミアの血を初めて味わった時は本当に興奮した。そしてその時はっきり分かった、ミアが聖女だということに、ね」
「……ルーカス様は私が聖女だから、この血が吸いたいから気のある素振りを見せていたんですか?」
私が泣きそうな顔で震えながら聞くと、ルーカスは困った表情を一瞬見せた。
「最初はそうだった。本当はそのつもりだったんだけどな」
「……?」
「俺はミアと体の関係さえ結べれば、それでいいと思っていた。だけど、ミアと接していくうちに、不思議な感情を持つようになった。ミアが可愛らしく笑ったり、恥じらうように顔を染めたり、仕草の一つ一つが俺の心を揺さぶるんだ。俺は知らず知らずのうちに、ミアに惹かれていった。ミアの全てが欲しくなった。誰にも触らせたくないとも思ったよ。だから、ミアを俺の世界に連れ帰り、俺だけのものにしようと考えた」
「そんなの勝手ですっ!」
私は声を荒げ、ルーカスを涙目で睨み付けた。
彼はやっぱり悪魔だと思った。私の気持ちなんて全然理解しようとしていないのだから。
悪魔らしい考え方であるが、私は到底それを受け入れることなどできない。
「……勝手か、そうだな。だけど、悪魔なんて所詮はそんなものだ。己の欲望のためならば手段など選ばない。卑怯な手だって平気で使う。俺はミアが欲しいからどんな手を使ってでも手に入れるつもりだ。逃がしたりもしない……。だけど、ミアが俺に落ちるまでは連れては行かない。ミアの意思で俺を選んで欲しいから」
「……私が行きたくないって言ったら、諦めてくれるの?」
「諦めるつもりはない。ただ、待つだけだ」
「……っ! ルーカス様は、私が……、もし聖女じゃなかったら、選びませんよね?」
私が意地悪な質問をすると、ルーカスは困った顔をした。
「痛い所を突いてくるな。たしかにミアが聖女じゃなければ出会うこともなかっただろう。だけど、俺たちはこうやって出会っただろう? そしてお互い惹かれ合ってる。それじゃ駄目なのか?」
「でもっ、信じられません」
「何が信じられないんだ? 俺がミアのことを本当に愛しているかどうかか?」
「は、はい……」
愛しているという言葉を聞くと妙に恥ずかしく感じてしまう。
「それなら契約でもするか? 俺は一生ミアだけを愛するという誓いだ。誓いを破れば悪魔の俺でも命を落とすことになる」
「……っ、そんなこと、できるんですか?」
正直ルーカスの言ってることを全て信じるというのは無理な話だ。
「できるよ。ミアが信じられないというのであれば、証明のために契約を交わそうか」
「……どうやって、するんですか?」
私が聞くとルーカスはふっと小さく笑って、私の手を取った。
「少しだけ我慢してくれ」
ルーカスはそう言うと、私の指先を口に咥えて噛んだ。
一瞬だけズキッと痛みを感じたが、すぐにその痛みは引いていく。
「指は神経が通ってるから、多少の痛みを感じてしまう。痛かったよな、ごめん」
ルーカスはそう言うと、今度は自分の腕に歯を立てた。
すると手首から血が滴り落ちていく。
「うそっ、そんなに血……。どうしようっ」
私が焦っているとルーカスは「心配ない」と優しい声で言った。
そして彼が何やら呪文のようなものを唱えると、辺りが闇に包まれていく。
今まで昼間だったはずなのに、まるで夜のように暗くなり、なにも周りが見えないほどの暗闇の中に私はいた。
見えるのはルーカスの姿だけ。
(なにこれ。どうなってるの!?)
