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5.二度目のキスは突然に①
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「冷たっ……」
氷のような冷たさは、離れた後も唇にその余韻を残していた。
そして頭の中で、この青年は既に息絶えているのではないかという仮説が立つ。
そんな事を考えていると背筋にぞっと寒気が走り、死人に口付けてしまったかもしれないという不安に覆われていく。
不意にハッと我に戻ると、慌てて再びステータス画面を覗いてみることにした。
彼のHPはゼロではないし、戦闘不能の様な表示もどこにも書かれてはいない。
それを見て少しだけ安堵した。
しかし一番下に表示されていた、あのふざけた一文はいつの間にか消えていた。
「あれ、消えてる……?」
私は戸惑いながら画面にかじりついていると、突然ぐいっと腕を引っ張られた。
突然体を揺さぶられたことによりバランスを崩し、そのまま引き寄せられた方向に倒れ込んでしまう。
「きゃっ、……え?」
小さな悲鳴を上げて、何……? と思いながら視線を正面に向けると、碧いキラキラと輝く宝石のような瞳に真っ直ぐに見つめられていた。
先程まで目を瞑り死んだように眠っていた青年が、気付けば目を開けて私のことを窺うかのようにじっと見捉えている。
「う、そ……」
「お前は誰だ」
薄く開いた私の唇からは、か細い声が漏れる。
私がその瞳に囚われていると、突然低い声が響いた。
その声にドキッとしてしまい、すぐには言葉が出てこなかった。
「おい、聞いているのか?」
手首はしっかりと握られたままなので、私はその状態から未だに抜け出せない。
言葉に詰まり黙っていると、彼は眉を顰め不機嫌そうに再び問う。
明らかに先程よりも苛立った声音に聞こえ、ビクッと体が跳ね上がる。
(こ、怖いっ……)
「あ、あのっ……」
(どうしようっ……、なんて説明すればいいの。絶対、怪しいヤツだと思われているよね。しかも逃げられないっ)
鋭い瞳に睨まれ、私は戸惑って声を絞り出した。
恐怖心を抱いているはずなのに、瞳を開いた彼の顔立ちはあまりにも綺麗過ぎて、こんな時でもドキドキしてしまう。
私の鼓動は速度を上げ、激しく鳴り響いていた。
「私を殺そうとした、手の者か?」
「ち、違います!」
(殺そうって何!? 私は助けようとしただけで……)
彼は横に置かれている大剣に視線を流した。
嫌な予感を察知した私は、腰に下げている護身用の小型剣に手を伸ばした。
普段はあまり使うことは無いが、いざという時の為に用意していたものだ。
「変な気は起こさない方がいい。私に力で敵うはずはないのだからな」
「……っ!!」
彼は冷たい声で言い放つと、突然私の視界がグラッと傾いた。
背中は地面にくっつき、視線の奥には青空が広がっている。
私の両手はいつの間にか自由を奪われ、頭の横で地面に縫い付けるように抑え込まれていた。
「言っただろう。変な気は起こさないほうがいいと、な。人の話は聞いた方がいい」
「……やっ、離してくださいっ! 私は貴方を助けようとしただけですっ!」
私は必死になって説得するように、言い返していた。
組み敷かれるように馬乗りにされ、今の私は身動きが一切取れない状況だ。
体格差もあるが、彼のステータスは私の全ての値を大幅に上回っていたので、逃げることは恐らく無理だろう。
そうなれば説得するしか方法は無い。
(こんな所で、死にたくないっ!!)
「助ける? お前がか?」
「はいっ! 私がここに訪れなければ、貴方は今頃死んでいたかもしれないんですよ? 勇者である貴方がいなくなったら、この世界も滅亡していたかもしれない……」
「何故、私が勇者だと知っている」
「だって、そう書いて……」
焦っていたので思わず口を滑らせてしまったが、鑑定スキルは秘密にしていたことだ。
「書いて……? もしかして、鑑定眼を持っているのか?」
「……っ、それはっ……」
しまったと思った時には、既に遅かった。
彼に勘付かれ、瞳の奥をじっと覗かれる。
「……なるほどな。それならば私の正体も既に理解しているということか。それに、お前からは殺意の類を全く感じない。敵でないという事は、本当のようだな」
「だから、さっきからそう言ってますっ! 分かったならその手を離してください」
鋭い視線から解放されると、緊迫感が解かれ少しだけほっとすることが出来た。
「分かった。その前に一つだけ聞かせてくれ」
「なっ、なんですか?」
「何故、私には傷が無い。あの時、確かに胸を貫かれたはずだ。お前が治してくれたのか?」
「傷、ですか? 私がここに来た時には既に眠っているような状態でした。怪我をしている感じもなさそうでしたが……」
「そうか。だが、お前は先程私を助けようとしたと話していたな。あれはどういう意味だ」
「……っ、そ、それはっ……」
今まで忘れていたのに、突然その話題を持ち出され私の頬は徐々に赤く染まっていく。
彼の口元に視線を向けてしまうと、更に顔の奥から熱が吹き出してくる。
「どうした? 随分狼狽えているな。その表情を見る限り、何かしたことは間違いなさそうだな」
「……これは貴方を助けるためにしたことですっ! やましい気持ちなんて、何もありませんっ!」
「何をした? 早く答えた方が身のためだぞ」
「……き」
「き?」
「一瞬だけ、ほんの一瞬だけ触れただけです」
私の答えを聞くと、彼の口元がゆっくりと動き「なにを?」と問いかけてくる。
口元ばかりに視線がいってしまい、私の鼓動はますます激しくなっていく。
「……キスを、しました。本当に一瞬だけっ、触れただけです。だって、そうしろって書いてあったから仕方なくっ……、……っ、ごめんなさい」
私は勢いに乗って白状した。
あれは仕方が無いことだった。
私が行動していなければ、この世界の未来は変わっていたかもしれない。
まるで自分に言い訳をするように答えてしまったが、彼の反応を見るのが怖くて私はぎゅっと目を瞑ってしまう。
(どうしよう。怒ってるかな。……当たり前だよね。いきなり現れた人間にキスされるなんて、普通に考えたら気持ち悪いよね)
氷のような冷たさは、離れた後も唇にその余韻を残していた。
そして頭の中で、この青年は既に息絶えているのではないかという仮説が立つ。
そんな事を考えていると背筋にぞっと寒気が走り、死人に口付けてしまったかもしれないという不安に覆われていく。
不意にハッと我に戻ると、慌てて再びステータス画面を覗いてみることにした。
彼のHPはゼロではないし、戦闘不能の様な表示もどこにも書かれてはいない。
それを見て少しだけ安堵した。
しかし一番下に表示されていた、あのふざけた一文はいつの間にか消えていた。
「あれ、消えてる……?」
私は戸惑いながら画面にかじりついていると、突然ぐいっと腕を引っ張られた。
突然体を揺さぶられたことによりバランスを崩し、そのまま引き寄せられた方向に倒れ込んでしまう。
「きゃっ、……え?」
小さな悲鳴を上げて、何……? と思いながら視線を正面に向けると、碧いキラキラと輝く宝石のような瞳に真っ直ぐに見つめられていた。
先程まで目を瞑り死んだように眠っていた青年が、気付けば目を開けて私のことを窺うかのようにじっと見捉えている。
「う、そ……」
「お前は誰だ」
薄く開いた私の唇からは、か細い声が漏れる。
私がその瞳に囚われていると、突然低い声が響いた。
その声にドキッとしてしまい、すぐには言葉が出てこなかった。
「おい、聞いているのか?」
手首はしっかりと握られたままなので、私はその状態から未だに抜け出せない。
言葉に詰まり黙っていると、彼は眉を顰め不機嫌そうに再び問う。
明らかに先程よりも苛立った声音に聞こえ、ビクッと体が跳ね上がる。
(こ、怖いっ……)
「あ、あのっ……」
(どうしようっ……、なんて説明すればいいの。絶対、怪しいヤツだと思われているよね。しかも逃げられないっ)
鋭い瞳に睨まれ、私は戸惑って声を絞り出した。
恐怖心を抱いているはずなのに、瞳を開いた彼の顔立ちはあまりにも綺麗過ぎて、こんな時でもドキドキしてしまう。
私の鼓動は速度を上げ、激しく鳴り響いていた。
「私を殺そうとした、手の者か?」
「ち、違います!」
(殺そうって何!? 私は助けようとしただけで……)
彼は横に置かれている大剣に視線を流した。
嫌な予感を察知した私は、腰に下げている護身用の小型剣に手を伸ばした。
普段はあまり使うことは無いが、いざという時の為に用意していたものだ。
「変な気は起こさない方がいい。私に力で敵うはずはないのだからな」
「……っ!!」
彼は冷たい声で言い放つと、突然私の視界がグラッと傾いた。
背中は地面にくっつき、視線の奥には青空が広がっている。
私の両手はいつの間にか自由を奪われ、頭の横で地面に縫い付けるように抑え込まれていた。
「言っただろう。変な気は起こさないほうがいいと、な。人の話は聞いた方がいい」
「……やっ、離してくださいっ! 私は貴方を助けようとしただけですっ!」
私は必死になって説得するように、言い返していた。
組み敷かれるように馬乗りにされ、今の私は身動きが一切取れない状況だ。
体格差もあるが、彼のステータスは私の全ての値を大幅に上回っていたので、逃げることは恐らく無理だろう。
そうなれば説得するしか方法は無い。
(こんな所で、死にたくないっ!!)
「助ける? お前がか?」
「はいっ! 私がここに訪れなければ、貴方は今頃死んでいたかもしれないんですよ? 勇者である貴方がいなくなったら、この世界も滅亡していたかもしれない……」
「何故、私が勇者だと知っている」
「だって、そう書いて……」
焦っていたので思わず口を滑らせてしまったが、鑑定スキルは秘密にしていたことだ。
「書いて……? もしかして、鑑定眼を持っているのか?」
「……っ、それはっ……」
しまったと思った時には、既に遅かった。
彼に勘付かれ、瞳の奥をじっと覗かれる。
「……なるほどな。それならば私の正体も既に理解しているということか。それに、お前からは殺意の類を全く感じない。敵でないという事は、本当のようだな」
「だから、さっきからそう言ってますっ! 分かったならその手を離してください」
鋭い視線から解放されると、緊迫感が解かれ少しだけほっとすることが出来た。
「分かった。その前に一つだけ聞かせてくれ」
「なっ、なんですか?」
「何故、私には傷が無い。あの時、確かに胸を貫かれたはずだ。お前が治してくれたのか?」
「傷、ですか? 私がここに来た時には既に眠っているような状態でした。怪我をしている感じもなさそうでしたが……」
「そうか。だが、お前は先程私を助けようとしたと話していたな。あれはどういう意味だ」
「……っ、そ、それはっ……」
今まで忘れていたのに、突然その話題を持ち出され私の頬は徐々に赤く染まっていく。
彼の口元に視線を向けてしまうと、更に顔の奥から熱が吹き出してくる。
「どうした? 随分狼狽えているな。その表情を見る限り、何かしたことは間違いなさそうだな」
「……これは貴方を助けるためにしたことですっ! やましい気持ちなんて、何もありませんっ!」
「何をした? 早く答えた方が身のためだぞ」
「……き」
「き?」
「一瞬だけ、ほんの一瞬だけ触れただけです」
私の答えを聞くと、彼の口元がゆっくりと動き「なにを?」と問いかけてくる。
口元ばかりに視線がいってしまい、私の鼓動はますます激しくなっていく。
「……キスを、しました。本当に一瞬だけっ、触れただけです。だって、そうしろって書いてあったから仕方なくっ……、……っ、ごめんなさい」
私は勢いに乗って白状した。
あれは仕方が無いことだった。
私が行動していなければ、この世界の未来は変わっていたかもしれない。
まるで自分に言い訳をするように答えてしまったが、彼の反応を見るのが怖くて私はぎゅっと目を瞑ってしまう。
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