猫舌ということ。

結愛

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動き

第61話

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晩御飯まで眠ってしまい、結局また妹に起こされた。
その後晩御飯を食べ、リビングで少し寛ぎ家族団欒し、お風呂に入り部屋に戻った。
ちなみに晩御飯は中華丼だった。ベッドにダイブしようとベッドに近寄る最中
明日の予定のことが頭に過り、ベッドの前で足を止める。
アクセサリーケースを手にベッドに腰を下ろす。
アクセサリーケースといっても中には指輪1つ
中学生のときに買った十字架のネックレスやリングが2つついたネックレス
羽根のチャームのネックレス、ヘアピンや髪ゴム、シンプルなリングピアス
星のチャームがついたリングピアス、十字架のチャームがぶら下がっているピアス
棒状のチャームが1本ぶら下がっているピアスが入っている。
アクセサリーがそんなに多くは入っていない“アクセサリー”ケースだ。
その中から明日どのピアスをつけていこうか悩んだ。
初めて会った日も今日も星のチャームのリングピアスだったし
明日も同じでいこうか、それとも。そんな感じで服も悩んだ。
パーカー、ジャケット、ジーンズ、カーゴパンツ。
そう選んでいくうちにワクワクが増してドキドキも増していった。
その間にも妃馬さんや鹿島とのLIMEに返信していた。
ただ点けて流しているだけのテレビから笑い声が流れる。
テレビを見ていたわけではないが僕も笑顔だった。
そんなことをしているといつの間にか12時を回っていた。
すると鹿島からLIMEの無料通話が来る。
通話するボタンをタップし、スピーカーのボタンもタップする。
「おいおい~」
「おいおい~」
「おつかれぇ~」
「はいおつ~」
「え、もう終わり?」
「なんで?」
「終わり際のやり取りじゃない?「おつかれぇ~」「はいおつ~」ってさ」
「たしかに」
鹿島の僕のモノマネと内容に納得し笑う。
「今日はまぁワメブロの実況の続きかな?シリーズにしたいし」
「あぁ~…」
そう言ってスマホの画面の上部で時刻を確認する。
「1時くらいまでなら」
「え?全然ないじゃん。30分くらいしか」
「ごめんごめん」
「明日朝早いん?」
「8時か、8時前には起きるかな」
「どうした?」
「いや普段だって9時か10時には起きてるよ」
「いや土日は基本オレに付き合って大抵朝寝じゃん」
「うん。まぁね?」
「どしたん?」
「いや、単純に明日出掛ける予定入れたから」
「デート?」
そう鹿島に言われたとき即座に否定はしなかった。ほんの少し間があり
「いや」
と言うと
「え、マジでデートなん?」
と鹿島の声が少し大きくなった。
「いやだから違うって」
「いやでもなんか変な間あったって」
「考え事してただけ」
「えぇ~ほんとかなぁ~」
「まぁ今度話すよ」
「明日な!いや、てかもう今日か。今日の夜実況撮る前に聞かせてもらう」
「あぁ、疲れて寝てなけりゃな」
「安心せえ。寝かさんから」
「安心できるか」
「まぁじゃあ今日はオッケー。別の実況取るわ」
「あいよ。んじゃ頑張って」
「あいあい。またねぇ~」
そんな会話をし通話が切れた。
そして僕はワクワクとドキドキの中、部屋の電気を消し布団に包まれた。
鳥の声も人の話し声も物音1つせず、夜特有の光が窓から差し込み
真っ暗というより、ほんの少し紺色のような青みがかった部屋が視界に入る。
家具の色などはわからず、輪郭だけがわかる世界。
無音のようだけど体を流れる血の音、心臓が跳ねる音
呼吸音など些細な音がきっと気づかないだけ聞こえているのだろう。
目を瞑る。視界が真っ暗になる。ワクワクとドキドキがより鮮明に感じられる。
明日、今日のことを考えているうちにいつの間にか眠りについていた。


パッっと目を覚ます。電気とは違う自然光で照らされた優しい色の部屋が目に飛び込んでくる。
まだ頭が働かずボーっとしている中
枕元で充電ケーブルに繋がれたスマホのホームボタンを押し、時刻を確認する。
7時51分だった。仰向けになり上半身を起こす。あくびが出て思い切り伸びをする。
ベッドから足を下し、立ち上がり部屋を出る。廊下を進むと右側の窓から朝陽が差し込む。
「天気良くて良かった」
と呟く。その後
「良くて良かった」
「良い」を2回言ってると思い少し笑う。あくびが出る。
階段を下り洗面所で顔を洗い歯を磨く。ミントの歯磨き粉で口がスースーする中、部屋に戻る。
扉の前に来ると部屋の中からけたたましい音が聞こえる。
扉を開けるとその音がさらに大きくなる。音の根源はスマホだった。
寝坊しないようにアラームをかけており
僕が顔を洗い、歯を磨いている間に鳴ったようだった。
「もう起きてます」
と言いながらアラームを切る。ローテーブルに置いていたグラスを手にリビングへ向かう。
キッチンで冷蔵庫を開き
心の紅茶、ココティーのストレートティーをグラスに注ぎ、一気に飲み干す。
「ふぅー」
思い切り息を吐き出すとココティーのストレートティーのいい香りが鼻から抜ける。
もう一度ココティーを注ぎ冷蔵庫の扉を閉める。
部屋に戻ろうとするとキッチンのシンクの金属の光りが目に入る。そのとき

