小町のひとりごと

夢酔藤山

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……あかね雲の行方(3)

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「如何に小町。我が深草の地で優雅に過ごそうぞ」
 一方的な恋文も、身分に胡座を掻いただけの、甚だ不遜極まるものでした。
 もしもこのとき、在原業平さまのような色好みから口説かれたなら、少しは心が揺らいだかも知れません。おっと、今の世に在原業平さまのような、心に余裕のある大人など、おられますまい。それは高望みというものですね。しかし、それくらいの御方から想いを寄せられない限り、宮様への想いを断ち切って、余所へ気を移すことは考えられなかったのです。
 女とは我が侭ですか。
 いえいえ、我が侭とはいいますまい。
 わたしは、わたしに正直なまでのこと。人にこの胸の内を判って貰うつもりなどござりません。
 ああ、それにしても、ずかずかと土足でわたしのなかに分け入ろうとする深草少将平義宜というその御方は、本当に慎みのない、無粋で一方的な男です。わたしの都合などお構いなし、自分のことばかり押しつけてくる。本当に腹の立つ男です。
 わたし、決してこんな男になんか靡いたりするものですか。

 ふらりと在原業平さまがわたしを訊ねて下されたのは、貞観一六年(八七四)の晩夏のことでした。
 あの煌びやかで涼しげだった在原業平さまも、今年で齢五〇を数えます。
 にも関わらず、なんとも潤いのある御方でしょう。色好みの物腰し、未だ衰えることを知らず、わたしですら、つい惹かれそうになってしまいます。
「どうだい、隠棲も悪くないだろう」
「そうですね」
「おやおや、都のなかにいるときよりも、風流が解せるようになったのではないかい」
「そんなこと」
「もっと早く気付けばよかったことは多い。お互い様だな」
 在原業平さまの言葉が、妙に胸へ響きます。
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