猫舌ということ。

結愛

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動き

第60話

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リビングの扉を開けるとテレビの音と
ミートソーススパゲッティーのミートソースの匂いが襲ってきた。
テーブルのほうを見ると父、母、妹がすでに座っており
テーブルの上には4つのお皿にミートソーススパゲッティーが盛られ
それぞれの前に置かれていた。
そしてテーブルの中央にはサラダが盛られたボウル型のお皿があった。
サラダが盛られたボウル型のお皿の奥に
恐らくサラダを取り分けるためのお皿が4枚重ねて置いてあった。
その4枚のお皿の横にはゴマドレッシングとマヨネーズが置いてあった。
「怜夢やっと起きたー」
母がこちらを向き、困ったような笑顔で言う。僕は自分の席に向かいながら
「夢香に起こされた」
自分のイスを引き座る。
全員で「いただきます」と言いミートソーススパゲッティーを食べ始める。
テレビでは有名俳優さんが10万円で買い物をしていた。
食事をしながら家族でその俳優さんの話や
なぜ僕が起きるのが遅かったのかの話、実はさっきまで父も寝ていたという話をした。
「ご馳走様でした」と食べ終わった順番で
各々が言い、各々がキッチンのシンクへ食器を運ぶ。
母が1番遅く食べ終わり、キッチンへ向かい食器を洗い始める。
父は自分の席でスマホをいじり
妹はソファーで寝転がりテレビを見ながらスマホをいじっていた。
僕は自分の席でテレビを眺めていたが
5時間程度しか寝ていない状態、そこに満腹というデバフ(デバフとはバフの対義語で
ゲーム内においてキャラクターの能力を弱体化させること
または弱体化させる効果のこと)が付与され
眠気ゲージがどんどん溜まっていくのがわかったので
部屋に戻ろうとしたとき、先に父が立ち上がり廊下に出た。
僕も立ち上がり、その背中を追うように廊下に出た。
父は階段を上がり自分の部屋に入った。
僕も階段を上がり父母の部屋、妹の部屋を通り過ぎ、自分の部屋に入り
顔からベッドに倒れ込んだ。マットの柔らかな感触で顔が包まれる。
太陽の匂いでも、消臭スプレーの匂いでもない、たぶん自分の匂いと思われる匂いがする。
顔を左に向け、枕元で充電されているスマホを見る。
そしてスマホに手を伸ばし、充電ケーブルを抜く。
仰向けになりスマホを掲げ、電源を入れる。妃馬さんからの通知があり顔が綻ぶ。
あくびが出る。涙で視界が歪み、左手の袖で涙を拭う。
通知欄で妃馬さんからのメッセージを読む。

「りょーかいです!」
「唐突ですけど、怜夢さん日曜日なにか予定あります?」

そのメッセージの後に猫が「?」を浮かべているスタンプが送られていた。
僕は思わず飛び起きた。腹筋の力に嬉しさと驚きのバフ(バフとはゲーム内において
キャラクターの能力を強化することまたは強化する効果のこと)が付与され
普段の腹筋の力が5倍に強化され、ベッドから少し浮き、その浮いた瞬間に胡座をかいた。
マットに着地した瞬間ベッドの木のフレームが軋む音が耳に、感覚がお尻に伝わった。
僕は前のめりになり、LIMEのアプリを開き、妃馬さんとのトークルームに入り
もう一度メッセージを読み返す。

「怜夢さん日曜日なにか予定あります?」

当たり前だが2回読み返しても変わらなかった。口をいろんな形に変える。
口の形を変えることでニヤけは隠せるが
胸の高鳴りはどう頑張っても隠すことはできなかった。
鼓動が五月蝿いくらい高鳴っていた。僕はなんて返信しようか悩んだ。
既読はつけたし、そんなに時間はかけられないと思った。

「今のところないですね」
「すいません。返信の順番がごっちゃになっちゃって。
ゲームする予定立ったらお伝えしますね」

その後に僕もフクロウが「?」を浮かべているスタンプを送った。
気持ちが先走り、返信の順番がごっちゃになった。胡座状態のまま背中からベッドに倒れる。
足を折り足だけ体育座りの形にし、足踏みをバタバタとする。
スマホを枕元に置き天井を見てニヤける。勢いよくベッドから立ち上がり
昨日からローテーブルに置きっぱなしにしていたグラスを手に部屋を出る。
階段を下りリビングに入る。母がイスに座っており
妹は相変わらずソファーで寝転がっていた。キッチンに入りシンクで水を出し
食器用洗剤をスポンジに出し、泡でしっかりと洗う。
食器用洗剤のコマーシャルのようにキュッキュッっと鳴る。
濡れた手をタオルで拭き、水滴がついたグラスに氷を入れ、ソラオーラを注ぐ。
赤黒い液体の水面から氷の一角が出ており、白のような薄いピンクのような泡が立つ。
ソラオーラの入ったグラスを手に、リビングを出て自分の部屋に戻る。
ローテーブルにグラスを置きベッドに座る。
少しワクワク、少しドキドキしながらスマホの電源をつける。
すると妃馬さんから返信の通知が来ていた。嬉しさとドキドキで足を思いっきり引く。
ドンッっという大きい音と踵に痛みと衝撃が響く。ベッドのフレームに踵をぶつけていた。
「おうぅ~」
と一人で踵を撫でながら、ベッドの上で転がり悶える。
その転がりの反動を利用しうつ伏せになり
もう一度スマホの電源をつけ、LIMEのアプリを開き、妃馬さんとのトーク画面を開く。

「おっ、ないなら、良かったら明日出掛けませんか?」
「いえいえ。たまにありますよねw順番前後しちゃうことw
りょーかいです!少し1人で進めようかな」

そのメッセージの後に猫がゲームしてるスタンプが送られていた。
水泳のバタ足のように足をバタバタさせる。どうしても顔がニヤける。
部屋には僕1人なので隠さずニヤける。
心に住む住人たちも「キモい」とか言わずに、頭からお花を飛ばしほのぼのしていた。

「おっ、いいですね!僕でよければお供させていただきます」
「慣れるためにも一度やってみてもいいかもですね。
時間合えば僕がご一緒するんですが…。お友達にいないんですか?やられてる方」

その後にフクロウが「?」を浮かべているスタンプを送った。
嬉しさでニヤけ顔が張り付いてしまった。
ベッドに座りローテーブルに置いてあるグラスを持ち上げる。
少し氷が溶けて赤黒い液体の上に透明の層ができていた。
グラスの外側にかいた汗が手に伝わり、水滴が足の甲に落ちる。
「冷たっ」
少しビックリし、グラスに口をつけソラオーラを飲む。
水が最初に口に入ってきて、後で入ってきたソラオーラも口の中で水と混ざり薄くなる。
薄くないソラオーラを求めていたらグラスの底が見えた。
氷同士や氷がグラスにぶつかったりして涼しい音を響かせる。
ウイスキーを飲むときのように空のグラスを回す。また氷の涼しい音が響く。
僕はグラスを持ち、リビングに飲み物を入れに行く。
リビングに入るとソファーに座っていた妹が、扉を開けた音で振り返り、妹と目が合った。
「え、キモっ」
リビングに入った途端、急に辛辣な言葉を浴びせられる。母もこちらを見ており
「なにか良いことでもあった?」
と言われる。辛辣な妹の言葉も気になったが母の言葉も気になり
「え、なんで?」
と聞くと
「嬉しそうな顔してるから」
と言われる。その言葉で妹の辛辣な発言にも合点がいった。
「おもろいテレビ見てたからかな」
と嘘をつく。キッチンに入り冷蔵庫を開き、ソラオーラを注ぎ
元あったところに戻し扉を閉める。リビングを出て階段を上り自分の部屋に戻る。
自分の部屋までの道中妹の「キモっ」という言葉がずっと頭の中を巡っていた。
部屋に戻り、ローテーブルにグラスを置き、真っ先にスマホの電源を入れた。
妃馬さんからの通知あり。ベッドに少しジャンプして座る。少し跳ねる。
ロックを解除し、LIMEで妃馬さんとのトーク画面を開く。

「あ、また執事モードだwもちろん!怜夢さんがいいから誘ってるんですw」
「ん~、1人私の幼馴染でゲーム好きがいるけどファンタジアフィナーレやってたかなぁ~…」

そのメッセージの後に猫が考えているポーズをしたスタンプが送られていた。
「怜夢さんがいいからか」
そう呟きベッドに仰向けで寝転がる。スマホを胸の上に置き
足を少し開き、大の字になるように腕を横に伸ばす。
左側は壁でコツンと手の甲の指の付け根の出っ張っている骨が当たる。
右腕はベッドからはみ出て、重力に負け少し下がる。顔のニヤけが止まらない。
きっとこの顔を見たら、妹はまた「キモっ」っと言うだろうと思った。
ただそのことよりも妃馬さんの先程の返事が妃馬さんの声で再生される。
さらにその言葉を言う妃馬さんの姿も想像される。
その妃馬さんが頭の中のシアターで映し出される。
僕の頭の中の住人はきっとソラオーラを片手に
ポップコーンを食べながら見ているだろうと思った。僕は妃馬さんに返信をした。

「嬉しいお言葉、ありがとうございますお嬢様。」
「なんか鹿島と小野田匠を足して2で割った感じですねw」

の後にフクロウが執事のようにお辞儀をしているスタンプを送った。
僕はテレビとパスタイム スポット 4をつけ
トップ オブ レジェンズのソロランクを始めた。
その後はトップ オブ レジェンズのソロランクをやり
試合終わってスマホを見て、妃馬さんからの返信があれば返信をしていた。
たまに自分が死んで仲間が生き残ってバナーを取ってもらって復活待ちの
仲間の視点を観戦しているときにも妃馬さんに返信していた。
16時頃に鹿島からもメッセージが来ていた。
どうやら鹿島も僕と同じく朝7時8時まで編集をしていて16時頃に起きたらしい。
それを聞いたときは「お疲れ様」とメッセージを返した。
その後すぐに母が部屋をノックし
「買い物行くけどなにか買うものある?」と聞きに来てくれたのでプリンをお願いした。
そしてこの前頼んだプリンがまだあることを思い出し
母と共に1階へ下り、ついでに母を見送った。
リビングへ行きキッチンに入り、冷蔵庫の扉を開け
上から2段目の手前に置いてあったプリンと食器棚からスプーンを取り部屋に戻った。
トップ オブ レジェンズのロビー画面だったテレビ画面を
パスタイム スポット 4のコントローラーのホームボタンを押し、ホームに戻り
nyAmaZon prime で同席酒場のお気に入り回を再生し、プリンを頬張る。
鹿島と部屋で遊んでるときに時間稼ぎのために母に頼んだ何気ない「プリン」だったが
ひさしぶりに食べるとめちゃくちゃ美味しかった。
あっという間にプラスチックのプリン以外では見たことない独特な容器には
プリンの薄黄色のほんの欠片と赤茶色のカラメルがほんの少し残っただけになった。
幸せな気持ちに包まれ同席酒場を見て笑っているといつの間に眠ってしまっていた。
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