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Ch.1
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何人ものこどもたちが、野生司と羽田の受付を通りイベント会場へと向かっていく。一時、二人の受付機の前には列も出来ていたが、第一回目の講習会が始まる時刻には、落ち着きを見せていた。
「あー……しんどい。のどかわく。営業スマイルで顔面筋肉痛になる」
羽田はぐったりした声をあげると、両手で身体を引き上げて背中を伸ばした。そんな羽田を苦笑いで野生司は見やる。
「今日はなかななかの人手ですね」
「これだったら、空き巣やDV犯をとっつかまえて、ネチネチ取り調べしてた方がなんぼかマシだわ」
「先輩、問題発言ですよ。更新査定に響きますよ」
「野生司しか聞いてない。野生司、課長にちくる?」
「そんなことするわけないじゃないですか。でもカメラありますよ」
野生司は人差し指を立て天井のカメラを示した。
「あのカメラ、私たちのこと見てるかなー来場者チェックメインだと思うけど。だけどまあ、カメラに収められ、マイクに拾われていたとしてもこれぐらい大丈夫、非番を棒に振ってまでわざわざ交通課の応援に参加した、仕事熱心な生活安全課のいち巡査部長のぼやきぐらいAIは人間性の許容範囲だって判断するって」
“仕事熱心”にアクセントを置いた羽田は、私は仕事熱心と顔に無理やり書きなぐったようなドヤ顔で野生司に応えた。
「ね?」
「ねって……」
「そうでしょ?」
「えー……」
「だいたいこんな愚痴やぼやきで、更新査定にいちいち引っかかってたらとうの昔に私は職なしだし、巡査部長にもなってない。つまり、経験の裏打ちがある」
……なるほど。
野生司は、あまり誉められた経験でも、後輩に胸張って宣言する内容でもない気がするが、なんとなく納得した。少なくとも、自分はまだ一度も、警察官として更新時期を迎えておらず、対して羽田は3度の更新をクリアし、昇進もしている。
日本で、公務員とまたいくつかの職種が資格であったり、免許であったり、またその職そのものにおいて国家主導の更新制度が導入されてから20年近くが経つ。警察官は2年に一度、その職に対し、今後も従事できる人材かどうかの資質や適正を判断される。この更新をクリアしなければ、再教育、再訓練に戻されるか、最悪の場合、職を失うこととなる。
合理的かつ円滑に、その人材を適材適所にまわすための仕組み、また高いレベルで組織を維持する為の措置であり、公務員以外の職におけるこの制度は、国の大きな財源の一つとなっていた。
「まあ、そんな話しはさておき、あのアジア系とヨーロッパ系二人、言われなきゃ絶対兄妹ってわかんないよね」
羽田は後ろにおいてある、“第七向島生安⑧”と手書きのラベルが貼られたボックスから今度は蛍光水色のペットボトルを取り出した。
「えーっと、お兄ちゃんが優良ドライバーの、ぴかぴかのモバイルを持っていた二人のことですか?」
「そうそう、最新機種ね」
「やっぱりそうなんだ」
「やっぱりって?」
「先輩のモバイル見る目が恐ろしく真剣だったんで」
「仕事中にどこ見てるの?」
「先輩が言いますか?」
「話し、ずれた」
「はい。すみません。だけど、最近はもうそんなにめずらしくないんじゃないですか。ご両親が純日本人の容姿だったとしても」
「純日本人だった?」
「いえ、わかりませんけど」
「ID照会したじゃない」
「ご両親の情報まで見てませんよ」
「……」
蛍光水色の液体を飲み込んだ羽田の腕がするりと野生司の受付機へと伸びる。透明なパネルに手をかざし、操作パネルを出現させると今日これまでに受付したデータの一覧を宙へと投影させる。
「ちょちょちょちょちょ、先輩!なにやってるんですか!」
「両親が純日本人の姿なら、ますますいいとこの子で納得なんだよねーどんな親御さんか興味あるわ」
「えー!ダメですって!職権乱用ですよ!絶対、ログ取られてますからバレますよ!」
「ちょっとだけー」
「ちょっともいっぱいもダメったらダメです」
「かたいっ かたいなー!」
「かたくていいです!」
「私は柔らかいほうが好きだけどな」
「なんの話しですか!」
とても警察官としてあるまじきくだらない攻防を3分ほど繰り広げたが、真面目な後輩の必死な姿に満足したのか羽田はぴたりとその動きを止め、深く椅子にもたれた。
「あらあら、お兄さんによく似てるわねーなんて話は、もう昔話かー」
「先輩、お兄さんいるんですか?」
じゃっかん息のあがった野生司は羽田の攻撃を防ぎきったと胸をなでおろした。
「ノーコメント」
「なぜっ?! 私のことはめちゃくちゃ聞くのに!」
「そりゃ好きな子の情報はほしくなるでしょ」
「それ答えになってませんよ」
「……気になる?デート、いや付き合う前提なら教えてもいい」
「なんでいきなりお付き合いのお話ですか」
「だって告白はしてるし、答えもきいてるし。あとは既成事実でしょ」
