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31 普通の恋人の夜 - les amoureux ordinaires -
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男の苦悶するような息遣いが耳をくすぐる。腰を大きな手が這い、堪りかねたように臀部へ伝ってくる。頸部に触れる手は口の中に舌が触れると同時に後頭部から髪の中へ滑り、熱く湿った吐息が春の夜気に溶けて肌に染み込んでゆく。
ここでも唇を許してしまったことに、後悔する余地もなかった。
既にコルネール城の門をくぐり、目の前には煉瓦造りのゲストハウスがあるのに。
「今日は楽しかった。もう城だ」
だから離せと言うのだ。それなのに、声は熱に浮かされたように掠れ、白い指はルキウスの胸元に触れている。
「ここはまだ城の中じゃない」
ルキウスはそう言ってオルフィニナの唇をもう一度塞いだ。
「だから今俺たちは普通の恋人同士だ」
オルフィニナに否定の言葉を口にする余裕も与えず、ルキウスは唇を重ね、舌を挿し入れて、彼女の甘い吐息を飲み込んだ。
「…それにこれが消えるまでに抱くって言ったろ」
唇が触れ合う距離で、ルキウスは囁いた。指先が触れた首筋に、昨夜ルキウスが付けた痕が赤く残っている。
拒絶はない。それだけで心臓が沸き、オルフィニナのしなやかな手が首の後ろに触れると、血流がものすごい速さで全身を巡るような錯覚を起こした。頭の中で、なけなしの自制心が焼き切れていく音がする。
「拒めるものなら、やってみればいい」
「…!リュカ――」
ルキウスはオルフィニナに深く口付けながらその身体を扉に押し付け、ドアを押し開けた。
その後は、まるで崖から落ちたようだった。
ルキウスはオルフィニナの身体を抱き上げてランプの仄かな灯りが照らす階段を上がり、一直線に寝室へ入って、靴を脱ぐ余裕もなくオルフィニナの身体をベッドへ投げ下ろした。
(おかしい。――)
オルフィニナはルキウスの舌に自分の舌を触れ合わせながら、頭の片隅で思った。
もう宴は終わりだ。普通の恋人の夜は終わった。それなのに、これを拒絶しない理由を探している。ルキウスの熱情を受け入れるための理由を。
「何も考えるな、ニナ」
まるで呪いだ。
ルキウスの目が薄闇で輝いた瞬間、オルフィニナは考えるのをやめた。
自分の身体の上にいる男の首の後ろから柔らかい髪に指を挿し入れ、再び重なってきた唇の下でルキウスがもどかしげに呼吸するのを聞いた。靴をいつ脱がされたのかも分からないほど、口付けに夢中になった。
焦れたようにルキウスの指がドレスの胸元の紐を引き、肌を暴いていく。肌に指が触れると、ひりひりと小さな火花が全身を伝って胸に迫り、腹の奥が疼き出した。
ドレスの下でルキウスの手が這い、乳房に触れる。ルキウスはオルフィニナの唇が離れるのを許さず、舌を絡め取って小さな悲鳴を飲み込んだ。
「…っ、んん」
オルフィニナの呼吸が次第に速く、熱くなる。ずっと触れていたい温度だ。指の下で乳房の中心が硬く立ち上がり、乱れたスカートの下で脚がもぞもぞと動き始めた。
やっと唇を解放したとき、オルフィニナの柔らかい唇から唾液がこぼれた。ルキウスはそれを余さず自分のものにすべく、舐め取ってそのまま耳へ舌を這わせ、耳朶にかじりついた。
オルフィニナの肌がピクリと震え、縋り付くように腕を掴んでくる。
「ああ。もうこっちに欲しいのか」
耳朶に唇で触れながら、ルキウスが低く言った。
この期に及んで拒めないなんて、本当にどうかしている。
でも、やめて欲しくないと身体が決めた。
