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動き
第80話
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「今日さー何時からできるー?」
「あぁ~オレは遅すぎなければ何時でも」
「オレはーそうだな。12時くらいから2時間くらいなら」
「オッケーオッケー!じゃあ11時40分くらいにLIMEするから
集まれたら早めに集まって、ちょっと話してから始めよ」
「あいよー」
「うーっす」
「でさでさ」
そこから匠のことや鹿島のことを話しながら駅へと向かった。改札前で各々傘を閉じる。
2人は折り畳みでない傘だが
僕は折り畳み傘で小さくなって存在感がないのに水滴が垂れるという
嫌な存在感だけを残しており、扱いに困る。改札に交通系電子マネーをあてホームに入る。
ホームにはセーラー服姿の子やブレザーの子、学ランの子など学生が目立った。
その中には鹿島の出身校、黄葉ノ宮高校の制服を着た子もいた。
その子はブレザーは着ているものの
ブレザーの下にYシャツは着ておらず、Tシャツを着ていた。
スクールバッグをリュックのように背負い
ピアスの目立つ耳にワイヤレスイヤホンをし、スマホをいじっていた。
「鹿島もあんな感じだったん?」
「ん?あぁ~。1年の頃はちゃんとYシャツ着てたよ。
2年の頃からかな?あったかくなってきたらTシャツ、冬はパーカーだったな」
「マジ!?オレらそんなやつ少数だったよ」
「オレらはそんなやつしかいなかった」
「え?夏は?さすがにYシャツ着ないと言われるでしょ?」
「あぁ夏はね大体みんな長袖のYシャツを腕まくりして前ボタン全開で下Tシャツとか?
マジで暑かったらYシャツも脱いで腰巻きだった」
「うわぁ~さすが全国屈指の自由校」
「ピアスもバンバンしてたし髪も染めてたね」
「あぁ、それはうちの匠もそうよ」
「あ、そうなの?」
「うん。うちも割と校則ガチガチではなかったから。
ピアスもつけてこなければオーケーみたいな」
「まぁつけてたけどね」
「それな」
「匠なんてプールの時間へそのピアスが輝いてたもん」
「え!?へそピしてんの!?」
そういうと匠が牛柄のYシャツを脱ぎ僕に渡し、サロペットの肩にかける部分を下ろし
サロペットの腰の部分が緩く、ズリ落ちそうなのか
左手でサロペットの腰の部分を持ち、右手でTシャツを捲りお腹を出す。
へそピアスがキラリと輝く。
「見せたかっただけかい」
「そう。ただ見せたかっただけ」
「うわぁ~かっけぇ~エッロ」
鹿島は前のめりで目を輝かせていた。
少しの間へそピアスを自慢しTシャツを下ろし
サロペットの肩にかける部分を肩にかけ
僕が牛柄のYシャツを渡し、それを受け取り、羽織る匠。その表情は得意げなものだった。
「え?でもさ、コーミヤ(黄葉ノ宮高校の通称)だったなら、へそピアスくらいいたろ?」
「女子はいたね。めっちゃいた。
ただ男子はー…。んー…。オレの知るところではいなかったかな」
「へぇ~そんなもんなんだ」
そう話していると
「まもなく~」
と電車が来るアナウンスが構内に響き渡る。
「女子可愛かった?」
「ん~まぁ?偏差値は低いけど、顔面偏差値は高いってやつ?」
「でもうちも割と可愛い子多かったよな?」
「あぁ怜夢の元カノとかー」
「うるせぇな!」
その後に「そんなこと言ったら匠の元カノだって可愛かったじゃん」と言おうとしてやめる。
「なになに?怜ちゃんの元カノ可愛かったの?」
「そうなんよぉ~」
「おいそこ。ほんとにガッツリ話したの今日が初めてか?」
「あれ?オレらって幼馴染?」
「あれ?ワンチャンそうかも」
そう言って笑っていると鹿島の乗る電車が風を引き連れて入ってくる。
雨のせいか、いつもより少し冷たい風が肌に当たる。
「じゃ、11時半頃にLIMEするわ」
「え、あぁこっちなんだ?」
「そうそう。鹿島反対なんよ」
「そう。オレこっちだから。じゃ、また後で!」
そう言って鹿島は電車に乗り込む。電車内で笑顔でこちらに手を振る鹿島。
僕たち2人もホームから鹿島に手を振り返す。
「駆け込み乗車はおやめください」
電車の扉が閉まる。扉についた開かない小窓から、まだ僕たちに手を振る鹿島が見える。
電車がゆっくりと動き出し、窓から見える鹿島もゆっくりと遠ざかる。
僕と匠もその窓を追うように体ごと動かし
扉の小窓から見える鹿島が見えなくなるまで手を振っていた。
「こんな手振り続けたの人生で初めてかも」
「わかる。田舎系のマンガとかアニメで幼馴染が都会に行くってなったときの
ホームでの「さよなら。またね」並みよな」
「うん。アニメそんな見んけどなんかわかる」
そんな会話を交わし、電車を待つ。
「そういえばさ、ワメブロまだやってる?」
「あぁ、たまにやってるよ」
「いやさ」
「実況?」
「あぁ、そうそう」
「手伝ってほしいとか?」
「まぁそれもあるかな?
