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第七章

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 数々の人の気遣いに支えられ、この地に降り立つことが叶った勇者組。
 感謝の想いを以て、

(嘘の理由を話すのは、何か違うよね)

 ラディッシュは仲間たちと同意の笑顔を見合わせた後、固唾を呑んで答えを待つ彼女に、

「町を見に♪」
『バッカじゃないのォオーーーっ!』
「「「「「「「?!」」」」」」」

 血相を変えるサロワート。
 当然である。
 敵地のど真ん中に「たったの七人」で乗り込んで来た理由が、ソレであったのだから。

「何を考えてるのアンタ達ぃ!」

 猛る彼女にラディッシュは平静に、

「地世の人たちを、僕たちは単純に「全て敵だ」とは思ってないよ」

 そのいたって真剣な眼差しに、
「な……?!」
 絶句するサロワート。
(何を言ってるの……?!)
 戸惑いを覚えたが、彼は自身が両腰に下げる地世の七草グラン・ディフロイスから譲り受けた二本の刀の柄(つか)に静かに手を置き、そして招くように、彼女に笑顔で右手を差し出した。
 無言でありながら「信頼している人が地世にも居る」とでも言いたげに。
 その優しく、嘘偽りを感じさせない眼差しに、

(そうだったわ……ラディは、ラディ達はいつもそうだった……)

 出会ってから現在までを走馬灯のように思い返し、彼、そして仲間たちが「争いを求めていた訳では無い」のを、改めて悟る。
 党利党略が暗躍する殺伐とした軍に身を置くせいか、優しさが骨身に染みるサロワートであったが、そこはテンプレの「ツンデレさん」。
 示された信頼に、

『ばっ、バカなんじゃないのぉおぉ!』

 隠し切れない照れを憤慨で必死に誤魔化しながら、
「あっ、アタシもアイツも「地世の七草」なのよ!」
 どのような言葉を並べてみても「敵同士」である現実は変わらず、

「少し「良くされたから」ってぇお人好しが過ぎるのよぉ! そんなんじゃアンタ達ぃ、いつか足元をすくわれるわよぉ!」

 反発を招く物言いであるのを重々承知で自ら壁を作り、心は痛んだ。
 しかし、
「気を付けるね♪」
 向けられた素直な笑顔に、

『…………ッ!』

 壁は、いとも容易く瓦解。
 プイっと顔を背けるが精一杯であった。
 耳まで赤い横顔に、ラディッシュは仲間たちと小さく笑い合い、

「それで改めての質問なんだけど、サロワぁ」
「なっ、何よ?!」

 赤面が収まらないのか背けたままの横顔に、

「どうしてサロワが「ここに居た」の?」
『ッ!?』

 ギョッとした驚き顔で振り返る彼女は、
「そっ、それぇはぁ、あ、アレぇよぉ……」
 あからさまに視線を泳がせながら、

『たっ、たまたま……そぅ! たまたま通り掛かったのよぉ!』
「「「「「「「…………」」」」」」」

 ここは木々がうっそうと生い茂り、人の営みも感じさせない、原生(げんせい)を思わせる森の中。
 その様な密林、ジャングルと呼ぶに等しい森の奥地に、一人の少女が「たまたま通り掛かる」筈が無く、ラディッシュ達は物言いたげな眼差しで、

(((((((・・・・・・)))))))

 とは言え、「ストレートに謝意を伝える」のは、ツンデレサロワートには逆効果と理解するが故に、

「「「「「「「へぇーそぉなんだあぁーーー」」」」」」」

 棒読み台詞で、彼女の言い分に納得したフリをして見せた。
「…………」
 見透かされたと、流石に気付くサロワート。
 だからと言って今さら素直になって「謝意を受け取る」のは、

(余計に恥ずかしいわぁ!)

 こちらも気付いていないフリで、

『そっ、そうよぉ! 偶然なのよ偶然! だからアンタ達は「偶然に感謝」なさぁい!』

 ツンを無理くり貫き、
「仕方が無いから「幾つか村」を見せて上げるからぁソレを見たらさっさと中世に帰りなさぁい!」
 不機嫌を装い再びソッポを向いた。
 しかし顔を背けつつ、

(あ、アタシの言い方……なんか最低……)

 羞恥を誤魔化す為であったとは言え、少し後悔を覚えていると、
「え、えとぉ……」
 奥歯に物が挟まった物言いで口籠るラディッシュ。
 自身の言動に対する「七人の反応」も気になったサロワートは、
(…………)
 横目でチラリと様子を窺い、

(ん?)

 目にしたのは、むしろ気マズそうに視線を泳がせる勇者組の姿。
 そんな姿に、

「?!」

 直感するサロワート。
 呆れ交じりの驚愕で、

「あっ、アンタ達ってば、まさかぁ……」

 言わんとしていた事が「伝わった」と悟ったラディッシュはおずおずと、まるで罪を認める犯罪者のように、
「は……はい……」
 申し訳なさげに頷き、彼女は怒りを通り過ぎた脱力で以て、

「アンタ達ってばバカなのぉ……「帰り方も分からない」のにこんな所まで……」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 返す言葉もない、勇者組。
 偶然の結果で「来れた」とは言え、地世に「行く方法」は探していたものの、中世に「戻る方法」まで考えていなかったのは事実であったから。
 自分たちの迂闊さを、ただただ苦笑するしかない勇者組に、サロワートは小さなため息の後、

「分かったわよぉ、乗り掛かった舟だものぉ。中世での借りを「借りっ放し」でアンタ達がフリンジのオモチャにされるのも寝覚めが悪いから、村を幾つか見せてあげた後で(中世に)帰れるように何とかしてあげるわ」
 地獄に仏の一言。

「「「「「「「!」」」」」」」

 七人は表情を気マズから一変させ、満面の笑顔のラディッシュは勢いそのまま彼女の両手を握り、

『ありがとうサロワぁあ♪』
『ひぃうぅぅぅぅうぅ!』

 顔から火が出そうなほどに、真っ赤になるサロワート。

『かぁっ、勘違いしないでよねぇえ!』

 しどろもどろで憤慨し、
「あぁっ、アタシとアンタ達は敵同士なぁ訳でぇ! これはあくまで中世での「借りを返したダケ」なんだからぁあぁ!」
 不機嫌に言い放って見せたが、ラディッシュに握らせたまま振り解かない手が、彼女の本音を雄弁に物語っていて、変わらぬツンデレぶりにドロプウォート達が苦笑する中、ラディッシュは帰り道まで用意してくれた彼女に、

「ありがとう♪ ありがとぉ♪♪ ホントにありがとぉサロワぁ♪♪♪」

 キラキラとした満面の笑顔で謝意を連呼。
 女性の手を握ったままであるのも忘れるほどに。
 その一方で「嬉し恥ずかし」を憤慨で懸命に誤魔化していたサロワートは、誤魔化しももはや限界。

「はぁぅうぅ……」

 今にも意識が飛んで「照れ死」しそうな赤面顔をしていたが、感謝してもしきれないラディッシュは気付かず笑顔で感謝の言葉攻め。
 昇天しそうな顔するサロワートに、「これはある種の拷問」と苦笑するドロプウォート達であった。

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