ルキウスの髪が首筋から胸元へ肌をくすぐるように下りると同時に、ドレスと下着を荒っぽく引き下ろしながら指が下腹部へ這う。
臍の下へ指が伝い、乳房に舌が這うと、オルフィニナの身体に甘やかな痺れが巡った。
「あっ――」
ふ。と、ルキウスが吐息で笑うのが聞こえた。オルフィニナは唇を噛んで漏れる声を押し殺した。
「もう濡れてる。キスが気持ちよかった?」
ドッ、と心臓が跳ねた。屈辱ではない。羞恥のせいだ。
「う、嘘――んぅ!」
中心の浅い部分にルキウスの長い指が触れた。身体がいとも簡単にルキウスの指を飲み込み、湿った音がやけに耳に大きく響く。
「嘘じゃない。ほら、わかってるくせに…」
濡らされた乳房に吐息が掛かると、それさえ刺激になった。触れられた秘所がじくじくと熱を持って、ルキウスの指が快い場所に新たな快楽をもたらすのを待っている。ルキウスが柔らかい唇で乳房の中心を覆い、先端を舌でつつきながら指を更に身体の奥へ挿し入れた瞬間、オルフィニナは堪らず甘ったるい叫びを上げた。
自分の身体がルキウスの指を締め付けているのが分かる。触れられた場所から快感が次第に鋭くなり、全身を巡り、脳まで達して、弾けた。
喉の奥で押し殺した悲鳴が荒い呼吸に変化し、強く握りしめていた枕はいつの間にか手のひらから離れ、しがみ付くものをなくした手には、ルキウスの手のひらが重なった。身体の奥から指が抜かれ、自分の物で濡れたまま腰に触れられた。その僅かな接触でさえ淫靡な快感をもたらし、オルフィニナは小さく喘いだ。
「かわいい。ニナ」
暗がりの中でもルキウスの貌は美しい。稀代の美男だ。その顔に、乱れた自分の顔を見られたくなかった。オルフィニナが顔を背けると、ルキウスはその頬にキスをして、先ほど触れなかった方の乳房に触れ、耳に舌を這わせ、顎へ、首へと啄むようなキスを繰り返し、手の内に包んだ乳房の先端を口に含んで舌で弄んだ。
「はっ…、ん」
「声を出せ、ニナ」
「うっ、いやだ…」
「かわいいな。すぐ我慢できなくなるだろ」
腹が立つ。こんなにいいようにされては。それでも、ルキウスの言う通りになった。ルキウスの髪が鳩尾をくすぐり、唇が臍に触れ、脚を大きく開かされたときだ。
「なっ、なに――あッ!」
ルキウスが腿の内側にキスをしながら唇を吊り上げたのは、オルフィニナには見えなかった。
こんなところにキスされるなんて、想像もしていなかった。ルキウスの舌が脚の間に触れ、秘所の上部で熟れた突起をつつくと、そこから全身に激しい衝撃が巡った。
「ああっ!…っ、ん、あっ…。それ、やめて…」
「やめないよ。もっと好くなるところが見たいのに」
「あ――!」
突起に吸い付かれ、快感が更に鋭くなる。腰を捻って強すぎる刺激から逃れようとしても、腿にルキウスの腕が巻き付いて離れられない。
「んんっ…!う、あっ…だめ」
ビク!と腰が跳ねたのは、入り口を舌で弄ばれたまま、ルキウスの指が秘所の奥に入ってきた時だ。浅いところから腹の奥までなぞるような仕草で触れられ、ぞくぞくと淫楽に満ちた背徳的な感覚が迫り上がってくる。一度絶頂に押し上げられたばかりの身体が緊張を始めた時、オルフィニナは堪らず脚の間に埋められたルキウスの頭を掴んだ。
頭上でオルフィニナが絶頂に叫ぶのが聞こえる。唇に触れるオルフィニナの小さな部分が熱を持って硬くなり、内部に埋めた指が痛いほどに締め付けられている。
ルキウスの心臓が狂おしいほどに脈打って、身体をもっと熱くした。女にこんなふうに奉仕をするなんて、少し前の自分なら信じられない。しかしオルフィニナは特別だ。彼女の歓喜にふるえる姿が見たい。どこまでも深く触れたい。オルフィニナの身体の奥から溢れる快楽も、五感の全てさえ、自分のものにしなければ気が済まない。
