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口うるさい彼
8月7日、未明…
しおりを挟むあっくんは250㏄のバイクに乗って、金曜日の夜、200キロ離れた私の街にやってきて、日曜日の夜帰っていく。
つまり、絶賛遠距離恋愛中だった。
工場の仕事はきついけど、「美紅に会いたいって思えば平気」って、本当に毎週、雨の日も風の日も来てくれる。
あっくんは少し仮眠を取って夜中の2、3時頃帰るか、寮に戻ってから仮眠を取るか、その日の気分や体調で決めていた。
大体はもう少し早い時間に寝て、夜中起きて――なので、いつも「おはよう。また来週」って簡単な置き手紙をして出ていくけれど、その日日付が変わる直前まで映画を見ていたので、「今日はこのまま帰るね。おやすみ」って私にキスして、「ポテチも結構食ってたから、ちゃんと歯を磨いて寝ろよ」って言って、髪の毛をくしゃっとした。
バイクの音が遠ざかっていくのって、こんなに寂しいんだな…。
+++
あっくんと2人で布団に入っても、大抵私が先に寝てしまうので、「おやすみ」って言ってもらうのは珍しいことなんだなと気付いたのは、彼が社員寮に帰り着く少し前、高速道路で事故を起こして即死した――というのを知ったときだった。
真面目で慎重な人だから、途中で眠くなったら仮眠を取るだろう。
絶対、無茶なスピードは出さない。
だから私は、「そういう」事態を全く心配したことがなかった。
だって私に「トイレ行け」「歯磨け」って、あれだけ口うるさく言う人だよ?
自分のことだってもちろんきっちりやってる。
おかしいでしょ、そんな人が事故起こすなんて。しかも死んでしまうなんて。
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