上 下
16 / 87

16.新しい生活の始まり②

しおりを挟む
 部屋まで案内してくれたのは先程の執事ではなく、私より少し年下に見える小柄な女性だった。
 印象的なのは、肩に付く程の長さの艶やかな赤髪だろうか。

 中央の大きな階段を上るのかと思いきや、そちらには行かず、すぐ脇を歩いて行く。 
 不思議に思いながらも後を追うように進んでいくと、階段の裏側にひっそりと佇んでいる扉が目に入った。
 まるで表からは隠されているような。

(こんな所に扉が?)

 階段の影に隠れている為かここだけは薄暗く、近づかなければ扉があることには気付かないだろう。
 使用人はポケットから鍵を取り出すと、慣れた手付きでカチャっと音を響かせて扉を開いた。
 この光景を目の当たりにして、私の中に疑念が生まれる。
 
(鍵までかけてるの? 随分と厳重なのね)

 一体私はどこに連れて行かれるのだろう。
 一抹の不安を感じ立ち止まっていると、使用人が私の方に視線を向けた。

「リリア様、こちらの奥になります」
「あのっ、一体どこに行くんですか?」

「え? リリア様のお部屋になりますが?」
 
 私が戸惑いがちに問いかけると、使用人は不思議そうに首を傾け、逆に質問を返してきた。
 その時、先程の二人の会話を思い出した。
 アレクシスはあの時『私のために用意した』と話していた。
 偶然が重なり今日この屋敷を訪れることになったわけだが、彼はこの屋敷に私を招待しようと思っていたのは間違いなさそうだ。
 それは今日でないにしても、いずれどこかで。

 私が眉を寄せて警戒するような顔を浮かべていると、使用人は「ご安心ください」と声を掛けてきた。

「この奥のお部屋はアレクシス殿下が直々に指示され、リリア様のためだけに作られた特別な場所です。どこよりも安全ですし、快適に過ごして頂けるはずですっ」
「アレクシス様が、私のために……?」

 ますます意味が分からなくなり、私は怪訝そうな顔を向けてしまう。
 扉の奥に視線を向けると暗闇しか見えず、目を凝らしても先を見ることが出来ない。
 それが更に私の不安を煽る。
 扉の奥からは冷気を感じたので、外に繋がっているということだけは分かった。

「リリア様、安全は保証致しますので……」

 いつまでも動こうとしない私に対して、使用人の表情は戸惑いに変わっていく。
 まるで何かに怯えているような、そんな様子にも見える。
 
「どうか、お願いします。リリア様をお部屋まで案内しなければ殿下に……」
「ごめんなさい。行きます」

 誰が見ても明らかな程、使用人は動揺していた。
 私が行かなければ、きっと後でアレクシスに叱られてしまうのかもしれない。
 正直、私にはそんなアレクシスの姿は想像出来ないが。
 今の私は一応アレクシスの客人と言う扱いになっているので、理由は何となく把握した。

「こちらへどうぞ」

 私の返答を聞いて、使用人の表情が明るくなった。
 彼女には悪いことをしてしまったと、心の中で少し反省をしていた。

 私は何に対して疑いを持っているのだろう。
 アレクシスは善意からここに連れて来てくれたと言うのに。
 彼はいつだって、私の味方でいてくれる人だ。

(不安になる必要なんてなかったわ)

 使用人は照明のために光の玉を魔法で出した。
 すると周囲には柔らかい光が広がり、暗闇が晴れていく。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

素晴らしきアフロディーテ

ニャン太郎
恋愛
とある国の王宮で、王太子とその婚約者リリアの婚約披露宴が行われていた。リリアは"絶世の美貌"と称され、まだ幼さが残りつつも既に妖艶さも兼ね備えた美少女であった。王侯貴族もリリアの美しさに惚れ惚れし、披露宴は大いに盛り上がっていた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...