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第四章

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 視線の先にあったのは、黒狐ハクサンの無数の分身体(ぶんしんたい)。

 頭数を数えただけで戦意が萎えそうになる量ではあったが、サイズは本体より幾分小さく、感じる存在感も本体よりは弱めであった。
 しかし、謁見の間に出現した強力な合成獣キメラを遥かに凌ぐ威圧感から、戦闘力の高さを覚え、

『こんなのぉ、どうやって黒狐に近づけば良いんだよぉ~』

 思わずラディッシュは、いつも通りの「弱気な嘆き」を上げた。
 先程までの「英雄らしい勇ましさ」は何処へやら。
 とは言え現状を鑑みれば、彼が嘆きたくなる気持ちは最もで、剣豪サジタリアは呆れる事なく、

『案ずるでない!』

 弱きを一蹴する強気で以て、
「彼奴(きゃつ)の下までは、ワレとグランで道をつけてやる」
 御指名を受けたグラン・ディフロイスも、
「ホント、その勝手な略称は止めて欲しいんだよねぇ、先輩♪」
 お約束になりつつある苦言を呈した上で、
「勝率を上げるには、まぁそうなるよねぇ♪」
 愛らしい笑顔を見せると、四人は、いつ襲い掛かって来てもおかしくない黒狐軍団と対峙して身構え、再びとなる激戦の火ぶたが切って落とされようと言う刹那、

≪天世より授かりし恩恵を以て我らは戦う!≫ 

 唐突に響いた聞き覚えのある声に、
「「!」」
 ラディッシュとドロプウォートが瞬間的に笑顔を見せ合うと、

≪天雷夜行ッ!≫

 耳をつんざく激しい雷撃が地を駆け抜け、小黒狐(しょうこっこ)軍団の一部である数匹を巻き込み焼き消し、

『待たせたねぇ! ラディ! ドロプ!』

 現れたのは頼れる仲間たち。
 術を放ったニプルを先頭に、パストリス、カドウィード、そしてターナップに護られる様にチィックウィードの姿も。
 誰一人として欠ける事なく、大きな怪我も無く、ラディッシュとドロプウォートは仲間たちの無事な姿から活力を得て、

「僕たちも負けてられないねぇ!」
「無論ですわぁ!」

 満面の笑顔で気勢を上げると、

『行こう、ドロプ!』
『ハイですわァ!』

 頷き合い、

(((((どっ、ドロプぅ?!)))))

 駆け付けた仲間たちが抱いた「素朴な疑惑」をよそに、

≪我がチカラァ! 内なる天世のチカラを以て、≫
≪誓約の理より生まれし我がチカラ! 真なるチカラを以て、≫

 二人は声を揃え、

≪≪立ち塞がりし脅威を打ち払わぁん!≫≫

 爆発したかの様な眩き「白き輝き」を全身から放ち、
「ドロプ!」
 ラディッシュが何事かアイコンタクトすると、
「ハイですわ!」
 ドロプウォートは以心伝心で頷き、右手を仲間たちに、左手をサジタリアとグラン・ディフロイスにかざし、

≪光の護り!≫

 彼ら彼女たちは、
「「「「「「「!」」」」」」」
 その身が「白き輝き」に包まれた。

 戦闘力を底上げすると同時、黒狐ハクサン軍団が放つ過剰に濃密な、地世のチカラに汚染されない為の加護である。
 その光はどこまでも温かく、

(((((ラディの輝き)))))

 笑みを浮かべる仲間たちの姿に、
(戦士には向かぬ男よな……)
 変わらぬ鬼瓦の口元に、微かな笑みを浮かべるサジタリア。
 そして、
(ホント、甘いねぇ。敵である私にまでさ……)
 裏腹に、彼の優しき天世の光に纏われ、思い耽った穏やかな笑みを浮かべるグラン・ディフロイス。
 過ぎ去りし遥か過去に、思いを馳せ。
 浮かぶは「当時の魔王」討伐の折、共に戦った仲間たちと、激戦の合間に見せ合った屈託ない笑顔。

 それぞれに感じた何かはあったものの、時は容赦なく、足踏みしている間にも無辜(むこ)なる人々の命は次々奪われている筈であり、ハクさんとの決着を急ぐラディッシュは気勢を以て、

『行こう、みんな!』

 再会の喜びも束の間、ニプルたちは気合の入った頷きを返すと、小黒狐たち目掛けて四散し、戦闘は開始された。
 その戦いぶりには安定感があり、ラディッシュのチカラの加護があるからとはいえ、強敵キメラ軍勢を退けた自信からか、一回りも二回りも成長した「鬼神」と呼ぶに相応しい強さで、より強敵である筈の小黒狐を次々斬り消し、殴り消していく。

 中でも目を見張ったのは、チィックウィード。
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