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ようこそAnother world
#04 conversion
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『オオオォオオォオオッッ!!!!』
ゴブリンメイジのロード種とやらのあいつの咆哮は僕一人を恐怖で震え上がらせるのには充分だった。
声を上げたのは一瞬だったのに、とても長く感じられた。まるで永遠なんじゃないかと思うほど。
今まで生きてきた中で聞いたことのない声。同胞を殺されたという事実に怒り、悲しみ、色々な感情が混じっている。
そしてこの咆哮でさっきまで戦っていたゴブリン達、今吠えてるアイツも特殊メイクでもなんでもなく、実際に存在している生物なんだと理解した。
誰か教えてくれ。僕は一体どこにいるんだよ。
あんな化け物がいる場所なんて、地球上どこにも存在しないだろ。
僕が思考を巡らせてる間も、一瞬で姿を消してゴブリンに何度も攻撃を仕掛ける彼女。
今気づいたが彼女の身体は姿を消す前、雷みたく一瞬光ってから消えている。
更には子どもの体躯で緑色の血を流す人じゃない生物であるゴブリン。現代化学じゃ説明がつかないバスケットボールサイズの火の球が飛んでくる世界。
本当にここはどこなんだよ。
「逃げなさい……ユウスケ、アイツは普通のロードとは違う」
彼女がゆっくりと僕の前に立ち塞がるように立ち上がるのを見て、混乱していた意識が呼び戻ってくる。
傷だらけで、今にも倒れそうなのに、まるで、僕を守ってくれているようだった。
「全く、しくじったわ……簡単な依頼かと思ったのに……私の冒険者としての運は最悪ね」
火球を受けた右手はぷらぷらと揺れている。力が入っていないっていうのが僕でもわかる。
……僕は何もできないのか? 僕より年齢が低い彼女が頑張っているのに?
僕は恐怖して逃げることしかできないのか?
僕はヒーローに憧れていたのに、結果がこれか? 考えろ、ニチアサの闘装戦士だったらどうする?
きっと、闘装戦士なら戦うだろう。
フィクションの内容と知ってはいるけど。
誰かを守るために、戦うんじゃないだろうか。力はなくたって、彼らならそうする。
僕は意識的にポケットに入りっぱなしだったエトヴァスクリスタルを取り出して力強く握りしめる。
「……え、熱っ!? あ、あっつい!?」
握りしめていたクリスタルが急に発熱し出し、金色に近い色に発光を始めた。
小道具が光ってる、そんな技術を施したって聞いた記憶はない。ドラマでの光はCG処理で、実際の撮影は光っているように演技するとしか聞いていない。
というより……これって、確か僕が出演している闘装戦士の一話で主人公が初めて変身した時と一緒だ。
普通の大学生だった主人公、境李人が闘装戦士へと姿を変えるあのシュチュエーションと全く一緒。
僕は右手の変身籠手に視線を移す。
主人公は武器でもある変身短剣とクリスタルを使った変身だったけど……いけるのか?
