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 しかし、
(で、ですが些か気安いですわぁ)
 あえて素っ気なく、

「その様な事ぉ言われなくとも分かっていますわ!」

 不愉快そうにプイっと横を向いて見せた。

 何故に彼女は人の厚意を素直に受け止められないのか?

 それは彼女が今日まで、両親以外で「近しい距離での人付き合い」と言う物が皆無であったから。
 後に明らかになる「特殊な出自も併せて」ではあるが、彼女は国内最上階級貴族である四大貴族の一つ、オエナンサ家令嬢として幼少期より特別扱い、と言うより腫れ物扱い。
 同い歳の子供達からでさえ距離を置かれ、友達と言う者を持った事がなく、物心ついてから寄って来るようになったのは「彼女の容姿」と「家柄目当て」の、腹の中に一物抱えた輩ばかり。

 その様な連中ばかりに囲まれ成長しては、人の厚意を素直に受け止められなくなるのも当然であり、ラミウムの様に打算なく、「ごく自然」に、さも「当たり前」の様に接して来られると、むしろどう対応すれば良いのか分からず、
「し、仕方が無いですわぁ! でしたら食事の時間と致しますわ!」
 つい、幼少期よりその身に染み付いた、つれない態度を取ってしまうのであった。

 悪意の無い相手に、不快な思いをさせる言い回しをしている自覚はあり、
(私……嫌な物言いをしていますわ……)
 顔には出さず、心の内で密かに悩む箱入り娘。これも、弱った心の上げ足を取らせない為の、成長過程で自然とその身に備わった条件反射的防衛反応のポーカーフェイスであるが、ラミウムはそんな彼女の憂いなど知ってか知らずかお構いなし、

「ほほぅ~?!」

 からかい交じりにニヤリと笑い、
「兵隊相手に段平(だんびら)振りかざしてるような跳ねっ返りに、まっとうな飯が作れるのかぁい?」
「しっ、失礼ですわねぇ! それくらい余裕の容易ですわぁ!」
 憤慨しつつも、そこはかとなく得意げに、自慢の金髪をたなびかせ、

「野営の知識は十二分にありますのよぉ!」

 ドヤ顔を見せた。
 そんな彼女をラミウムは、感心するどころか愉快そうに「クックック」と小さく笑い、

「流石は首席の「自称誓約者」様ってかぁい?」

 皮肉で返し、
「むぅ!」
 思わず自然な「むくれ顔」するドロプウォートであったが、

『スゴイ! ドロプウォートさんって首席だったんだね!』
「?!」

 ラディッシュの無垢な感嘆声に、
「そぉ、そんな事ありませんですわぁ♪」
 鼻高々、元より自己主張の強い胸を更に張り、すっかり気を良くした。のも、ほんの束の間の事。

「ん? 「自称」誓約者??」
「!」

 首傾げに、ドロプウォートの顔色は急降下。
 しかし元イケテナイ少年に女心の機微など気付ける筈も無く、
「そう言えば……闘技場に勇者と誓約者が百組、もぅ揃っていたような……」
「…………」
 傷口に塩。
 バツが悪そうに視線を逸らす彼女の様子に、
「?」
 思い返してみれば「百一人目のイレギュラー勇者」として嫌疑を掛けられた時も、自身の立場を悪くしてまで駆けつけてくれた事など、事情が見えない事ばかり。

(どう言う事???)

 頭の上に無数の「?」を立てていると、ラミウムが愉快そうに「クックックッ」と、ひと笑い、
「お勉強は出来ても「変わり者」だからねぇ、百人の誓約者に選ばれなかったのさぁね」
「変わり者?」
「へっ、ヘンな言い方をなさらないでぇですわぁ! りょ、両親は許可して下さったのに一族が許さなかっただけですわぁ!」
「ほほぅ~そうかぁい?」
 他にも思い当たる理由があるのか、含んだ笑みを浮かべるラミウムであったが、未だ事情が見えないラディッシュは他意無く、

「一族が、どうして?」
「うっ……」

 向けられた真っ直ぐな瞳に、
「そ、それは……」
 言い淀んだが、腹を括った表情でため息交じり、

「四大貴族の子息令嬢は国政の柱石となる者であり……「人の上に立つべくして生まれた者」が、替えの利く一兵卒が如く「前線に赴き戦う必要は無い」と言うんですの……」
(まったく下らない理由ですわ……)

 呆れを滲ませうつむき、その横顔から、
(上(金持ち、権力者)は上で、庶民には分からない気苦労が色々あるんだなぁ~)
 縁遠い世界で起きた苦悩の一端に、

「何だか面倒臭い話だねぇ」

 他人事として苦笑を浮かべた。
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