警視庁生活安全部ゲーターズ安全対策課

帽子屋

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Ch.1

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 羽田が傾けたペットボトルの先には、受付にやってきた二人の子供が見えた。一人は小学校高学年といった黒髪のアジア系の男の子で、いかにもヨーロッパ系という金色の髪に白い肌の青い瞳の女の子の手をひいている。こちらはこの春、小学校へ入学するぐらいの歳だろうか。ピンク色に子供番組の人気キャラクターがあしらわれたバックパックを背負っている。
 男の子は受付にいる羽田と野生司の両方を見たが、無言で羽田が視線を野生司に寄越すので、野生司だけを見て「講習会の受付をしたいんですけど」と言った。
野生司は声には出さず『先輩!』と幾分か非難の混じった視線を羽田に返したが、羽田はどこふく風であった。
「あ、ごめんね。二人ともかな? IDはある?」
「あります。モバイルに入ってます」
 男の子はポケットから多機能モバイルを取り出し、女の子も色違いだがおそろいのモバイルをバックパックからごそごそと取り出した。
 羽田はちらりとそのお揃いのモバイルに目をやる。『この前発売されたばかりのだね。子供用の多機能モバイルの中じゃ機能もお値段も一番高いやつ・・・・・・いいとこの子かー』
 子供用とは言っても、その実中身は大人用と変わりないスペック。子供用として販売されているのは、義務教育期間の割引値段で販売しているからだ。この子たちは、義務教育期間のまだ前期課程の年頃だから、割引の中でも超割引が適用されているはず。そろそろモバイルを買い換えたい羽田としては、とても羨ましい。たとえ大人モデルと比べて多少の制御がかかっていても、保護者IDとの紐杖け、保護者がこどものモバイルにある情報に自由にアクセスする権限、情報共有が購入条件に入っていたとしてもだ。
『前期課程だとこどものプライバシーより、こどもを外敵から守るほうに重きをおくってわけだけど、親が子に過干渉が過ぎれば犯罪になるし。最近の親は、親になる条件をクリアするのも、親になったあとも大変ねー』
 羽田は蛍光色の液体を喉に流し込んだ。
「じゃ、ここにかざしてください」
 野生司は目の前の受付機にある緑に発光した輪を指差した。男の子がまずモバイルをその輪へかざすと、空中に浮いたように表示される宙空ディスプレイには身分証明とそれに紐付くいくつかの情報アイコンが映し出された。宙空に映し出され、透過しているようには見えるが、その内容は野生司側からしか見られない。男の子たち側には “しばらくお待ちください” とポップアップが表示され、その下には今日のイベントのタイムテーブルが表示されている。
 野生司が宙に表示された内容を確認し、自転車のアイコンをタップすると資格は優良自転車ドライバー、今まで貯めてきたポイント数もなかなかのものだった。
「ありがとうございます。受付できました。すごいですね、優良ドライバー!」
 男の子は照れくさそうに小さな声で「ありがとうございます」と答え、さっとモバイルを引っ込めてしまった。微笑ましい姿に野生司は柔らかい笑顔を向け、次は自分の番だと目をしっかり開いている女の子へ声をかけた。
「はい、お待たせしました。ここにタッチしてくれるかな?」
「はーい」
 元気良く返事をした女の子は、ピンク色に花や蝶のステッカーがデザインされたモバイルを男の子と同じように緑の輪へかざした。
「自転車講習会は今日が初めてですね」
「そう!自転車はね、おうちの近くのサイクリングパークで練習して乗れるようになったんだけど、資格、ちゃんと取れるかちょっと心配」
「自転車乗れるなら大丈夫。指導員さんのお話よく聴いてね」
「うん!自転車はねお兄ちゃんが教えてくれたんだよ!お兄ちゃん、とっても上手なの。ね、お兄ちゃん!」
 顔をほころばせて誇らしげに先に受付を済ませた兄を見る。男の子はやはり少し照れくさそうに頷いた。
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