【本編完結】 婚約破棄された令嬢は自由に生きたい!(R18)

Rila

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14.王子からの提案④

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「やはり君には難しいようだね」
「当たり前です。アレクシス様は騎士じゃないですか」

「まあ、そうだね。だけど、私は殆ど力を込めていなかったよ。今みたいに男に突然腕を掴まれたら、逃げるのは難しそうだね。こんなにも可愛らしい女性が一人でいたら、不埒な連中に声をかけられるかもしれないね。私が傍に居たら一瞬で目の前から消し去ってあげられるけど、いつも一緒にいられるとは限らないからね。考えただけでも悍ましい」
「……っ、まさか。自慢じゃないですが、今まで誰かに興味を持たれたことなんてありません!」

 アレクシスは私の姿を視界に捉えながら、心配そうな瞳でブツブツと呟き始めた。
 以前から感じていたが、アレクシスは少し心配性な所があるように思える。
 私は普段から人に関心を持たれる対象では無かったので知らないだけで、友人としてはこれが普通の対応なのだろうか。
 だけど『可愛らしい』なんて言われるとそわそわしてしまい、思わず言い返していた。

「リリアは謙遜しすぎだよ。この艶やかで癖のない綺麗な黒髪も、それに映えるような透明感のある白い肌も。昔の面影が残っている、少し幼く見えるこの可愛らしい顔も。私には全てが魅力的に見える。リリアは今日まで貴族令嬢だったのだから、平民の中で生活したら、かなり目立つ存在になるだろうね」

 アレクシスは随分と美化した言い方をしてきたが、お世辞にしては言い過ぎな気がする。
 肌や髪が綺麗なのは、毎日お手入れをしていただけだ。
 外見を美しく見せるのは貴族令嬢としての嗜みだし、それが当たり前のことだと思っていた。

 それにこんな風に外見を褒められたことは、アレクシス以外には言われたことが無かった気がする。
 お世辞も言われ慣れていないせいで耐性がなく素直に照れてしまい、私の頬は仄かに赤く染まっていた。

「リリアの素顔を私以外の人間には見せたくなくて、その野暮ったい眼鏡を勧めたんだけど。まさかここまで上手くいくとは思わなかったよ。ラルスも君の魅力には気付いていないようで安心した」
「へ、変なことを言わないでくださいっ」

 アレクシスは誤解を生むような言葉ばかりを並べてくる。
 私はその度に戸惑い、慌てて言い返していた。
 胸の中がムズムズして、恥ずかしくて、どこかに隠れてしまいたい気持ちだった。
 
「何も変なことは言っていないよ。照れているの? 可愛いな。リリアの魅力を独り占めしたかったのは事実だよ。出来ることならば、これからもその素顔は私以外の誰にも見せて欲しくないと思っているくらいだ」
「……っ」

 馬車という狭い空間でなければ、走って逃げ出していたかも知れない。
 だけど逃げる場所も隠れる場所も無い状態で、羞恥心を煽られ続けた私の頬は焼けるように熱くなっていた。
 そしてなんて言い返せばこの話題が終わるのか、分からない。

 私が戸惑って目を泳がせていると、アレクシスの手が顔の前に伸びてきて耳に掛けている眼鏡を静かに外した。
 隔てていたレンズが無くなっただけなのに、先程よりも恥ずかしく感じてしまうのは何故だろう。

「心配になってきたので、リリアを一人にはさせたくない」
「わ、私なら大丈夫です! た、多分……」

「多分って言っているあたり、リリア自身も不安に思う部分はあるんだね」
「それは……。で、でも、これ以上アレクシス様に頼ってばかりもいられません」

「これは私がしたくて勝手に行っていることだから、リリアは何も気にする必要などないよ。ねえ、護身術を習得するまで、私にリリアの世話をさせて貰えないかな? このままだと君のことが気になって、他のことが何も手に付かなくなってしまいそうだからね。私を助けると思って、ね?」

 アレクシスは大げさにため息を漏らし、困ったような表情で言った。
 まるで『お願い』だと訴えかけるような瞳を向けられてしまえば、首を横に振る事なんて出来ない。

(そんな目で見つめないでっ……)

「アレクシス様が、迷惑でないのなら」
「ありがとう。リリアの事を迷惑に思うだなんて、万に一つも無いよ。それじゃあ決まりだね! そうと決まれば、早速私達の秘密の隠れ家に向かおうか」

 秘密の隠れ家だと言うアレクシスの表情は、童心に帰ったような楽しそうなものに見えた。
 そんな彼の姿を眺めていると、伝染するように私まで楽しい気持ちになってきて、気付けば小さく笑みを漏らしていた。
 
 今日まで貴族令嬢だった私が、明日から平民としてやっていけるのか不安を持ち始めていたのも事実だ。
 ここまで怒涛のような展開が続き、私は流されるがままこの勢いに乗ってしまった。
 自分ではこれは正しい選択だったと思っているけど、きっと落ち着いた頃に不安に包まれる事になるだろう。
 今までとは違う場所で、価値観や考え方も違う者達の中で生きていく事になるのだから。
 
 そんな中、アレクシスは有難い提案をしてくれた。
 平民の世界に投げ出される前に、心の準備をする時間を与えてくれたのだ。
 
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