「いや、いける。なんだかわからないけど、そんな気がする」
主人公じゃなくてもこの場面なら。僕が演じる3人目の戦士、大宮倫太郎ならこうするだろう。
ここがどこだなんて、今はどうでもいい。今は一か八かでやってみよう。そう思って僕は立ち上がる。
「ユウスケ早く逃げなさい! 死ぬわよ!」
「だ、大丈夫ですよ。僕が倒します……多分」
彼女の肩に手を置き、一歩前に出て彼女を守るようにする。
「はぁ? あんた戦士でもないのにどうやって」
「だ、誰かを守るためなら、僕はなんにでもなってやりますよ。怖いですけど」
右手を前に突き出し、変身籠手の中央の窪みにクリスタルを嵌め込む。
僕の動きを見て何かやばいと察したのか、普通のゴブリンが石斧を握りしめて遅いかかってくる。
さっきは一か八かと考えたけど。なんだか失敗する気がしなかった。直感だけど。
僕は言う。闘装戦士へと姿を変える言葉を。
「アクセプト」
その言葉と同時にクリスタルを押し込む。
***
悠介の言葉に呼応するように、どこからともなくアコースティックギターで鳴らすラテン調の音楽が流れ、地面から飛び出してきた変色した金色のような色合いの鎧が悠介の周囲を漂う。
その鎧が脚部、腕部と光に包まれた悠介の身体に装着され、全身が鎧に覆われていく。折れた一角獣のツノのような装飾が目を惹くフルフェイスの兜。
その姿はまるで赤髪の女性から見るに騎士のようだった。
『――I can't be anything』
光が収まり、ラテン調の音楽が消え、一言の英文が流れた。
「僕の名はエトヴァス」
姿を変えた悠介はそう口上を名乗り、自分の両手を見下ろしながら彼は実感していた。
本当に変身できたのだと。
「アンタを倒して僕はまた、英雄譚を作り上げる」
悠介はゴブリンメイジロードを指差す。
その言葉は彼が演じる大宮倫太郎がエトヴァスに姿を変えた際に言う決め台詞だった。
「な、なんなのユウスケ、その姿……ギフト、いや特定の道具を使った固有能力?」
「えっと……僕にも説明は難しいのだけど、それは後でするとして、今はキミの剣、借りてもいいかな?」
悠介は床に転がっている剣に視線を移す。それに彼女はこくりと頷くと、悠介は駆け出した。
足を止めずに剣を拾い上げ、そのままゴブリンメイジロードとの距離を詰める。
「conversion sword」
悠介がそう呟くと、彼女が使っていた剣が粘土で作り直したように、ただの剣がゴテゴテした金色の装飾が施され、相手を斬ることができるのか分からない奇妙な剣へとその形を変える。
「わ、私の剣が!?」
彼女はポーチから取り出した青い液体が入った瓶を口にしながら驚いて声を上げる。
ゴブリンメイジロードを守る動きを唯一生きていたゴブリンが行う。
だが一体のゴブリンが立ち塞がったところで悠介は歩みを止めず、剣で一閃した。
斬撃が当たった瞬間。火花が飛び散り、ゴブリンの身体は爆発する。
「グォオオォ!!!」
ゴブリンメイジロードは杖を構え、何発もの火球を悠介に目掛けて発射する。だが彼は躱し、時には剣で弾き、だんだんと距離が狭まっていく。
当たらない攻撃は意味がないと思ったのか、ゴブリンは杖を投げ捨て、剣を抜く。
悠介の攻撃が届く距離まで迫り、ゴブリンメイジロードは大振りの攻撃を仕掛けるが、軽くいなされてからガラ空きのボディに攻撃。
そのまま連続の斬撃が当たるたびにバチィンと血の代わりにさっきのゴブリンと同じく火花が飛び散る。
「ロード種を圧倒している……」
赤髪の女性はゴクリと唾を飲み込みながら戦いを傍観する。
(ロード種は知能が高いっていうのも特徴だけど、それよりも皮膚の硬さがとんでもなく、並大抵の攻撃じゃ傷すらつかないって言われてるのに……)
「これで終わらせる!」