彼は先ほど噛み切った腕を私の口の前に近づけた。
「ミア、俺の血を少し舐めて」
「え?」
動揺していたが、ここまできたら途中で止めるなんてできないと思い、私はルーカスの腕に唇をつけ軽く舐めた。
彼も私の指先を口に咥え舐め始める。
その瞬間、体の奥が燃えるように熱くなっていくのを感じた。
「ぁっ……、体が熱いっ……」
「なにも怖がることなんてない。じきに落ち着くはずだ」
私が動揺してあたふたしていると、ルーカスは優しい声で囁き、そのまま私のことを抱きしめてくれた。
それから暫くして、すっと体の中から熱が抜けて行くのを感じる。
気づけば漆黒の闇もなくなり、先ほどの部屋の風景が戻っていた。
「これで契約完了だ。くくっ……」
「ルーカス、様?」
ルーカスは突然、高らかに笑い始めた。私は驚いて彼の顔を覗き込む。
すると彼は口端を上げ歪んだ笑み浮かべていて、背筋に寒気が走った。
なにかとんでもないことをしてしまった気がして急に怖くなり、私は彼から離れようとするも、すぐに腰を捉えられ体を引き寄せられる。
そして耳元で「逃がさないよ」と艶のある声で囁かれ、ぞくっと全身が震えた。
「本当にミアは、簡単に俺の言葉を信じるんだな。悪魔は卑怯なことを平気でするってさっき話したばかりだというのに……」
「悪魔っていうのは本当なの?」
「俺が悪魔であることも、今交わした契約も全て本当だよ。ただ、あの契約は俺だけではなく、ミアにもかかっている。この意味、分かるか? これで一生ミアは俺しか愛せなくなったってことだ……」
私の荒い吐息と甘い声が、止むことなく室内に響いている。
体中を愛撫され尽くし、至るところに彼の所有印である赤い痕が刻まれていく。
「漸く全身に俺の痕を残せたな。後は、ミアと一つになるだけだ」
「一つに?」
私はぼーっとした顔で聞き返すと、ルーカスは私の頬にそっと手を添えた。
黒かったルーカスの瞳は、いつの間にかまた赤く染まっていて、その瞳は真っ直ぐに私だけを捉えている。
「そうだよ、ミアと交わるんだ。それが終われば漸くミアは俺のいる世界へ行けるようになる。生身の人間が向こうの世界にそのまま行こうとすると、おかしくなってしまうからね。そうならないための準備をずっとしてきたんだ」
「……どういう、こと?」
「俺に触れることで、ミアは少しずつ耐性を付けていった。あとは最後の仕上げだけだ。そうすればミアとこれからもずっと一緒にいられる。俺のこと、好きだと言ってくれたよな?」
「ずっと、一緒に……? 私、これからもずっとルーカス様と一緒にいられるんですか?」
私が頬を赤く染めながら呟くと、ルーカスは優しく微笑んで「そうだよ」と答えた。
本当は嬉しいはずなのに、体は震えている。
まるで体が拒否反応を起こしているかのようだ。
「ミア、俺を受け入れて。ミアのこと、一生大事にするよ。ミアだけを愛すると誓おう」
ルーカスは真っ直ぐ私を見つめて、静かに誓いの言葉を告げた。
彼の瞳を見れば嘘を言っていないことは何となく分かる。
それに好きな人とずっと一緒にいられることは、きっと幸せなことなのだとも思う。
だけど、彼は自分で人間ではないと宣言していた。
私の血を吸っていたので、吸血鬼か何かなのかもしれない。
もしかしたらあの厄介な攻略対象者たちよりも危険な存在だってこともあるはずだ。
そう思うと少しだけ怖い。
「あ、あのっ……」
「ん? どうした?」
「ルーカス様は何者なんですか? さっきから言ってることが良く分かりませんっ。ルーカス様のいる世界ってどこのことですか?」
ここは前世とは違い、魔法が存在して聖女もいるようなファンタジー世界だ。
だから、吸血鬼がいたとしても不思議ではない。
私が僅かに擦れた声で問いかけると、彼の口端が僅かに上がった。
「俺が人ではないと話したことは覚えてる? 悪魔と伝えるのが一番分かりやすいかな」
「悪魔……。吸血鬼ではなく?」
突然の言葉に私は耳を疑った。
だけど冗談を言ってる様子には見えない。
それに狂人というわけでもきっとないのだろう。
彼が悪魔というのであれば、聖女である私とは対になる存在ではないのだろうか。
「ミアは吸血鬼を知っているのか。それならば話は早い。そう、俺は吸血鬼であっているよ。人間界に久しぶりに聖女が現れると予言を聞いて探しにきたんだ。ミアのことを、ね」
「え?」
(私が聖女であることを知っているってことは、ルーカス様も転生者なの……?)
「昔から、聖女の血は極上だと言われているんだ。機会があれば味わってみたいと思っていた。だけど、聖女って言うのは気まぐれで、どの時代に現れるのか全く予想が付かない。その上、この世界のどこに現れるかも分からないような存在だ。ミアのいる世界では災厄に見舞われる時に現れるとか、救世主的存在だと思われているみたいだけど、別にそんなことはない。平和な時代に突如現れることも過去にはあったからね」
「私が聖女だと分かっていて近づいたの?」
彼はすらすらと話を続けていたが、私の表情は次第に暗くなっていく。
今の話を聞いている限り、彼は聖女の血を求めてこの人間界にやってきたような言い方に聞こえる。
私が震えた声で問いかけると、ルーカスは口端を上げた。
「先に近づいてきたのはミアのほうだろう? 最初はミアが聖女だなんて分からなかった。俺がこの学園に来たのは聖女に選ばれた女がいるって噂を聞きつけたからだ」
「それって、ローゼマリー様のこと?」
私がそう聞くとルーカスは「ああ」と答えた。
「俺はこの学園に来てから、とりあえずローゼマリーに近づくことを考えた。ミアにあの日、出会ったのは本当に偶然だ。まさか、ミアのほうから俺に近づいて来るだなんて思わなかったよ。俺としては探す手間が省けて助かったけど」
「そん、なっ……」
(ルーカス様は私ではなく、聖女の血が欲しかっただけなの?)
「ミアから出ている不思議な匂いは気になっていたけど、その時はまだミアが聖女だとは思ってはいなかった。気づいたのは恋人のフリを頼まれた頃くらいだったかな」
「…………」
話を聞いてる限り、私は何も知らずに自らルーカスに近づいていったみたいだ。
そう思うと、ショックと後悔で頭の中がいっぱいになる。
「俺にとっては好都合だったよ。フリでも恋人同士なら警戒されることなくミアに触れられるから。ミアの血を初めて味わった時は本当に興奮した。そしてその時はっきり分かった、ミアが聖女だということに、ね」
「……ルーカス様は私が聖女だから、この血が吸いたいから気のある素振りを見せていたんですか?」
私が泣きそうな顔で震えながら聞くと、ルーカスは困った表情を一瞬見せた。
「最初はそうだった。本当はそのつもりだったんだけどな」
「……?」
「俺はミアと体の関係さえ結べれば、それでいいと思っていた。だけど、ミアと接していくうちに、不思議な感情を持つようになった。ミアが可愛らしく笑ったり、恥じらうように顔を染めたり、仕草の一つ一つが俺の心を揺さぶるんだ。俺は知らず知らずのうちに、ミアに惹かれていった。ミアの全てが欲しくなった。誰にも触らせたくないとも思ったよ。だから、ミアを俺の世界に連れ帰り、俺だけのものにしようと考えた」
「そんなの勝手ですっ!」
私は声を荒げ、ルーカスを涙目で睨み付けた。
彼はやっぱり悪魔だと思った。私の気持ちなんて全然理解しようとしていないのだから。
悪魔らしい考え方であるが、私は到底それを受け入れることなどできない。
「……勝手か、そうだな。だけど、悪魔なんて所詮はそんなものだ。己の欲望のためならば手段など選ばない。卑怯な手だって平気で使う。俺はミアが欲しいからどんな手を使ってでも手に入れるつもりだ。逃がしたりもしない……。だけど、ミアが俺に落ちるまでは連れては行かない。ミアの意思で俺を選んで欲しいから」
「……私が行きたくないって言ったら、諦めてくれるの?」
「諦めるつもりはない。ただ、待つだけだ」