声出さなくてもいいから数回に1回くらいでいいから出てくれん?」
「まぁ時間が合えばいいよ」
「うっし!さんきゅ」
「まもなく~」
駅構内にアナウンスが流れる。僕たちの乗る電車が来るらしい。
それから他愛もない話をしているうちにホームに電車が入ってきた。
「意外と長いよな」
「そう。もうちょい近くにすりゃ良かった」
「まぁ違う大学行ってたら鹿島と出会ってないし、今の大学で良かったわ」
「あぁたしかに」
電車から人が降りてきて僕らが乗り込む。
シートに空きはあったが2席並んで空いているところがなかったので
扉を挟んでシートの背もたれに寄りかかり立つ。
「なんか3年になっても全然やる気が起きんのよな」
僕はポケットからスマホを取り出す。
「わかる。オレなんてまだ全然単位取ってないし」
匠もスマホをいじりながら応える。
「でもたまに来てんのな」
「あぁ、あのテストとか課題より出席率を重視してる講義は行ってる」
「わかる。めっちゃわかる」
そんな大学生らしい会話をしながらスマホをいじる。
妃馬さんからLIMEが来ていたのでLIMEのアプリを開き、妃馬さんとのトーク画面を開く。
「傘、ありがとうございます!助かりました。」
そのメッセージの後に猫が「ありがとうございます」と
頭を下げているスタンプが送られていた。
「いえいえ。折り畳みあったのにビニ傘持ってくるっていうバカして良かったです」
その後フクロウが「てへっ」っと大きな翼で頭をポンッっとしているスタンプを送った。
トーク一覧に戻る。スクロールして妹のトーク画面をタップする。
妹と最後にLIMEしたのは2週間ほど前
「帰りにコンビニで唐揚げ買ってきて」
「なに味?」
「辛いやつ」
「オッケー」
「サンクス」
という兄妹らしい淡白なやり取りだった。文字を打ち始める。
「雨降ってっけど傘持ってった?」
送信ボタンを押そうとして一瞬躊躇う。だけど結局送信ボタンを押した。すぐ起動がついた。
トーク一覧に戻った後、最近使ったアプリ一覧を開き
そこから意味がわかると怖い話のアプリへ飛ぶ。
まだ読んでいない話を読み始める。すごく短い話だった。
読み始めてすぐに妹からのLIMEの通知がスマホ上部に出る。
読み終えて、解答までした後に最近使ったアプリの一覧からLIMEのアプリを開く。
妹とのトーク画面を開く。
「持ってくの忘れたけどへーき」
母が天気予報ちゃんと見ていたので恐らく妹にも伝えただろうに
忘れているとはどういうことだ?と思ったが
既読をつけたまま、また意味がわかると怖い話を読む。
匠とは会話をしたりしなかったりして乗り換えの駅で降りる。
改札を出て乗り換える電車の改札を通り、またホームで電車を待つ。
するとどこからか今放送中のアニメについて話している声が聞こえてきた。
「あのアニメで誰推し?」
「あぁ~リナちゃんかな。あぁ、でもモナちゃんもいい」
「あぁ可愛い系ね?」
「オレは綺麗系が好きだからサラちゃんかな」
「あぁ、それもわかる。あの生い立ちもいいし、性格もいいよな」
「薄っぺらい」
匠がボソッっと言った。
「ん?あの会話?」
割と遠くで大きな声で話しているため恐らくこちらの声は聞こえていないだろう。
「ほんと嫌だわ。一般人がする薄っぺらいアニメ語り」
「まあまあ。語りたがりなんだろ。それに自分のほうが知ってるーって優越感に浸りたいとか。
ほら、人にマウント取りたいってのが今の世の中の風潮だろ」
「それも嫌。人にマウント取らないと死ぬ現代人。結構リアルに頭痛くなる」
「わかるけどさ~。しょうがないんじゃない?