悠介は一旦ゴブリンとの距離を離し、変身籠手についたクリスタルを外す。
その取り外したクリスタルを剣の中央に取り付け、押し込んだ。
『Receive the sword of glory』
刀身が金色に光り輝き始める。エネルギーを溜めているのだと誰もが一目で分かった。
「せいやぁああぁあっ!!!」
力強く光る剣を両手で構え、そのまま振り下ろす。
溜まりに溜まったエネルギーを帯びた斬撃は衝撃波となり、真っ直ぐゴブリンメイジロードに襲いかかる。
その威力はゴブリンメイジロードを真っ二つにするには充分すぎるほどで。
そのまま地面に倒れると、一拍ほど置いてその体は爆発四散する。
爆風を受けながら悠介は赤髪の女性の方に向かって歩きながら、クリスタルを外す。
すると、悠介の体は光に包まれ、騎士のような鎧を着た姿から先程までの服装に戻っていた。
「良かった……剣も戻った」
小さくそう呟きながら、握っていた剣に視線を落とす。
ゴテゴテしていた剣は西洋の剣に形が戻っていたことに安堵のため息をついた。
ゴブリンメイジのロード種とやらのあいつの咆哮は僕一人を恐怖で震え上がらせるのには充分だった。
声を上げたのは一瞬だったのに、とても長く感じられた。まるで永遠なんじゃないかと思うほど。
今まで生きてきた中で聞いたことのない声。同胞を殺されたという事実に怒り、悲しみ、色々な感情が混じっている。
そしてこの咆哮でさっきまで戦っていたゴブリン達、今吠えてるアイツも特殊メイクでもなんでもなく、実際に存在している生物なんだと理解した。
誰か教えてくれ。僕は一体どこにいるんだよ。
あんな化け物がいる場所なんて、地球上どこにも存在しないだろ。
僕が思考を巡らせてる間も、一瞬で姿を消してゴブリンに何度も攻撃を仕掛ける彼女。
今気づいたが彼女の身体は姿を消す前、雷みたく一瞬光ってから消えている。
更には子どもの体躯で緑色の血を流す人じゃない生物であるゴブリン。現代化学じゃ説明がつかないバスケットボールサイズの火の球が飛んでくる世界。
本当にここはどこなんだよ。
「逃げなさい……ユウスケ、アイツは普通のロードとは違う」
彼女がゆっくりと僕の前に立ち塞がるように立ち上がるのを見て、混乱していた意識が呼び戻ってくる。
傷だらけで、今にも倒れそうなのに、まるで、僕を守ってくれているようだった。
「全く、しくじったわ……簡単な依頼かと思ったのに……私の冒険者としての運は最悪ね」
火球を受けた右手はぷらぷらと揺れている。力が入っていないっていうのが僕でもわかる。
……僕は何もできないのか? 僕より年齢が低い彼女が頑張っているのに?
僕は恐怖して逃げることしかできないのか?
僕はヒーローに憧れていたのに、結果がこれか? 考えろ、ニチアサの闘装戦士だったらどうする?
きっと、闘装戦士なら戦うだろう。
フィクションの内容と知ってはいるけど。
誰かを守るために、戦うんじゃないだろうか。力はなくたって、彼らならそうする。
僕は意識的にポケットに入りっぱなしだったエトヴァスクリスタルを取り出して力強く握りしめる。
「……え、熱っ!? あ、あっつい!?」
握りしめていたクリスタルが急に発熱し出し、金色に近い色に発光を始めた。
小道具が光ってる、そんな技術を施したって聞いた記憶はない。ドラマでの光はCG処理で、実際の撮影は光っているように演技するとしか聞いていない。
というより……これって、確か僕が出演している闘装戦士の一話で主人公が初めて変身した時と一緒だ。
普通の大学生だった主人公、境李人が闘装戦士へと姿を変えるあのシュチュエーションと全く一緒。
僕は右手の変身籠手に視線を移す。
主人公は武器でもある変身短剣とクリスタルを使った変身だったけど……いけるのか?
