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15.新しい生活の始まり①
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「着いたよ」
私は馬車から降りると、目の前に映る大きな建物に驚き固まっていた。
暗闇に隠れていて全貌を見ることは残念ながら出来なかったが、私のいた屋敷よりは格段に広い。
隠れ家なんていうから小さな建物だと勝手にイメージしてしまったが、相手が王太子であることを私はすっかり忘れていたようだ。
王城の傍に面している一等地で、この周囲には王家と血族である公爵家の屋敷がいくつかあった様な気がする。
(うそ、でしょ……)
こんなにすごい屋敷を目の前にして、腰が引けてしまう。
平民落ちした私が、こんな場所に来ていいのだろうか。
「リリア、夜の風は冷たいから、いつまでもここにいたら風邪を引いてしまうよ。中に入ろう」
「……は、はい」
ここまで付いて来てしまった以上今更断ることも出来ず、私はアレクシスに連れられて屋敷の中へと入っていった。
***
重厚な扉が開くと、明るい室内の様子が視界に広がる。
白を基調にしている室内はシンプルではあるが気品があり、置かれている家具もベージュのような落ち着いた色彩で統一されている。
入ってすぐの天井にはホワイトクリスタルの巨大なシャンデリアが吊されていて、さらにその奥には二階に繋がる大きな階段が見える。
王宮のように目が眩みそうな煌びやかな造りではないが、落ち着いているこちらの方が私は好きかも知れない。
「アレクシス殿下、おかえりなさいませ」
「ああ。今日は大切な客人を連れて来ている。私にとっては何よりも大事な人だ。暫くここで暮らしてもらう事になったから、くれぐれも粗相がないように頼むよ」
私が室内に視線を巡らせていると、傍にいた執事達が近づいてきてアレクシスと会話を始めていた。
「リリア・シュトー……、いえ、リリアと申します。暫くお世話になります。どうぞよろしくお願いします」
私が慌てるように挨拶をすると「リリア、こっちを向いて」とアレクシスに言われ顔を傾けた。
すると先程付けていた眼鏡を再び私の耳に掛けられる。
「忘れ物だよ」
「で、でも……」
この眼鏡は目立たない為にしていたもので、今の私には必要のない物だった。
しかし私が言い返そうとすると、アレクシスは不満そうな顔で見つめてきた。
気のせいかもしれないが、アレクシスの瞳は普段よりも深い色に見えて背筋に鳥肌が立ち、それ以上答えることが出来なかった。
「私は王宮に戻らないといけないけど、明日また来るからそれまでゆっくり過ごしていて。今日は色々あって疲れただろう」
「え……」
(あ、……そっか。アレクシス様は王宮に帰られてしまうんだ)
急に一人にされてしまうのが心細く思えて、私は思わず切なげな表情を見せてしまう。
するとアレクシスは困ったように笑い、私の髪を優しく撫でてくれた。
「そんな顔をされたら、帰るに帰れなくなってしまうな」
「ご、ごめんなさい」
「謝らないで。リリアに引き留めて貰えて嬉しいよ。暫くこちらで過ごせるように明日調整してみるから、少しだけ待っていてくれると嬉しいな」
「……はい」
私はなんて顔をしてしまったんだろう。
馬車の中でアレクシスが変なことばかり言うから、おかしくなってしまったのかもしれない。
アレクシスは私にとって友人のような存在で、それ以上には決してなることはない人間。
ましてや私は爵位を剥奪されたので、アレクシスと今のように話していること自体あり得ないことなのに。
自由になりたいと願ったのは私。
アレクシスとの距離が遠ざかってしまうのではないかと考えるだけで、寂しくてたまらない気持ちになる。
胸が締め付けられるように、苦しく思えてしまうのはどうしてなのだろう。
「彼女のこと、頼むよ」
「かしこまりました。お部屋は、あちらで宜しいのでしょうか?」
「ああ、勿論だ。あれは元々彼女のために作った特別な部屋だからね。きっと気に入って貰えるはずだよ」
「……?」
私が二人の会話に耳を傾けていると、不意にアレクシスと目が合った。
「リリア、部屋に置いてある服は好きに着替えてくれて構わないよ。サイズは多分合うと思うから。全てリリアの為に作らせたものだからね」
「え?」
アレクシスの言っていることが良く分からなかった。
私のために作らせたとはどういう意味なのだろうか。
(卒業祝いに作ってくれた……のかな? でも、アレクシス様とはそれほど深い仲ではないし、それはないか)
「それから部屋の外に出る時には必ず眼鏡をしておくんだよ」
「分かりました」
私が素直に頷くと、アレクシスは満足そうな顔で「いい子で待っているんだよ」と告げて、屋敷を出て行った。
