18 / 37
ヘタレの小さな反抗
人は言いやすい人に文句を言う
しおりを挟む
理不尽な目に遭っても、なかなか自己主張できない、そんな「私」のストレス解消法は。
***
「『ゴミの出し方が悪い』って苦情が出ていましてねえ」
「はあ…」
「いやいや、あなたがってわけじゃないの。ただ、こういうとき、どうしても集合住宅はね…」
「はい…」
「あ、あなたはちゃんとしていると思うよ?でも、念のためにね…若い人が多いし、偏見で見られがちなの。わかってね」
仕事中、アパートの大家さんが突然訪ねてきたと思ったら、少なくとも私には何一つ関係のない「注意」のためだった。
私が住む棟は、ごみ集積所から最も近い位置にあって、比較的新しい。
住民の中にはゴミ出しの時間を守らないとか、分別が行き届いていない人もいないわけではないだろうが、毎回ほぼ朝の7時、納豆の容器を洗って「可燃ごみ」ではなく「プラごみの日」に出している私に、これ以上何をしろと?
回収日には、車で捨てにくる人も結構いる。
近くても、ごみの量が多いと車ぐらい出すだろうが、エリア外から来ている人が全くいないと誰が言えるだろう。
まあなんだ。注意するならそういう人にすべきだろうに、「若年層の多い集合住宅」というのは、そのイカニモ感で目の敵にされやすく、古くから地域に住む(暇な)中高齢者にああだこうだ言われ、大家さんはこうして、したくもない注意をしに「在宅仕事中の私の部屋に」やってきた、というわけだ。
意地の悪い見方すれば、既成事実つくっとけば、あとは「言われたのに守らないやつが悪い」になるだろうしね。
+++
「あの、それ…全戸に注意なさるのは大変じゃないですか?」
「まあ、夜遅い人もあるしねえ。2階の7号室の●●さんとか…」
そういう人たちのところには、多分電話すらしていないんだろうな。
「夜遅いのは失礼」って理由で、とうぜん臨戸訪問もしないだろうし。
しかし昼間家にいるったって暇というわけではない。
話がこれ以上長くなるのは勘弁してほしい。
「もしアレでしたら、注意喚起のチラシお作りしますよ?」
「え? でも大変じゃない?」
「作業のついでです。原本を差し上げますから、それをコピーしていただければ」
「え? コピーってコンビニとかのよね? お金かかるでしょ? それに私機械は苦手で…」
「――分かりました。じゃ、私が部屋数分つくります。ウチを除いて7部屋でいいですね?」
「じゃ、ついでだから、A棟とC棟の分もお願いできるかな?8×3で…」
えーっ、ヤブヘビ…言うんじゃなかったよ…。
まあ、これで帰ってくれるならいいか。
用紙代ぐらい出してもらいたいけど――無理だろうなあ。
「わかりました。23枚ですね」
「え?はちさん・にじゅうしでしょ?」
「だからうちの分は――分かりました。つくったらお届けします」
「えー、近所だし、配っといてよ。ついででしょ?」
借家人の分際で言うことではないが、「庇を貸して母屋を取られる」って、まさに今の状態をいうのだろう。
「分かりました…」
「助かるわあ。自治会入ってない人も多いから、回覧板も行き届かないし」
「そうなんですね…」
「でも、チラシつくっても、見てくれるかなあ」
「――見てくれるといいですね。では、まだ仕事がありますので…」
「あらら、ごめんなさい。頑張ってね」
大家さんはそう言うと、そそくさと立ち去った。
用紙代や印字の手間賃を請求されるのを恐れた――わけではなくて、そもそもそういうのを払う発想すらないだろう。
「作業のついで」なんて言わず、「1枚5円で申し受けます」とか言えればよかったんだけど。近くの100円ショップの白黒コピー代がたしかそれくらいだった。
私は自治会に入っているので、回覧板も回ってくるが、確かにきちんと読んだためしはない。
チラシがポストに入っていたとしても、ほかのポスティングチラシとともに捨てられるか、裏紙にされるかがオチだと思う。
だったら、誰も見てなさそうな、いかにもテキトー当な張り紙でも別によかったのでは…と気付いたときには、私は23枚分の印字を終了していた。
***
「『ゴミの出し方が悪い』って苦情が出ていましてねえ」
「はあ…」
「いやいや、あなたがってわけじゃないの。ただ、こういうとき、どうしても集合住宅はね…」
「はい…」
「あ、あなたはちゃんとしていると思うよ?でも、念のためにね…若い人が多いし、偏見で見られがちなの。わかってね」
仕事中、アパートの大家さんが突然訪ねてきたと思ったら、少なくとも私には何一つ関係のない「注意」のためだった。
私が住む棟は、ごみ集積所から最も近い位置にあって、比較的新しい。
住民の中にはゴミ出しの時間を守らないとか、分別が行き届いていない人もいないわけではないだろうが、毎回ほぼ朝の7時、納豆の容器を洗って「可燃ごみ」ではなく「プラごみの日」に出している私に、これ以上何をしろと?
