30 / 68
第一章:聖女から冒険者へ
29.北の国グレイスラビリンス
しおりを挟む
三日間の航海はあっという間に終わり、目的地であるグレイスラビリンスへと到着した。
数日前までは南国だったのに、今は真逆の冬に様変わりしている。
私は白色の厚めのローブとブーツに着替えていた。
船内から出ると、外の凍り付くような冷気が肌に触れてゾクッと震えてしまう。
息を吸い込むと、その冷たさに体の芯から凍えてしまいそうだ。
「やっぱりここは寒いな。ルナ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。でも雪が降ってるし、ここまでとは思わなかった」
外はぱらぱらと雪が散っていて、雪景色が広がっている。
この光景を目にして、二人が言っていたことが大げさでは無いのだと思い知った。
「シーライズからこっちに来ると寒暖差があり過ぎて体調崩す人も多いから、ルナも具合が悪くなったら遠慮しないで言ってね」
「うん、ありがとう」
船を降りると、街に直結していた。
屋根はどこも白い雪に覆われ、常に雪が降っているのだと物語っているようだ。
シーライズと比べると小さいけど、旅人が多いせいか街は賑やかだった。
「とりあえずどこか店に入らないか? 寒いし、腹も減ったし」
「そうだな」
ゼロの言葉で、レストランへと入ることになった。
***
店内に入ると薪ストーブが焚かれていて、とても暖かかった。
それを感じていると、冷え切った肌がじんわりと温まっていくのを感じて、なんだか心までほっとしてしまう。
そして、私達は空いてる席へと座った。
料理はこの地方の郷土料理なのか聞きなれないものが多く、私はスープを選んで後は適当にゼロが注文してくれた。
イザナもゼロもこの街には来たことがあるらしい。
「イザナ、これから何処に向かう予定か決めてあるのか?」
「とりあえず魔法都市ジースに向かおうと思ってる。あそこならギルドもあるからな」
イザナとゼロが話してると、お店の店員が近づいて来た。
「お客さん、ジースに向かうつもりかい? つい最近崩落事故が起きてね。ジースに繋がる道が塞がれちまったんだよ。復旧の目処も今の所通ってなくてな。ジースに向かうなら迂回するしかないよ」
「まじかよ……。迂回って結構遠回りになるのか?」
「グレイス街道で行くなら歩いて約一日で着くけど、これから吹雪になるみたいだから止めておいた方がいい」
「吹雪は長引くのか?」
「最近天候が安定していないから、急ぎじゃないなら動かない方がいいよ。まあ、他にも行く道はあるにはあるんだけどね。あまりお勧めはしない」
「他にって、もしかして旧坑道か」
ゼロは思い出す様に言った。
「ああ、そうだ。あそこは不気味だし、道が入り組んでるせいか慣れてない者が入ると必ず迷うからね。最悪戻って来れないって事もあるみたいだ」
私はその話を聞いて少し怖くなった。
出来ればそんな場所は行きたくない。
「旧坑道はやめておこう、とりあえず急いでないし暫くこの街に滞在して様子を見てから考えようか」
イザナの言葉にほっとしたように私は首を縦に振った。
「まぁ、そうするしかないか」
ゼロも納得した様子で続けた。
暫く話していると注文した料理が運ばれてきた。
ゼロは色々頼んでくれて、テーブルの上は料理でいっぱいになっていた。
なんていうか、全体的に料理の見た目が赤い。
私は嫌な予感を覚えながら、ゼロが注文してくれた肉料理を一口食べた。
すると、燃えるような辛さが口に広がっていく。
「……これ、すごく辛い」
「ルナは辛いのは苦手か? この地方は寒いから基本的に辛めの味付けが多いんだよ」
私が思わず辛いと漏らしてしまうと、隣に座っていたイザナが教えてくれた。
「ううん、これ位なら食べられるよっ」
折角出された料理なんだから食べなきゃと思い、私は我慢して口に運んでいく。
思った以上に辛くて、額から汗がだらだらと流れてくる。
実は私は辛いものは苦手だった。
「ルナ、無理して食べなくていいよ。それ結構辛いんじゃないか? こっちはそこまで辛くないから、ルナでも食べられると思うよ」
イザナはそう言うと私が食べてるものを移動させて、違う料理を置いてくれた。
「……ありがとう」
「ふふっ、無理して食べる姿も可愛いけど、私達に遠慮する必要なんてないよ。私は意外と辛いのは得意な方だから無理なら言って」
「そうだぞ。……っていうか、ルナって辛いのあまり得意じゃなかったんだな。悪い、何も考えないで注文してた。こっちのこれとかなら辛くないはずだ」
そう言ってゼロは辛くない料理を私の周りに並べてくれた。
二人とも優しくて、私は思わず少しじーんとしてしまった。
王宮にいた時はいつも誰かに遠慮していた。
思っていることも伝えらず、嫌なことは全て飲み込んで我慢し続けて来た。
だけど今は違う。
何も言わなくても、二人は私の事をちゃんと見ていてくれる。
気にしていてくれる。
それがすごく嬉しかった。
辛い料理を食べたせいで、体の芯からぽかぽかしていた。
こうして私達は暫くの間、このグレイスラビリンスに滞在する事となった。
数日前までは南国だったのに、今は真逆の冬に様変わりしている。
私は白色の厚めのローブとブーツに着替えていた。
船内から出ると、外の凍り付くような冷気が肌に触れてゾクッと震えてしまう。
