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第一章:聖女から冒険者へ
25.初めての乗船
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夜花祭が終わり、街は普段の装いを取り戻し始めていた。
そんな中、私達は新たな地へ向かうべく、船着き場へと来ていた。
「すごい……、船がいっぱい並んでる」
視界に船が映り込んでくると、私は目を輝かせるようにして呟いていた。
そこには大小さまざまな船が並び、港を埋め尽くすように並んでいたからだ。
こんな光景を目にするのは人生で初めてだったので、胸が昂ぶりつい興奮してしまう。
(これが港なんだ……)
貿易の街だけあって、シーライズの船着き場はとても広い。
そして、ちょうど夜花祭が終わったタイミングでもある為、撤収作業をして帰路に着く者達も多いのだろう。
港はいつもに増して賑やかで、船も人々も多く行き来しているようだ。
「ルナ、はしゃぎ過ぎじゃないか?」
「……っ」
傍からゼロの声が聞こえてきて、私はムスッとした顔を向けてしまう。
するとゼロはすぐに困った顔を見せてきたが、私は騙されないと言った様子で疑うような視線を送り続けていた。
「まだ根に持っているのか? いい加減、そんな顔するなよ。あのことは悪かったって散々謝っただろ? それに素直になれたのだから、ルナに取っては結果的に良かったんじゃないのか? イザナとも仲良くなれてさ」
「……っ、私、すごく恥ずかしかったんだからっ!」
思い出すとまた赤面してしまいそうになる。
ゼロは悪戯好きというか、悪意を持ってやっているわけではない所が、逆に厄介なのかも知れない。
「ルナの顔、少し赤いけど、もしかして思い出してにやけているのか?」
「ち、ちがっ……」
ゼロはニヤニヤとしながら私の顔を覗き込んできたので、咄嗟に否定しようとしていると突然横から手を引っ張られた。
私は驚いて自然とイザナの方に視線を向けた。
「ゼロ、ルナをいじめるのはその辺にしといてくれないか」
「……イザナ?」
私は突然のことに、きょとんとした視線をイザナに向けていた。
「悪い。少し悪ふざけが過ぎたな」
ゼロはイザナの言葉に素直に従い、それ以上意地悪なことは言ってこなかった。
(もしかして、ゼロに嫉妬……してる? とかは、さすがにないよね)
私はそんなことを内心考え、一人でドキドキしていた。
そしてゼロがからかうのを止めた後も、イザナの掌は私の指にしっかりと絡んでいる。
人前で手を繋ぐことはやっぱりまだ恥ずかしいけど、周囲にイザナにとっての一番は私なんだと伝えてくれているみたいで少し嬉しくもあった。
「そういえば、以前旅をしていた時は船は使わなかったな」
不意に、イザナは思い出すように呟いた。
「そうなのか? なら移動はどうしていたんだ?」
「移動は大体が馬だったな。大陸間の移動はしていなかったから船を使うことは無かったよ」
イザナが説明すると、ゼロは納得した様子で「なるほど」と呟いていた。
私は聖女としてこの世界に召喚された身ではあるが、あくまでイザナのいるベルヴァルト大国の民を守るために戦っていた。
その為、他の大陸には行ったことは無かったし、シーライズにも今回初めて訪れた。
ベルヴァルトはこの世界の三大国の一つであり、その中でも二番目に大きな大陸を保有している国だ。
この世界での移動は大体が馬になるので、私がいた現代とは違い移動にも多くの時間を取られてしまう。
そのこともあり、大陸を一周するのに三年も要してしまったというわけだ。
「私達が乗船する船はたしか……、向こうだな。ルナ、行こうか」
「うんっ!」
「相変わらず、二人は仲が良いねぇ」
「私達は夫婦だからね。当然だよ。それに、今のルナはどうやら船に夢中のようだから。転んだら危ないから手はしっかりと繋いでおかないとね」
(……っ!)
ゼロの言葉にハッとして、思わず顔を上げてしまう。
すると柔らかく微笑むイザナと瞳が合い、私は一人でまたドキドキしていた。
「イザナって結構過保護だよな。二人を見ていると、こっちの方が気恥ずかしくなってくるわ」
ゼロの言葉に私の頬は更に火照って行くような気がする。
この場で一番恥ずかしく思っているのは間違いなく私だ。
「そうか? 私は夫婦として当然の行動をしているつもりなんだけど……。ルナはどう思う?」
「……っ」
(どう思うって……、いきなり私に聞かないでっ!!)
