86 / 95
第86話
しおりを挟む
ごぎんっ
その音が聞こえた直後、更に別の衝撃音が聞こえると同時にタイアは横へ吹き飛んだ。
ドォンッ!……ドッ、ドザザッ
"銀蘭"の後方にいた俺からだとフェリスの足がチラッと見えたぐらいだが、あの飛び方からすると攻撃されたのは頭部ではないな。
「タイアっ!」
そうルカさんが声を上げたときには、すでに30mほど離れた場所に転がっていたタイア。
こちらも戦闘態勢に入っていたわけだし、タイアも気を抜いていたわけではないはずだ。
だが、フェリスが相手ではその素早さに対応しきれず、彼女の回し蹴りと思われるものを躱すことができなかったのだろう。
「……」
距離もあって声などは聞こえず、動いてもいないので生死は不明である。
直接その光景を見たことはないが車に跳ね飛ばされたようなものなので、直接頭部を攻撃されなかったとしても着地の衝撃などで頭を打ってしまうことは十分にあり得るな。
まぁ、治癒魔法なんてものが存在するわけだし、生きてさえいれば助かるのかもしれないが……
ダッ
それは彼女も思ったのか、"銀蘭"と行動を共にしている聖職者のアンジュさんが駆け寄ろうとする。
だが……
ザッ
「フェリスさん!?」
そのアンジュさんの前にフェリスが立ちはだかり、タイアの下へ向かうのを妨害した。
ギリッ……
「お前らぁ……」
"銀蘭"の面々がタイアを心配する中で自由の利く頭部だけで振り返り、歯軋りをして"宝石蛇"を睨むフェリス。
自身を操って味方を攻撃させたことや、それを治そうとする行為を阻止したことに激怒しているのは明らかだ。
だが、そんな彼女にウルガーは指示を出した。
「その女の魔法は厄介だからな。だが殺す気まではなかったのは力加減でわかっただろう?彼奴も顔と身体自体は良いからな、魔法を使えなくして使う予定なのだ。とりあえず……"持って来い"」
「っ!グッ、ギッ、ギギッ……」
その指示になんとか抗おうとしているようで、フェリスは必死な形相で頭を振り乱している。
しかし……その意思に反して身体はすんなりとタイアの下へ向かい、彼女を雑に抱え上げるとウルガーの方へ向かう。
下手に止めてタイアに止めを刺される可能性もないわけではないからか、ルカさん達はそれを悔しそうに眺めているしかないようだ。
厄介だと評するほどの魔法使いなのに、その魔法を封じて使うということは……タイアを女としてだけ利用するつもりだからであり、それならば余程のこだわりが無い限り彼女である必要はないからな。
そして手を出せないのは俺も同様で、タイアが蹴り飛ばされると同時に最前列へ出て来てはいたが……今はフェリスを操っている者を探し出すことを優先するべきか。
ガシッ、グニグニ……
「ご苦労。フン、中々のモノを持ってるじゃないか」
タイアを受け取ったウルガーは彼女の後ろから脇に右手を回すと、その大きな胸を揉みしだく。
「うぅ……」
怪我の痛みのせいか、もしくは力の抜けた身体でもその感覚はあるのか……タイアは嫌悪感を露わにする。
ウルガーは言葉通り彼女を殺す気はなかったようで、その反応があったことにより生存が確認できて俺は多少だが安堵した。
そんなウルガーは前に出てきた俺の姿に、ニヤけ面でその手を激しく動かす。
ワシワシワシワシッ
「お前、確かモーズとか言うのだったな?"銀蘭"に協力して馬車馬のように尽くしていたようだが、こういうメス共を目当てにご機嫌取りをしていたのではないか?どうだ、こちらに付けば何番目になるかはわからぬが……お前にも使わせてやるぞ?」
俺の力を聞いていたからか、見せつけるようにタイアの胸を捏ね回して勧誘してくるウルガーだったが……俺はそれを即刻拒否する。
『お断りします。その行為自体に興味がないわけではありませんが、俺はどちらかと言うと相手が悦んで動いてくれるのを見たいほうでして』
そう言って断ると、ウルガーは"美味い話に乗らなかった愚か者"を見る目で返してきた。
「フン、ならばお前がこれを味わう機会は来ないだろうな。まぁ、ボロボロになって誰も使いたがらなくなったらくれてやろう」
『……』
その言葉に返答する価値はなく、俺はフェリスを操る者を探していると……そこで、そのフェリスが唐突に提案する。
「私達をとっとと解放するなら……殺すのだけは許してあげてもいいわよ?」
その提案とも言えない提案に、ウルガーはタイアの先端を探って捻り上げた。
ギリッ
「イッ!?」
「なっ!?止めなさいっ!」
声を上げるタイアを前にし、その声を上げさせているウルガーへ抗議するフェリス。
そんな彼女に対して、ウルガーはバカにしたような態度で言葉を返す。
「……フゥ。状況の把握ができていないようだな。今、お前達の命を握っているのは俺の方だぞ?このようにな」
ワシッ、モミモミ……
「っ!?くっ……」
ウルガーは空いていた左手で無造作にフェリスを引き寄せて肩に腕を回し、彼女の前面をこちらへ向ける形で胸を捏ねだした。
それに対し、彼女は一切の抵抗なく奴に背を向けてその身を任せる。
こちらもその様子を俺達に見せつけるのは、フェリスの傀儡化を更にアピールするためだろうか。
「ふむ……傷は負わないというのに感覚だけはある、か。だったらどのぐらい伸びるのか試してやろうか」
ギュゥッ、グイィッ
「ぐぅっ!?」
そのままフェリスの胸を強く掴み込んだウルガーは、そこだけで彼女の身体を持ち上げる。
奴は体格に見合うぐらいの腕力はあるようで、若干体が浮くほどのその行為にフェリスは苦痛の声を上げた。
怪我をしないという彼女が苦痛を感じているのは意外というわけでもない。
2度ほどフェリスの身体を弄る機会があったが、どちらも普通に反応はあったからな。
おそらく彼女は感覚のコントロールが可能で、状況に応じて痛覚の遮断などを行っているのだろう。
怪我をしないこととはまた別の性質……というか能力なのかな。
となると、今ウルガーに握られている胸からの痛みを感じているのは、彼女の身体を操ることはできても彼女の特殊な力までは操れないからだろうか?
