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どうしたいんだよ、ぼく

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「ルーク様、もういらしてたんですね」
「ああ。ハロルドがノエルを紹介するって言ってくれたから嬉しくて、いつもより早く目が覚めてしまったよ」
「えっ?」

 びっくりしてお兄様を振り返った。お兄様は、いたずらが成功したようなドヤ顔だ。
 かっこいい顔だけど、ちょっと待ってくださいよ。

「……まさか、お兄様が言っていた熱烈歓迎の人って」
「ああ、ルーク様だ」
「えっ」

 そっとルークを窺うと、ニコニコとしながらこちらを見ている。 

「で、でもなんで」
「だってノエル、らしくもなく緊張しすぎていたらしいじゃないか。ルーク様とのお茶会をあんなに楽しみにしていたのに。楽しみにしすぎて緊張しちゃったんだろ? ルーク様もノエルのことをもっと知りたいって言ってくださったから、こういう場で会うのもいいんじゃないかって思ったんだよ」

「あの時の君は、異常に緊張していたものね。僕は前から君のことを知っていて気になってたから、もっと話をしたいって思ってたんだよ」
「ルーク様……」

 驚くほど真剣に、ルークがぼくの目を見ている。ぼくは思わず視線を逸らしてしまった。
 だって、それが興味のない人に向けるものだとは、とてもじゃないけど思えなかったんだ。困るだろう、こんなの。

 隣ではハロルド兄様が、困ったような笑みを見せていた。感じの悪い弟だと、心配したんだろうか?
 僕はこれ以上どうしようもないよというつもりで兄様を上目づかいに見ていたら、兄様はルークに向かって目配せをする。
 ちゃんと話をしろと言いたいのか。

 しぶしぶちらりとルークに視線を向けてみた。ルークはぼくと目が合ったことでぱああっと表情が明るくなり、キラキラとした笑顔をぼくに向けた。
 とたんにぼくの心臓からドキンと可愛らしい音がした。

 ちょっと待ってよ、ぼく。

 今度こそルークから距離を取ろうと思っていたのに。それにルークのことなんてもう失望して恨んでるだけだと思っていたのに。
 だって、こんな風にキラキラとした笑顔を見せられたら、ルークのことを恨んでいるのかそれとも今でも慕っているのかわからなくなるよ。

「ハロルド様、ルーク様!」
 開始時刻ギリギリに、アーネストが走ってやってきた。そばにルークがいるのを見て、アーネストはおやという顔をした。

「やあ、このあいだはどうも」
「こちらこそありがとうございました。ここの稽古場では初めて会いますね」
「そうだね。ここは不定期だし、僕もまだ2回しか来てないんだ。ハロルドはほぼ皆勤賞みたいだけど」
「ルーク様は時々団長に個別に指導してもらっているんでしょ? 俺はそれがないですから」
「いや、それは父上の意向で……」

 ……やっぱりぼく、場違いっぽいよね。
 ふてくされながら3人の会話をボーっと聞いてるうちに、あたりがなんだかざわざわとしてきた。
 
「待たせたな諸君、これから稽古を始める」
 
 あ、とうとう始まるんだ。

「剣を持っていないものは、ここで貸し出しをするので取りに来るように」

 それ、ぼくのことだね。
 一人で前に出ていくのがちょっと恥ずかしかったので、ハロルドお兄様の顔を見た。一緒についてきてもらいたかったからだ。

「僕が選んであげよう」
 さりげなくルークがすっとぼくのそばに寄って来た。そして何気に肩を抱く。
 それにぼくは、思わずビクッと反射的に体を震わせてしまった。ハッとして、ルークがぼくの肩から手を外した。

「ごめん、やっぱり慣れ慣れしかった?」 
 ほんの少し傷ついた顔だった。思わずぼくは、「おどろいただけですから!」と咄嗟に言い訳をしてしまった。

 そんなぼくに、ルークがあからさまにホッとして微笑む。……キラキラしてる。笑顔がまぶしいよ。


 ぼく、いったい何をしているんだろう……。
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