猫舌ということ。

結愛

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動き

第81話

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僕はバッグからイヤホンを取り出し、スマホに接続して耳に突っ込む。
音楽アプリを立ち上げ「お気に入り」のプレイリストをシャッフル再生する。
また「CLeeaaN」さんの懐かしい曲が鼓膜を震わせる。
匠と過ごした青春の日々を思い出す。
好きな曲だしテンションも上がるがどこか寂しい気持ちになる。
すぐに僕の家の最寄り駅についた。
普段使ってるこの駅も「CLeeaaN」さんの曲を聴きながら眺めると
イヤホンをつけ、ブレザーの袖からYシャツを出し
袖を捲っていて、ほとんど何も入っていない
ペラペラのスクールバッグを持っている青春を過ごした制服の僕の後ろ姿が見える気がして
やっぱりどこか寂しい気持ちになる。青春真っ只中の僕の背中を追うように
改札に中学生の頃からから使っている交通系電子マネーをあて、外に出る。
雨はまだ止んでおらず、濡れたアスファルトの香り、雨の日特有の香りが鼻に入ってくる。
僕はまだ湿っている折り畳み傘を開く。
カチカチカチと折り畳み用に作られた折り畳みできる傘の骨が組み立つ音が鳴り響く。
曲を聴いていて微かにしか聞こえないが雨が傘にあたる心地良い音もする。
僕は家までの道を歩き出す。雨で照りが出たアスファルトに雨が跳ねている。
歩道のアスファルトも雨を吸い、晴れの日より色が濃い。
灰色の雲に覆われた空だがどこか明るい変な天気。
割とひさしぶりの雨にまじまじと周りの様子を改めて眺める。家が見えてくる。
記憶の中にこんな天気の日に中学や高校から帰ってくる日もあったか。と考える。
玄関の扉の前につく。
今立っている玄関の扉の前の床のタイルの繋ぎ目を眺めながら少し考える。
僕は傘立てからビニール傘を1本取り出し今来た道を折り返す。
駅が見えてきて、駅の前では外に歩き出すために傘を開く人がほとんどだった。
交通系電子マネーの音も近づく。僕は駅の屋根がある部分に入り傘を畳む。
近くに人がいないのを確認してから傘についた水滴を軽く振って軽く落とす。
交通系電子マネーを改札に当てホームに入る。
今電車が出てしまったばかりらしく天井から吊り下げられた電光掲示板と
電光掲示板横の時計とを見比べて次の電車が来るのに約5分あると計算した。
ポケットからスマホを取り出す。ホームボタンを押す。妃馬さんからのLIMEの通知。

「怜夢さんでもドジするんですね!なんか親近感(∗ˊᵕ`∗)३৸३৸ᐝෆ⃛」

そのメッセージの後に猫が「いいね!」と親指を立てた右手を
こちら側に伸ばしているスタンプが送られていた。
顔文字の最後にハートのような記号があり、一瞬ハートだと思い心拍数が速くなる。
一瞬で違うと気づいても心拍数の速さはそう簡単には元には戻らなかった。
妃馬さんからの通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛び、返信を打とうとすると
駅構内にアナウンスが流れる。電車がもうすぐ来るということで
妃馬さんとのトーク画面のまま一旦スマホの電源を落とす。
他に知り合いが一緒にいれば、その人と話したりと視線が定まるのだが
1人でいると視線をどこにおいていいかわからず辺りを見回す。
すると踏切の奥から電車が顔を覗かせた。
一瞬で踏切を越え電車の速度が落ち、雨のカーテンをくぐり抜け、ホームに入ってくる。
雨に濡れた鉄の車体がゆっくりと停車する。扉が開き中から人が降りてくる。
人が降り切るのを待ち、電車に乗り込む。
車内は結構空いていてシートを見ても空きばかりだったが
1駅なので扉の横に立っていることにした。
シートの壁に寄りかかる。まもなく扉が閉まり、電車がゆっくりと動き出す。
慣性の法則で少し前に蹌踉めく。右足を前に出し少し耐える。
元の位置に戻り、改めてシートの壁に寄りかかる。
1駅のためスマホもいじらずに電車の屋根付近の壁の高校の広告を眺める。
自分の高校、そして鹿島の出身校、黄葉ノ宮高校。
そして鹿島の出身校を含めた通称五ノ高校と呼ばれる5つの高校も載っていた。
鹿島の出身校、日本屈指の自由な校風の黄葉ノ宮高校。
日本屈指の進学率の高さを誇る桜ノ丘高等学校。
日本屈指のお金持ちが集まる学院、白樺ノ森学院。
日本屈指のスポーツ強豪校、黒ノ木学園。
日本屈指の学校内偏差値の差、紅ノ花水木女学院。
5校の学校名にすべて「ノ」がついていて、5校の学校名すべてが「木」に関する名前のため
その5校を総称して「五ノ高校」と呼ばれている。
鹿島の出身校の黄葉ノ宮高校は偏差値も低いほうのに
クラス内や友達の中で「五ノ高校に進む」というと周りがざわつくくらい
「五ノ高校」は有名だった。その5つの高校の名前を眺めながら