恋だの政治だの、そんなものはとうに頭にない。
ルキウスは熱く熟れたオルフィニナの秘所から唇を離した。指を抜くと、とろりと彼女の欲望が溶け出して溢れた。
痛いほどに熱くなった部分を寛げて、肩で息をするオルフィニナに覆い被さった時、物凄い勢いで彼女の拳が顔を目がけて飛んできた。ルキウスはほとんど反射的にそれを手のひらで受け止めた。びりびりと衝撃が腕に伝わる。
「あっ、あ、あんなこと、するなんて…!おかしいんじゃないのか!」
この反応は予想外だ。
まさかあのオルフィニナが泣き出しそうなほど恥ずかしがって顔を隠しながら殴り掛かってくるとは思いもしなかった。
口元がだらしなく緩むのが抑えられない。ぎゅう、と鳩尾が痛いほどに縮こまって、彼女への欲望が何倍にも増した。
掴んだ拳に口付けをし、ルキウスは汗の浮いたオルフィニナの肢体をゆったりと組み敷いた。目は、まだ片手で隠したまま見せてくれない。
「美味しかったから大丈夫だ、ニナ」
今度はしなやかな脚が脇腹目がけて飛んできた。が、蹴られる前にルキウスは膝を掴んで受け止め、そのまま大きく開かせた。オルフィニナが言葉も継げずに息を呑むと、ルキウスはまんまとその唇を奪い、彼女の奥までひと息に押し入った。
「んっ、んんん――!」
ぎゅう、と自分を呑み込むオルフィニナの内部が収縮し、熱が直に身体を伝う。離れた二人の唇を細い糸が繋いだ。
「ハッ、あつ…」
燃えているようだ。それに、柔らかく熟れて濡れ、身体が快楽に支配される。
ルキウスは邪魔なシャツを乱雑に脱ぎ捨て、オルフィニナの腰を掴んだ。
「確かに俺はおかしい」
ぐり、と内部を抉るように腰を押し付けると、オルフィニナが喉の奥で悲鳴を上げた。
「君もそうなればいい」
「あっ…!」
次第に頭がぼうっとしてくる。
オルフィニナは羞恥をこれ以上感じ続ける余裕も失っていった。横に背けていたはずの顔がいつの間にか正面を向かされ、ルキウスの余裕のない目に囚われた。
「――はッ、ニナ…」
苦しそうに自分の名を呼ぶルキウスから、不思議なほど目が離せない。身体の奥に打ち付けられる甘美な衝撃が快楽以外の感覚を奪い、二人の肌の境界がなくなるような錯覚に陥った。
オルフィニナが襲い来る快楽の波に抗いきれずに絶頂を迎えると、ルキウスは中に吐き出しそうになるのを堪えて自身を引き抜き、力を失ったオルフィニナの身体をうつ伏せにして、後ろからもう一度貫いた。
「あぁ――!」
「…っ、きつい。そんなに締めたらすぐに出てしまうぞ」
ルキウスはオルフィニナの臀部の柔らかさを腹の下で感じながら、狭い内部へ更に侵入し、乳房を掴んで耳にキスをした。
薄闇の中でもオルフィニナの肌が更に色づくのがわかるほど、そのしなやかな身体が熱くなっている。
ルキウスは枕に顔を埋めてくぐもった声で喘ぐオルフィニナの頤を掴み、唇を重ねて舌を絡め、オルフィニナの腰が震えるほど淫らなキスをして、彼女の奥のよく反応する部分を探りながら律動を繰り返した。
「あっ、ん、あ――!」
本当におかしくなる。いや、もう手遅れかもしれない。
オルフィニナが快楽の波にもう一度飲まれようとした時、ふとルキウスが中から出ていった。
突然の喪失感に内側がひくりと物欲しそうに蠢くのを、自分では止められない。ルキウスが腰を抱いて自分の身体を仰向けに返すのも、オルフィニナは止めようとも思わなかった。
「いく顔見せて」
「なに…あ!」
ルキウスが眉を寄せて苦しそうに乞うと、オルフィニナの心臓が痛いほどに脈動して、ルキウスが再び身体の奥に入って来るのを受け入れた。
