特撮俳優、異世界で変身する

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#03 異世界と冒険者と魔物と

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 自己紹介をするが、目の前の僕よりすこし年下に見える女性は「ニチアサ?……はい、ゆう……戦士?」とまるで初めて聞いた単語だという風に呟いた後、僕を観察するように見てきた。

 彼女は原宿や渋谷とかに居そうな綺麗な赤色をした髪。それを所謂ショートボブというのかな、肩くらいまでの長さで整えている。
 服装は何かのアニメのコスプレみたいな動きやすそうな革系の鎧を着ていて、一番視線が奪われるのはその腰にある棒状のもの。

 あれって、剣とかそういうやつだよな……。

「えっと貴族様じゃないなら、普通に話すけれど……ユウスケだっけ、なんというかアナタは戦士には見えないっていうか……」

 なにか反応に困った彼女の視線は僕の戦士という言葉をそのままの意味で捉えている感じの目だった。

「あ、いや戦士っていうのはあくまで役柄の話であって、僕自身の職業は俳優で……って僕なんて知らないか。まだテレビとかにあんまり出てないもんな」

 弁明しているうちに自分はまだ売れっ子ってわけではない、という事実にため息が漏れる。
 今回の闘装戦士が連続ドラマ初出演だし、知らない人の割合が多いよね。それにアレは一応ちびっ子向けで視聴層も目の前の彼女は興味なさそうだし。

「そっか戦士じゃないんだ。じゃあ戦士じゃないならなんでここにいるわけ? ここ、安心安全って訳じゃないのだけれど」
「それが気づいたらここに居て、なんというか僕もわからないんですよ」
「ふぅん、迷子みたいな感じ? 街の場所とかはわかる?」
「いいえ全くわかりません……」

 ガクッと肩を落とす。
 それを見た彼女は「じゃあ私が案内してあげるわよ」とやれやれといった雰囲気で言う。

「本当ですか!? 助かります!」
「ただし、私も仕事でここにいるの。その仕事が終わってからになるわよ」
「森で仕事……もしかして同業者ですか?」
「いいえ、私はアナタみたいなハイユウじゃないわよ、私の職業は冒険者ね」

 冒険者? ……あぁ、そういう役ってこと?
 見た目の服装から見て同業者っぽいな。

 なるほど、この人は完全に役になりきるタイプの演者さんってことか。たまーにそういう人がいるってシノミヤさんが言ってたっけ。

「えっと、もし良かったらついて行っても良いですか? 邪魔はしない距離を保つので」
「いいわよ、別に。今回は大した内容でもないから危険もないと思うわ」

 そう言って彼女は歩き出した。その後ろを僕は付かず離れずの距離を保ちながらついていく。
 彼女はこの辺りの土地勘があるのか、はたまた単純に歩き慣れているのか。迷う様子もなく森の中を歩いている。

「そういえば、仕事はどんな感じの内容なんですか、って聞いてもいいんですか?」
「別に平気よ。今回は最近森を荒らしている魔物の退治ね。魔物の名前はゴブリン。一人でも全然対処できるけど、数がいたらだいぶ厄介ってやつ。今回は二~三体って聞いてるからすぐ終わるわ」
「なるほど」

 ゴブリン。名前は聞いたことがある。
 えっと、アレだ、ゲームとかファンタジー系の漫画で出てくる敵。身長は小さく凶暴。亜人とかいう種族のヤツだ。
 それを倒すっていうのが仕事って設定ってことか。

「ゴブリンの生息地はこの森の奥の方なのだけれど、最近になって街に近づいているらしいのよね。原因は何か分からない状況ではあるけれど、対処しなくちゃいけないってワケ」
「なるほど」

 最早今の僕はなるほどbotと言っても過言ではないくらい連呼している。実際なるほど、としか言いようがないからなんだけども。

 話もひと段落ついたからか、彼女と僕はそれから喋ることなく森を歩き、しばらくすると岩場がちらほら見える地域に入った。

 ふと足を止めた彼女はこちらを振り向き、静かにして姿勢を低くしろ、というジェスチャーをしてくるので僕は喋らないようにしながら近くの草むらにしゃがみ込む。
 そのまま指差し確認で、あの辺りを見ろ、とこれまたジェスチャーをしてくるので言う通りに視線をそちらに向ける。

「あれが……ゴブリン?」

 僕は小さく呟いた。
 視線の先に映るのは洞窟。入り口の左右には松明みたいなものを置く台座みたいなのがある。
 その洞窟の入り口付近の開けた場所。そこにいた。

 遠目だから正確な数字とか分からないけど、身長は僕の腰くらいまであるだろうか。大体小学生くらいの身長で、石で作った斧や槍を持ち、何かの動物の皮で作った簡易的な衣服を見に纏っている。
 その顔は醜悪だった。尖った耳に長い鼻。そして遠目からでもわかる牙が見え隠れした口。

 僕みたいに漫画やアニメにあんまり詳しくない人でもわかる、アレがゴブリンというやつなのだ。と。

 にしてもアレは特殊メイクだろうか。随分と良くできている。

「いい、ユウスケ。私はこれから戦うからアナタはそこで隠れてなさい。例え弱いゴブリンでも攻撃を受けた場所によっては致命傷になりうるわ」

 彼女はそう言い、帯剣していた剣をゆっくりと鞘から引き抜く。
 包丁のような輝きを持つ刀身。みんながイメージする西洋の剣そのものだった。

「数は3体。あの数ならなんとかなるわね……『雷速』」

 その瞬間。彼女は視界から消えた。さっきまでいた場所に大きく陥没した足跡を残して。

「え、あ、ど、どこいったんだ!?」

 焦って辺りを見渡すと、ゴブリン達が屯していた広場に赤髪を見つける。
 すでに彼女の剣は一体のゴブリンの喉元を捉え、切り裂いていた。ゴブリンだった物体に流れていた緑色の血が地面を汚していく。

 その光景が妙にリアルだった。

 そのまま彼女はもう一体に勢いよく剣を突き立てから引き抜き、最後の一体のゴブリンを視界に捉える。

 何が起きたのか分からない、そんな雰囲気に対して慈悲も無しと言った風に距離を詰めた。

 倒した。僕も遠目で直感した。

 だけど、不意にバスケットボールサイズくらいの火の球が彼女に襲いかかり、右肩に被弾する。

「く、くぅうっっ……っ!?」

 衝撃に耐えきれなかったのか、彼女はそのままこっち側に飛ばされ、地面をゴロゴロと転がっていく。

「だ、大丈夫ですか!?」

 僕は無意識に草むらから出て、彼女に近づいた。
 苦痛に顔を歪ませる彼女は全身至る所に若干の擦り傷。更に火の球が当たった右肩は火傷のように肌が爛れ、血も出ていた。

「馬鹿、なん、で出てきたの!?」

 息も途切れ途切れでそう答える彼女に僕は何も言えなかった。
 だって、傷がリアルなのだから。これは本当の怪我だと本能的に理解してしまうほどに。

「早く、逃げなさい……。あのゴブリンの他にいるなんて、慢心しすぎたわ……」

 視線は僕から洞窟に移る。さっきの火球、アレが飛んできた方向だった。
 僕も一緒に洞窟に視線を移すと一体のゴブリンが姿を現した。

 身長は僕くらいに大きく、人間の骨のような装飾の首飾り。腰には彼女が持っていた剣と同じようなものが帯剣され、その手には杖を持っていて、魔法使いのローブのようなものを着ている。

「ゴブリンメイジ……でも、あの人型のサイズだとロード種よ……っ!」
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