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16.新しい生活の始まり②
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部屋まで案内してくれたのは先程の執事ではなく、私より少し年下に見える小柄な女性だった。
印象的なのは、肩に付く程の長さの艶やかな赤髪だろうか。
中央の大きな階段を上るのかと思いきや、そちらには行かず、すぐ脇を歩いて行く。
不思議に思いながらも後を追うように進んでいくと、階段の裏側にひっそりと佇んでいる扉が目に入った。
まるで表からは隠されているような。
(こんな所に扉が?)
階段の影に隠れている為かここだけは薄暗く、近づかなければ扉があることには気付かないだろう。
使用人はポケットから鍵を取り出すと、慣れた手付きでカチャっと音を響かせて扉を開いた。
この光景を目の当たりにして、私の中に疑念が生まれる。
(鍵までかけてるの? 随分と厳重なのね)
一体私はどこに連れて行かれるのだろう。
一抹の不安を感じ立ち止まっていると、使用人が私の方に視線を向けた。
「リリア様、こちらの奥になります」
「あのっ、一体どこに行くんですか?」
「え? リリア様のお部屋になりますが?」
私が戸惑いがちに問いかけると、使用人は不思議そうに首を傾け、逆に質問を返してきた。
その時、先程の二人の会話を思い出した。
アレクシスはあの時『私のために用意した』と話していた。
偶然が重なり今日この屋敷を訪れることになったわけだが、彼はこの屋敷に私を招待しようと思っていたのは間違いなさそうだ。
それは今日でないにしても、いずれどこかで。
私が眉を寄せて警戒するような顔を浮かべていると、使用人は「ご安心ください」と声を掛けてきた。
「この奥のお部屋はアレクシス殿下が直々に指示され、リリア様のためだけに作られた特別な場所です。どこよりも安全ですし、快適に過ごして頂けるはずですっ」
「アレクシス様が、私のために……?」
ますます意味が分からなくなり、私は怪訝そうな顔を向けてしまう。
扉の奥に視線を向けると暗闇しか見えず、目を凝らしても先を見ることが出来ない。
それが更に私の不安を煽る。
扉の奥からは冷気を感じたので、外に繋がっているということだけは分かった。
「リリア様、安全は保証致しますので……」
いつまでも動こうとしない私に対して、使用人の表情は戸惑いに変わっていく。
まるで何かに怯えているような、そんな様子にも見える。
「どうか、お願いします。リリア様をお部屋まで案内しなければ殿下に……」
「ごめんなさい。行きます」
誰が見ても明らかな程、使用人は動揺していた。
私が行かなければ、きっと後でアレクシスに叱られてしまうのかもしれない。
正直、私にはそんなアレクシスの姿は想像出来ないが。
今の私は一応アレクシスの客人と言う扱いになっているので、理由は何となく把握した。
「こちらへどうぞ」
私の返答を聞いて、使用人の表情が明るくなった。
彼女には悪いことをしてしまったと、心の中で少し反省をしていた。
私は何に対して疑いを持っているのだろう。
アレクシスは善意からここに連れて来てくれたと言うのに。
彼はいつだって、私の味方でいてくれる人だ。
(不安になる必要なんてなかったわ)
使用人は照明のために光の玉を魔法で出した。
すると周囲には柔らかい光が広がり、暗闇が晴れていく。
印象的なのは、肩に付く程の長さの艶やかな赤髪だろうか。
中央の大きな階段を上るのかと思いきや、そちらには行かず、すぐ脇を歩いて行く。
不思議に思いながらも後を追うように進んでいくと、階段の裏側にひっそりと佇んでいる扉が目に入った。
まるで表からは隠されているような。
(こんな所に扉が?)
階段の影に隠れている為かここだけは薄暗く、近づかなければ扉があることには気付かないだろう。
使用人はポケットから鍵を取り出すと、慣れた手付きでカチャっと音を響かせて扉を開いた。
この光景を目の当たりにして、私の中に疑念が生まれる。
(鍵までかけてるの? 随分と厳重なのね)
一体私はどこに連れて行かれるのだろう。
一抹の不安を感じ立ち止まっていると、使用人が私の方に視線を向けた。
「リリア様、こちらの奥になります」
「あのっ、一体どこに行くんですか?」
「え? リリア様のお部屋になりますが?」
私が戸惑いがちに問いかけると、使用人は不思議そうに首を傾け、逆に質問を返してきた。
その時、先程の二人の会話を思い出した。
アレクシスはあの時『私のために用意した』と話していた。
偶然が重なり今日この屋敷を訪れることになったわけだが、彼はこの屋敷に私を招待しようと思っていたのは間違いなさそうだ。
それは今日でないにしても、いずれどこかで。
私が眉を寄せて警戒するような顔を浮かべていると、使用人は「ご安心ください」と声を掛けてきた。
「この奥のお部屋はアレクシス殿下が直々に指示され、リリア様のためだけに作られた特別な場所です。どこよりも安全ですし、快適に過ごして頂けるはずですっ」
「アレクシス様が、私のために……?」
ますます意味が分からなくなり、私は怪訝そうな顔を向けてしまう。
扉の奥に視線を向けると暗闇しか見えず、目を凝らしても先を見ることが出来ない。
それが更に私の不安を煽る。
扉の奥からは冷気を感じたので、外に繋がっているということだけは分かった。
「リリア様、安全は保証致しますので……」
いつまでも動こうとしない私に対して、使用人の表情は戸惑いに変わっていく。
まるで何かに怯えているような、そんな様子にも見える。
「どうか、お願いします。リリア様をお部屋まで案内しなければ殿下に……」
「ごめんなさい。行きます」
誰が見ても明らかな程、使用人は動揺していた。
私が行かなければ、きっと後でアレクシスに叱られてしまうのかもしれない。
正直、私にはそんなアレクシスの姿は想像出来ないが。
今の私は一応アレクシスの客人と言う扱いになっているので、理由は何となく把握した。
「こちらへどうぞ」
私の返答を聞いて、使用人の表情が明るくなった。
彼女には悪いことをしてしまったと、心の中で少し反省をしていた。
私は何に対して疑いを持っているのだろう。
アレクシスは善意からここに連れて来てくれたと言うのに。
彼はいつだって、私の味方でいてくれる人だ。
(不安になる必要なんてなかったわ)
使用人は照明のために光の玉を魔法で出した。
すると周囲には柔らかい光が広がり、暗闇が晴れていく。
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