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48 宴戦場 - le bal dangereux -
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ヴァレル・アストル大公は、ルキウスの呼び掛けに慇懃に応じ、恭しく頭を低くした。
「大公。此度の戦勝、礼を言う。我が国とアミラ王国共に最小限の犠牲でギエリを陥落できたのは、ひとえに貴殿の手腕のお陰だ。最上級の言葉で賛辞を送りたい」
皮肉のつもりだ。暗に裏で取引があったことを蔑んでいる。が、それを知らない諸侯は王太子が政敵であるはずのヴァレルを友好的な態度で褒め称えたという表面的な事実を見た。
ヴァレルはいかにも光栄だというように相合を崩し、臣下らしく王太子に礼を述べた。これが、オルフィニナの目にはサソリの姿に見えた。見えない毒針をこちらに向けられているようだ。
毒針に反応したのは、オルフィニナだけではなかった。彼女の足元で行儀良く座っていたエデンが腰を上げ、小さく唸って牙を見せ始めた。オルフィニナはエデンの背を撫でて後ろへ下がらせると、ヴァレルに笑いかけた。
「ヴァレル・アストル大公。わたしからも礼を言いたい。我が叔父フレデガルをはじめ、一族への寛大な措置に心から感謝する」
「これは、女公殿下。殿下のご高名はよく伺っています。王太子殿下の婚約者としてお会いできるとは、光栄の限り」
ヴァレルは友好的な微笑みを絶やさずにオルフィニナとの握手に応じたが、その目が敵意を持ってオルフィニナを見ていることは明白だ。
(そのはずだ)
ルキウスは内心で嘲笑った。
オルフィニナがアミラ王として名乗りを上げ、更には王太子の婚約者として方々で紹介されているとなっては、まだ諸々の処理が終わっていないギエリを捨ててアストレンヌに戻らざるを得なかっただろう。フレデガルと一悶着でもあったかもしれない。
「大公はまだ知らないようだが――」
ルキウスは鷹揚に言った。
「オルフィニナは女公ではなく、女王だ。今後はそのように接するといい」
ざわざわと諸侯が騒ぎ始めた。王太子の婚約者がアミラの王位継承者であるというのと、既にアミラ女王であるというのでは話が違う。これがただの戯れ言で済まされる話ではないと、みな認知している。
ヴァレルの表情は変わらない。が、初めてオルフィニナがはっきりと分かるほどに、敵意を剥き出しにした。
「であれば、アミラには国王が二人いることになりますな。わたしがギエリで友好的な調印をしたのは、アミラ王エギノルフですから」
「いいや、大公」
オルフィニナが言った。
「もしも貴国との条約の書面にエギノルフ王の署名が記されているとすれば、それは偽物だ」
「ご自分が何を仰っているかおわかりか」
ヴァレルの顔色がみるみる変わっていく。
「もちろんだ大公」
オルフィニナが女神のように微笑んだ。まさに今、あまりにも重大な言葉を告げんとしていることを微塵も感じさせない優美さだ。
「我が父アミラ王エギノルフ・ドレクセンは七年前に死んでいる」
一瞬の静寂ののち、諸侯の間にものすごい速さで動揺が広がっていく音が聞こえた。目の前のヴァレル・アストル大公の顔が崩れた瞬間、ルキウスの背に愉悦が走った。
「庶子の、オルフィニナ殿下が女王とは…」
「嫡女であり、エギノルフ王亡き後の君主であると、直筆の書面と王の指環を託されている。大公――」
オルフィニナは指環の輝く右手を差し出し、微笑んだ。
こめかみの血管がはっきりと浮いて見えるほどにヴァレルは度を無くしている。
まさか、失われた王の指環を王の私生児であるオルフィニナが持っているとは夢にも思わなかったであろう。この男もまた、血統に異常なほど偏執する質の男だ。
「今わたしを女王として遇するかは貴殿に任せる。戴冠もまだだしな。貴殿がギエリで調印した相手が誰なのか、自ら精査してからでなければ納得するまい。ギエリでの終戦協定に不備があったとなっては、由々しきことだ」
オルフィニナは目を細めた。周囲の人間がうっとりするような美しい笑みの中に、ヴァレルへの挑戦が隠れている。
調印の相手が国王でない限り、ギエリでのヴァレルの功績は無効になる。プライドの高いこの男が、この場でオルフィニナを女王として認められるはずがなかった。
それを、オルフィニナもルキウスも承知している。
「いかにも」
ヴァレルは灰色の目を細めた。「殺してやる」と、その目が言っているようだ。
煌びやかに着飾った諸侯が顔色を悪くしてオルフィニナにどう対応するべきか囁き合い始めた頃、この場に国王が現れた。
「オルフィニナ女王、楽しんでいるかな」
諸侯が膝を折る中、国王が真っ先にオルフィニナにこう話しかけたことで、彼らの心は決まった。
ヴァレルは笑顔を貼り付けて、従兄であるレオニード王に儀式的な挨拶をし、四人の騎士を従えてその場を去った。
「さあ、狩りが始まったぞ」
ルキウスがオルフィニナの耳元で、愉しそうに囁いた。
ヴァレルの今後の行動は、想定済みだ。
急ぎ伝令をギエリに放ち、アミラ国民がエギノルフ王の死とオルフィニナが国王を自称している事実を知る前に、それらの事実をフレデガルから王国の正式な声明として発表させるつもりだ。それも、庶子であるオルフィニナがエギノルフを弑し、敵国エマンシュナと手を組んで不当に女王を僭称している、などという内容に捻じ曲げた上でオルフィニナを反逆罪に問うだろうことは、容易に想像できる。
しかし、オルフィニナが手を打つ方が早かった。
この時、ギエリの民衆は既に、エギノルフ王がとうに亡いことを知っている。
オルフィニナの命令を鳩から受け取ったジギがオルデンのベルンシュタインを使い、アミラ国内のあちこちで噂を流布した結果だ。
噂――則ち、アミラ王エギノルフはとうの昔に死に、王弟フレデガルが権力を恣にしている。次の正統な王位継承者は嫡女オルフィニナ殿下であり、簒奪者フレデガルから王国を守るべくエマンシュナにて備えている。というものだ。
これにより、アミラ国民は割れた。
オルデン女公としてのオルフィニナの功績を知っている民衆は彼女の戴冠を望み、血族意識の強い高位の貴族たちはフレデガルを王に望んでいる。そして、ごく一部の者たちは、この非常事態においては法律を曲げてでも未成年の王太子イゾルフに今すぐ戴冠させるべしと主張しているのだ。
オルフィニナの命を狙う猟犬は、既にフレデガルのもとから放たれているだろう。
「とうに始まっているよ」
オルフィニナはルキウスに暗い笑みを見せて言った。
ヴァレルが出て行った後、宴は活気を取り戻し、ルキウスの凱旋とオルフィニナ女王との婚約を祝う長蛇の列が彼らの前にできた。
それが終わると、ダンスが始まった。
男女がペアになる伝統舞踊のエメネケットから始まり、更に大勢の男女が輪になりパートナーを順番に変えていく形式のエメネケット・ロンドへと変わる。
オルフィニナは、おそらく過去にルキウスと関係を持ったであろう貴婦人を何人か見つけた。皆いくつか年上で、宝飾品を多く身につけた、虚栄心の塊のような女たちだ。彼女たちはねっとりとルキウスを見つめ、誘惑を試みていた。彼女たちはルキウスの企みにより没落の憂き目に遭っているはずだが、古い家名によりこの場に列席することを許されているのだろう。
どうしてももう一度王太子の気を引きたいのか、パートナーが入れ替わり自分に順番が回って来ると、手を合わせる瞬間に指を絡めようとしたり、不必要に身体を寄せようとしたりと、見るに耐えない有り様だった。
ルキウスの気を引きたいのは、過去の女たちだけではない。他の者たちよりもルキウスに対して馴れた様子で話しかけているのは、今まで婚約者候補として過去の宴で相伴していた令嬢だろうと思われた。それも、何人かいる。彼女たちも同じく、アミラの女王と正式な婚約を結んだからと言って、麗しい放蕩者の王太子が自分のものにならないとは考えていないようだ。
一方、オルフィニナの相手として順繰りに回ってくる紳士たちは、大人しいものだ。
ある若い紳士は何か言いたいことがあるのか、口を半開きにしたままこちらの顔を眺めてばかりいたために足元を疎かにして躓き、ある中年の紳士は慇懃に接しながらも頭から足元までまじまじと品定めするような視線を絡みつかせてきた。
国王と王太子の手前、あからさまな敵意を示すものはいなかったものの、この場に於いては自分が最も彼らの好奇心を刺激しているだろうという自覚はある。
彼らの中で最も正直な態度を示したのは、ある令嬢だった。
パートナーの入れ替わりの折に、隣で踊っていた老婦人をさりげなく押し退けてオルフィニナの手前に入ってきた令嬢がいた。やや強引だったが、あまりに自然な入り方だったために、当の老婦人も順番を変えられたことに気づいていない。