「あのアニメ見た?でさぁ~」なんて話してるけど心ん中じゃ「はんっ!オレのほうが
このアニメへの理解度が深い!」って思ってるんだよ。てか思っちゃうんだよ」
「うん。それ。なに?理解度って?それが愛?
愛ってさ、たとえば彼女がいたら彼女に伝えるものじゃん?独り占めしたいもんじゃん?」
「あぁ、たしかに。でもさ、まぁオレは割と独占欲高いほうだから
匠の考えに近いけど、彼女の良さ、可愛さを知らしめたい!
広めたい!って人もいると思うよ?」
「うん。いるだろうね。独占欲ってのが薄い人。
でもさ仮によ?仮に彼女の良さ、可愛さを周囲に知らしめて取られたらどうするんだろう?
その人「やったぁー!」ってなるのかな?
「やったぁー!彼女の良さ可愛さ伝わったー!」ってなるのかな?」
僕はぐうの音も出なかった。少し考え
「な…らないだろうね」
「そこじゃないかな?「マウント」と「愛」の違いって」
これまたぐうの音も出なかった。
「だから一般人はアニメ、マンガを「マウント」取るために見て、読んで人に話して
心の中、もしかしたら言葉に出して「マウント」取るんだよ。
だからヲタクは一般人がアニメ、マンガ語りを毛嫌いするんだよ。
オレたちヲタクは「愛」。アニメ、マンガ、その作品丸ごと
キャラクター、世界観全て含めて愛してるんよ。
「愛」が故に語らない。逆に「愛してる」からこそ「なんで!?なんでこんな設定にした?
なんでこんな世界観にした?なんでこんなキャラにした?」ってのは言う。
もちろんその作品も愛してるし好きだしその設定だからこそ
そのキャラだからこそ、その世界観だからこそ、その作品が生まれたのはわかってるけど
腑に落ちない点は腑に落ちないんだよ。納得できないって点は曲げられないな」
僕は匠の肩に手を置き、嘘泣きのように、もう片方の手で目元を拭いながら
「少し見ない間に立派なオタクになって」
と言った。
「うん。十中八九泣いてないだろ。てか仮にガチで泣いててもおかしいし」
「成長具合に涙が…」
「いや、まだまだ。先人のヲタクに皆様には遠く及ばないからもっと精進せな」
「まもなく~」
駅構内にアナウンスが流れる。
「おい。向上心すごいな」
思わず笑ってしまった。そして続けて
「でもそうな。匠にはもっと精進してもらって、有名な漫画家さんになってもらって
「実は僕の動画のサムネを描いてくれてるのは、あの作品のあの先生なんです!」って言って
オレの動画の再生回数にも貢献してくれ」
手を合わせて少しおちゃらけて「頼む」というポーズを取る。
「あぁ、そうだな。オレが理想とするマンガを描いて
たぶんだけどヲタクの皆様には刺さると思う。でも一般人にはあんまウケないと思うのよ。
でもそれが理想。今までどれだけ「一般人被害アニメ、マンガ」を見てきたことか…」
匠は右手を額にあて「やれやれ」といったポーズを取る。
「まぁオレは十中八九読むから。
しかも匠から聞いてる限り、面白そうだし、オレ好きそうだし。まぁ一般人だけど…」
そう自虐を入れる。すると
「身内は別よ?」
と言ってくれた。
「良かったっす」
電車が警笛を鳴らしホームに入ってくる。
猫じゃらしにシンクロする猫のように警笛に驚き2人で体がビクッっとする。
電車が止まり、扉が開き乗客が降りてきて僕ら2人が乗り込む。
中を見回したがこの電車でも2席並んで空いている場所がなく
また扉を挟んで立とうと思ったが
どこの扉の両サイドも埋まっていたので渋々シートの前に立つ。
2人とも吊り革の輪っかの部分は持たずに
鉄の棒とその輪っかを繋ぐ「吊り革」の部分を握る。
先程の電車では扉を挟んで立っており
もちろん他にも乗客はいたが扉周辺だったので僕たちの周辺にはあまり人はおらず
割と通常の声のボリュームで話していたが、今は目の前のシートには人が座っているし
横にも背中側にも立っている人もいるし、周辺には人だらけなので声のボリュームも抑えつつ
