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第四章
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立ちはだかる何者かを余談許さぬ眼光で睨み、
『何のマネだ、グラン』
視線の先に居たのはグラン・ディフロイス。
疲労の色が残る愛らしい笑顔で、
「ホント、その勝手な略称は止めて欲しいんだよねぇ、先輩♪」
定番になりつつある前置きをした上で、
「これは私達(地世)が貰っていくよ♪」
「「え!?」」
驚きの声を上げるラディッシュとドロプウォート。
つい先程まで死への恐怖を分かち合い、共闘していた筈が、まさかの裏切りに。
しかしグラン・ディフロイスは天世と敵対する、そもそもが「地世の七草」の一人である。
むしろ共闘していた方が異常であり、当然と思うサジタリアは驚きもせず、
「やはり、そう来たか」
静かに剣を構え直し、その悟った物言いに、
「当然でしょ♪」
愛らしい笑顔で返し、天流虚空丸を構えるグラン・ディフロイス。
「「…………」」
再び対峙する二人に、
「ちょっ、ちょっと二人ともぉ!」
「今その様な事をしている場合ですのぉ!」
慌てて苦言を呈す、ラディッシュとドロプウォート。
その感覚は正常で、階上や、城内、城下では、合成獣との戦闘が未だ続いている筈であったから。
とは言え互いを敵として、改めて照準に収めてしまった二人はもはや聞く耳を持たず、
『『参る!』』
泥仕合になるとしか思えない、無益な戦いを繰り広げようとし、
『『『『ッ!!!』』』』
四人は咄嗟に、その場から大きく飛び退いた。
(認めない……認めないぞ……)
ボソボソと呟く、とある人物の仄暗い声に。
「あ、あはは、ホント、嘘でしょ?!」
「ばっ、馬鹿な、有り得ぬ! 魂の休息がこうも早く終わるなど!」
古参の二人が驚愕の声を漏らし、新参の二人が息を呑む中、血走った両眼をカッと見開き、
『ぼくぁ認めなァアアァァい!』
雄叫びを上げたのは生命活動を一旦完全停止していた筈のハクサン。
鮮やかであった薄紫色の光彩を、赤黒く変色させ、
『ぼくぉ認めない「こんな世界」なんてぇ、天世も中世も地世も存在価値など無ァいんだぁあっぁ!!!』
咆哮した途端、体の中から外に向けて「ドス黒い靄」が一斉に噴き出し、
『ホント闇落ち(やみおち)したよぉ!』
グラン・ディフロイスが驚きの声を上げ、
『イカァン! 全員、もっと距離を取るのだァ! 巻き込まれるぞォ!』
サジタリアも声を上げると共に、四人は更に大きく飛び退いた。
飛び退きはしたが、ラディッシュとドロプウォートにとっては未知の現象。
異変の中心のハクサンに剣を向け構えながらも、
「ヤミオチって、何なんですかぁ! それに、どこまでも膨れ上がる、この異様な地世のチカラは何!?」
「いったい何が起きていますの!」
新参の二人が疑問形の驚きを隠せず、古参の二人は、この現象の先に何が待ち構えているのか知っている様子で慄き、
『『『『!!!』』』』
ついに姿を現したのは、エルブ国軍に甚大な被害を与えた「黒狼パトリニア」を彷彿とさせる、巨大な黒い靄の塊で出来た、
≪黒き九尾≫
妖狐の様な四本足の姿でありながら、尾は九つに分かれ、大きく切れ広がった口からは黒炎の息を吐き、禍々しき存在感を以てラディッシュを、ドロプウォートを、サジタリアを、グラン・ディフロイスを睨み付ける。
その悍(おぞ)ましき存在感もさることながら、内側から絶えず溢れ出る計り知れない地世のチカラの量と濃さに、地世の剣士であるグラン・ディフロイスでさえ、
「あ、あははは、ホント、あんなのに巻き込まれたら、私でも即死かもぉ♪」
愛らしい引きつり笑顔で警戒感を露わにし、
「なんと禍々しき姿は、黒狼(こくろう)ならぬ、黒狐(こっこ)とでも呼ぶべきか!」
天世の剣豪サジタリアも息を呑む程の存在感であったが、それでも中世の救世主たる勇者ラディッシュは引き下がる訳にはいかない。
百人の勇者と誓約者が不在の現状において彼が逃げ出す事、それはつまり「中世の滅亡」を、延いては「三世(※天世・中世・地世)の滅亡」を意味したから。
恐れ、逃げ出しそうになる心を、
(僕が逃げる訳にはいかないんだ!)
奮い立たせて地流閻魔丸を握る両手にチカラを込め、
『サジタリアさん! どうすれば倒せるんですか!』
サジタリアは剣先を黒狐に向けたまま、視線も外す事無く、
「基本は変わらぬ! 黒狐を形作る黒炎の中に感じる「ハクサンの存在」に、先程以上の痛手を与えればそれで良い!」
言葉にすれば容易いが、妖狐の時より「より強大」となった敵を前に、それは容易な話ではなく、
(先程以上の痛手を与えるゥ?!)
しかし、うろたえている場合では無かった。
選択肢が「それしかない」ならば腹を括るしかなく、自らに決意を迫る様に、
「分かりました!」
宣言すると、
『ドロプ!』
『分かっていますわ!』
即応するドロプウォート。
勇者と誓約者の「誓いのチカラ」を以て「未来への道を切り開こう」との、二人の決意の表れではあったが、立ち向かおうとした矢先に何かを目撃し、
『『なっ!?』』
驚き、出鼻を挫かれる二人と、
「なんとぉ!」
「あはは、ホントぉ冗談だよねぇ♪」
唖然とするサジタリアとグラン・ディフロイス。
『何のマネだ、グラン』
視線の先に居たのはグラン・ディフロイス。
疲労の色が残る愛らしい笑顔で、
「ホント、その勝手な略称は止めて欲しいんだよねぇ、先輩♪」
定番になりつつある前置きをした上で、
「これは私達(地世)が貰っていくよ♪」
「「え!?」」
驚きの声を上げるラディッシュとドロプウォート。
つい先程まで死への恐怖を分かち合い、共闘していた筈が、まさかの裏切りに。
しかしグラン・ディフロイスは天世と敵対する、そもそもが「地世の七草」の一人である。
むしろ共闘していた方が異常であり、当然と思うサジタリアは驚きもせず、
「やはり、そう来たか」
静かに剣を構え直し、その悟った物言いに、
「当然でしょ♪」
愛らしい笑顔で返し、天流虚空丸を構えるグラン・ディフロイス。
「「…………」」
再び対峙する二人に、
「ちょっ、ちょっと二人ともぉ!」
「今その様な事をしている場合ですのぉ!」
慌てて苦言を呈す、ラディッシュとドロプウォート。
その感覚は正常で、階上や、城内、城下では、合成獣との戦闘が未だ続いている筈であったから。
とは言え互いを敵として、改めて照準に収めてしまった二人はもはや聞く耳を持たず、
『『参る!』』
泥仕合になるとしか思えない、無益な戦いを繰り広げようとし、
『『『『ッ!!!』』』』
四人は咄嗟に、その場から大きく飛び退いた。
(認めない……認めないぞ……)
ボソボソと呟く、とある人物の仄暗い声に。
「あ、あはは、ホント、嘘でしょ?!」
「ばっ、馬鹿な、有り得ぬ! 魂の休息がこうも早く終わるなど!」
古参の二人が驚愕の声を漏らし、新参の二人が息を呑む中、血走った両眼をカッと見開き、
『ぼくぁ認めなァアアァァい!』
雄叫びを上げたのは生命活動を一旦完全停止していた筈のハクサン。
鮮やかであった薄紫色の光彩を、赤黒く変色させ、
『ぼくぉ認めない「こんな世界」なんてぇ、天世も中世も地世も存在価値など無ァいんだぁあっぁ!!!』
咆哮した途端、体の中から外に向けて「ドス黒い靄」が一斉に噴き出し、
『ホント闇落ち(やみおち)したよぉ!』
グラン・ディフロイスが驚きの声を上げ、
『イカァン! 全員、もっと距離を取るのだァ! 巻き込まれるぞォ!』
サジタリアも声を上げると共に、四人は更に大きく飛び退いた。
飛び退きはしたが、ラディッシュとドロプウォートにとっては未知の現象。
異変の中心のハクサンに剣を向け構えながらも、
「ヤミオチって、何なんですかぁ! それに、どこまでも膨れ上がる、この異様な地世のチカラは何!?」
「いったい何が起きていますの!」
新参の二人が疑問形の驚きを隠せず、古参の二人は、この現象の先に何が待ち構えているのか知っている様子で慄き、
『『『『!!!』』』』
ついに姿を現したのは、エルブ国軍に甚大な被害を与えた「黒狼パトリニア」を彷彿とさせる、巨大な黒い靄の塊で出来た、
≪黒き九尾≫
妖狐の様な四本足の姿でありながら、尾は九つに分かれ、大きく切れ広がった口からは黒炎の息を吐き、禍々しき存在感を以てラディッシュを、ドロプウォートを、サジタリアを、グラン・ディフロイスを睨み付ける。
その悍(おぞ)ましき存在感もさることながら、内側から絶えず溢れ出る計り知れない地世のチカラの量と濃さに、地世の剣士であるグラン・ディフロイスでさえ、
「あ、あははは、ホント、あんなのに巻き込まれたら、私でも即死かもぉ♪」
愛らしい引きつり笑顔で警戒感を露わにし、
「なんと禍々しき姿は、黒狼(こくろう)ならぬ、黒狐(こっこ)とでも呼ぶべきか!」
天世の剣豪サジタリアも息を呑む程の存在感であったが、それでも中世の救世主たる勇者ラディッシュは引き下がる訳にはいかない。
百人の勇者と誓約者が不在の現状において彼が逃げ出す事、それはつまり「中世の滅亡」を、延いては「三世(※天世・中世・地世)の滅亡」を意味したから。
恐れ、逃げ出しそうになる心を、
(僕が逃げる訳にはいかないんだ!)
奮い立たせて地流閻魔丸を握る両手にチカラを込め、
『サジタリアさん! どうすれば倒せるんですか!』
サジタリアは剣先を黒狐に向けたまま、視線も外す事無く、
「基本は変わらぬ! 黒狐を形作る黒炎の中に感じる「ハクサンの存在」に、先程以上の痛手を与えればそれで良い!」
言葉にすれば容易いが、妖狐の時より「より強大」となった敵を前に、それは容易な話ではなく、
(先程以上の痛手を与えるゥ?!)
しかし、うろたえている場合では無かった。
選択肢が「それしかない」ならば腹を括るしかなく、自らに決意を迫る様に、
「分かりました!」
宣言すると、
『ドロプ!』
『分かっていますわ!』
即応するドロプウォート。
勇者と誓約者の「誓いのチカラ」を以て「未来への道を切り開こう」との、二人の決意の表れではあったが、立ち向かおうとした矢先に何かを目撃し、
『『なっ!?』』
驚き、出鼻を挫かれる二人と、
「なんとぉ!」
「あはは、ホントぉ冗談だよねぇ♪」
唖然とするサジタリアとグラン・ディフロイス。
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