「僭越ながら、わたくしからもお祝い申し上げるお許しをくださいませ。オルフィニナ女王陛下」
令嬢は単調なエメネケット・ロンドのステップを踏みながら言った。
賢そうな娘だ。明るい金色の髪を編み込んで下ろし、慎ましやかなハイネックのコバルトブルーのドレスに身を包んでいる。未練たらしく王太子に秋波を送り続けるだけの元婚約者候補の令嬢たちとは違う。
「ありがとう、ご令嬢」
令嬢はパートナーの若い紳士とくるりと立ち位置を変えながら、オルフィニナに向かって挑発するように笑って見せた。
「わたくしが誰かお聞きにならないのですか?」
「そうだな。当ててみよう」
オルフィニナは弟妹を見るような目で微笑し、パートナーの紳士と場所を入れ替わった。周囲の紳士たちが礼儀正しい笑顔を浮かべながら聞き耳を立てているのがわかる。
「物怖じしない話し方と、女王のわたしに堂々と話しかけてくるところから見て、公爵以上の家のご令嬢かな。先ほどドレスの仕立てが同じご夫人を見た。彼女はバスケ元帥の奥方だから、あなたはそのご令嬢だろう。確か四人の令嬢のうち三人は既に嫁いでいるから、あなたは末娘のジュスティーヌだ。どうだ、正しいかな?」
令嬢は驚いたように目を見開いた後、もう一度微笑を作って見せた。
「恐れ入りました。それだけの情報で推理なさるとは、さすがのご慧眼です」
「ふふ。推理は嘘だ。本当はあなたがバスケ元帥夫妻とこの城に到着したのを見ていただけだよ」
オルフィニナが片目を瞑って冗談めかすと、周囲で話に聞き耳を立てていた紳士たちが吹き出した。次第に速くなる曲調に合わせて足を運ばせながら、ジュスティーヌ嬢は唇を引き攣らせた。
男たちがなぜ笑っていられるのか理解できないからだ。このアミラの女王は、この大広間に現れる前から、城のどこかでこの場に集まる諸侯をその目で観察していたことになる。その上、有力者の家族の名前まで頭に入れている。恐ろしく抜け目がない女性だ。
「どちらにしても、観察眼が鋭くていらっしゃるのは変わりませんわ。もしかして、この場にいる方全員を把握していらっしゃるのですか?」
「いいや、全員ではない」
「ですが、わたくしの名をご存じであれば、わたくしの立場がどういうものかもご存じですわね」
「もちろん。エマンシュナの軍において最も大きな権力を持つランスロット・バスケ元帥の息女ジュスティーヌ嬢――王太子ルキウスの婚約者候補の一人だったな」
エメネケット・ロンドの曲が一際速いテンポに変わった。間も無く輪舞が終わりを迎えようとしている。軽快に鳴り響く弦楽器の音が、心なしかジュスティーヌ嬢の灰色の目を鋭く見せた。
「わたくしを妃にすれば、王太子殿下は軍を味方につけられるのです。友好関係が築けるどうかも危うい敵国の女王陛下を妻に迎えられるよりも、ずっと現実的だと思いますわ」
オルフィニナは令嬢に対して微笑して見せた。相手の男性と手を合わせ、くるりと立ち位置を入れ替わった後、次に回ってきた相手は、ルキウスだ。ルキウスが冷ややかな目でジュスティーヌ嬢を見たのは、今まで彼女がオルフィニナと交わしていた会話がどんなものであるか察しているためだろう。
最初のパートナーと再び踊り、エメネケット・ロンドは終わる。男女が向かい合ってお辞儀をした後、オルフィニナは隣のジュスティーヌ嬢に言った。
「わたしの男は婚姻を頼りにしなければ自分の軍を味方につけられないほど小さな器ではないよ」
オルフィニナはエスコートのために差し出されたルキウスの手を取り、ちょっと面食らったような顔でこちらを見つめてくるルキウスに口の形だけで「なんだ」と文句をつけた。
「‘わたしの男’?」
ルキウスは声を低くしてニヤリと笑い、オルフィニナの方に屈んで、優しく頬に触れた。
「特別な意図はない」
「ふ。嫉妬してくれたみたいだな」
「違う」
オルフィニナは否定したが、頬がほんのり染まっていては説得力がない。
ルキウスはそのまま身を屈めてオルフィニナの唇にキスをした。公的な場における王太子の言動としては、相応しくない。一部の慎み深い者たちはその行動の軽薄さに眉を顰めたが、その場にいた多くの者がその光景をうっとりと眺めた。
立場を無くしたのは、ジュスティーヌ・バスケ嬢だ。その場から去る前に、チクリとこんなことを言った。
「指環を贈ることも忘れるほどお互いに夢中なのですね」