「今度さ、ひさしぶりに匠ん家行っていい?」
と話す。
「ん?どうした急に」
匠も声のボリュームも抑えて話す。
「いや、なんだろう。なんとなく?」
「まぁ別にいいけど」
「でも鹿島も来たがるかなぁ~」
「お泊まり会でもしちゃう?」
「お!それいいね~。各自サティスフィー持ち寄ってね?」
「そうね。実況撮ってもいいし」
「あの大スクリーンで!?」
「あぁリビング使うなら親が仕事で泊まりになる日選ばないと」
「あ、そっか。となるとお兄さんもだから結構スケジュール厳しいか」
「あ、いや。兄ちゃんは一人暮らし?してるから平気」
「一人暮らし」の後に「?」がついてる気がして
気になったがなんとなく触れないでおいた。
「おっ、ほぉ~。じゃあ、スケジュール組んでお泊まり会するか。
あ!あれは?ゴールデンウィークとかは?
ってそうか。ご両親泊まりの日じゃないとダメなのか」
「あぁいいかもね。ゴールデンウィークは仕事忙しいだろうし」
「え、あ、逆に?」
「2人とも社長だからさ。社員に休み与えるために自分がより多く稼働しないとだから」
「はぁ~なるほどねぇ~。匠のご両親は社長になるべくしてなった人たちだねぇ~。
頭が下がります」
「ほんと頭下がるよ。息子の1人は好き放題の大学にろくに通ってない名ばかり大学生。
そんなバカ息子に「ちゃんと学校行きなさいよ」とか言わずに
「好きなことやりなさい」って。…ほんとありがたい限りですよ」
匠の言い方がふざけているようにも、真面目に話しているようにも
どちらとも取れる話し方に聞こえたので「おい自慢かー」とか
「まぁご両親社長でお金持ちだから
そんな余裕あること言えるんだよー」とか言おうと思ったが胸の内に秘めた。
「あ、ゴールデンウィークといえばファンタジア フィナーレやろうぜ?」
「あぁ前話してたね。京弥もやんの?」
「もちろん。てかきっかけあいつ」
「あ、そうなんだ?」
「たぶんあいつが1番強えし」
「ゲーマーなんだっけ?」
「あいつのチャンネル見てないの?」
「…今日から見るわ」
「言わないって」
「いや、マジで今日から見る」
「めっちゃゲームうまいぞ」
「好きこそ物の上手なれだな」
「それな」
そんな話をしているうちに次の駅が匠の降りる駅だった。
匠は僕の1つ隣の駅で降りたほうが近いのだ。
なぜかあと1つの駅となると黙ってしまう。きっと話し始めると時間が足りないからだ。
「次はぁ~」
というアナウンスが聞こえてから
「じゃ、とりあえず今日の夜、初の3人での金鉄、よろしくな」
と声をかける。
「あぁ、割と楽しみだわ」
「まぁ2人仲良くなれそうで安心したわ」
「そうな。オレもビックリだわ」
「なんでだよ」
「いや、明らかな陽キャじゃん」
「お前もな?」
「いや、オレは陰キャ」
「どの格好のどの髪のやつが言うんだよ」
2人で笑った。電車の速度が落ち始め
窓の外の景色にホームが入ってきて電車が止まり扉が開く。
「じゃ、また後で!」
「ん!後でなぁ~」
匠の派手派手しい背中が遠ざかり、電車の扉が閉まる。
「あぁ~オレは遅すぎなければ何時でも」
「オレはーそうだな。12時くらいから2時間くらいなら」
「オッケーオッケー!じゃあ11時40分くらいにLIMEするから
集まれたら早めに集まって、ちょっと話してから始めよ」
「あいよー」
「うーっす」
「でさでさ」
そこから匠のことや鹿島のことを話しながら駅へと向かった。改札前で各々傘を閉じる。
2人は折り畳みでない傘だが
僕は折り畳み傘で小さくなって存在感がないのに水滴が垂れるという
嫌な存在感だけを残しており、扱いに困る。改札に交通系電子マネーをあてホームに入る。
ホームにはセーラー服姿の子やブレザーの子、学ランの子など学生が目立った。
その中には鹿島の出身校、黄葉ノ宮高校の制服を着た子もいた。