まぁ、彼女に苦痛を与えるためにあえて痛覚を遮断していないのかもしれないが……その点については置いておくとして。
ああして強い刺激を与えられ、普通の人と同じように苦痛を感じているフェリス。
彼女のことは別に嫌いではないし、今後イリス達のことで世話にもなる予定でもある。
なので早いところ彼女を操っている者を見つけ出し、解放してあげたいところなのだが……見る限りではそれらしい人物が見当たらない。
千人はいかないようだが、それに近い人数の中から目立っているわけでもない人物を探し出すとなれば中々面倒だ。
操られたフェリスが最初に指示もなくタイアを蹴り飛ばしたのは、それが予定として決まっていたからだろう。
首から下だけを操っている以上、フェリスの判断能力や視界を掌握しているわけではないようだし、それを実行するには彼女とタイアの位置関係を把握していなくてはならず、フェリスを操っている者は2人が視認できる位置に居るはずだ。
そして、使う予定だと言っていたぐらいだし倒れたタイアを運ばせるところまでは予定にあったのだろうが、ウルガーの言葉に応じて身を任せるように背を向けたフェリスを見るに、奴の声が聞こえなくてはそれに応じられないのでその声が聞こえる範囲なのも確かだろう。
ただ……この前提はテレビやネットの生中継に近いことができれば意味はなくなる。
少なくとも、俺はやろうと思えば可能なのでその可能性を考えないわけにもいかない。
ウルガーを始末してしまっても操っている者さえ無事であれば、フェリスがノーランド公爵家か操っている者個人の手駒となることに変わりはないのでなんの解決にもならないんだよな。
それに……可能であればウルガーだけは生きて捕らえてほしいとも言われている。
そう言ったのはシャーロットであり、ノーランド家が王家へ牙を向いた証拠の1つにするためだそうだ。
白を切る可能性が大きいと思うのだが、その辺りはどうするつもりなのだろうか?
まぁいい。
とにかく、どうにかフェリスを操る者を見つけ出そうとしていたのだが……ウルガーがアーロンに短く指示を出す。
「おい」
「はい。おう、お前ら」
「「へい」」
それも予定通りだったのか細かい指示は出されなかったが、ウルガーの指示をアーロンから受けた数人の男達はタイアとフェリスに手を伸ばし、2人の服に手を掛けた。
ビリリィッ!