正式な婚約が取り交わされた際、婚約指輪を贈るのが通例だが、まだそれを行っていないことについて揶揄しているのだ。互いをそれほど大切に想っていないのではないかと、疑惑を抱かせている。王妃になる夢を絶ったオルフィニナとルキウスへの、細やかな意趣返しでもあっただろう。
ところがルキウスはジュスティーヌ嬢に向かって、彼女に対しては初めての晴れやかな笑顔を見せた。
「いいことを言ってくれた、元帥令嬢」
この時の王太子の言動に、国王を含む全員が驚いた。オルフィニナもだ。
ルキウスは大勢の目の前で膝をつき、オルフィニナの左手を取った。一斉に全員の視線が中央の二人に集中する。よもや臣下の礼ではあるまいかと色めき立つ血気盛んな老紳士もいたが、これは違うと皆が気付いた。
「オルフィニナ・ディートリケ・ドレクセン――」
ルキウスはオルフィニナに乞うようにその顔を見上げた。
オルフィニナは、声も出せなかった。緑色の目に宿る光の強さに、眩暈がする。
「神々と国民に誓う」
この時ルキウスが上衣の内側のポケットから取り出したものを見て、オルフィニナは更に驚いた。
金の指環――それも、ルドヴァンの工房で手に入れるのを諦めた‘再生’の指環だ。螺旋を描くように枝が絡まり、花を咲かせ、葉を茂らせ、実をつけ、枯れて、一つの輪を作っている。
「命尽きるまで、俺は夫として君を守る。何よりも愛しいニナ、妻になってくれ。今ここで」
(やられた)
予定では、正式な婚約を宣言するはずだった。しかし、ルキウスはこの場で婚姻を結ぼうとしている。
エマンシュナの法では、王族は議会の承認無しに婚姻を結ぶことができる。国王が反対しない限りは、この場で諸侯を証人として夫婦になることは可能だ。あとは形式的な結婚許可証にサインさえすれば良い。
しかし、こんな結婚は前代未聞だ。国王と有力貴族の集まる公的な場で、あまつさえ神々と国民にまで宣誓したとあっては、もはやこの場限りの余興では済まされない。
そしてオルフィニナに残された答えは、一つしかない。
この大舞台で、全ての人間を騙すのだ。
「ステファン・ルキウス・アストル」
オルフィニナは権高に、しかし優美に笑った。目の前の男しか見えないというような顔をするのは、不思議と難しくなかった。
「わたしも神々とわが国民、そしてエマンシュナの国民に誓う。命絶えるまで、わたしはあなたの妻だ」
ここまで口にしたところで、ルキウスの何かを訴えるような目に気付いた。何を促しているのか理解すると、意図せず心臓が大きく鼓動した。オルフィニナは唇をひくりとさせ、ルキウスの無言の要求に応えた。
「…誰より愛おしいルキウス。あなたへの愛を誓う」
顔が熱い。
この婚姻がもはや正式なものとなってしまったことへの罪悪感か、或いは不本意ながらルキウスへの愛を告げたことへの戸惑いかもしれない。
しかし、目の前のルキウスは弾けるような笑顔でオルフィニナをきつく抱きしめ、包んだ左手を大切そうに引き寄せて、指環を嵌めた。
「俺にも付けて」
ルキウスがオルフィニナの頬にキスをしながら甘く囁いた。ポケットからもう一つ取り出したのは、オルフィニナの指にあるのと同じ指環だ。驚きのあまり、オルフィニナは場の空気も忘れて頬を緩めてしまった。
「驚いたな。どうやった。一つしかなかったし、売る気もないと言っていたのに」
オルフィニナが指環を受け取り、声を潜めて訊ねた。
「愛する人に捧げたいと言って頼み込んだ。あと、いくつかの取り引きをして、金を積んだ。ルドヴァンを発つ前日に完成したんだ。俺のは息子の作品だ」
ルキウスも声を潜め、得意げに片目を瞑って見せた。
オルフィニナは指環をじっと眺めた。同じ指環だが、枝の質感や花びらの開き方に違いがある。職人が自分の解釈を交えて完成させたのだろう。
「よく譲ってくれたものだ」
「君が装飾品を気に入るのを初めて見たから、何としても手に入れたかった」
オルフィニナはふと笑みを漏らして、ルキウスの左手の薬指に指環を嵌めた。
「ありがとう、リュカ。思いのほか嬉しい自分にも驚いてる」
ルキウスはオルフィニナの左手を握り、優しく笑ってキスをした。
当初は戸惑っていた諸侯が祝福の拍手を始め、歓声が響く。この中にどれほどの敵意が混ざっているか定かではないが、少なくとも真っ向からこの結婚宣言を止めようとする者が現れなかったということは、大意はこの婚姻に肯定的と理解していい。
拍手が収まると、終わったはずのダンスが再び始まった。祝福のために楽団が気を利かせたのだ。結婚の祝いに相応しい、華やかでテンポの速いワルツだった。
国王レオニードは呆れたように首を振りながら、ワインの注がれたゴブレットを掲げて息子とその妃に対して祝福を表した。
「大公。此度の戦勝、礼を言う。我が国とアミラ王国共に最小限の犠牲でギエリを陥落できたのは、ひとえに貴殿の手腕のお陰だ。最上級の言葉で賛辞を送りたい」
皮肉のつもりだ。暗に裏で取引があったことを蔑んでいる。が、それを知らない諸侯は王太子が政敵であるはずのヴァレルを友好的な態度で褒め称えたという表面的な事実を見た。
ヴァレルはいかにも光栄だというように相合を崩し、臣下らしく王太子に礼を述べた。これが、オルフィニナの目にはサソリの姿に見えた。見えない毒針をこちらに向けられているようだ。
毒針に反応したのは、オルフィニナだけではなかった。彼女の足元で行儀良く座っていたエデンが腰を上げ、小さく唸って牙を見せ始めた。オルフィニナはエデンの背を撫でて後ろへ下がらせると、ヴァレルに笑いかけた。
「ヴァレル・アストル大公。わたしからも礼を言いたい。我が叔父フレデガルをはじめ、一族への寛大な措置に心から感謝する」
「これは、女公殿下。殿下のご高名はよく伺っています。王太子殿下の婚約者としてお会いできるとは、光栄の限り」
ヴァレルは友好的な微笑みを絶やさずにオルフィニナとの握手に応じたが、その目が敵意を持ってオルフィニナを見ていることは明白だ。
(そのはずだ)
ルキウスは内心で嘲笑った。
オルフィニナがアミラ王として名乗りを上げ、更には王太子の婚約者として方々で紹介されているとなっては、まだ諸々の処理が終わっていないギエリを捨ててアストレンヌに戻らざるを得なかっただろう。フレデガルと一悶着でもあったかもしれない。
「大公はまだ知らないようだが――」
ルキウスは鷹揚に言った。
「オルフィニナは女公ではなく、女王だ。今後はそのように接するといい」
ざわざわと諸侯が騒ぎ始めた。王太子の婚約者がアミラの王位継承者であるというのと、既にアミラ女王であるというのでは話が違う。これがただの戯れ言で済まされる話ではないと、みな認知している。
ヴァレルの表情は変わらない。が、初めてオルフィニナがはっきりと分かるほどに、敵意を剥き出しにした。
「であれば、アミラには国王が二人いることになりますな。わたしがギエリで友好的な調印をしたのは、アミラ王エギノルフですから」
「いいや、大公」
オルフィニナが言った。
「もしも貴国との条約の書面にエギノルフ王の署名が記されているとすれば、それは偽物だ」
「ご自分が何を仰っているかおわかりか」
ヴァレルの顔色がみるみる変わっていく。
「もちろんだ大公」
オルフィニナが女神のように微笑んだ。まさに今、あまりにも重大な言葉を告げんとしていることを微塵も感じさせない優美さだ。
「我が父アミラ王エギノルフ・ドレクセンは七年前に死んでいる」
一瞬の静寂ののち、諸侯の間にものすごい速さで動揺が広がっていく音が聞こえた。目の前のヴァレル・アストル大公の顔が崩れた瞬間、ルキウスの背に愉悦が走った。
「庶子の、オルフィニナ殿下が女王とは…」
「嫡女であり、エギノルフ王亡き後の君主であると、直筆の書面と王の指環を託されている。大公――」
オルフィニナは指環の輝く右手を差し出し、微笑んだ。
こめかみの血管がはっきりと浮いて見えるほどにヴァレルは度を無くしている。
まさか、失われた王の指環を王の私生児であるオルフィニナが持っているとは夢にも思わなかったであろう。この男もまた、血統に異常なほど偏執する質の男だ。
「今わたしを女王として遇するかは貴殿に任せる。戴冠もまだだしな。貴殿がギエリで調印した相手が誰なのか、自ら精査してからでなければ納得するまい。ギエリでの終戦協定に不備があったとなっては、由々しきことだ」
オルフィニナは目を細めた。周囲の人間がうっとりするような美しい笑みの中に、ヴァレルへの挑戦が隠れている。
調印の相手が国王でない限り、ギエリでのヴァレルの功績は無効になる。プライドの高いこの男が、この場でオルフィニナを女王として認められるはずがなかった。
それを、オルフィニナもルキウスも承知している。
「いかにも」
ヴァレルは灰色の目を細めた。「殺してやる」と、その目が言っているようだ。
煌びやかに着飾った諸侯が顔色を悪くしてオルフィニナにどう対応するべきか囁き合い始めた頃、この場に国王が現れた。
「オルフィニナ女王、楽しんでいるかな」