鹿島もいたことだし、コーミヤ(黄葉ノ宮高校の通称)はおもしろそうだな。
サクオカ(桜ノ丘高等学校の通称)は、まぁオレの頭脳じゃ入れるわけない。
白樺(白樺ノ森学院の通称)は学費が引くほど高いから親に迷惑かけるし
黒ノ木(黒ノ木学園の通称)は、あぁ~男子校は男子校で面白いんかなぁ~。
でもスポーツ強豪校だし、なんか汗のイメージすごいからなんとなくパス。
アカハナ(紅ノ花水木女学院)は女子校だからはなから入れん。

と頭の中で「もし入学するなら」シミュレーションをする。
そんな妄想に花を咲かせているとアナウンスが流れ、電車の速度が落ち、やがて止まった。
扉が開く。つい30分ほど前に匠が歩いていったホームに降りる。
交通系電子マネーをあてるピッっという電子音がする方向に行き
改札に交通系電子マネーをあて外に出る。まだ湿っている折り畳み傘を開く。
カチカチカチンと折り畳み傘の骨が組み立つ音がする。傘に雨があたる音がする。
耳で曲と微かに聞こえる環境音を聞きながら歩き出す。
しばらく歩くと懐かしい景色が見えてくる。僕の出身高校への通学路の景色だ。
よくこの道を歩き高校へ通っていた。この歳になってこの道を歩き
この景色を眺めるということに不思議な感覚を覚えた。
しばらく歩くと向かいから見慣れたブレザーの学生たちが傘を差し歩いてきた。
もう少し歩くと高校の敷地を囲う白い壁が現れた。
見慣れたブレザーの学生とすれ違いながらもう少し歩く。
白い壁についた学校名のプレートが現れた。
「猫井戸高校」
僕の出身校。そして現在、僕の妹が通っている高校だ。
校門も前で立ち止まり、ポケットからスマホを取り出し、ホームボタンを押す。
画面をスワイプしロックを解く。
すると妃馬さんとのトーク画面が表示され、まだ返信していないことに気づく。
少し動揺したが一旦トークの一覧に戻り
妹とのトーク画面に行き、妹のアイコンをタップする。音声通話をタップし電話をかける。
LIME特有の呼び出し音が鳴り、4、5回呼び出し音が鳴った後、妹が出た。
「はいはい。なにぃ~」
妹の声の後ろで複数の女の子の話し声がする。
「夢香何組だっけ?」
「なに急に」
「いいから」
「2組だけど」
2年2組の教室の窓を探す。
「外見てみ?」
「外?」
窓から豆粒くらいの妹の顔が見える。
「は!?なんでいんの?」
妹の横にさっき妹の後ろで話していた女の子数人も窓の外を覗きに出てきた。
「え?あれ夢のお兄さん?」
「え、ちょっとカッコよさげじゃない」
「ちょ、やめてよ」
そんな会話が聞こえてくる。そのうち2人がこちらに手を振ってくれた。僕も振り返す。
「手振りかえしてくれたんだけど!?」
「めっちゃ優しいぃ~」
少し嬉しかった。
「で?なに?なんで来たの?」
「ほら傘忘れたって言ってたから、この優しいお兄様がわざわざ届けにきてあげたのですよ」
そう言ってビニール傘を掲げる。
「あーありがとーござーます。今行くから待ってて」
そう言ってテレロンと通話が切れた。
また妹の友達であろう先程とは別の女の子が手を振ってくれたのでまた手を振り返す。
僕は妃馬さんに返信していなかったことに気づき
妹のトーク画面からトーク一覧に戻り、妃馬さんとのトーク画面に行く。
そして返信し忘れていたメッセージに返信をする。