突然話を振られて、私は顔を赤く染めながら困ったような表情を見せた。
正確には、答えられないから視線で訴えるしかなかった。
すると私達のやり取りを眺めていたゼロは、ははっと乾いた笑みを漏らした。
「ルナ、イザナはこういう人間だ。まあ、頑張れ」
「……っ!!」
ゼロは何かを悟ったかのように呟いた。
以前から何となく気付いていたけど、やっぱりイザナは何処か感覚がズレているような気がする。
突き放されるよりは全然嬉しいけど、慣れるまでは前途多難のようだ。
「私はルナを甘やかすのが好きだから、気にする必要はないよ。今は私がルナの目になっているから、好きなだけ船を眺めているといい。もうこの街も見納めだからね」
イザナは特に気にすることなく、サラリと答えていた。
彼の言うとおり、私は船に夢中になってしまっていたが、はっきりとそんな風に言われてしまうと照れてそれどころではなくなってしまう。
現に今も私の鼓動は、バクバクと激しくなりつつある。
(夫婦になるって、皆こんな感じなのかな。でも、ゼロの前だから、なんかすごく恥ずかしい……)
恥ずかしさが前に出て、私は聞こえていない振りでもするかのように海の方へと首を傾けていた。
***
それから少し歩いて船乗り場まで到着すると、私は驚きのあまり、これから乗るであろう船を二度見してしまった。
恐らく、この港内で一番大きな船なのだろう。
船体は真っ白に塗装され、、大きな帆が何枚も張られている。
なんていうか、私の良く知っている現代的な船とは大分違うが、ファンタジー世界に出てくる船そのもののように見えて思わず感動してしまった。
まさに、これぞ異世界に来たという感覚なのだろう。
「お、この船か。でかいな」
「……すごい。イザナ、すごいよ。この船!」
私は興奮気味に答えると、暫くの間、船の魅力に惹き付けられ目が釘付けになっていた。
(まさにファンタジー世界って感じがする……。これからこの船に乗るんだ。どうしよう、すごく興奮してきた!!)
「はしゃいでるルナも可愛いな。ちなみに、ここから北の大陸までは、予定では二週間程度の航海になる。飛空艇の方が早く着くけど、旅を急いでる訳では無いからね。たまにはのんびりと船旅を楽しむのもいいかと思って。ルナは初めてのようだし、その喜んでいる姿を見る限り、船にして正解だったかな」
「うんっ! すごく良いと思う。イザナ、ありがとう!」
私の声は、ここに来てからずっと弾んだままだ。
そんな私の様子を見て、イザナも満足そうな顔を浮かべていた。
(飛空艇もいつか乗ってみたいな……。この世界、中々いいかもっ!)
「そろそろ乗船しようか。ルナ、思い残すことはない?」
「うん。大丈夫」
私が答えると、そのまま乗船することになった。
船に乗り込みデッキの上に立つと、私は最後にシーライズを一望した。
「北の国はこことは真逆で寒いから、着いたらシーライズが恋しくなるかもな」
私がシーライズの街並みを眺めていると、ゼロは冗談ぽく言った。
「そんなに寒いの?」
「ルナはまだ行ったことが無いから分からないと思うけど、相当寒いぞ。気温差が激しいから、体調を崩すものも少なくないくらいだ」
「そんなに……」
イザナにも寒いのは覚悟しておくようにと言われていたので、到着したら着替える為の服は事前に購入しておいた。
便利な事に、この世界には異空間に入れておける収納ボックスという物が存在している。
服など嵩張る物を収納ボックスに入れておけば、好きな時にすぐに取り出すことが出来る。
見た目は小型のバッグや手提げが多く、大型の荷物を持っていたとしても、普段は手ぶらでいられるというなんとも便利アイテムなのだ。
私も何着か買った服をその収納ボックスの中にしまっている。
私は息を大きく吸い込んだ。
(シーライズ、ありがとーっ!!)
私は心の中で大きくそう叫ぶ。
ここに来てからイザナと再会して、私の人生は大きく動き出した。
大好きだったイザナと、漸く心を通わせることが出来た。
ここシーライズは、私にとっては思い出の街となることだろう。
そんな中、私達は新たな地へ向かうべく、船着き場へと来ていた。
「すごい……、船がいっぱい並んでる」
視界に船が映り込んでくると、私は目を輝かせるようにして呟いていた。
そこには大小さまざまな船が並び、港を埋め尽くすように並んでいたからだ。
こんな光景を目にするのは人生で初めてだったので、胸が昂ぶりつい興奮してしまう。
(これが港なんだ……)
貿易の街だけあって、シーライズの船着き場はとても広い。
そして、ちょうど夜花祭が終わったタイミングでもある為、撤収作業をして帰路に着く者達も多いのだろう。
港はいつもに増して賑やかで、船も人々も多く行き来しているようだ。
「ルナ、はしゃぎ過ぎじゃないか?」
「……っ」
傍からゼロの声が聞こえてきて、私はムスッとした顔を向けてしまう。
するとゼロはすぐに困った顔を見せてきたが、私は騙されないと言った様子で疑うような視線を送り続けていた。
「まだ根に持っているのか? いい加減、そんな顔するなよ。あのことは悪かったって散々謝っただろ? それに素直になれたのだから、ルナに取っては結果的に良かったんじゃないのか? イザナとも仲良くなれてさ」
「……っ、私、すごく恥ずかしかったんだからっ!」
思い出すとまた赤面してしまいそうになる。
ゼロは悪戯好きというか、悪意を持ってやっているわけではない所が、逆に厄介なのかも知れない。
「ルナの顔、少し赤いけど、もしかして思い出してにやけているのか?」
「ち、ちがっ……」
ゼロはニヤニヤとしながら私の顔を覗き込んできたので、咄嗟に否定しようとしていると突然横から手を引っ張られた。
私は驚いて自然とイザナの方に視線を向けた。
「ゼロ、ルナをいじめるのはその辺にしといてくれないか」
「……イザナ?」
私は突然のことに、きょとんとした視線をイザナに向けていた。
「悪い。少し悪ふざけが過ぎたな」
ゼロはイザナの言葉に素直に従い、それ以上意地悪なことは言ってこなかった。
(もしかして、ゼロに嫉妬……してる? とかは、さすがにないよね)
私はそんなことを内心考え、一人でドキドキしていた。
そしてゼロがからかうのを止めた後も、イザナの掌は私の指にしっかりと絡んでいる。
人前で手を繋ぐことはやっぱりまだ恥ずかしいけど、周囲にイザナにとっての一番は私なんだと伝えてくれているみたいで少し嬉しくもあった。
「そういえば、以前旅をしていた時は船は使わなかったな」
不意に、イザナは思い出すように呟いた。
「そうなのか? なら移動はどうしていたんだ?」
「移動は大体が馬だったな。大陸間の移動はしていなかったから船を使うことは無かったよ」
イザナが説明すると、ゼロは納得した様子で「なるほど」と呟いていた。
私は聖女としてこの世界に召喚された身ではあるが、あくまでイザナのいるベルヴァルト大国の民を守るために戦っていた。
その為、他の大陸には行ったことは無かったし、シーライズにも今回初めて訪れた。
ベルヴァルトはこの世界の三大国の一つであり、その中でも二番目に大きな大陸を保有している国だ。
この世界での移動は大体が馬になるので、私がいた現代とは違い移動にも多くの時間を取られてしまう。
そのこともあり、大陸を一周するのに三年も要してしまったというわけだ。
「私達が乗船する船はたしか……、向こうだな。ルナ、行こうか」
「うんっ!」
「相変わらず、二人は仲が良いねぇ」
「私達は夫婦だからね。当然だよ。それに、今のルナはどうやら船に夢中のようだから。転んだら危ないから手はしっかりと繋いでおかないとね」
(……っ!)
ゼロの言葉にハッとして、思わず顔を上げてしまう。
すると柔らかく微笑むイザナと瞳が合い、私は一人でまたドキドキしていた。
「イザナって結構過保護だよな。二人を見ていると、こっちの方が気恥ずかしくなってくるわ」
ゼロの言葉に私の頬は更に火照って行くような気がする。
この場で一番恥ずかしく思っているのは間違いなく私だ。
「そうか? 私は夫婦として当然の行動をしているつもりなんだけど……。ルナはどう思う?」
「……っ」
(どう思うって……、いきなり私に聞かないでっ!!)
突然話を振られて、私は顔を赤く染めながら困ったような表情を見せた。
正確には、答えられないから視線で訴えるしかなかった。
すると私達のやり取りを眺めていたゼロは、ははっと乾いた笑みを漏らした。
「ルナ、イザナはこういう人間だ。まあ、頑張れ」
「……っ!!」
ゼロは何かを悟ったかのように呟いた。
以前から何となく気付いていたけど、やっぱりイザナは何処か感覚がズレているような気がする。
突き放されるよりは全然嬉しいけど、慣れるまでは前途多難のようだ。
「私はルナを甘やかすのが好きだから、気にする必要はないよ。今は私がルナの目になっているから、好きなだけ船を眺めているといい。もうこの街も見納めだからね」
イザナは特に気にすることなく、サラリと答えていた。
彼の言うとおり、私は船に夢中になってしまっていたが、はっきりとそんな風に言われてしまうと照れてそれどころではなくなってしまう。
現に今も私の鼓動は、バクバクと激しくなりつつある。
(夫婦になるって、皆こんな感じなのかな。でも、ゼロの前だから、なんかすごく恥ずかしい……)
恥ずかしさが前に出て、私は聞こえていない振りでもするかのように海の方へと首を傾けていた。
***
それから少し歩いて船乗り場まで到着すると、私は驚きのあまり、これから乗るであろう船を二度見してしまった。
恐らく、この港内で一番大きな船なのだろう。
船体は真っ白に塗装され、、大きな帆が何枚も張られている。
なんていうか、私の良く知っている現代的な船とは大分違うが、ファンタジー世界に出てくる船そのもののように見えて思わず感動してしまった。
まさに、これぞ異世界に来たという感覚なのだろう。
「お、この船か。でかいな」
「……すごい。イザナ、すごいよ。この船!」
私は興奮気味に答えると、暫くの間、船の魅力に惹き付けられ目が釘付けになっていた。
(まさにファンタジー世界って感じがする……。これからこの船に乗るんだ。どうしよう、すごく興奮してきた!!)
「はしゃいでるルナも可愛いな。ちなみに、ここから北の大陸までは、予定では二週間程度の航海になる。飛空艇の方が早く着くけど、旅を急いでる訳では無いからね。たまにはのんびりと船旅を楽しむのもいいかと思って。ルナは初めてのようだし、その喜んでいる姿を見る限り、船にして正解だったかな」
「うんっ! すごく良いと思う。イザナ、ありがとう!」
私の声は、ここに来てからずっと弾んだままだ。
そんな私の様子を見て、イザナも満足そうな顔を浮かべていた。
(飛空艇もいつか乗ってみたいな……。この世界、中々いいかもっ!)
「そろそろ乗船しようか。ルナ、思い残すことはない?」
「うん。大丈夫」
私が答えると、そのまま乗船することになった。
船に乗り込みデッキの上に立つと、私は最後にシーライズを一望した。
「北の国はこことは真逆で寒いから、着いたらシーライズが恋しくなるかもな」
私がシーライズの街並みを眺めていると、ゼロは冗談ぽく言った。
「そんなに寒いの?」
「ルナはまだ行ったことが無いから分からないと思うけど、相当寒いぞ。気温差が激しいから、体調を崩すものも少なくないくらいだ」
「そんなに……」
イザナにも寒いのは覚悟しておくようにと言われていたので、到着したら着替える為の服は事前に購入しておいた。
便利な事に、この世界には異空間に入れておける収納ボックスという物が存在している。
服など嵩張る物を収納ボックスに入れておけば、好きな時にすぐに取り出すことが出来る。
見た目は小型のバッグや手提げが多く、大型の荷物を持っていたとしても、普段は手ぶらでいられるというなんとも便利アイテムなのだ。
私も何着か買った服をその収納ボックスの中にしまっている。
私は息を大きく吸い込んだ。
(シーライズ、ありがとーっ!!)
私は心の中で大きくそう叫ぶ。
ここに来てからイザナと再会して、私の人生は大きく動き出した。
大好きだったイザナと、漸く心を通わせることが出来た。
ここシーライズは、私にとっては思い出の街となることだろう。
応援ありがとうございます!
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