「……っ! ルーカス様は、私が……、もし聖女じゃなかったら、選びませんよね?」
私が意地悪な質問をすると、ルーカスは困った顔をした。
「痛い所を突いてくるな。たしかにミアが聖女じゃなければ出会うこともなかっただろう。だけど、俺たちはこうやって出会っただろう? そしてお互い惹かれ合ってる。それじゃ駄目なのか?」
「でもっ、信じられません」
「何が信じられないんだ? 俺がミアのことを本当に愛しているかどうかか?」
「は、はい……」
愛しているという言葉を聞くと妙に恥ずかしく感じてしまう。
「それなら契約でもするか? 俺は一生ミアだけを愛するという誓いだ。誓いを破れば悪魔の俺でも命を落とすことになる」
「……っ、そんなこと、できるんですか?」
正直ルーカスの言ってることを全て信じるというのは無理な話だ。
「できるよ。ミアが信じられないというのであれば、証明のために契約を交わそうか」
「……どうやって、するんですか?」
私が聞くとルーカスはふっと小さく笑って、私の手を取った。
「少しだけ我慢してくれ」
ルーカスはそう言うと、私の指先を口に咥えて噛んだ。
一瞬だけズキッと痛みを感じたが、すぐにその痛みは引いていく。
「指は神経が通ってるから、多少の痛みを感じてしまう。痛かったよな、ごめん」
ルーカスはそう言うと、今度は自分の腕に歯を立てた。
すると手首から血が滴り落ちていく。
「うそっ、そんなに血……。どうしようっ」
私が焦っているとルーカスは「心配ない」と優しい声で言った。
そして彼が何やら呪文のようなものを唱えると、辺りが闇に包まれていく。
今まで昼間だったはずなのに、まるで夜のように暗くなり、なにも周りが見えないほどの暗闇の中に私はいた。
見えるのはルーカスの姿だけ。
(なにこれ。どうなってるの!?)
彼は先ほど噛み切った腕を私の口の前に近づけた。
「ミア、俺の血を少し舐めて」
「え?」
動揺していたが、ここまできたら途中で止めるなんてできないと思い、私はルーカスの腕に唇をつけ軽く舐めた。
彼も私の指先を口に咥え舐め始める。
その瞬間、体の奥が燃えるように熱くなっていくのを感じた。
「ぁっ……、体が熱いっ……」
「なにも怖がることなんてない。じきに落ち着くはずだ」
私が動揺してあたふたしていると、ルーカスは優しい声で囁き、そのまま私のことを抱きしめてくれた。
それから暫くして、すっと体の中から熱が抜けて行くのを感じる。
気づけば漆黒の闇もなくなり、先ほどの部屋の風景が戻っていた。
「これで契約完了だ。くくっ……」
「ルーカス、様?」
ルーカスは突然、高らかに笑い始めた。私は驚いて彼の顔を覗き込む。
すると彼は口端を上げ歪んだ笑み浮かべていて、背筋に寒気が走った。
なにかとんでもないことをしてしまった気がして急に怖くなり、私は彼から離れようとするも、すぐに腰を捉えられ体を引き寄せられる。
そして耳元で「逃がさないよ」と艶のある声で囁かれ、ぞくっと全身が震えた。
「本当にミアは、簡単に俺の言葉を信じるんだな。悪魔は卑怯なことを平気でするってさっき話したばかりだというのに……」
「悪魔っていうのは本当なの?」
「俺が悪魔であることも、今交わした契約も全て本当だよ。ただ、あの契約は俺だけではなく、ミアにもかかっている。この意味、分かるか? これで一生ミアは俺しか愛せなくなったってことだ……」
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