あ、グラス濯いでない

と思い手に持つグラスを見る。まぁいいかと思い部屋に戻る。
ローテーブルにグラスを置き、Tシャツの入った引き出しを漁り
海外の女性の顔が大きく印刷されたTシャツをベッドに放って引き出しを閉める。
クローゼットから薄い紺色のジャケットをハンガーから外し、ベッドに放り投げる。
濃い色のダメージジーンズもベッドに放り投げる。
僕は着ている服をすべて脱いで下着のパンツ一丁になる。
アクセサリーケースの近くにある
ピアスを開けた当時に買ったカップ焼きそばくらいの大きさの鏡に自分のお腹辺りが写る。
だらしなくも引き締まってもいない体。

鍛えようかな

と一瞬考えるがすぐにそんな考えは消える。
パンツ一丁でスマホのホームボタンを押すと妃馬さんからのメッセージの通知があった。
僕はスマホを手に取り、まるで銭湯のお風呂上がりにパンツ一丁で牛乳を飲むように
少し足を開き左手を腰にあて、LIMEの妃馬さんとのトーク画面を開く。

「おはようございます。一応今日、大吉祥寺に行こうと思ってるんですが
待ち合わせどうしましょうか?」

とのメッセージだった。僕は少し上を向き考え

「おはようございます。改札出て左側にベンチがあるので、もし空いてたらそこ。
もし空いてなければエスカレーターで下りたとこの柱の辺りでどうでしょう?」

と返信をし着替え始める。ダメージジーンズを履きTシャツを着て、ジャケットを羽織る。
アクセサリーケースからピアスを出し、今つけているファーストピアスと交換する。
結局ピアスは棒状のチャームがぶら下がっているピアスにした。
耳に棒状のチャームが揺れる感覚が伝わる。
全身を見たいと思ったが部屋には先程お腹辺りが写った小さな鏡しかない。
全身を見るのは諦めて時刻を見るためにスマホの電源をつける。
時刻は8時37分。まだ出る時間には早い。
そして時刻の表示の下に妃馬さんからのメッセージの通知があった。

「わかりました。じゃあそこで待ち合わせで。」

その後に猫が「了解!」と敬礼しているスタンプが送られていた。
「かわいっ」
つい独り言を呟いてしまった。心の中で

いや、猫のスタンプがよ?

と誰に向けてなのかもわからない謎の言い訳をする。
その通知をタップしLIMEの妃馬さんとのトーク画面に飛び、妃馬さんに返信をし
荷物をまとめてリビングに行く。テレビを点けソファーに座る。
別に見続けるわけでもないのに番組表で今やっている番組を確認する。
面白い、見たいと思う番組は1つもなかった。
ポケットからスマホを取り出し、時刻を確認する。8時46分。
難しい時間だった。50分に出るか。と思い
4分時間を潰そうとしたとき背後から足音が聞こえてきた。
振り返ると寝ぼけ眼、寝ぼけ顔の母がリビングに入る瞬間だった。
「あれ?珍しい」
「あぁ、今日出掛けるわ」
「そうなのね。何時に帰る?」
「あぁ~…わからんけど夜ご飯までには帰ると思う」
「あぁ、そうなのね。わかった。…友達?」
「友達ー」
「大学の?」
そんな会話をしながら母は朝食の準備を始める。
「大学のー」
「あの何回か家に遊びに来た子?」
あ、鹿島のことだ。と思った。

まぁこないだも来たけどね

と心の中でニヤッっとした。
「いや違う子」
「ふぅーん。ま、気をつけてね」
「あいよ」
興味もないテレビ番組を流し見しながら母と会話をし
スマホの電源をつけ時刻を確認すると8時51分だった。
まぁぼちぼち出るか。と思い、バッグを持ち腰を上げる。キッチンで作業している母に
「じゃ、いってきます」
と声をかける。すると母はキッチンから出てきて僕の後ろをついてくる。
振り返らずとも背後からついてくる床をペタペタと歩く音でわかった。
そういえば靴決めてなかったと思いながら
シューズクローゼットを開き、5足の中からパッっと選ぶ。
モンターニュのクリーム色のハイカットのスニーカーを履く。
靴紐を緩めにしてあるので足を入れて踵に指を1本入れるだけで立ったままスッっと履けた。
ドアノブに手をかけると
「いってらっしゃい」
と母の声が背後から聞こえた。扉から外に出て振り返り
「いってきます」
と手を振る母に言い、駅へ歩き出す。
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