「いや、あれはそういう告白でも答えでもないような……と言うか、職務中です!」
野生司の決め台詞に、羽田は、照れてるのかしら、可愛いと見当違いの笑みを返した。
「あー……しんどい。のどかわく。営業スマイルで顔面筋肉痛になる」
羽田はぐったりした声をあげると、両手で身体を引き上げて背中を伸ばした。そんな羽田を苦笑いで野生司は見やる。
「今日はなかななかの人手ですね」
「これだったら、空き巣やDV犯をとっつかまえて、ネチネチ取り調べしてた方がなんぼかマシだわ」
「先輩、問題発言ですよ。更新査定に響きますよ」
「野生司しか聞いてない。野生司、課長にちくる?」
「そんなことするわけないじゃないですか。でもカメラありますよ」
野生司は人差し指を立て天井のカメラを示した。
「あのカメラ、私たちのこと見てるかなー来場者チェックメインだと思うけど。だけどまあ、カメラに収められ、マイクに拾われていたとしてもこれぐらい大丈夫、非番を棒に振ってまでわざわざ交通課の応援に参加した、仕事熱心な生活安全課のいち巡査部長のぼやきぐらいAIは人間性の許容範囲だって判断するって」
“仕事熱心”にアクセントを置いた羽田は、私は仕事熱心と顔に無理やり書きなぐったようなドヤ顔で野生司に応えた。
「ね?」
「ねって……」
「そうでしょ?」
「えー……」
「だいたいこんな愚痴やぼやきで、更新査定にいちいち引っかかってたらとうの昔に私は職なしだし、巡査部長にもなってない。つまり、経験の裏打ちがある」
……なるほど。
野生司は、あまり誉められた経験でも、後輩に胸張って宣言する内容でもない気がするが、なんとなく納得した。少なくとも、自分はまだ一度も、警察官として更新時期を迎えておらず、対して羽田は3度の更新をクリアし、昇進もしている。
日本で、公務員とまたいくつかの職種が資格であったり、免許であったり、またその職そのものにおいて国家主導の更新制度が導入されてから20年近くが経つ。警察官は2年に一度、その職に対し、今後も従事できる人材かどうかの資質や適正を判断される。この更新をクリアしなければ、再教育、再訓練に戻されるか、最悪の場合、職を失うこととなる。
合理的かつ円滑に、その人材を適材適所にまわすための仕組み、また高いレベルで組織を維持する為の措置であり、公務員以外の職におけるこの制度は、国の大きな財源の一つとなっていた。
「まあ、そんな話しはさておき、あのアジア系とヨーロッパ系二人、言われなきゃ絶対兄妹ってわかんないよね」
羽田は後ろにおいてある、“第七向島生安⑧”と手書きのラベルが貼られたボックスから今度は蛍光水色のペットボトルを取り出した。
「えーっと、お兄ちゃんが優良ドライバーの、ぴかぴかのモバイルを持っていた二人のことですか?」
「そうそう、最新機種ね」
「やっぱりそうなんだ」
「やっぱりって?」
「先輩のモバイル見る目が恐ろしく真剣だったんで」
「仕事中にどこ見てるの?」
「先輩が言いますか?」
「話し、ずれた」
「はい。すみません。だけど、最近はもうそんなにめずらしくないんじゃないですか。ご両親が純日本人の容姿だったとしても」
「純日本人だった?」
「いえ、わかりませんけど」
「ID照会したじゃない」
「ご両親の情報まで見てませんよ」
「……」
蛍光水色の液体を飲み込んだ羽田の腕がするりと野生司の受付機へと伸びる。透明なパネルに手をかざし、操作パネルを出現させると今日これまでに受付したデータの一覧を宙へと投影させる。
「ちょちょちょちょちょ、先輩!なにやってるんですか!」
「両親が純日本人の姿なら、ますますいいとこの子で納得なんだよねーどんな親御さんか興味あるわ」
「えー!ダメですって!職権乱用ですよ!絶対、ログ取られてますからバレますよ!」
「ちょっとだけー」
「ちょっともいっぱいもダメったらダメです」
「かたいっ かたいなー!」
「かたくていいです!」
「私は柔らかいほうが好きだけどな」
「なんの話しですか!」
とても警察官としてあるまじきくだらない攻防を3分ほど繰り広げたが、真面目な後輩の必死な姿に満足したのか羽田はぴたりとその動きを止め、深く椅子にもたれた。
「あらあら、お兄さんによく似てるわねーなんて話は、もう昔話かー」
「先輩、お兄さんいるんですか?」
じゃっかん息のあがった野生司は羽田の攻撃を防ぎきったと胸をなでおろした。
「ノーコメント」
「なぜっ?! 私のことはめちゃくちゃ聞くのに!」
「そりゃ好きな子の情報はほしくなるでしょ」
「それ答えになってませんよ」
「……気になる?デート、いや付き合う前提なら教えてもいい」
「なんでいきなりお付き合いのお話ですか」
「だって告白はしてるし、答えもきいてるし。あとは既成事実でしょ」
「いや、あれはそういう告白でも答えでもないような……と言うか、職務中です!」
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