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4.森の奥で眠れる勇者に出会いました②
しおりを挟むそれから暫く歩いていると、光が差し込んでいる場所に漸く辿り着いた。
そこは開けている場所で、地面には小さな花が絨毯のように敷き詰められている。
その光景に一瞬で心が奪われた。
「すごい……。ここだけ別世界みたい」
安心したら強張っていた顔の筋肉が緩んでいき、誘われるように奥へと入っていく。
仄かに甘い香りがするのは、一面に咲いている花の蜜の匂いなのかもしれない。
先程までの不安は好奇心によって打ち消されていた。
「あれって、人……かな?」
中心の方まで入っていくと、倒れている人影を見つけた。
一瞬ドキッとしてしまうも、気になって近づいていく。
傍まで近づくと、恐る恐るその姿を覗き込んだ。
年齢は恐らく私よりも年上で、20代半ばくらいなのではないだろうか。
陽の光を浴びた髪は金色に輝き、透明感のある綺麗な白い肌。
目は閉じられているが綺麗な輪郭からして、端麗な顔立ちであることは間違いないだろう。
それに真っ白な軍服の様な装いには、金糸で作られた豪華な飾りがいくつも縫い付けられている。
身なりからして貴族であることは間違いなさそうだ。
(うわぁ……、すごく綺麗な人)
私はその寝顔に見惚れるように、暫く間その場に立ち尽くしていた。
瞳を開けたらどんな顔をしているのだろう、とつい想像してしまいたくなる。
「……っ! やば、見過ぎだよね。眠っている人の寝顔を見るだなんて、失礼だよね。ご、ごめんなさいっ」
私は眠っている青年に向けて話しかけると、慌てて頭を下げた。
だけど返事は戻ってこない。
そして起きる気配も全く感じない。
(熟睡してるのかな? 天気もいいし、ここで寝たらたしかに気持ち良くお昼寝出来そうっ! ……でも、夜になったら危なくないかな?)
この森にはあまり魔物はいないが、夜になれば出てくる可能性だって無いとは言えない。
青年の横には大きな大剣が置かれてあり、恐らく剣士か何かなのだろう。
(大きな剣……。見た感じ強そうだし、大丈夫だとは思うけど……でも)
何故だか分からないが、この青年のことが妙に気になっていた。
綺麗な顔立ちという魅力的なポイントもあったが、多分それだけではない気がする。
直感で起こした方がいいと感じてしまい、思いきって声を掛けてみることにした。
「あ、あのっ……! 気持ち良くお昼寝しているところ申し訳ありませんっ! こんな場所で一人で寝ているのは、少し危険だと思いますよっ!」
「…………」
私は緊張しながらも声を張り上げて言った。
だけど相変わらず反応は無く、起きる気配も全く感じない。
(うっ……、全然起きる気配が無い。どうしよう……、このまま放っておくなんて出来ないし)
暫く困ったような顔で眺めていたが、やはり起きる気配はなさそうだ。
そこで悪いとは思ったが、体を揺さぶって強制的に目覚めさせることに決めた。
「あ、あのっ、ごめんなさい。触りますね」
私が青年の肩に触れると、ステータス画面が表示されてしまった。
寝ている人間の情報を勝手に盗み見ることに少し罪悪感を覚えてしまったが、気になったので確認してみることにした。
(ユーリウス・イル・アルヴァール……って名前なんだ。随分長いけど、これって貴族様だよね)
平民には家名は存在しない。
だから貴族であるのだと分かった。
魔力量は4桁あり、少し驚いてしまう。
聖女として選ばれた彼女でさえも500程度だった。
召喚されたばかりで、単にレベルが低いだけだったのかもしれないけど。
更に情報を読み進めて行くと、驚くべきことが次々に書かれていた。
(勇者で皇子!?)
肩書には勇者と書かれていて、更に帝国の第一皇子であり皇太子という文字が並んでいる。
確かに皇子のような装いをしているとは思っていたけど、まさか本当にそうだとは思わなかった。
しかしそれだけではなかった。
最後には、とんでもない内容が書かれていた。
『三分以内に乙女のキスを贈らなければ、この者は肉体から魂が切り離されて即死亡。勇者を失った世界は滅亡する』
私は目を疑って、何度も見返してしまう。
時間の所は、一秒ずつカウントダウンがされているようだ。
(は……? な、なにこれ。即死亡って、それに世界が滅亡って、さすがに冗談だよね?)
あはは、と私は乾いた笑いを漏らしてみた。
私は目をごしごしと指で擦り再び確認するが、間違いなくそう書かれている。
(見間違いじゃない。乙女のキスって……。乙女の心を持っていればいいの? 私、そんな純情じゃないよ! 無理!! どうしようっ……、だれか)
辺りを慌てるように見渡して見るも、そこには誰の姿もなく、ここにいるのは私だけ。
混乱した頭では、思考が上手く纏まらない。
ただ、なんとかしなければという焦る気持ちだけは持っていた。
ここに書かれていることが嘘だとは思わなかった。
何故ならこのステータス画面は自動的に表示されるものであり、自分の意思で都合良く書き替えることが出来ないからだ。
もしこれが本当だとしたら……。
そんなことを考えている間も一秒、また一秒と時間が減っていく。
残り一分を切った所で私は決意した。
「ごめんなさいっ! 恨むならこんな表示を出した人を恨んでくださいっ!!」
私は半ば自棄になって答えると、ゆっくりと顔を寄せていく。
目の前には綺麗な顔があり、鼓動がどんどん早まっていく。
一度は躊躇するも、残りの秒数が目に入り覚悟を決めた。
(本当に、ごめんなさいっ!!)
私は心の中で再び謝ると、そっと唇を重ねた。
彼の唇は凍っている様に冷たかった。
まるで氷に口付けている様な感覚で、ビクッと体を震わせ慌てる様に離れた。
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