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しばし後――
仄暗い森の中を我が物顔で闊歩する、赤黒い目をした肉食系動物たち。
虎を思わせる動物や、鋭い嘴を持った猛禽類、熊に似た姿も見受けられる。
食物連鎖の頂点のライバル関係にある彼らは果たして目的(捕食)を成し遂げたのか、互いにけん制し合いながら、森の奥へと消えて行った。
やがて森に小鳥たちのさえずりが戻り、静穏な日常を取り戻す中、一本の巨大な倒木の陰に、
「「「…………」」」
息を殺し、身を潜める、三人の無事な姿があった。
三人は、一先ず難を逃れる事に成功していたのである。
すると、ラディッシュと名付けられた元イケてない少年勇者が、倒木の幹の陰からそっと周囲の様子を窺い、
「…………」
捕食者たちの気配が完全に消えている事にホッと胸を撫で下ろすと、大きく息を吸い込み、彼らが足音共に消えた森の奥に向かって、
「思い知ったかぁ! この僕の「逃げ足の速さ」をぉおぉーーーッ!」
ドヤ顔して「ざまあみろ」とでも言わんばかりの大見得を切り、その残念な猛り姿に、
(完全に負け犬の遠吠えですわぁ……顔は良いですのに……顔は……)
ドロプウォートが呆れ交じりのため息を吐いていると、ラミウムが唐突に、
「一休み、一休みっとぉ」
緊張感も、危機感の欠片も無く、いきなり倒木の上にゴロ寝。
「ちょ、ラミウム様ぁ?!」
ギョッとするドロプウォート。
危機は「一先ず遠のいた」とは言え、完全に拭い去れた訳でもなく、そんな中で平然と昼寝を始めようとする姿に金切り声を上げると、
「何だい何だぁい、うるさいねぇ~」
「寝ている場合ですのぉ!?」
「はぁ?」
「また、いつ襲われるとも限りませんし、何より今は一刻も城を目指しませんとぉ!」
闘技場の人々の身を案じた訴えに、
「何かと思えばぁ、そんな事かぁい?」
ヤレヤレ顔したラミウムは、
「散々逃げ回って疲れた体で、いったい何が出来るってんだい。焦って動いたところで、時間と体力を無駄に消耗するだけだろぅさね?」
「ですがぁ!」
尚も食い下がると、
グゥ~~~~~~~~~ウッ!
ドロプウォートの「腹の獣」が快音を響かせ、
「…………」
恥ずかしそうに赤面してうつむいた。
「一刻も早く、何だってぇ~?」
涅槃姿で、からかい交じりにニヤつくラミウム。
「もう少し肩のチカラをお抜きぃな、ドロプ。んなこっちゃ城に着くまで体が持ちぁやしないよ」
(どっ、「ドロプ」ってぇ?!)
いきなりの愛称呼びに面喰いつつも、距離と壁を感じさせない物言いが胸に心地良く、悪い気はしなかった。
仄暗い森の中を我が物顔で闊歩する、赤黒い目をした肉食系動物たち。
虎を思わせる動物や、鋭い嘴を持った猛禽類、熊に似た姿も見受けられる。
食物連鎖の頂点のライバル関係にある彼らは果たして目的(捕食)を成し遂げたのか、互いにけん制し合いながら、森の奥へと消えて行った。
やがて森に小鳥たちのさえずりが戻り、静穏な日常を取り戻す中、一本の巨大な倒木の陰に、
「「「…………」」」
息を殺し、身を潜める、三人の無事な姿があった。
三人は、一先ず難を逃れる事に成功していたのである。
すると、ラディッシュと名付けられた元イケてない少年勇者が、倒木の幹の陰からそっと周囲の様子を窺い、
「…………」
捕食者たちの気配が完全に消えている事にホッと胸を撫で下ろすと、大きく息を吸い込み、彼らが足音共に消えた森の奥に向かって、
「思い知ったかぁ! この僕の「逃げ足の速さ」をぉおぉーーーッ!」
ドヤ顔して「ざまあみろ」とでも言わんばかりの大見得を切り、その残念な猛り姿に、
(完全に負け犬の遠吠えですわぁ……顔は良いですのに……顔は……)
ドロプウォートが呆れ交じりのため息を吐いていると、ラミウムが唐突に、
「一休み、一休みっとぉ」
緊張感も、危機感の欠片も無く、いきなり倒木の上にゴロ寝。
「ちょ、ラミウム様ぁ?!」
ギョッとするドロプウォート。
危機は「一先ず遠のいた」とは言え、完全に拭い去れた訳でもなく、そんな中で平然と昼寝を始めようとする姿に金切り声を上げると、
「何だい何だぁい、うるさいねぇ~」
「寝ている場合ですのぉ!?」
「はぁ?」
「また、いつ襲われるとも限りませんし、何より今は一刻も城を目指しませんとぉ!」
闘技場の人々の身を案じた訴えに、
「何かと思えばぁ、そんな事かぁい?」
ヤレヤレ顔したラミウムは、
「散々逃げ回って疲れた体で、いったい何が出来るってんだい。焦って動いたところで、時間と体力を無駄に消耗するだけだろぅさね?」
「ですがぁ!」
尚も食い下がると、
グゥ~~~~~~~~~ウッ!
ドロプウォートの「腹の獣」が快音を響かせ、
「…………」
恥ずかしそうに赤面してうつむいた。
「一刻も早く、何だってぇ~?」
涅槃姿で、からかい交じりにニヤつくラミウム。
「もう少し肩のチカラをお抜きぃな、ドロプ。んなこっちゃ城に着くまで体が持ちぁやしないよ」
(どっ、「ドロプ」ってぇ?!)
いきなりの愛称呼びに面喰いつつも、距離と壁を感じさせない物言いが胸に心地良く、悪い気はしなかった。
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