諸侯が膝を折る中、国王が真っ先にオルフィニナにこう話しかけたことで、彼らの心は決まった。
ヴァレルは笑顔を貼り付けて、従兄であるレオニード王に儀式的な挨拶をし、四人の騎士を従えてその場を去った。
「さあ、狩りが始まったぞ」
ルキウスがオルフィニナの耳元で、愉しそうに囁いた。
ヴァレルの今後の行動は、想定済みだ。
急ぎ伝令をギエリに放ち、アミラ国民がエギノルフ王の死とオルフィニナが国王を自称している事実を知る前に、それらの事実をフレデガルから王国の正式な声明として発表させるつもりだ。それも、庶子であるオルフィニナがエギノルフを弑し、敵国エマンシュナと手を組んで不当に女王を僭称している、などという内容に捻じ曲げた上でオルフィニナを反逆罪に問うだろうことは、容易に想像できる。
しかし、オルフィニナが手を打つ方が早かった。
この時、ギエリの民衆は既に、エギノルフ王がとうに亡いことを知っている。
オルフィニナの命令を鳩から受け取ったジギがオルデンのベルンシュタインを使い、アミラ国内のあちこちで噂を流布した結果だ。
噂――則ち、アミラ王エギノルフはとうの昔に死に、王弟フレデガルが権力を恣にしている。次の正統な王位継承者は嫡女オルフィニナ殿下であり、簒奪者フレデガルから王国を守るべくエマンシュナにて備えている。というものだ。
これにより、アミラ国民は割れた。
オルデン女公としてのオルフィニナの功績を知っている民衆は彼女の戴冠を望み、血族意識の強い高位の貴族たちはフレデガルを王に望んでいる。そして、ごく一部の者たちは、この非常事態においては法律を曲げてでも未成年の王太子イゾルフに今すぐ戴冠させるべしと主張しているのだ。
オルフィニナの命を狙う猟犬は、既にフレデガルのもとから放たれているだろう。
「とうに始まっているよ」
オルフィニナはルキウスに暗い笑みを見せて言った。
ヴァレルが出て行った後、宴は活気を取り戻し、ルキウスの凱旋とオルフィニナ女王との婚約を祝う長蛇の列が彼らの前にできた。
それが終わると、ダンスが始まった。
男女がペアになる伝統舞踊のエメネケットから始まり、更に大勢の男女が輪になりパートナーを順番に変えていく形式のエメネケット・ロンドへと変わる。
オルフィニナは、おそらく過去にルキウスと関係を持ったであろう貴婦人を何人か見つけた。皆いくつか年上で、宝飾品を多く身につけた、虚栄心の塊のような女たちだ。彼女たちはねっとりとルキウスを見つめ、誘惑を試みていた。彼女たちはルキウスの企みにより没落の憂き目に遭っているはずだが、古い家名によりこの場に列席することを許されているのだろう。
どうしてももう一度王太子の気を引きたいのか、パートナーが入れ替わり自分に順番が回って来ると、手を合わせる瞬間に指を絡めようとしたり、不必要に身体を寄せようとしたりと、見るに耐えない有り様だった。
ルキウスの気を引きたいのは、過去の女たちだけではない。他の者たちよりもルキウスに対して馴れた様子で話しかけているのは、今まで婚約者候補として過去の宴で相伴していた令嬢だろうと思われた。それも、何人かいる。彼女たちも同じく、アミラの女王と正式な婚約を結んだからと言って、麗しい放蕩者の王太子が自分のものにならないとは考えていないようだ。
一方、オルフィニナの相手として順繰りに回ってくる紳士たちは、大人しいものだ。
ある若い紳士は何か言いたいことがあるのか、口を半開きにしたままこちらの顔を眺めてばかりいたために足元を疎かにして躓き、ある中年の紳士は慇懃に接しながらも頭から足元までまじまじと品定めするような視線を絡みつかせてきた。
国王と王太子の手前、あからさまな敵意を示すものはいなかったものの、この場に於いては自分が最も彼らの好奇心を刺激しているだろうという自覚はある。
彼らの中で最も正直な態度を示したのは、ある令嬢だった。
パートナーの入れ替わりの折に、隣で踊っていた老婦人をさりげなく押し退けてオルフィニナの手前に入ってきた令嬢がいた。やや強引だったが、あまりに自然な入り方だったために、当の老婦人も順番を変えられたことに気づいていない。
「僭越ながら、わたくしからもお祝い申し上げるお許しをくださいませ。オルフィニナ女王陛下」
令嬢は単調なエメネケット・ロンドのステップを踏みながら言った。
賢そうな娘だ。明るい金色の髪を編み込んで下ろし、慎ましやかなハイネックのコバルトブルーのドレスに身を包んでいる。未練たらしく王太子に秋波を送り続けるだけの元婚約者候補の令嬢たちとは違う。
