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カナブンとピンク姫
傘の中のふたり
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あ、アレって「使っていい」ものだったの?(驚愕)
地方の大学の地味な女子学生「私」。
山の中のキャンパス内では異彩を放つ服装の下級生を地味に気にしていたら…
2010年代前半を想定して書いた話のため、微妙に古臭く感じるところもあるかもしれません。
ご了承くださいませ。
***
先月はアホみたいに暑い日が多かったのに、最近雨ばっかり降るなあ…と思っていたけれど、6月中旬ともなると、そりゃ降るわな。梅雨だもん。
◇◇◇
大学も2年目で、それなりに慣れてはきた。
新入生らしき子たちからも、硬さや力みは取れてきた気がする。
「真面目だね」ってからかわれたり、おだてられたりして、ノートやレポート見せてとねだられることもあったけれど、みんなちょっとうっかりさんなだけの要領の悪い子たちだ。
手を貸せば、「お昼おごっちゃう」といって、学食の「おかず1グラム1円ランチ」を「好きなだけ食べて」って律儀にも言ってくれるから、真面目だけが取り柄のビンボー学生としては、そこはある意味、持ちつ持たれつだと思っている。
国立大学法人金谷文科大学。
通称「カナブン」と呼ばれるこの学校は、わが県唯一の国立大学で、「文科」という名前は、本当に文学部とか教育学部とか、文科系学部しかなかった頃の名残で、理工系と農学部がこの20年の間に新設された。
私は法人文学部法学コースに通っている。
大きな声では言えないけれど、中学生の頃、司法修習生の青春を描いたドラマにどハマリして、裁判官になりたいとか思って、中学生の頃から法学部志望だった。
で、今に至るんだけど、高校3年の間にいろいろと現実が見えてきて、公務員になろうかな、などと考えているところだ。
◇◇◇
カナブンは県庁所在地の南のはずれにあって、周囲にははっきり言って何もない。
田舎じみた風景の中に、おしゃれな学生向けのアパートがぽこっ、ぽこっと建っている感じ。
この街のキャッチコピー「森にしずむ県都」をもじって「森にしずむ大学」とかいう人もいて、女子学生の中には、「私こそが真の森ガール」だと(開き直って?)嘯く人もいた。
「休みの日のお父さん」などとからかわれるような、チェックのネルシャツにデニムみたいな格好をいつもしている私には、若い女の子のファッションつうものがいまいち分からない。
でも、柔らかな色の、裾の長いスカートを履いた女の子を見ると、「ああいうのが森ガールっていうのかな?」なんて、ざっくり理解していた。
そんな中、キャンパス内で見かけた、とある1年生らしき女の子のスタイルには度肝を抜かれた。
持ち物、服、とにかくピンク、ピンク、ピンク。
ああいうのを甘ロリっていうのか名古屋嬢っていうのかはよくわかんないけど、とにかくこの地味なテイストの大学では目を引く。
例えば――緑のしげる森の中で、桃色の建物が突然建っても、鮮やかな紅色の花が咲いていても、多分どっちも目立つと思わない?そんな感じ。
赤ずきんちゃんがオオカミに目をつけられるのは、きっと目立っていたからだと思う(違うよ!)。
私は人の顔をいまいち覚えられない――というか、あんまり人の顔をじろじろ見る趣味はないんだけど、その子がいつも微熱でもあるみたいな、トロンとした顔に見えるお化粧をしているのは知っていた。
もうその存在自体が大分目立つ子なので、上級生もうわさまではしないものの、視界に入ると何となくそわそわしているのが分かる。
(あの格好で学食来てる…)
(しょうゆラーメン食べてる…)
(カレシ?は普通だ…)
まあこれは三つとも私の感想だけど。
特にカレシらしき子は、本当に地味で普通の人なのが驚いた。
それこそ私みたいな服装の男の子で、顔の一部みたいになってる眼鏡をかけている。
というよりも、あのピンク姫をエスコートするのにふさわしい男性の格好って、ちょっと想像つかないけどね。
◇◇◇
晴れていたと思ったら、またポツポツし始めたのが、M講義棟2階のとある教室から見えた。
一応突然の雨だけど、みんな何となく傘を持っているから、そんなに慌てた様子はない。
そんな傘のちょっとした群れの中に、鳥かごのてっぺんみたいに丸くすぼまって先がとがっている、淡いピンク色の傘が動くのが見えた。
(あ、ピンク姫…)
ふちにフリルがついて、いつもしっかりと閉じられている傘が開いているのを初めて見た。
というよりも、アレって雨の日に使ってもいい傘だったのか!それにまず驚いた。
あんまり大きな傘ではないから、きっと窮屈だろうけど、いつものカレシ君と2人、身を寄せ合って歩いている下半身だけが見えた。
何だか、すごーくかわいい二人だな。
地味で静かな大学生活をそれなりに謳歌していたつもりだったけれど、一瞬「カレシ欲しいかも」なんて思ってしまった。
【『カナブンとピンク姫』 了】
地方の大学の地味な女子学生「私」。
山の中のキャンパス内では異彩を放つ服装の下級生を地味に気にしていたら…
2010年代前半を想定して書いた話のため、微妙に古臭く感じるところもあるかもしれません。
ご了承くださいませ。
***
先月はアホみたいに暑い日が多かったのに、最近雨ばっかり降るなあ…と思っていたけれど、6月中旬ともなると、そりゃ降るわな。梅雨だもん。
◇◇◇
大学も2年目で、それなりに慣れてはきた。
新入生らしき子たちからも、硬さや力みは取れてきた気がする。
「真面目だね」ってからかわれたり、おだてられたりして、ノートやレポート見せてとねだられることもあったけれど、みんなちょっとうっかりさんなだけの要領の悪い子たちだ。
手を貸せば、「お昼おごっちゃう」といって、学食の「おかず1グラム1円ランチ」を「好きなだけ食べて」って律儀にも言ってくれるから、真面目だけが取り柄のビンボー学生としては、そこはある意味、持ちつ持たれつだと思っている。
国立大学法人金谷文科大学。
通称「カナブン」と呼ばれるこの学校は、わが県唯一の国立大学で、「文科」という名前は、本当に文学部とか教育学部とか、文科系学部しかなかった頃の名残で、理工系と農学部がこの20年の間に新設された。
私は法人文学部法学コースに通っている。
大きな声では言えないけれど、中学生の頃、司法修習生の青春を描いたドラマにどハマリして、裁判官になりたいとか思って、中学生の頃から法学部志望だった。
で、今に至るんだけど、高校3年の間にいろいろと現実が見えてきて、公務員になろうかな、などと考えているところだ。
◇◇◇
カナブンは県庁所在地の南のはずれにあって、周囲にははっきり言って何もない。
田舎じみた風景の中に、おしゃれな学生向けのアパートがぽこっ、ぽこっと建っている感じ。
この街のキャッチコピー「森にしずむ県都」をもじって「森にしずむ大学」とかいう人もいて、女子学生の中には、「私こそが真の森ガール」だと(開き直って?)嘯く人もいた。
「休みの日のお父さん」などとからかわれるような、チェックのネルシャツにデニムみたいな格好をいつもしている私には、若い女の子のファッションつうものがいまいち分からない。
でも、柔らかな色の、裾の長いスカートを履いた女の子を見ると、「ああいうのが森ガールっていうのかな?」なんて、ざっくり理解していた。
そんな中、キャンパス内で見かけた、とある1年生らしき女の子のスタイルには度肝を抜かれた。
持ち物、服、とにかくピンク、ピンク、ピンク。
ああいうのを甘ロリっていうのか名古屋嬢っていうのかはよくわかんないけど、とにかくこの地味なテイストの大学では目を引く。
例えば――緑のしげる森の中で、桃色の建物が突然建っても、鮮やかな紅色の花が咲いていても、多分どっちも目立つと思わない?そんな感じ。
赤ずきんちゃんがオオカミに目をつけられるのは、きっと目立っていたからだと思う(違うよ!)。
私は人の顔をいまいち覚えられない――というか、あんまり人の顔をじろじろ見る趣味はないんだけど、その子がいつも微熱でもあるみたいな、トロンとした顔に見えるお化粧をしているのは知っていた。
もうその存在自体が大分目立つ子なので、上級生もうわさまではしないものの、視界に入ると何となくそわそわしているのが分かる。
(あの格好で学食来てる…)
(しょうゆラーメン食べてる…)
(カレシ?は普通だ…)
まあこれは三つとも私の感想だけど。
特にカレシらしき子は、本当に地味で普通の人なのが驚いた。
それこそ私みたいな服装の男の子で、顔の一部みたいになってる眼鏡をかけている。
というよりも、あのピンク姫をエスコートするのにふさわしい男性の格好って、ちょっと想像つかないけどね。
◇◇◇
晴れていたと思ったら、またポツポツし始めたのが、M講義棟2階のとある教室から見えた。
一応突然の雨だけど、みんな何となく傘を持っているから、そんなに慌てた様子はない。
そんな傘のちょっとした群れの中に、鳥かごのてっぺんみたいに丸くすぼまって先がとがっている、淡いピンク色の傘が動くのが見えた。
(あ、ピンク姫…)
ふちにフリルがついて、いつもしっかりと閉じられている傘が開いているのを初めて見た。
というよりも、アレって雨の日に使ってもいい傘だったのか!それにまず驚いた。
あんまり大きな傘ではないから、きっと窮屈だろうけど、いつものカレシ君と2人、身を寄せ合って歩いている下半身だけが見えた。
何だか、すごーくかわいい二人だな。
地味で静かな大学生活をそれなりに謳歌していたつもりだったけれど、一瞬「カレシ欲しいかも」なんて思ってしまった。
【『カナブンとピンク姫』 了】
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