「ふっ…う」
ルキウスは口元を覆い隠すオルフィニナの両手をシーツに縫い付けて指を絡め、熱くうねる熱情の根源を寄せては返す波濤のような荒々しさで侵し、その淫らな心地よさとオルフィニナの喉から溢れる甘い悲鳴に恍惚としながら、この至福の行為に没頭した。
オルフィニナの目が蜜のように溶け、懇願するようにこちらを見つめてくる。
「――っ、ん、リュカ…」
甘い声だ。
ルキウスの中で張り詰めたものが堰を切ったように溢れ、燃えるような血を全身に走らせて、獣性をその目に映した。衝動のままに荒々しくその内部を打ち付けると、オルフィニナの官能的な唇から、甘い声と熱い吐息が漏れる。
「ああ、ニナ。かわいい」
腹の奥と胸の内から溢れ出た衝動がオルフィニナの体内で嵐を起こし、忘我の果てに意識を放り投げた。
同時に、ルキウスも呻きながらオルフィニナのいちばん奥を強烈に叩きつけ、自分の一部をびくびくと震わせながら果てた。
荒い呼吸に胸を上下させる精悍な肉体が折り重なってくる。触れているところすべてが熱く脈打っている。内側から腿を濡らしてルキウスの一部が出ていく感触でさえ、過敏になったオルフィニナに小さな快楽をもたらした。
オルフィニナは肩で息をしながらルキウスを抱き止め、激しすぎる快感の余韻を腹の奥で感じた。ルキウスの心臓がどくどくと肌を叩いている。
薄闇に昇っていく二人分の湿った息遣いを聞きながら、オルフィニナは自分たちの元に少しずつ現実が戻ってくるのを感じた。
「…くそ。流された」
思わず言葉が溢れ出た。
重なったままのルキウスの身体がひくひくと動いた。――笑っているのだ。オルフィニナの首の窪みに頭を預け、耳に直接響く距離で忍び笑いをしている。
ルキウスが顔を上げたとき、オルフィニナは不覚にもどきりとした。目の奥が見通せそうな程の距離で、緑色の目が輝いている。
ルキウスは誘惑するように笑み、オルフィニナの頬に口付けをし、甘い声で囁いた。
「もう一回流されて」
再び熱い肌が重なり、手のひらの熱が胸へ、腰へと下りてくる。
もう一度口付けを受け入れたとき、オルフィニナは自らルキウスの肌に触れた。
ここでも唇を許してしまったことに、後悔する余地もなかった。
既にコルネール城の門をくぐり、目の前には煉瓦造りのゲストハウスがあるのに。
「今日は楽しかった。もう城だ」
だから離せと言うのだ。それなのに、声は熱に浮かされたように掠れ、白い指はルキウスの胸元に触れている。
「ここはまだ城の中じゃない」
ルキウスはそう言ってオルフィニナの唇をもう一度塞いだ。
「だから今俺たちは普通の恋人同士だ」
オルフィニナに否定の言葉を口にする余裕も与えず、ルキウスは唇を重ね、舌を挿し入れて、彼女の甘い吐息を飲み込んだ。
「…それにこれが消えるまでに抱くって言ったろ」
唇が触れ合う距離で、ルキウスは囁いた。指先が触れた首筋に、昨夜ルキウスが付けた痕が赤く残っている。
拒絶はない。それだけで心臓が沸き、オルフィニナのしなやかな手が首の後ろに触れると、血流がものすごい速さで全身を巡るような錯覚を起こした。頭の中で、なけなしの自制心が焼き切れていく音がする。
「拒めるものなら、やってみればいい」
「…!リュカ――」
ルキウスはオルフィニナに深く口付けながらその身体を扉に押し付け、ドアを押し開けた。
その後は、まるで崖から落ちたようだった。
ルキウスはオルフィニナの身体を抱き上げてランプの仄かな灯りが照らす階段を上がり、一直線に寝室へ入って、靴を脱ぐ余裕もなくオルフィニナの身体をベッドへ投げ下ろした。
(おかしい。――)
オルフィニナはルキウスの舌に自分の舌を触れ合わせながら、頭の片隅で思った。
