警視庁生活安全部ゲーターズ安全対策課

帽子屋

文字の大きさ
上 下
5 / 27
Ch.1

しおりを挟む
 天候に恵まれた墨堤公園は、3月の暖かな陽射しの中盛況なイベントの様子が隅田川の風に運ばれ野生司たちのところまで聞えて来る。うららかな雰囲気まで運ばれてくるようで、野生司の隣の羽田はしまりのない顔でうたたねでもしそうな勢いである。職務中にこんな顔をしていても警察官として更新していけるのかと、わずかな疑念と実際それをクリアしてここに座る先輩の姿に疑念と同じ、やや上、くらいの尊敬をこめて眺めた。受付機に視線を戻せば、今日の日付が目に入る。警察官となって2年目の今年、初めての更新時期を迎える自分は、この先警察官として歩んでいけるのかとふと思う。
 私は日々、生活安全課として地域の皆様の安全を守るために真面目に勤めています。こうして交通課の応援もしっかりやっています。警察官としての誇りを持ち、この先も社会の安心安全の為、全力で任務にあたります!だから、だから、ちゃんと仕事しているところ見ていて下さい!!
 祈りにも似た思いで野生司は、天井のカメラを見た。カメラのレンズの奥、人間でいうところの目と、自分の目が合った気がした。この東京において、そこかしこに無数に設置されているカメラは文字通り首都の目であり、それを統べる首都を管理する中央AIの感覚器のひとつだと野生司は説明を聞いた。
「よー!のーすー、なに見てんの?」
 呼ばれてはっと我に返れば、受付機の前にいかにもわんぱくそうな少年が立っていた。少年は生意気そうにも見えた。実際、羽田曰く、生意気だった。
「誰がのーすーだよ、バカタレ。ちゃんと“さん付け”しなさい!」
 少年の後ろには黒髪を一つにまとめてアップにした大人が、これでもかと少年の頭をぐりぐりと押さえつけながら頭を下げさせる。
「いて!痛い!痛いって、かあちゃん!」
 よほど母の力は強いのか、うぎぎぎ……と食いしばった歯の間から音が出そうなほど力を込めて野生司の顔を見上げる。
「の、のーすー、見て、かあちゃん虐待してくる!これ、DVだろ」
「バカなこと言う口はこの口か」
 こどもから出た言葉に憤慨した彼女は、押さえつけていた手を話すと、今度は両のほっぺたを背後から左右へ引っ張る。
『わあ、鶯太くん、以外にほっぺた伸びるんだー』
 自分が天井のカメラに人知れず祈りを捧げていたところを目撃された恥ずかしさは吹き飛び、この親子のいつもながらのやり取りに見当違いの感想を心の中で呟く。
「いへへへへへへ!いへい(痛い)!」
「野生司さん、聞いてくださいよ、この子、この前自転車道じゃなくて車道を走って見つかって減点されて。自転車資格停止されたんですよ。ほっっっんよ、バカでしょー」
「えー、なんとまぁ……」
「それはおバカだな」
「ちょっと先輩、言い方!」
「いいんですよ、ほんとのことだから」
 伸ばして戻して伸ばして戻して、ほっぺたのストレッチのあとは両手で頬をホールドし、暴れる息子を軽くいなしながら、母はからからと笑う。
「さすが商店街代表、さっぱりしてるところが素敵」
 羽田は母の手に挟まれた鶯太のほっぺたをぷにぷにしながら母への賛辞を述べた。
『あ、いいなーぷにぷに……じゃなくって』
「お母さん、鶯太くん受付しますね!IDはどこにありますか?」
「ほら、鶯太」
 ほっぺたをはさまれたまま、鶯太はIDが登録された腕時計を素直に受付機にかざした。そこでようやくほっぺたは解放された。野生司と鶯太たちの前に、宙へ投影された画面が広がる。ポップアップされた “しばらくお待ちください” を見て、懲りない鶯太は「しばらくってどれくらい?1秒?地球が何億分のいちまわったぐらい?教えておまわりさん」と、にやにやしながら羽田に質問する。瞬間、羽田があからさまに面倒臭いと無言の表情を返したので、その質問は諦めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

【なろう440万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...