その子はブレザーは着ているものの
ブレザーの下にYシャツは着ておらず、Tシャツを着ていた。
スクールバッグをリュックのように背負い
ピアスの目立つ耳にワイヤレスイヤホンをし、スマホをいじっていた。
「鹿島もあんな感じだったん?」
「ん?あぁ~。1年の頃はちゃんとYシャツ着てたよ。
2年の頃からかな?あったかくなってきたらTシャツ、冬はパーカーだったな」
「マジ!?オレらそんなやつ少数だったよ」
「オレらはそんなやつしかいなかった」
「え?夏は?さすがにYシャツ着ないと言われるでしょ?」
「あぁ夏はね大体みんな長袖のYシャツを腕まくりして前ボタン全開で下Tシャツとか?
マジで暑かったらYシャツも脱いで腰巻きだった」
「うわぁ~さすが全国屈指の自由校」
「ピアスもバンバンしてたし髪も染めてたね」
「あぁ、それはうちの匠もそうよ」
「あ、そうなの?」
「うん。うちも割と校則ガチガチではなかったから。
ピアスもつけてこなければオーケーみたいな」
「まぁつけてたけどね」
「それな」
「匠なんてプールの時間へそのピアスが輝いてたもん」
「え!?へそピしてんの!?」
そういうと匠が牛柄のYシャツを脱ぎ僕に渡し、サロペットの肩にかける部分を下ろし
サロペットの腰の部分が緩く、ズリ落ちそうなのか
左手でサロペットの腰の部分を持ち、右手でTシャツを捲りお腹を出す。
へそピアスがキラリと輝く。
「見せたかっただけかい」
「そう。ただ見せたかっただけ」
「うわぁ~かっけぇ~エッロ」
鹿島は前のめりで目を輝かせていた。
少しの間へそピアスを自慢しTシャツを下ろし
サロペットの肩にかける部分を肩にかけ
僕が牛柄のYシャツを渡し、それを受け取り、羽織る匠。その表情は得意げなものだった。
「え?でもさ、コーミヤ(黄葉ノ宮高校の通称)だったなら、へそピアスくらいいたろ?」
「女子はいたね。めっちゃいた。
ただ男子はー…。んー…。オレの知るところではいなかったかな」
「へぇ~そんなもんなんだ」
そう話していると
「まもなく~」
と電車が来るアナウンスが構内に響き渡る。
「女子可愛かった?」
「ん~まぁ?偏差値は低いけど、顔面偏差値は高いってやつ?」
「でもうちも割と可愛い子多かったよな?」
「あぁ怜夢の元カノとかー」
「うるせぇな!」
その後に「そんなこと言ったら匠の元カノだって可愛かったじゃん」と言おうとしてやめる。
「なになに?怜ちゃんの元カノ可愛かったの?」
「そうなんよぉ~」
「おいそこ。ほんとにガッツリ話したの今日が初めてか?」
「あれ?オレらって幼馴染?」
「あれ?ワンチャンそうかも」
そう言って笑っていると鹿島の乗る電車が風を引き連れて入ってくる。
雨のせいか、いつもより少し冷たい風が肌に当たる。
「じゃ、11時半頃にLIMEするわ」
「え、あぁこっちなんだ?」
「そうそう。鹿島反対なんよ」
「そう。オレこっちだから。じゃ、また後で!」
そう言って鹿島は電車に乗り込む。電車内で笑顔でこちらに手を振る鹿島。
僕たち2人もホームから鹿島に手を振り返す。
「駆け込み乗車はおやめください」
電車の扉が閉まる。扉についた開かない小窓から、まだ僕たちに手を振る鹿島が見える。
電車がゆっくりと動き出し、窓から見える鹿島もゆっくりと遠ざかる。
僕と匠もその窓を追うように体ごと動かし
扉の小窓から見える鹿島が見えなくなるまで手を振っていた。
「こんな手振り続けたの人生で初めてかも」
「わかる。田舎系のマンガとかアニメで幼馴染が都会に行くってなったときの
ホームでの「さよなら。またね」並みよな」
「うん。アニメそんな見んけどなんかわかる」
そんな会話を交わし、電車を待つ。
「そういえばさ、ワメブロまだやってる?」
「あぁ、たまにやってるよ」
「いやさ」
「実況?」
「あぁ、そうそう」
「手伝ってほしいとか?」
「まぁそれもあるかな?