「いや、いける。なんだかわからないけど、そんな気がする」
主人公じゃなくてもこの場面なら。僕が演じる3人目の戦士、大宮倫太郎ならこうするだろう。
ここがどこだなんて、今はどうでもいい。今は一か八かでやってみよう。そう思って僕は立ち上がる。
「ユウスケ早く逃げなさい! 死ぬわよ!」
「だ、大丈夫ですよ。僕が倒します……多分」
彼女の肩に手を置き、一歩前に出て彼女を守るようにする。
「はぁ? あんた戦士でもないのにどうやって」
「だ、誰かを守るためなら、僕はなんにでもなってやりますよ。怖いですけど」
右手を前に突き出し、変身籠手の中央の窪みにクリスタルを嵌め込む。
僕の動きを見て何かやばいと察したのか、普通のゴブリンが石斧を握りしめて遅いかかってくる。
さっきは一か八かと考えたけど。なんだか失敗する気がしなかった。直感だけど。
僕は言う。闘装戦士へと姿を変える言葉を。
「アクセプト」
その言葉と同時にクリスタルを押し込む。
***
悠介の言葉に呼応するように、どこからともなくアコースティックギターで鳴らすラテン調の音楽が流れ、地面から飛び出してきた変色した金色のような色合いの鎧が悠介の周囲を漂う。
その鎧が脚部、腕部と光に包まれた悠介の身体に装着され、全身が鎧に覆われていく。折れた一角獣のツノのような装飾が目を惹くフルフェイスの兜。
その姿はまるで赤髪の女性から見るに騎士のようだった。
『――I can't be anything』
光が収まり、ラテン調の音楽が消え、一言の英文が流れた。
「僕の名はエトヴァス」
姿を変えた悠介はそう口上を名乗り、自分の両手を見下ろしながら彼は実感していた。
本当に変身できたのだと。
「アンタを倒して僕はまた、英雄譚を作り上げる」
悠介はゴブリンメイジロードを指差す。
その言葉は彼が演じる大宮倫太郎がエトヴァスに姿を変えた際に言う決め台詞だった。
「な、なんなのユウスケ、その姿……ギフト、いや特定の道具を使った固有能力?」
「えっと……僕にも説明は難しいのだけど、それは後でするとして、今はキミの剣、借りてもいいかな?」
悠介は床に転がっている剣に視線を移す。それに彼女はこくりと頷くと、悠介は駆け出した。
足を止めずに剣を拾い上げ、そのままゴブリンメイジロードとの距離を詰める。
「conversion sword」
悠介がそう呟くと、彼女が使っていた剣が粘土で作り直したように、ただの剣がゴテゴテした金色の装飾が施され、相手を斬ることができるのか分からない奇妙な剣へとその形を変える。
「わ、私の剣が!?」
彼女はポーチから取り出した青い液体が入った瓶を口にしながら驚いて声を上げる。
ゴブリンメイジロードを守る動きを唯一生きていたゴブリンが行う。
だが一体のゴブリンが立ち塞がったところで悠介は歩みを止めず、剣で一閃した。
斬撃が当たった瞬間。火花が飛び散り、ゴブリンの身体は爆発する。
「グォオオォ!!!」
ゴブリンメイジロードは杖を構え、何発もの火球を悠介に目掛けて発射する。だが彼は躱し、時には剣で弾き、だんだんと距離が狭まっていく。
当たらない攻撃は意味がないと思ったのか、ゴブリンは杖を投げ捨て、剣を抜く。
悠介の攻撃が届く距離まで迫り、ゴブリンメイジロードは大振りの攻撃を仕掛けるが、軽くいなされてからガラ空きのボディに攻撃。
そのまま連続の斬撃が当たるたびにバチィンと血の代わりにさっきのゴブリンと同じく火花が飛び散る。
「ロード種を圧倒している……」
赤髪の女性はゴクリと唾を飲み込みながら戦いを傍観する。
(ロード種は知能が高いっていうのも特徴だけど、それよりも皮膚の硬さがとんでもなく、並大抵の攻撃じゃ傷すらつかないって言われてるのに……)
「これで終わらせる!」
悠介は一旦ゴブリンとの距離を離し、変身籠手についたクリスタルを外す。
その取り外したクリスタルを剣の中央に取り付け、押し込んだ。
『Receive the sword of glory』
刀身が金色に光り輝き始める。エネルギーを溜めているのだと誰もが一目で分かった。
「せいやぁああぁあっ!!!」
力強く光る剣を両手で構え、そのまま振り下ろす。
溜まりに溜まったエネルギーを帯びた斬撃は衝撃波となり、真っ直ぐゴブリンメイジロードに襲いかかる。
その威力はゴブリンメイジロードを真っ二つにするには充分すぎるほどで。
そのまま地面に倒れると、一拍ほど置いてその体は爆発四散する。
爆風を受けながら悠介は赤髪の女性の方に向かって歩きながら、クリスタルを外す。
すると、悠介の体は光に包まれ、騎士のような鎧を着た姿から先程までの服装に戻っていた。
「良かった……剣も戻った」
小さくそう呟きながら、握っていた剣に視線を落とす。
ゴテゴテしていた剣は西洋の剣に形が戻っていたことに安堵のため息をついた。
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