もう宴は終わりだ。普通の恋人の夜は終わった。それなのに、これを拒絶しない理由を探している。ルキウスの熱情を受け入れるための理由を。
「何も考えるな、ニナ」
まるで呪いだ。
ルキウスの目が薄闇で輝いた瞬間、オルフィニナは考えるのをやめた。
自分の身体の上にいる男の首の後ろから柔らかい髪に指を挿し入れ、再び重なってきた唇の下でルキウスがもどかしげに呼吸するのを聞いた。靴をいつ脱がされたのかも分からないほど、口付けに夢中になった。
焦れたようにルキウスの指がドレスの胸元の紐を引き、肌を暴いていく。肌に指が触れると、ひりひりと小さな火花が全身を伝って胸に迫り、腹の奥が疼き出した。
ドレスの下でルキウスの手が這い、乳房に触れる。ルキウスはオルフィニナの唇が離れるのを許さず、舌を絡め取って小さな悲鳴を飲み込んだ。
「…っ、んん」
オルフィニナの呼吸が次第に速く、熱くなる。ずっと触れていたい温度だ。指の下で乳房の中心が硬く立ち上がり、乱れたスカートの下で脚がもぞもぞと動き始めた。
やっと唇を解放したとき、オルフィニナの柔らかい唇から唾液がこぼれた。ルキウスはそれを余さず自分のものにすべく、舐め取ってそのまま耳へ舌を這わせ、耳朶にかじりついた。
オルフィニナの肌がピクリと震え、縋り付くように腕を掴んでくる。
「ああ。もうこっちに欲しいのか」
耳朶に唇で触れながら、ルキウスが低く言った。
この期に及んで拒めないなんて、本当にどうかしている。
でも、やめて欲しくないと身体が決めた。
ルキウスの髪が首筋から胸元へ肌をくすぐるように下りると同時に、ドレスと下着を荒っぽく引き下ろしながら指が下腹部へ這う。
臍の下へ指が伝い、乳房に舌が這うと、オルフィニナの身体に甘やかな痺れが巡った。
「あっ――」
ふ。と、ルキウスが吐息で笑うのが聞こえた。オルフィニナは唇を噛んで漏れる声を押し殺した。
「もう濡れてる。キスが気持ちよかった?」
ドッ、と心臓が跳ねた。屈辱ではない。羞恥のせいだ。
「う、嘘――んぅ!」
中心の浅い部分にルキウスの長い指が触れた。身体がいとも簡単にルキウスの指を飲み込み、湿った音がやけに耳に大きく響く。
「嘘じゃない。ほら、わかってるくせに…」
濡らされた乳房に吐息が掛かると、それさえ刺激になった。触れられた秘所がじくじくと熱を持って、ルキウスの指が快い場所に新たな快楽をもたらすのを待っている。ルキウスが柔らかい唇で乳房の中心を覆い、先端を舌でつつきながら指を更に身体の奥へ挿し入れた瞬間、オルフィニナは堪らず甘ったるい叫びを上げた。
自分の身体がルキウスの指を締め付けているのが分かる。触れられた場所から快感が次第に鋭くなり、全身を巡り、脳まで達して、弾けた。
喉の奥で押し殺した悲鳴が荒い呼吸に変化し、強く握りしめていた枕はいつの間にか手のひらから離れ、しがみ付くものをなくした手には、ルキウスの手のひらが重なった。身体の奥から指が抜かれ、自分の物で濡れたまま腰に触れられた。その僅かな接触でさえ淫靡な快感をもたらし、オルフィニナは小さく喘いだ。
「かわいい。ニナ」
暗がりの中でもルキウスの貌は美しい。稀代の美男だ。その顔に、乱れた自分の顔を見られたくなかった。オルフィニナが顔を背けると、ルキウスはその頬にキスをして、先ほど触れなかった方の乳房に触れ、耳に舌を這わせ、顎へ、首へと啄むようなキスを繰り返し、手の内に包んだ乳房の先端を口に含んで舌で弄んだ。
「はっ…、ん」
「声を出せ、ニナ」
「うっ、いやだ…」
「かわいいな。すぐ我慢できなくなるだろ」