アレクシスの姿が見えなくなるまで、私は扉の方に視線を向けていた。
私は馬車から降りると、目の前に映る大きな建物に驚き固まっていた。
暗闇に隠れていて全貌を見ることは残念ながら出来なかったが、私のいた屋敷よりは格段に広い。
隠れ家なんていうから小さな建物だと勝手にイメージしてしまったが、相手が王太子であることを私はすっかり忘れていたようだ。
王城の傍に面している一等地で、この周囲には王家と血族である公爵家の屋敷がいくつかあった様な気がする。
(うそ、でしょ……)
こんなにすごい屋敷を目の前にして、腰が引けてしまう。
平民落ちした私が、こんな場所に来ていいのだろうか。
「リリア、夜の風は冷たいから、いつまでもここにいたら風邪を引いてしまうよ。中に入ろう」
「……は、はい」
ここまで付いて来てしまった以上今更断ることも出来ず、私はアレクシスに連れられて屋敷の中へと入っていった。
***
重厚な扉が開くと、明るい室内の様子が視界に広がる。
白を基調にしている室内はシンプルではあるが気品があり、置かれている家具もベージュのような落ち着いた色彩で統一されている。
入ってすぐの天井にはホワイトクリスタルの巨大なシャンデリアが吊されていて、さらにその奥には二階に繋がる大きな階段が見える。
王宮のように目が眩みそうな煌びやかな造りではないが、落ち着いているこちらの方が私は好きかも知れない。
「アレクシス殿下、おかえりなさいませ」
「ああ。今日は大切な客人を連れて来ている。私にとっては何よりも大事な人だ。暫くここで暮らしてもらう事になったから、くれぐれも粗相がないように頼むよ」
私が室内に視線を巡らせていると、傍にいた執事達が近づいてきてアレクシスと会話を始めていた。
「リリア・シュトー……、いえ、リリアと申します。暫くお世話になります。どうぞよろしくお願いします」
私が慌てるように挨拶をすると「リリア、こっちを向いて」とアレクシスに言われ顔を傾けた。
すると先程付けていた眼鏡を再び私の耳に掛けられる。
「忘れ物だよ」
「で、でも……」
この眼鏡は目立たない為にしていたもので、今の私には必要のない物だった。
しかし私が言い返そうとすると、アレクシスは不満そうな顔で見つめてきた。
気のせいかもしれないが、アレクシスの瞳は普段よりも深い色に見えて背筋に鳥肌が立ち、それ以上答えることが出来なかった。
「私は王宮に戻らないといけないけど、明日また来るからそれまでゆっくり過ごしていて。今日は色々あって疲れただろう」
「え……」
(あ、……そっか。アレクシス様は王宮に帰られてしまうんだ)
急に一人にされてしまうのが心細く思えて、私は思わず切なげな表情を見せてしまう。
するとアレクシスは困ったように笑い、私の髪を優しく撫でてくれた。
「そんな顔をされたら、帰るに帰れなくなってしまうな」
「ご、ごめんなさい」
「謝らないで。リリアに引き留めて貰えて嬉しいよ。暫くこちらで過ごせるように明日調整してみるから、少しだけ待っていてくれると嬉しいな」
「……はい」
私はなんて顔をしてしまったんだろう。
馬車の中でアレクシスが変なことばかり言うから、おかしくなってしまったのかもしれない。
アレクシスは私にとって友人のような存在で、それ以上には決してなることはない人間。
ましてや私は爵位を剥奪されたので、アレクシスと今のように話していること自体あり得ないことなのに。
自由になりたいと願ったのは私。
アレクシスとの距離が遠ざかってしまうのではないかと考えるだけで、寂しくてたまらない気持ちになる。
胸が締め付けられるように、苦しく思えてしまうのはどうしてなのだろう。
「彼女のこと、頼むよ」
「かしこまりました。お部屋は、あちらで宜しいのでしょうか?」
「ああ、勿論だ。あれは元々彼女のために作った特別な部屋だからね。きっと気に入って貰えるはずだよ」
「……?」
私が二人の会話に耳を傾けていると、不意にアレクシスと目が合った。
「リリア、部屋に置いてある服は好きに着替えてくれて構わないよ。サイズは多分合うと思うから。全てリリアの為に作らせたものだからね」
「え?」
アレクシスの言っていることが良く分からなかった。
私のために作らせたとはどういう意味なのだろうか。
(卒業祝いに作ってくれた……のかな? でも、アレクシス様とはそれほど深い仲ではないし、それはないか)
「それから部屋の外に出る時には必ず眼鏡をしておくんだよ」
「分かりました」
私が素直に頷くと、アレクシスは満足そうな顔で「いい子で待っているんだよ」と告げて、屋敷を出て行った。
アレクシスの姿が見えなくなるまで、私は扉の方に視線を向けていた。
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