息を吸い込むと、その冷たさに体の芯から凍えてしまいそうだ。
「やっぱりここは寒いな。ルナ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。でも雪が降ってるし、ここまでとは思わなかった」
外はぱらぱらと雪が散っていて、雪景色が広がっている。
この光景を目にして、二人が言っていたことが大げさでは無いのだと思い知った。
「シーライズからこっちに来ると寒暖差があり過ぎて体調崩す人も多いから、ルナも具合が悪くなったら遠慮しないで言ってね」
「うん、ありがとう」
船を降りると、街に直結していた。
屋根はどこも白い雪に覆われ、常に雪が降っているのだと物語っているようだ。
シーライズと比べると小さいけど、旅人が多いせいか街は賑やかだった。
「とりあえずどこか店に入らないか? 寒いし、腹も減ったし」
「そうだな」
ゼロの言葉で、レストランへと入ることになった。
***
店内に入ると薪ストーブが焚かれていて、とても暖かかった。
それを感じていると、冷え切った肌がじんわりと温まっていくのを感じて、なんだか心までほっとしてしまう。
そして、私達は空いてる席へと座った。
料理はこの地方の郷土料理なのか聞きなれないものが多く、私はスープを選んで後は適当にゼロが注文してくれた。
イザナもゼロもこの街には来たことがあるらしい。
「イザナ、これから何処に向かう予定か決めてあるのか?」
「とりあえず魔法都市ジースに向かおうと思ってる。あそこならギルドもあるからな」
イザナとゼロが話してると、お店の店員が近づいて来た。
「お客さん、ジースに向かうつもりかい? つい最近崩落事故が起きてね。ジースに繋がる道が塞がれちまったんだよ。復旧の目処も今の所通ってなくてな。ジースに向かうなら迂回するしかないよ」
「まじかよ……。迂回って結構遠回りになるのか?」
「グレイス街道で行くなら歩いて約一日で着くけど、これから吹雪になるみたいだから止めておいた方がいい」
「吹雪は長引くのか?」
「最近天候が安定していないから、急ぎじゃないなら動かない方がいいよ。まあ、他にも行く道はあるにはあるんだけどね。あまりお勧めはしない」
「他にって、もしかして旧坑道か」
ゼロは思い出す様に言った。
「ああ、そうだ。あそこは不気味だし、道が入り組んでるせいか慣れてない者が入ると必ず迷うからね。最悪戻って来れないって事もあるみたいだ」
私はその話を聞いて少し怖くなった。
出来ればそんな場所は行きたくない。
「旧坑道はやめておこう、とりあえず急いでないし暫くこの街に滞在して様子を見てから考えようか」
イザナの言葉にほっとしたように私は首を縦に振った。
「まぁ、そうするしかないか」
ゼロも納得した様子で続けた。
暫く話していると注文した料理が運ばれてきた。
ゼロは色々頼んでくれて、テーブルの上は料理でいっぱいになっていた。
なんていうか、全体的に料理の見た目が赤い。
私は嫌な予感を覚えながら、ゼロが注文してくれた肉料理を一口食べた。
すると、燃えるような辛さが口に広がっていく。
「……これ、すごく辛い」
「ルナは辛いのは苦手か? この地方は寒いから基本的に辛めの味付けが多いんだよ」
私が思わず辛いと漏らしてしまうと、隣に座っていたイザナが教えてくれた。
「ううん、これ位なら食べられるよっ」
折角出された料理なんだから食べなきゃと思い、私は我慢して口に運んでいく。
思った以上に辛くて、額から汗がだらだらと流れてくる。
実は私は辛いものは苦手だった。
「ルナ、無理して食べなくていいよ。それ結構辛いんじゃないか? こっちはそこまで辛くないから、ルナでも食べられると思うよ」
イザナはそう言うと私が食べてるものを移動させて、違う料理を置いてくれた。
「……ありがとう」
「ふふっ、無理して食べる姿も可愛いけど、私達に遠慮する必要なんてないよ。私は意外と辛いのは得意な方だから無理なら言って」
「そうだぞ。……っていうか、ルナって辛いのあまり得意じゃなかったんだな。悪い、何も考えないで注文してた。こっちのこれとかなら辛くないはずだ」
そう言ってゼロは辛くない料理を私の周りに並べてくれた。
二人とも優しくて、私は思わず少しじーんとしてしまった。
王宮にいた時はいつも誰かに遠慮していた。
思っていることも伝えらず、嫌なことは全て飲み込んで我慢し続けて来た。
だけど今は違う。
何も言わなくても、二人は私の事をちゃんと見ていてくれる。
気にしていてくれる。
それがすごく嬉しかった。
辛い料理を食べたせいで、体の芯からぽかぽかしていた。
こうして私達は暫くの間、このグレイスラビリンスに滞在する事となった。
0
お気に入りに追加
2,459
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛してほしかった
こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。
心はすり減り、期待を持つことを止めた。
──なのに、今更どういうおつもりですか?
※設定ふんわり
※何でも大丈夫な方向け
※合わない方は即ブラウザバックしてください
※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる