ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第四章

4-42

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 四人の戦闘が新たな局面を迎えようとしていた少し前――

 城が一つ入りそうな程の巨大な地下空間で、狂乱染みた笑顔で何かしらの装置のパネルを操作するのはハクサン。
「…………」
 大掛かりな機械装置が居並び、それが彼の言っていた所の「秘密兵器」か。
 自制と言う「箍(たが)」が外れてしまった彼が、今、天世に、袂を分かった仲間たちに何を思い、どの様な考えを以て攻撃準備を進めているのか、その常軌を逸した笑顔から読み取る事は出来ないが、
(!)
 突如として操作の手を止めると、背後から、

『戯れもそこまでだ、ハクサン』

 特徴のある、重厚な男の声が。
 それは、天世の七草サジタリア。
 蜂起を企てるハクサンにとって障害となる「警戒すべき人物」の一人であり、その様な者の重要拠点への侵入を、計画遂行中に許してしまったのだが、

『天世人を手に掛ける事が出来ない制約を持った「元異世界勇者」如きが、ぼくぉ止めに来たのかぁい?』

 ハクサンは振り向きもせず不敵にニヤリと口元を歪めた。
 しかし、

「確かに。暴走したキサマを止める事など、殺しの免罪符を与えられておらぬ「ワレには不可能」かも知れぬがなぁ」

 持って回った物言いに、
(?)
 皮肉を感じて振り返り、
(!)
 幾ばくかの驚きを見せながらも、
「なるほどねぇ~誰を伴ってぼくぉ所に来たのかと思ってみればぁ」
 半笑いの辟易顔をし、

「まさかキミが、しかも天敵を伴って来るとは、流石に思っていなかったよぉ」

 視線の先で並び立っていたのは、エルブ国で命を落とした地世の導師「パトリニア」を彷彿させる黒ローブで全身を覆い隠す何者か。
 個人の識別は不能であるにもかかわらず、ハクサンは確信めいた物言いで、からかいを交えた笑みさえ浮かべながら、
「素顔まで隠しちゃってさ、今さら人見知りする間柄でもないでしょ?」
 一瞬だけ射貫く様な眼差しで、

『ねぇ、グラン・ディフロイス』

 その名は、サジタリアと激闘を繰り広げていた、地世の七草の一人。
「…………」
 するとグラン・ディフロイスは苦笑交じりの大きなため息を吐きながら、
「いやぁホント、つい癖でねぇ~だって素顔を晒すと、」
 フード部分を脱ぎながら、

「みぃ~んな、私の容姿に魅了されちゃうからぁ♪」

 曝した笑顔は「本人の過剰評価」などではなく、男性とも女性ともつかぬ中性的愛らしさを持っていて、剣豪サジタリアと渡り合える腕を持ち合わせながら、天世の七草カリステジアを背後から一刺しに屠った「冷酷無慈悲な人物」と同一とは、とても思えない面立ちであった。

 そんな彼? 彼女? 一括りでは言い表せぬ「愛らしさ」を持ったグラン・ディフロイスに対しハクサンは。
「地世の七草であるキミがぁ、本気で止めに来たのかぁい?」
 ヤレヤレ笑いを浮かべながら、
「キミ達が忌み嫌い、敵視する天世を「これから攻撃しよう」って言うぼくぉ?」
「…………」
「まさか、今さら『元勇者として職責に目覚めた』なんてぇ、クサイセリフを吐いたりはしなよねぇ?」
闇を含んだ笑み。

 怒りを誘発させて平静を失わせようという企てか、皮肉たっぷりの嘲笑であったが、グラン・ディフロイスは余裕の笑みで以て、
「ちっちっちっ。忘れたのかぁい?」
 否定のジェスチャーを見せながら、
「いつの話をしてるのさ。元勇者は「プエラリア」であって、私はその御供(おとも)の一人だよぉ♪」
 揚げ足を取った皮肉で返し、
「それにぶっちゃけさぁ、私は天世や中世が今更どぅなろぅと知った事じゃないんだけどねぇ」
 持って回った言い方で、

