ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
15 / 894

1-15

しおりを挟む
 しかし、ここで両親を引き合いに弱音を吐くは、それこそ四大貴族令嬢の名折れ。

 凛然とした表情で天を見上げ、四大貴族が一子として、
「闘技場の皆様は、ご無事なのでしょうか」
 国王のみならず、国政を担う要人も集まっていた闘技場の人々を思い量っていると、
「さぁてねぇ」
「なッ?!」
「まぁ、戻ってみりゃあ分かるって話さぁねぇ」
 中世に生きる人々の身を案じる様子も見えない言動に、

(何て物言いですのぉ!)

 強い不信感を抱いたが、相手が相手なだけに感情を露骨に表に出す訳にはいかず、
(全ての天世人様が、この様(薄情)な方だとは思いたくありませんわ!)
 怒りをグッとウチに押し留め、

「ならば、いつまでもこの様な場所に座っている場合ではありませんわ!」

 正論を以って、巨木の太枝に未だ座するラミウムに幾ばくかの当て付けをする「立っていたドロプウォート」であったが、城に向かって歩き出そうとし、
「…………」
 右も左も同じに見える、仄暗き深い森。
「いったい、どちらへ進めば良いと言うのでしょう……」
 途方に暮れていると、未だ太枝に座したままのラミウムが、ダルそうな動きで一方向をスッと指差し、

「北東を目指して進みゃあ、いつかは城に着くさぁね」
「北東……北東と言う事は、私たちは南西に飛ばされ・・・・・・」

 フリーズしたかの様に動きを止め、一拍置いてから、

『南西ですってぇえっぇえぇぇっぇぇえぇ?!』

 怒りから一転、両目が飛び出そうなほどの驚きをするドロプウォート。
 冷静さを欠いた姿に、元イケてない少年は言い知れぬ不安を覚え、
「ちょ、ちょっ止めてよぉドロプウォートさん。その反応ぉメチャ怖いんですけど……」
 怯えた表情で周囲を窺いつつ、

「な、なんかマズイのぉ?!」

 するとドロプウォートが緊張感を持った表情で振り返り、
「この地は恐らく、領内の南西にある広大な森ですわ。そして、この場所が本当に「南西の森」でしたら……」
「もっ、森だったらぁ?」
 緊張感を纏った、勿体を付けた物言いに思わず固唾を呑み、答えを待つと、
「国では忌み名として『不帰(かえらず)の森』と呼ばれている場所ですわぁ」
「い、「忌み名」ぁ?! 帰らずぅ?!!!」
 悪寒が走り、背筋がザワザワとざわめいたが、芽生えた恐怖心を自ら紛らわせようと冗談めかした半笑いで以って、

「おっ、おとぎ話の類いの話なんだよねぇ♪」

 横顔を覗き込むと、ドロプウォートは真っ青な顔したうつむき加減で、
「立ち入った者が誰一人として帰って来ませんの……」
「うっ、ウソでしょ?!」
「嘘ではありませんわ!」
 畏れすら抱いた顔を上げ、
「現に北側以外を海に囲まれたこの国は、国防や国益において支障が無いからと、この地をあえて放置していますの! ですから無暗に足を踏み入れて帰らなかった者は、その身を案じられるより、むしろ「愚か者」と嘲られ、」
「ひぅ!」
 得体の知れない何かに怯え、ドロプウォートの腕にしがみ付くイケメン少年勇者。
「「…………」」
 二人は恐怖を露わに周囲を見回し、果てしなく続くかに見える「森の深き暗さ」に息を飲むと、

『キッシッシぃ!』

 巨木の上から愉快そうな笑い声が降り注ぎ、
「「?!」」
 見上げると、
「何が来ても勝ちゃあ良いのさぁね!」
 ラミウムが、さも当然と言った物言いで飛び降りて来て、

「と、言う訳で頼んだよ優等生ぇ! いやぁ「自称誓約者」ってかぁ? クックック」

 ニヤケ顔に、畏敬も忘れてムッとするドロプウォート。
 相手が天世人だからと我慢して来たが、何度も何度も小馬鹿にされては流石に腹に据えかね、

「ワタクシは確かに優秀ですが「優等生」でもなければ「自称誓約者」でもありませんですわぁ!」

 皮肉に対して不快感露わに、未だ腕にしがみ付くイケメン少年勇者を見下ろし、
「それに誰がこの様な「軟弱男」と誓約などぉ!」
 素気無く振り払うとしたが、
「ひぃうぅ……」
 捨てられた子犬の様な眼差しを再び向けられ、

(はぅ!)

