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第四章

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 時は今のラディッシュとドロプウォートに戻り――

 ハクサンの存在を階下に感じながら、回廊を走る二人。
 それはケンタウロス達の猛攻を退けた結果であり、次なる戦場(いくさば)に向かっている「緊迫のさ中」であったのだが、何故か互いに、
「「…………」」
 どこか気恥ずかしげな赤い顔。

 見た目のなりふりを、強いて言うなら「付き合いたてのカップル」か。

 そんな、謎の初々しさを見せる二人は扉の開け放たれた「とある一室」に駆け込み、
「「!?」」
 そこは入り口の大きさからは到底想像できぬ、巨大な地下空間。
 ちょっとした城が一つ入りそうな程の空間に、天井を支える支柱などは見当たらず、真上に巨大な城が建っていると思えぬ光景に息を呑む中、
「「!」」
 目に留まったのは、全身青アザだらけの剣豪サジタリアとグラン・ディフロイスの姿。

 入って来た二人にも気付けない様子で、剣を支えに肩で息を切らせ、

「ワレ、左腕は、どうした?!」
「利き腕を、庇った拍子に、潰されたダケ、だよ、先輩♪ ホント、それに、血止めは、したしねぇ」

 ハクサンを追い詰めた筈が、追い詰められた状態であるのが一目瞭然であった。
 素顔を晒したグラン・ディフロイスと対面するのは初めての二人。
 しかし、

((この気配は、あの時の!))

 瞬時に同一人物であると理解し、同時に並外れた剣士であるのを、その身に纏う存在感から改めて感じ取りもした。
 そして、その様な「剣豪二人」に、片膝を地に着かせそうなほどのダメージを与えたのは、当然、

((ハク(さん・サン)ッ!))

 用途不明の操作パネルの前に立ち、その身を白き輝きに包む彼であった。
 息一つ乱した様子も見せず、余裕の半笑いさえ浮かべながら、満身創痍の方の二人を見下ろし、
「キミ達ぃ、ぼくぉナメ過ぎじゃない? 何だい、その中途半端な攻撃はぁ? ぼくぁ「百人の天世人」の「序列一位」なんだよぉ?」
 嘲笑ってから、
「!」
 新参の入室者二人(ラディッシュとドロプウォート)に視線を移し、
「随分と手間取ったようだねぇ♪」
 皮肉を口にした途端、
「?!」
 何かに気付いて、

『ハーハッハッハッ!』

 突如、愉快げに大笑い。
 肩で息を切らせるほど疲弊したサジタリアとグラン・ディフロイスは、笑いの意味が分からず、

(なんだ……?)
(なんだろ……?)

 視線を交わし合う中、彼は「愉快」が収まらない様子で、

「キミ達ぃ「誓約」はどぅしちゃったのぉ♪」

 ラディッシュとドロプウォートを指差し、
「すっかり消えちゃってるじゃないかぁ♪」
「なんだとっ?!」
「ウソでしょっ?!」
 慄くサジタリアとグラン・ディフロイス。

 先に感じた「チカラの波動」は二人がよく知る「誓約の輝き」に他ならず、ハクサンの冷やかしを含んだ物言いに疑いを以て、疲労困憊の表情で新参の二人を振り返り見たが、姿を見るなり古参の二人は、

『なんと!』
『有り得ない!』

 驚愕して続ける言葉を失った。
ハクサンの言った通り、二人からは誓約を済ませた者たちが持つ特有の「チカラの波動」や「輝き」が全く感じられず、

『よっ、よもやワレは!』

 とある考えに至るサジタリア。
 同じに考えに至ったグラン・ディフロイスも、

『まさかの「仮誓約」ぅ!?』

 呆れ交じりの声を上げると、ドロプウォートは「ラディッシュの頬にキス」した一場面を発作的に思い出し、
「ッ!」
 羞恥で真っ赤な照れ顔して、

『手も繋いでおりませんのにぃ公衆の面前で「接吻」などぉ出来ませんですわぁあぁっぁ!』

 同じ顔したラディッシュと二人揃って、両手で顔を覆い隠した。
 誓約に必要な物、それは「勇者と誓約者」の「誓いのキス」であった。

『「手繋ぎ」などとぉワレは童(わらべ)かぁ!』
『ホントぉ、公衆の面前ってぇ馬人(ケンタウロス)が二人ダケでしょが!』

 堪らずツッコミを入れる二人に、

『『恥ずかしいモノは恥ずかしいん(でぇす・でぇすわ)!』』

 逆ギレ気味に訴えるラディッシュとドロプウォート。
 この戦いは、世界の命運が懸かった戦いである。
 その重大局面にありながらの、まさかの「初(うぶ)過ぎる反応」に、

((駄目だコレは……))

 絶句するサジタリアとグラン・ディフロイス。
 このままでは「敗戦の色が濃い」と悟った二人は、余裕を以て見下ろすハクサンを、腹を括った表情で見据え直し、
「どぅやらワレは此処(ここ)で、」
「ホント、死ぬ気で戦うしか無いようだねぇ」
 新たな「勇者」と「誓約者」に見切りをつけ、その「事実上の戦力外通告」に、

『ぬぅわぁんですってぇえぇ!』

 闘争心に火が点いた眼の色に変わるドロプウォート。
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