小町のひとりごと

夢酔藤山

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……あかね雲の行方(11)

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 この御方は、もしかしたら……わたしを心から愛してくださるかも知れない。
 宮様と心の内で決別し、在原業平さまとも死別したわたしは、依るべき殿方を失っていました。だからこそ、そう思ったのでしょう。いや、これは一時の過ちかも知れません。
 でも……。
 過ちでもいい。
 焦りにも似たその心の騒めきは、散り際を間もなくに控えた、女の性が為せる宿業のようなものかも知れません。

 ひとりぼっちは寂しい。

 だれでもいい、殿方に縋りたい。
 しかし、わたしはやはり罪深い女です。素直にその心を伝えることが出来ません。
 ああ……この期に及んで、人の心を試すような真似に走ろうとは。
「その御心が真ならば、形に示して貰いたい」
 わたしは  深草少将平義宜というその御方に文を認めました。百日間、供もなく独り身で御徒にて通い候え、さすれば逢瀬を遂げましょうぞ、と。
 使いの者に文を託してすぐに、わたしは猛烈な後悔と羞恥心に身悶えました。
 何という傲慢にして浅ましい物云い、自分で自分が恐ろしいとさえ思いました。
 なんて厭な女だろう。
 しかし、文を伝えたその夜、あの深草少将平義宜というその御方は、単身、月夜の道を渡らせ参ったのです。
 夜は、月明かりだけが頼りの、暗い世界です。時には魑魅魍魎が人を脅かし、賊の類に遭遇すれば生命さえありません。そんな危険を冒して、深草少将平義宜というその御方は、わたしの元へ渡ってきたのです。
 わたしは泪が止まりませんでした。
 この殿方になら、空虚となったわたしの心を癒して貰える。
 すぐにでも、山科の屋敷へ招き入れるべきでした。試した御心は断じて偽りではなかったのです。
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