声出さなくてもいいから数回に1回くらいでいいから出てくれん?」
「まぁ時間が合えばいいよ」
「うっし!さんきゅ」
「まもなく~」
駅構内にアナウンスが流れる。僕たちの乗る電車が来るらしい。
それから他愛もない話をしているうちにホームに電車が入ってきた。
「意外と長いよな」
「そう。もうちょい近くにすりゃ良かった」
「まぁ違う大学行ってたら鹿島と出会ってないし、今の大学で良かったわ」
「あぁたしかに」
電車から人が降りてきて僕らが乗り込む。
シートに空きはあったが2席並んで空いているところがなかったので
扉を挟んでシートの背もたれに寄りかかり立つ。
「なんか3年になっても全然やる気が起きんのよな」
僕はポケットからスマホを取り出す。
「わかる。オレなんてまだ全然単位取ってないし」
匠もスマホをいじりながら応える。
「でもたまに来てんのな」
「あぁ、あのテストとか課題より出席率を重視してる講義は行ってる」
「わかる。めっちゃわかる」
そんな大学生らしい会話をしながらスマホをいじる。
妃馬さんからLIMEが来ていたのでLIMEのアプリを開き、妃馬さんとのトーク画面を開く。
「傘、ありがとうございます!助かりました。」
そのメッセージの後に猫が「ありがとうございます」と
頭を下げているスタンプが送られていた。
「いえいえ。折り畳みあったのにビニ傘持ってくるっていうバカして良かったです」
その後フクロウが「てへっ」っと大きな翼で頭をポンッっとしているスタンプを送った。
トーク一覧に戻る。スクロールして妹のトーク画面をタップする。
妹と最後にLIMEしたのは2週間ほど前
「帰りにコンビニで唐揚げ買ってきて」
「なに味?」
「辛いやつ」
「オッケー」
「サンクス」
という兄妹らしい淡白なやり取りだった。文字を打ち始める。
「雨降ってっけど傘持ってった?」
送信ボタンを押そうとして一瞬躊躇う。だけど結局送信ボタンを押した。すぐ起動がついた。
トーク一覧に戻った後、最近使ったアプリ一覧を開き
そこから意味がわかると怖い話のアプリへ飛ぶ。
まだ読んでいない話を読み始める。すごく短い話だった。
読み始めてすぐに妹からのLIMEの通知がスマホ上部に出る。
読み終えて、解答までした後に最近使ったアプリの一覧からLIMEのアプリを開く。
妹とのトーク画面を開く。
「持ってくの忘れたけどへーき」
母が天気予報ちゃんと見ていたので恐らく妹にも伝えただろうに
忘れているとはどういうことだ?と思ったが
既読をつけたまま、また意味がわかると怖い話を読む。
匠とは会話をしたりしなかったりして乗り換えの駅で降りる。
改札を出て乗り換える電車の改札を通り、またホームで電車を待つ。
するとどこからか今放送中のアニメについて話している声が聞こえてきた。
「あのアニメで誰推し?」
「あぁ~リナちゃんかな。あぁ、でもモナちゃんもいい」
「あぁ可愛い系ね?」
「オレは綺麗系が好きだからサラちゃんかな」
「あぁ、それもわかる。あの生い立ちもいいし、性格もいいよな」
「薄っぺらい」
匠がボソッっと言った。
「ん?あの会話?」
割と遠くで大きな声で話しているため恐らくこちらの声は聞こえていないだろう。
「ほんと嫌だわ。一般人がする薄っぺらいアニメ語り」
「まあまあ。語りたがりなんだろ。それに自分のほうが知ってるーって優越感に浸りたいとか。
ほら、人にマウント取りたいってのが今の世の中の風潮だろ」
「それも嫌。人にマウント取らないと死ぬ現代人。結構リアルに頭痛くなる」
「わかるけどさ~。しょうがないんじゃない?