回収日には、車で捨てにくる人も結構いる。
近くても、ごみの量が多いと車ぐらい出すだろうが、エリア外から来ている人が全くいないと誰が言えるだろう。
まあなんだ。注意するならそういう人にすべきだろうに、「若年層の多い集合住宅」というのは、そのイカニモ感で目の敵にされやすく、古くから地域に住む(暇な)中高齢者にああだこうだ言われ、大家さんはこうして、したくもない注意をしに「在宅仕事中の私の部屋に」やってきた、というわけだ。
意地の悪い見方すれば、既成事実つくっとけば、あとは「言われたのに守らないやつが悪い」になるだろうしね。
+++
「あの、それ…全戸に注意なさるのは大変じゃないですか?」
「まあ、夜遅い人もあるしねえ。2階の7号室の●●さんとか…」
そういう人たちのところには、多分電話すらしていないんだろうな。
「夜遅いのは失礼」って理由で、とうぜん臨戸訪問もしないだろうし。
しかし昼間家にいるったって暇というわけではない。
話がこれ以上長くなるのは勘弁してほしい。
「もしアレでしたら、注意喚起のチラシお作りしますよ?」
「え? でも大変じゃない?」
「作業のついでです。原本を差し上げますから、それをコピーしていただければ」
「え? コピーってコンビニとかのよね? お金かかるでしょ? それに私機械は苦手で…」
「――分かりました。じゃ、私が部屋数分つくります。ウチを除いて7部屋でいいですね?」
「じゃ、ついでだから、A棟とC棟の分もお願いできるかな?8×3で…」
えーっ、ヤブヘビ…言うんじゃなかったよ…。
まあ、これで帰ってくれるならいいか。
用紙代ぐらい出してもらいたいけど――無理だろうなあ。
「わかりました。23枚ですね」
「え?はちさん・にじゅうしでしょ?」
「だからうちの分は――分かりました。つくったらお届けします」
「えー、近所だし、配っといてよ。ついででしょ?」
借家人の分際で言うことではないが、「庇を貸して母屋を取られる」って、まさに今の状態をいうのだろう。
「分かりました…」
「助かるわあ。自治会入ってない人も多いから、回覧板も行き届かないし」
「そうなんですね…」
「でも、チラシつくっても、見てくれるかなあ」
「――見てくれるといいですね。では、まだ仕事がありますので…」
「あらら、ごめんなさい。頑張ってね」
大家さんはそう言うと、そそくさと立ち去った。
用紙代や印字の手間賃を請求されるのを恐れた――わけではなくて、そもそもそういうのを払う発想すらないだろう。
「作業のついで」なんて言わず、「1枚5円で申し受けます」とか言えればよかったんだけど。近くの100円ショップの白黒コピー代がたしかそれくらいだった。
私は自治会に入っているので、回覧板も回ってくるが、確かにきちんと読んだためしはない。
チラシがポストに入っていたとしても、ほかのポスティングチラシとともに捨てられるか、裏紙にされるかがオチだと思う。
だったら、誰も見てなさそうな、いかにもテキトー当な張り紙でも別によかったのでは…と気付いたときには、私は23枚分の印字を終了していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる