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第一章:聖女から冒険者へ

29.北の国グレイスラビリンス

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 三日間の航海はあっという間に終わり、目的地であるグレイスラビリンスへと到着した。
 数日前までは南国だったのに、今は真逆の冬に様変わりしている。

 私は白色の厚めのローブとブーツに着替えていた。
 船内から出ると、外の凍り付くような冷気が肌に触れてゾクッと震えてしまう。
 息を吸い込むと、その冷たさに体の芯から凍えてしまいそうだ。

「やっぱりここは寒いな。ルナ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。でも雪が降ってるし、ここまでとは思わなかった」

 外はぱらぱらと雪が散っていて、雪景色が広がっている。
 この光景を目にして、二人が言っていたことが大げさでは無いのだと思い知った。

「シーライズからこっちに来ると寒暖差があり過ぎて体調崩す人も多いから、ルナも具合が悪くなったら遠慮しないで言ってね」
「うん、ありがとう」

 船を降りると、街に直結していた。
 屋根はどこも白い雪に覆われ、常に雪が降っているのだと物語っているようだ。
 シーライズと比べると小さいけど、旅人が多いせいか街は賑やかだった。

「とりあえずどこか店に入らないか? 寒いし、腹も減ったし」
「そうだな」

 ゼロの言葉で、レストランへと入ることになった。


 ***


 店内に入ると薪ストーブが焚かれていて、とても暖かかった。
 それを感じていると、冷え切った肌がじんわりと温まっていくのを感じて、なんだか心までほっとしてしまう。

 そして、私達は空いてる席へと座った。
 料理はこの地方の郷土料理なのか聞きなれないものが多く、私はスープを選んで後は適当にゼロが注文してくれた。
 イザナもゼロもこの街には来たことがあるらしい。

「イザナ、これから何処に向かう予定か決めてあるのか?」
「とりあえず魔法都市ジースに向かおうと思ってる。あそこならギルドもあるからな」

 イザナとゼロが話してると、お店の店員が近づいて来た。

「お客さん、ジースに向かうつもりかい? つい最近崩落事故が起きてね。ジースに繋がる道が塞がれちまったんだよ。復旧の目処も今の所通ってなくてな。ジースに向かうなら迂回するしかないよ」
「まじかよ……。迂回って結構遠回りになるのか?」

「グレイス街道で行くなら歩いて約一日で着くけど、これから吹雪になるみたいだから止めておいた方がいい」
「吹雪は長引くのか?」

「最近天候が安定していないから、急ぎじゃないなら動かない方がいいよ。まあ、他にも行く道はあるにはあるんだけどね。あまりお勧めはしない」
「他にって、もしかして旧坑道か」

 ゼロは思い出す様に言った。

「ああ、そうだ。あそこは不気味だし、道が入り組んでるせいか慣れてない者が入ると必ず迷うからね。最悪戻って来れないって事もあるみたいだ」

 私はその話を聞いて少し怖くなった。
 出来ればそんな場所は行きたくない。

「旧坑道はやめておこう、とりあえず急いでないし暫くこの街に滞在して様子を見てから考えようか」

 イザナの言葉にほっとしたように私は首を縦に振った。

「まぁ、そうするしかないか」

 ゼロも納得した様子で続けた。

 暫く話していると注文した料理が運ばれてきた。
 ゼロは色々頼んでくれて、テーブルの上は料理でいっぱいになっていた。
 なんていうか、全体的に料理の見た目が赤い。

 私は嫌な予感を覚えながら、ゼロが注文してくれた肉料理を一口食べた。
 すると、燃えるような辛さが口に広がっていく。

「……これ、すごく辛い」
「ルナは辛いのは苦手か? この地方は寒いから基本的に辛めの味付けが多いんだよ」

 私が思わず辛いと漏らしてしまうと、隣に座っていたイザナが教えてくれた。

「ううん、これ位なら食べられるよっ」

 折角出された料理なんだから食べなきゃと思い、私は我慢して口に運んでいく。
 思った以上に辛くて、額から汗がだらだらと流れてくる。
 実は私は辛いものは苦手だった。

「ルナ、無理して食べなくていいよ。それ結構辛いんじゃないか? こっちはそこまで辛くないから、ルナでも食べられると思うよ」

 イザナはそう言うと私が食べてるものを移動させて、違う料理を置いてくれた。

「……ありがとう」
「ふふっ、無理して食べる姿も可愛いけど、私達に遠慮する必要なんてないよ。私は意外と辛いのは得意な方だから無理なら言って」
「そうだぞ。……っていうか、ルナって辛いのあまり得意じゃなかったんだな。悪い、何も考えないで注文してた。こっちのこれとかなら辛くないはずだ」

 そう言ってゼロは辛くない料理を私の周りに並べてくれた。
 二人とも優しくて、私は思わず少しじーんとしてしまった。

 王宮にいた時はいつも誰かに遠慮していた。
 思っていることも伝えらず、嫌なことは全て飲み込んで我慢し続けて来た。
 だけど今は違う。
 何も言わなくても、二人は私の事をちゃんと見ていてくれる。
 気にしていてくれる。
 それがすごく嬉しかった。

 辛い料理を食べたせいで、体の芯からぽかぽかしていた。
 こうして私達は暫くの間、このグレイスラビリンスに滞在する事となった。
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