「アイツが「落とし前は自分でつけたい」って言い張るモンだから、アイツに甘いプエラリアに頼まれちゃって仕方なく来たんだよねぇ~。まぁ「間に合わなかった」って、嘘ついても構わないんだけどぉ♪」

 天世と中世で多くの人々が命を落とすかもしれない瀬戸際に、ケラケラとした笑顔を見せた。
すると並び立つサジタリアがギロリと視線を移し、
「ワレは少々、無辜(むこ)の民の命を軽んじ過ぎてはおらぬか?」
 しかしグラン・ディフロイスは変わらぬ愛らしい笑みのまま、

「ウルサイんだよ、先輩♪」
「…………」

 嫌味を多分に含んだ呼称で以て、苦言を跳ねのけ、
「ホントぉ、中世の民が「なんで存在する」のか、百人の勇者と誓約者が「どうして集められた」のか、知らない筈がないよねぇ? 逆に知ってて、なんで天世に組してるのさ♪」
 愛らしい笑顔の言葉攻めに、
「…………」
 変わらぬ「鬼瓦」のまま黙るサジタリア。

 グラン・ディフロイスが「彼の秘められた理由」を知るのは明らかであったが、追い打ちをかけるように、
「ホント、忘れないで欲しいんだけどぉ、そっちは「元老院の指示」で来ていて、こっちは「プエラリアに泣きつかれ」来たダケで、今回は、たまたま「目的地が同じダケ」だったってことをさ♪」
 立場の違いを改めて語って聞かせ、馴れ合うつもりが無いのを断言すると、蚊帳の外になりつつあったハクサンが話に割って入る様に、

『それなら目的達成の成功率を少しでも上げる為にも、あの二人(ラディッシュとドロプウォート)を置いて来たのは失敗だったんじゃないのかい?』
「「…………」」

 黙る二人を前に、闇を感じさせる笑みで小さく笑いながら、
「それにきっと、あの「大甘の二人」は奴ら(ケンタウロス達)に勝てないと思うよん♪ 境遇に同情なんかしちゃってさぁ」
 愉快げな笑い顔を見せたが、
(?)
 サジタリアは変わらぬ鬼瓦の無表情でフッと小さく、グラン・ディフロイスも変わらぬ愛らしい笑みでクスッと小さく笑い合い、
(???)
 違和感を覚えるハクサンを前に、二人は「近くに居ながら何を見て来た」と言わんばかりに、

『『二人を甘く見過ぎ(だ・だねぇ)』』

 息ピッタリに嘲笑った。
 ラディッシュとドロプウォートを過小評価する彼を。
 認識のズレは、むしろ近くに長く居過ぎた結果による「灯台下暗し」とでも言うべき弊害か。
 
 そしてサジタリアとグラン・ディフロイスの感覚が間違いで無いのは、スグに証明された。
 二人の嘲笑に、ハクサンが微かな苛立ちを覚えた途端、

「!」
「「!」」

 何かを感じ取り、三人は何も無い壁の一点を凝視。
 その方向はラディッシュとドロプウォートが、今、まさに、ケンタウロス達と激戦を繰り広げている方であり、そこから感じる強大なチカラの波動に、

(まさかこのタイミングで誓約をッ!?)

 ハクサンが誤算を感じ、内心で焦りを覚える一方で、

(やっと済ませおったか)
(まったくホント、遅いよぉ♪)

 心の中で苦笑するサジタリアとグラン・ディフロイス。
 武器を手に、改めて身構えながら、

「どうやら、向こうの片も付きそうな故に、」
「ホント、こっちも付けようかぁ♪」

 威勢を見せる二人を前に、
「…………」
 うつむき黙るハクサン。
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