腹が立つ。こんなにいいようにされては。それでも、ルキウスの言う通りになった。ルキウスの髪が鳩尾をくすぐり、唇が臍に触れ、脚を大きく開かされたときだ。
「なっ、なに――あッ!」
ルキウスが腿の内側にキスをしながら唇を吊り上げたのは、オルフィニナには見えなかった。
こんなところにキスされるなんて、想像もしていなかった。ルキウスの舌が脚の間に触れ、秘所の上部で熟れた突起をつつくと、そこから全身に激しい衝撃が巡った。
「ああっ!…っ、ん、あっ…。それ、やめて…」
「やめないよ。もっと好くなるところが見たいのに」
「あ――!」
突起に吸い付かれ、快感が更に鋭くなる。腰を捻って強すぎる刺激から逃れようとしても、腿にルキウスの腕が巻き付いて離れられない。
「んんっ…!う、あっ…だめ」
ビク!と腰が跳ねたのは、入り口を舌で弄ばれたまま、ルキウスの指が秘所の奥に入ってきた時だ。浅いところから腹の奥までなぞるような仕草で触れられ、ぞくぞくと淫楽に満ちた背徳的な感覚が迫り上がってくる。一度絶頂に押し上げられたばかりの身体が緊張を始めた時、オルフィニナは堪らず脚の間に埋められたルキウスの頭を掴んだ。
頭上でオルフィニナが絶頂に叫ぶのが聞こえる。唇に触れるオルフィニナの小さな部分が熱を持って硬くなり、内部に埋めた指が痛いほどに締め付けられている。
ルキウスの心臓が狂おしいほどに脈打って、身体をもっと熱くした。女にこんなふうに奉仕をするなんて、少し前の自分なら信じられない。しかしオルフィニナは特別だ。彼女の歓喜にふるえる姿が見たい。どこまでも深く触れたい。オルフィニナの身体の奥から溢れる快楽も、五感の全てさえ、自分のものにしなければ気が済まない。
恋だの政治だの、そんなものはとうに頭にない。
ルキウスは熱く熟れたオルフィニナの秘所から唇を離した。指を抜くと、とろりと彼女の欲望が溶け出して溢れた。
痛いほどに熱くなった部分を寛げて、肩で息をするオルフィニナに覆い被さった時、物凄い勢いで彼女の拳が顔を目がけて飛んできた。ルキウスはほとんど反射的にそれを手のひらで受け止めた。びりびりと衝撃が腕に伝わる。
「あっ、あ、あんなこと、するなんて…!おかしいんじゃないのか!」
この反応は予想外だ。
まさかあのオルフィニナが泣き出しそうなほど恥ずかしがって顔を隠しながら殴り掛かってくるとは思いもしなかった。
口元がだらしなく緩むのが抑えられない。ぎゅう、と鳩尾が痛いほどに縮こまって、彼女への欲望が何倍にも増した。
掴んだ拳に口付けをし、ルキウスは汗の浮いたオルフィニナの肢体をゆったりと組み敷いた。目は、まだ片手で隠したまま見せてくれない。
「美味しかったから大丈夫だ、ニナ」
今度はしなやかな脚が脇腹目がけて飛んできた。が、蹴られる前にルキウスは膝を掴んで受け止め、そのまま大きく開かせた。オルフィニナが言葉も継げずに息を呑むと、ルキウスはまんまとその唇を奪い、彼女の奥までひと息に押し入った。
「んっ、んんん――!」
ぎゅう、と自分を呑み込むオルフィニナの内部が収縮し、熱が直に身体を伝う。離れた二人の唇を細い糸が繋いだ。
「ハッ、あつ…」
燃えているようだ。それに、柔らかく熟れて濡れ、身体が快楽に支配される。
ルキウスは邪魔なシャツを乱雑に脱ぎ捨て、オルフィニナの腰を掴んだ。
「確かに俺はおかしい」
ぐり、と内部を抉るように腰を押し付けると、オルフィニナが喉の奥で悲鳴を上げた。
「君もそうなればいい」
「あっ…!」
次第に頭がぼうっとしてくる。
オルフィニナは羞恥をこれ以上感じ続ける余裕も失っていった。横に背けていたはずの顔がいつの間にか正面を向かされ、ルキウスの余裕のない目に囚われた。
「――はッ、ニナ…」