 超箱入り娘の乙女心は更に、深く、強く射抜かれ、表面上は辛うじて怒りを保ちながらも心の中では、
(こっ、このぉ顔ぉおぉわぁ~もぅ反則でぇすわぁあぁあぁぁ~~~)
 もはや罵る事も、振り払う事も出来ずにいたが、今さら「振りかざした怒り」を着地点無く収める事などラミウムの前では決まりが悪く、

「そっ、そもそもぉ!」

 咄嗟の思い付きで話の矛先を変えようと、
「ラミウム様は戦って下さらないのですかぁ!」
 しかし、
「聖具が無いつったろぉ?」
 ラミウムは呆れ顔した正論で、いとも容易く返し、
(うぐ……そぅでしたわぁ……)
 言葉に詰まるドロプウォート。

 自ら傷口を広げ、更なる墓穴を掘った形になってしまったが、根っからの負けず嫌いも手伝い引っ込みがつかず、
「そ、そんな事を仰ってぇまかり無数の敵に襲われたらどうするおつもりですのぉ!」
 食い下がると、腕にしがみ付くだけのイケメン少年勇者が、
「あ、あのぉ……」
 おずおずと、
「そう言う「フラグ」は立てない方が……」
「「ふらぐ」って何を言ってますのぉ!」
「ヒィウゥ!」
 怯えて縮こまる頭上に向けて容赦なく、

「貴方も貴方でぇ、いつまでワタクシにしがみ付いておりますのぉ! 勇者ならもっと勇者らしくぅ!」

 揺れる乙女心を悟られぬ為の、あえての「強い叱責」であったが、真っ青な顔してカタカタと震えだすイケメン少年の姿に、
「!?」
(いっ、言い過ぎてしまいましたわぁ?!)
 怒鳴りつけて早々、早くも強く後悔するドロプウォートであったが、

「ん?」

 イケメン少年勇者の怯えた眼が自分にではなく、背後の森へ向いているのに気付いた。
 本来ならば、何かしらの存在を警戒すべき所であるが、
(ははぁ~ん、なるほどですのぉ♪)
 イケメン少年の心理を深読みし、

(悪し様に怒られた事に対する反撃のつもりで、脅かそうと言う訳ですのねぇ~)

 余裕の笑みで以って、
「その様な手段で驚かせようとしても、」
 視線を辿って振り返り、
「私には通用しま……」
 絶句。

 暗き森の奥、闇に赤黒く光る幾つもの、眼、眼、眼、眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼。
 
 冷や汗を垂れ流すラミウム。
「こっ、コイツぁ……」
 ジリッジリリッと後退り、
「に……」
「「にぃ?!」」
 答えを待つ二人を前に、
 
「逃げろぉおぉぉおっぉっぉぉぉおぉぉぉおぉぉおっぉぉぉぉぉ!」

 置き去り先陣切って猛ダッシュ。
 土煙を上げて一人逃げ去る背中に、
「中世の民を護るのが天世人の務めではないのですかぁーーーッ!」
「おぉ置いてかないでよぉおぉぉっぉぉおぉーーーっ!」
 二人も全力ダッシュで猛追。
 すると背後から、

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ギャゥガァーーーーーーッ!!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

 鼓膜を突き破りそうな猛り声と地鳴りが。
 必至に逃げ走る三人は振り返る余裕さえ無く、
「ラミウム様ァ! 今こそ天法で何とかなさってぇえぇ!」
「ざぁけんじゃないよォ! あんな数を相手に呑気に詠唱してたら喰われっちまうだろが! アタシぁ中世の民なんぞの為に、獣のウンコになるつもりは無いねぇ! 命あっての物種さァねぇ!」
「何ですってぇえぇ!」
「ラミウム、ぶっちゃけ過ぎだよぉぅうぅ!」
 全力疾走しながら平然と言ってのけるラミウムに二人も全力疾走しながらツッコムと、
「ラディッシュ!」
((?!))
 必死の形相で走るラミウムは必死の形相で並走する二つの「きょとん顔」に、

「アンタは「アタシの勇者」なんだからアタシの代わりに奴らのエサになって来なァ!」
「!」
(「ラディッシュ」って僕の名前ぇえぇ?!)

 血反吐を吐きそうな形相で走るイケメン少年は血相変えを上乗せし、
「冗談じゃないよぉ! って言うか「ラディッシュ」って「大根」でしょぉおぉ!」
「記憶を奪った後でアタシが付けたのさぁねぇ!」
「よりによって何でそんな美味しそうな名前にしたのぉさぁ! この状況でシャレになってないよぉおおぉぉ!」
「アンタ等の世界の花言葉ってヤツで「潔白と適応力」ってんだろぉ! 汚名を着せられたアンタにゃ「おあつらえの名前」だろうさぁねぇぇえぇ!」
「そんなのぉ知らないよぉおぉぉおぉ!」

 汗だくで走りながら罵り合いをしていると、

「お二人ともその様な事を言い合っている場合ですのぉお!」
「「!?」」
 先行するドロプウォートの焦り声で後ろを振り返れば、

「「!!!」」

 赤黒い目をして鋭い牙を剥き出しに土煙を上げ迫る、多種多様な、おびただしい数の肉食系猛獣御一行様の御姿が。

「ヤツ等のクソになりたくなきゃ死ぬ気で走るんだよぉおぉぉぉぉーーーーーーーー!」
「ヒィヤダァアァァァッァァァアァァッァアァアァーーーーーーーーーーーーーーー!」
「御便(おべん:ウンチの意)になるのはイヤですわぁあぁぁあぁぁぁーーーーーー!」

 雲一つない穏やかな青空の下、三人の逃走劇は果てなく続く。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

処理中です...