「そりゃたまにはドジりますよw僕を完璧超人かなにかと思ってました?( ¯▽¯ )ニヤニヤ」

その後フクロウが腰に手をあて、自慢げなポーズをしているスタンプを送った。
顔文字同様、リアルな僕の顔もニヤニヤしそうだったので下唇を噛む。
すると脹脛に少し硬いものが軽くあたる。
パッっとそちらを見ると妹が水滴が輝くローファーで僕の脹脛を蹴っていた。
ホームボタンを押し、最近使ったアプリの一覧を開き
音楽アプリをタップし、今再生されている曲を停止する。
「おい濡れるだろ。やめ」
「あぁ、ごめんごめん」
「ったく優しい優しいお兄様になにをする」
「どしたの?急に」
「いやだから忘れたっていうから届けに」
その先を遮るように妹が
「だから、それが急じゃん。どうしたのかなって」
そう言われてみればたしかに急だった。
「えぇ~と…気分?」
「それのどこが優しい優しいお兄様だよ」
「たしかに。でも持ってきてあげたんだから優しいお兄様に違いはないだろ」
「…まぁね?あんがと」
そう言って僕からビニール傘を受け取る妹。
「その傘は?友達の?」
妹が今差しているビニール傘を顎で指す。
「あぁ、これ?知らん。傘立てに置いてあったビニール傘借りた」
「おいおい。良かったわ届けて」
「いや、今借りただけで帰るときは友達の傘に入れてもらってたわ」
「んで、帰りコンビニ寄って、ビニ傘買って帰ってくるんだろ?」
「…んー…まぁ?」
「だからうちにビニ傘アホみたいに増えんだよ」
「…んー…。…ごめん」
「別に謝んなくてもいいけどな。ったく」
と言い妹の頭を撫でる。
「やめろや」
手で振り払われる。
「今日は?部活?」
「あぁ今日は部活…まぁ練習はないから遅くはならないとー…思う」
「歯切れ悪いな」
「違うんよ。今さ、新入部員獲得時期じゃん?
だから3年生と2年のレギュラーメンバーの練習メニューと
2年でもレギュラーじゃない子の練習メニュー分けて
仮入部の子たちに体験ってことでそんなキツい練習メニューさせられないからってことで
いろいろ決めることが多くてさ」
「その会議に出るってわけね」
「そゆこと」
「遅くなりそうならLIMEして」
「あいよ~。じゃ、傘ありがとね」
「ん。どいたしまして」
軽く手を振って校舎の方へ歩いていく妹の背中を見る。
その背中にまた懐かしさを覚える。机の中に忘れ物したと気づいた友達が
「ちょ、取り行ってくるから待ってて」
と言って校舎に走っていくその友達の背中を思い出す。
下駄箱のほうを見ると妹の友達が下駄箱にも集まってきていて
妹が手で「しっしっ」と動物を追い払うような仕草をするが
妹の友達は構わず、僕に手を振ってくれた。なので僕も手を振り返す。
「あ!手振り返してくれた!」
と言わんばかりに跳ねる。まるでアイドルにでもなったかの気分になり、少し嬉しかった。
僕は下駄箱に背を向け、スマホで先程停止した曲を続きから再生し、駅までの道を歩き出す。
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