「ありがとう、ご令嬢」
令嬢はパートナーの若い紳士とくるりと立ち位置を変えながら、オルフィニナに向かって挑発するように笑って見せた。
「わたくしが誰かお聞きにならないのですか?」
「そうだな。当ててみよう」
オルフィニナは弟妹を見るような目で微笑し、パートナーの紳士と場所を入れ替わった。周囲の紳士たちが礼儀正しい笑顔を浮かべながら聞き耳を立てているのがわかる。
「物怖じしない話し方と、女王のわたしに堂々と話しかけてくるところから見て、公爵以上の家のご令嬢かな。先ほどドレスの仕立てが同じご夫人を見た。彼女はバスケ元帥の奥方だから、あなたはそのご令嬢だろう。確か四人の令嬢のうち三人は既に嫁いでいるから、あなたは末娘のジュスティーヌだ。どうだ、正しいかな?」
令嬢は驚いたように目を見開いた後、もう一度微笑を作って見せた。
「恐れ入りました。それだけの情報で推理なさるとは、さすがのご慧眼です」
「ふふ。推理は嘘だ。本当はあなたがバスケ元帥夫妻とこの城に到着したのを見ていただけだよ」
オルフィニナが片目を瞑って冗談めかすと、周囲で話に聞き耳を立てていた紳士たちが吹き出した。次第に速くなる曲調に合わせて足を運ばせながら、ジュスティーヌ嬢は唇を引き攣らせた。
男たちがなぜ笑っていられるのか理解できないからだ。このアミラの女王は、この大広間に現れる前から、城のどこかでこの場に集まる諸侯をその目で観察していたことになる。その上、有力者の家族の名前まで頭に入れている。恐ろしく抜け目がない女性だ。
「どちらにしても、観察眼が鋭くていらっしゃるのは変わりませんわ。もしかして、この場にいる方全員を把握していらっしゃるのですか?」
「いいや、全員ではない」
「ですが、わたくしの名をご存じであれば、わたくしの立場がどういうものかもご存じですわね」
「もちろん。エマンシュナの軍において最も大きな権力を持つランスロット・バスケ元帥の息女ジュスティーヌ嬢――王太子ルキウスの婚約者候補の一人だったな」
エメネケット・ロンドの曲が一際速いテンポに変わった。間も無く輪舞が終わりを迎えようとしている。軽快に鳴り響く弦楽器の音が、心なしかジュスティーヌ嬢の灰色の目を鋭く見せた。
「わたくしを妃にすれば、王太子殿下は軍を味方につけられるのです。友好関係が築けるどうかも危うい敵国の女王陛下を妻に迎えられるよりも、ずっと現実的だと思いますわ」
オルフィニナは令嬢に対して微笑して見せた。相手の男性と手を合わせ、くるりと立ち位置を入れ替わった後、次に回ってきた相手は、ルキウスだ。ルキウスが冷ややかな目でジュスティーヌ嬢を見たのは、今まで彼女がオルフィニナと交わしていた会話がどんなものであるか察しているためだろう。
最初のパートナーと再び踊り、エメネケット・ロンドは終わる。男女が向かい合ってお辞儀をした後、オルフィニナは隣のジュスティーヌ嬢に言った。
「わたしの男は婚姻を頼りにしなければ自分の軍を味方につけられないほど小さな器ではないよ」
オルフィニナはエスコートのために差し出されたルキウスの手を取り、ちょっと面食らったような顔でこちらを見つめてくるルキウスに口の形だけで「なんだ」と文句をつけた。
「‘わたしの男’?」
ルキウスは声を低くしてニヤリと笑い、オルフィニナの方に屈んで、優しく頬に触れた。
「特別な意図はない」
「ふ。嫉妬してくれたみたいだな」
「違う」
オルフィニナは否定したが、頬がほんのり染まっていては説得力がない。
ルキウスはそのまま身を屈めてオルフィニナの唇にキスをした。公的な場における王太子の言動としては、相応しくない。一部の慎み深い者たちはその行動の軽薄さに眉を顰めたが、その場にいた多くの者がその光景をうっとりと眺めた。
立場を無くしたのは、ジュスティーヌ・バスケ嬢だ。その場から去る前に、チクリとこんなことを言った。
「指環を贈ることも忘れるほどお互いに夢中なのですね」
正式な婚約が取り交わされた際、婚約指輪を贈るのが通例だが、まだそれを行っていないことについて揶揄しているのだ。互いをそれほど大切に想っていないのではないかと、疑惑を抱かせている。王妃になる夢を絶ったオルフィニナとルキウスへの、細やかな意趣返しでもあっただろう。
ところがルキウスはジュスティーヌ嬢に向かって、彼女に対しては初めての晴れやかな笑顔を見せた。