「あのアニメ見た?でさぁ~」なんて話してるけど心ん中じゃ「はんっ!オレのほうが
このアニメへの理解度が深い!」って思ってるんだよ。てか思っちゃうんだよ」
「うん。それ。なに?理解度って?それが愛?
愛ってさ、たとえば彼女がいたら彼女に伝えるものじゃん?独り占めしたいもんじゃん?」
「あぁ、たしかに。でもさ、まぁオレは割と独占欲高いほうだから
匠の考えに近いけど、彼女の良さ、可愛さを知らしめたい!
広めたい!って人もいると思うよ?」
「うん。いるだろうね。独占欲ってのが薄い人。
でもさ仮によ?仮に彼女の良さ、可愛さを周囲に知らしめて取られたらどうするんだろう?
その人「やったぁー!」ってなるのかな?
「やったぁー!彼女の良さ可愛さ伝わったー!」ってなるのかな?」
僕はぐうの音も出なかった。少し考え
「な…らないだろうね」
「そこじゃないかな?「マウント」と「愛」の違いって」
これまたぐうの音も出なかった。
「だから一般人はアニメ、マンガを「マウント」取るために見て、読んで人に話して
心の中、もしかしたら言葉に出して「マウント」取るんだよ。
だからヲタクは一般人がアニメ、マンガ語りを毛嫌いするんだよ。
オレたちヲタクは「愛」。アニメ、マンガ、その作品丸ごと
キャラクター、世界観全て含めて愛してるんよ。
「愛」が故に語らない。逆に「愛してる」からこそ「なんで!?なんでこんな設定にした?
なんでこんな世界観にした?なんでこんなキャラにした?」ってのは言う。
もちろんその作品も愛してるし好きだしその設定だからこそ
そのキャラだからこそ、その世界観だからこそ、その作品が生まれたのはわかってるけど
腑に落ちない点は腑に落ちないんだよ。納得できないって点は曲げられないな」
僕は匠の肩に手を置き、嘘泣きのように、もう片方の手で目元を拭いながら
「少し見ない間に立派なオタクになって」
と言った。
「うん。十中八九泣いてないだろ。てか仮にガチで泣いててもおかしいし」
「成長具合に涙が…」
「いや、まだまだ。先人のヲタクに皆様には遠く及ばないからもっと精進せな」
「まもなく~」
駅構内にアナウンスが流れる。
「おい。向上心すごいな」
思わず笑ってしまった。そして続けて
「でもそうな。匠にはもっと精進してもらって、有名な漫画家さんになってもらって
「実は僕の動画のサムネを描いてくれてるのは、あの作品のあの先生なんです!」って言って
オレの動画の再生回数にも貢献してくれ」
手を合わせて少しおちゃらけて「頼む」というポーズを取る。
「あぁ、そうだな。オレが理想とするマンガを描いて
たぶんだけどヲタクの皆様には刺さると思う。でも一般人にはあんまウケないと思うのよ。
でもそれが理想。今までどれだけ「一般人被害アニメ、マンガ」を見てきたことか…」
匠は右手を額にあて「やれやれ」といったポーズを取る。
「まぁオレは十中八九読むから。
しかも匠から聞いてる限り、面白そうだし、オレ好きそうだし。まぁ一般人だけど…」
そう自虐を入れる。すると
「身内は別よ?」
と言ってくれた。
「良かったっす」
電車が警笛を鳴らしホームに入ってくる。
猫じゃらしにシンクロする猫のように警笛に驚き2人で体がビクッっとする。
電車が止まり、扉が開き乗客が降りてきて僕ら2人が乗り込む。
中を見回したがこの電車でも2席並んで空いている場所がなく
また扉を挟んで立とうと思ったが
どこの扉の両サイドも埋まっていたので渋々シートの前に立つ。
2人とも吊り革の輪っかの部分は持たずに