苦しそうに自分の名を呼ぶルキウスから、不思議なほど目が離せない。身体の奥に打ち付けられる甘美な衝撃が快楽以外の感覚を奪い、二人の肌の境界がなくなるような錯覚に陥った。
オルフィニナが襲い来る快楽の波に抗いきれずに絶頂を迎えると、ルキウスは中に吐き出しそうになるのを堪えて自身を引き抜き、力を失ったオルフィニナの身体をうつ伏せにして、後ろからもう一度貫いた。
「あぁ――!」
「…っ、きつい。そんなに締めたらすぐに出てしまうぞ」
ルキウスはオルフィニナの臀部の柔らかさを腹の下で感じながら、狭い内部へ更に侵入し、乳房を掴んで耳にキスをした。
薄闇の中でもオルフィニナの肌が更に色づくのがわかるほど、そのしなやかな身体が熱くなっている。
ルキウスは枕に顔を埋めてくぐもった声で喘ぐオルフィニナの頤を掴み、唇を重ねて舌を絡め、オルフィニナの腰が震えるほど淫らなキスをして、彼女の奥のよく反応する部分を探りながら律動を繰り返した。
「あっ、ん、あ――!」
本当におかしくなる。いや、もう手遅れかもしれない。
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「いく顔見せて」
「なに…あ!」
ルキウスが眉を寄せて苦しそうに乞うと、オルフィニナの心臓が痛いほどに脈動して、ルキウスが再び身体の奥に入って来るのを受け入れた。
「ふっ…う」
ルキウスは口元を覆い隠すオルフィニナの両手をシーツに縫い付けて指を絡め、熱くうねる熱情の根源を寄せては返す波濤のような荒々しさで侵し、その淫らな心地よさとオルフィニナの喉から溢れる甘い悲鳴に恍惚としながら、この至福の行為に没頭した。
オルフィニナの目が蜜のように溶け、懇願するようにこちらを見つめてくる。
「――っ、ん、リュカ…」
甘い声だ。
ルキウスの中で張り詰めたものが堰を切ったように溢れ、燃えるような血を全身に走らせて、獣性をその目に映した。衝動のままに荒々しくその内部を打ち付けると、オルフィニナの官能的な唇から、甘い声と熱い吐息が漏れる。
「ああ、ニナ。かわいい」
腹の奥と胸の内から溢れ出た衝動がオルフィニナの体内で嵐を起こし、忘我の果てに意識を放り投げた。
同時に、ルキウスも呻きながらオルフィニナのいちばん奥を強烈に叩きつけ、自分の一部をびくびくと震わせながら果てた。
荒い呼吸に胸を上下させる精悍な肉体が折り重なってくる。触れているところすべてが熱く脈打っている。内側から腿を濡らしてルキウスの一部が出ていく感触でさえ、過敏になったオルフィニナに小さな快楽をもたらした。
オルフィニナは肩で息をしながらルキウスを抱き止め、激しすぎる快感の余韻を腹の奥で感じた。ルキウスの心臓がどくどくと肌を叩いている。
薄闇に昇っていく二人分の湿った息遣いを聞きながら、オルフィニナは自分たちの元に少しずつ現実が戻ってくるのを感じた。
「…くそ。流された」
思わず言葉が溢れ出た。
重なったままのルキウスの身体がひくひくと動いた。――笑っているのだ。オルフィニナの首の窪みに頭を預け、耳に直接響く距離で忍び笑いをしている。
ルキウスが顔を上げたとき、オルフィニナは不覚にもどきりとした。目の奥が見通せそうな程の距離で、緑色の目が輝いている。
ルキウスは誘惑するように笑み、オルフィニナの頬に口付けをし、甘い声で囁いた。
「もう一回流されて」
再び熱い肌が重なり、手のひらの熱が胸へ、腰へと下りてくる。
もう一度口付けを受け入れたとき、オルフィニナは自らルキウスの肌に触れた。
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