「いいことを言ってくれた、元帥令嬢」
この時の王太子の言動に、国王を含む全員が驚いた。オルフィニナもだ。
ルキウスは大勢の目の前で膝をつき、オルフィニナの左手を取った。一斉に全員の視線が中央の二人に集中する。よもや臣下の礼ではあるまいかと色めき立つ血気盛んな老紳士もいたが、これは違うと皆が気付いた。
「オルフィニナ・ディートリケ・ドレクセン――」
ルキウスはオルフィニナに乞うようにその顔を見上げた。
オルフィニナは、声も出せなかった。緑色の目に宿る光の強さに、眩暈がする。
「神々と国民に誓う」
この時ルキウスが上衣の内側のポケットから取り出したものを見て、オルフィニナは更に驚いた。
金の指環――それも、ルドヴァンの工房で手に入れるのを諦めた‘再生’の指環だ。螺旋を描くように枝が絡まり、花を咲かせ、葉を茂らせ、実をつけ、枯れて、一つの輪を作っている。
「命尽きるまで、俺は夫として君を守る。何よりも愛しいニナ、妻になってくれ。今ここで」
(やられた)
予定では、正式な婚約を宣言するはずだった。しかし、ルキウスはこの場で婚姻を結ぼうとしている。
エマンシュナの法では、王族は議会の承認無しに婚姻を結ぶことができる。国王が反対しない限りは、この場で諸侯を証人として夫婦になることは可能だ。あとは形式的な結婚許可証にサインさえすれば良い。
しかし、こんな結婚は前代未聞だ。国王と有力貴族の集まる公的な場で、あまつさえ神々と国民にまで宣誓したとあっては、もはやこの場限りの余興では済まされない。
そしてオルフィニナに残された答えは、一つしかない。
この大舞台で、全ての人間を騙すのだ。
「ステファン・ルキウス・アストル」
オルフィニナは権高に、しかし優美に笑った。目の前の男しか見えないというような顔をするのは、不思議と難しくなかった。
「わたしも神々とわが国民、そしてエマンシュナの国民に誓う。命絶えるまで、わたしはあなたの妻だ」
ここまで口にしたところで、ルキウスの何かを訴えるような目に気付いた。何を促しているのか理解すると、意図せず心臓が大きく鼓動した。オルフィニナは唇をひくりとさせ、ルキウスの無言の要求に応えた。
「…誰より愛おしいルキウス。あなたへの愛を誓う」
顔が熱い。
この婚姻がもはや正式なものとなってしまったことへの罪悪感か、或いは不本意ながらルキウスへの愛を告げたことへの戸惑いかもしれない。
しかし、目の前のルキウスは弾けるような笑顔でオルフィニナをきつく抱きしめ、包んだ左手を大切そうに引き寄せて、指環を嵌めた。
「俺にも付けて」
ルキウスがオルフィニナの頬にキスをしながら甘く囁いた。ポケットからもう一つ取り出したのは、オルフィニナの指にあるのと同じ指環だ。驚きのあまり、オルフィニナは場の空気も忘れて頬を緩めてしまった。
「驚いたな。どうやった。一つしかなかったし、売る気もないと言っていたのに」
オルフィニナが指環を受け取り、声を潜めて訊ねた。
「愛する人に捧げたいと言って頼み込んだ。あと、いくつかの取り引きをして、金を積んだ。ルドヴァンを発つ前日に完成したんだ。俺のは息子の作品だ」
ルキウスも声を潜め、得意げに片目を瞑って見せた。
オルフィニナは指環をじっと眺めた。同じ指環だが、枝の質感や花びらの開き方に違いがある。職人が自分の解釈を交えて完成させたのだろう。
「よく譲ってくれたものだ」
「君が装飾品を気に入るのを初めて見たから、何としても手に入れたかった」
オルフィニナはふと笑みを漏らして、ルキウスの左手の薬指に指環を嵌めた。
「ありがとう、リュカ。思いのほか嬉しい自分にも驚いてる」
ルキウスはオルフィニナの左手を握り、優しく笑ってキスをした。
当初は戸惑っていた諸侯が祝福の拍手を始め、歓声が響く。この中にどれほどの敵意が混ざっているか定かではないが、少なくとも真っ向からこの結婚宣言を止めようとする者が現れなかったということは、大意はこの婚姻に肯定的と理解していい。
拍手が収まると、終わったはずのダンスが再び始まった。祝福のために楽団が気を利かせたのだ。結婚の祝いに相応しい、華やかでテンポの速いワルツだった。
国王レオニードは呆れたように首を振りながら、ワインの注がれたゴブレットを掲げて息子とその妃に対して祝福を表した。
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