鉄の棒とその輪っかを繋ぐ「吊り革」の部分を握る。
先程の電車では扉を挟んで立っており
もちろん他にも乗客はいたが扉周辺だったので僕たちの周辺にはあまり人はおらず
割と通常の声のボリュームで話していたが、今は目の前のシートには人が座っているし
横にも背中側にも立っている人もいるし、周辺には人だらけなので声のボリュームも抑えつつ
「今度さ、ひさしぶりに匠ん家行っていい?」
と話す。
「ん?どうした急に」
匠も声のボリュームも抑えて話す。
「いや、なんだろう。なんとなく?」
「まぁ別にいいけど」
「でも鹿島も来たがるかなぁ~」
「お泊まり会でもしちゃう?」
「お!それいいね~。各自サティスフィー持ち寄ってね?」
「そうね。実況撮ってもいいし」
「あの大スクリーンで!?」
「あぁリビング使うなら親が仕事で泊まりになる日選ばないと」
「あ、そっか。となるとお兄さんもだから結構スケジュール厳しいか」
「あ、いや。兄ちゃんは一人暮らし?してるから平気」
「一人暮らし」の後に「?」がついてる気がして
気になったがなんとなく触れないでおいた。
「おっ、ほぉ~。じゃあ、スケジュール組んでお泊まり会するか。
あ!あれは?ゴールデンウィークとかは?
ってそうか。ご両親泊まりの日じゃないとダメなのか」
「あぁいいかもね。ゴールデンウィークは仕事忙しいだろうし」
「え、あ、逆に?」
「2人とも社長だからさ。社員に休み与えるために自分がより多く稼働しないとだから」
「はぁ~なるほどねぇ~。匠のご両親は社長になるべくしてなった人たちだねぇ~。
頭が下がります」
「ほんと頭下がるよ。息子の1人は好き放題の大学にろくに通ってない名ばかり大学生。
そんなバカ息子に「ちゃんと学校行きなさいよ」とか言わずに
「好きなことやりなさい」って。…ほんとありがたい限りですよ」
匠の言い方がふざけているようにも、真面目に話しているようにも
どちらとも取れる話し方に聞こえたので「おい自慢かー」とか
「まぁご両親社長でお金持ちだから
そんな余裕あること言えるんだよー」とか言おうと思ったが胸の内に秘めた。
「あ、ゴールデンウィークといえばファンタジア フィナーレやろうぜ?」
「あぁ前話してたね。京弥もやんの?」
「もちろん。てかきっかけあいつ」
「あ、そうなんだ?」
「たぶんあいつが1番強えし」
「ゲーマーなんだっけ?」
「あいつのチャンネル見てないの?」
「…今日から見るわ」
「言わないって」
「いや、マジで今日から見る」
「めっちゃゲームうまいぞ」
「好きこそ物の上手なれだな」
「それな」
そんな話をしているうちに次の駅が匠の降りる駅だった。
匠は僕の1つ隣の駅で降りたほうが近いのだ。
なぜかあと1つの駅となると黙ってしまう。きっと話し始めると時間が足りないからだ。
「次はぁ~」
というアナウンスが聞こえてから
「じゃ、とりあえず今日の夜、初の3人での金鉄、よろしくな」
と声をかける。
「あぁ、割と楽しみだわ」
「まぁ2人仲良くなれそうで安心したわ」
「そうな。オレもビックリだわ」
「なんでだよ」
「いや、明らかな陽キャじゃん」
「お前もな?」
「いや、オレは陰キャ」
「どの格好のどの髪のやつが言うんだよ」
2人で笑った。電車の速度が落ち始め
窓の外の景色にホームが入ってきて電車が止まり扉が開く。
「じゃ、また後で!」
「ん!後でなぁ~」
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