「イ、イヤッ……」
ダメージのせいか弱々しく声を上げるタイアを無視し、魔法の触媒などを収めている腰の鞄を取ると……男達は彼女の服を真ん中からナイフで斬り裂いた。
ブラ役の下着も同じように斬り裂かれてタイアの胸が晒されると、再びウルガーがそこを掴んで揉み始める。
モミモミ……
「ふむ、やはり直接のほうが感触は良いな。ん?どうした?」
タイアの感触に気を良くしていたウルガーだったが、そこでフェリスのほうに取り掛かる男達が手間取っていることに気づく。
「いえ、その……こいつの服、刃が通りませんで」
「なに?」
男の1人がそう言うと、ウルガーはフェリスが着ていたチャイナドレスの胸元を掴んで引っ張る。
グイッ
ぼろんっ
それによって彼女の胸が左右から零れるが、ウルガーはそこを気にせず服のほうに注目する。
グッ、グッ……
「ふむ……先ほど触って滑らかだとは思ったが、特殊な生地なのか?」
「まさか、マジックアイテムなんでしょうか?」
服をグイグイと引っ張るウルガーの疑問にアーロンがそう返すと、そこでフェリスが吐き捨てるように2人へ答えた。
「どっちでもいいでしょ、どうせ脱がすんだから。ほら、咥え込んであげるからとっとと脱がして突っ込みなさいよ」
その発言自体は色々と諦めたような内容ではあったが、彼女の目や声は反抗の意思を溢れるほどに孕んでいる。
それはウルガーも感じ取ったのか、首を横に振ってその申し出を断った。
「フン、そのつもりはない。お前の力を下の口も持っている可能性があるからな。あぁ、丁度いい。その腰に提げている棒切れを突っ込んで、裸で街を歩かせるか」
「っ!?お前ぇ……」
彼女の腰にある、俺が貸したトンファーを指して言うウルガーに殺意を溢れさせるフェリス。
俺としては……本人が自発的に使うぶんには構わないが、こういう形で利用されるのは誠に遺憾である。
フェリスの怒りに俺のそんな心情まで含まれているのかは不明だが、そんな彼女の殺意を受けても状況が確実に優勢だと認識しているからか奴は更に指示を出した。
「フェリスは脱がした後にあそこの聖職者を狙え。タイアは……死なん程度になら使ってもいいぞ」
「「!?」」
その指示に俺や"銀蘭"の面々に驚きと動揺が生まれた。
もちろんタイアの事もあるが、聖職者にも手を出すと明言したからである。
そんなことをすれば、聖職者が所属する教会から聖職者の派遣を断られるようになると思うのだが……"宝石蛇"の男達には事前に言ってあったのか、動揺ではなく期待の笑みを浮かべる者が多かった。
「っ……」
スッ……
その反応に、アンジュさんは無意識にか右腕で胸を隠す。
それ自体は仕方のないことだが……セリア同様にやはり彼女も防具は着けておらず、その行動によって胸が形を変えて強調されてしまう。
結果、"宝石蛇"のほうからは「おぉっ♪」や「へへへ……」などの期待の声が聞こえてきた。
それによってアンジュさんが嫌悪の表情を濃くしていると、そこでフェリスが口を開く。
「教会を敵に回す気?街でも治癒魔法を受けられなくなるわよ?」
そうなれば派遣だけでなく、街での治癒魔法まで断られる可能性が大きい。
その辺りのことも含めて彼女は脅すように警告するも、ウルガーは大して気にした様子もなく返答した。
「問題ない。飽きて使えなくなれば人前でお前に始末させればいいからな。操られていることを証明する手段もないのだし、教会に追われるとしてもそれはお前になる」
「指示を出すのはお前だろう」
「実行するのはお前だろう?」
「……」
何と言うか……他責思考によって王家になれなかったような家系だからだろうか?
まるで自分は何も悪くないと思っていそうなウルガーの態度に、フェリスは更に殺気を溢れさせる。
「もしも自由になったら……その日がお前の命日だ」
「そうか。なら、それまでお前にはメス共の調達に精を出してもらうとしよう」
自分の殺害予告を受けてもそれが実行されることはないという確信があるのか、ウルガーはそう答えるとタイアを囲む男達に指示を出す。
「やれ」
「「おおっ!」」
「ヒッ……イヤァッ!」
歓喜の声を上げる男達がタイアへ群がりその手を伸ばす。
怪我によって弱っていた声もその時ばかりは大きく、その後のことに対する強い恐怖と嫌悪が感じられる。
…………ハァ、ここまでかな。
この状況に俺はある程度の事を諦め……直後、フェリスとタイアの姿がその場から消えた。
その音が聞こえた直後、更に別の衝撃音が聞こえると同時にタイアは横へ吹き飛んだ。
ドォンッ!……ドッ、ドザザッ
"銀蘭"の後方にいた俺からだとフェリスの足がチラッと見えたぐらいだが、あの飛び方からすると攻撃されたのは頭部ではないな。
「タイアっ!」
そうルカさんが声を上げたときには、すでに30mほど離れた場所に転がっていたタイア。
こちらも戦闘態勢に入っていたわけだし、タイアも気を抜いていたわけではないはずだ。
だが、フェリスが相手ではその素早さに対応しきれず、彼女の回し蹴りと思われるものを躱すことができなかったのだろう。
「……」
距離もあって声などは聞こえず、動いてもいないので生死は不明である。
直接その光景を見たことはないが車に跳ね飛ばされたようなものなので、直接頭部を攻撃されなかったとしても着地の衝撃などで頭を打ってしまうことは十分にあり得るな。
まぁ、治癒魔法なんてものが存在するわけだし、生きてさえいれば助かるのかもしれないが……
ダッ
それは彼女も思ったのか、"銀蘭"と行動を共にしている聖職者のアンジュさんが駆け寄ろうとする。
だが……
ザッ
「フェリスさん!?」
そのアンジュさんの前にフェリスが立ちはだかり、タイアの下へ向かうのを妨害した。
ギリッ……
「お前らぁ……」
"銀蘭"の面々がタイアを心配する中で自由の利く頭部だけで振り返り、歯軋りをして"宝石蛇"を睨むフェリス。
自身を操って味方を攻撃させたことや、それを治そうとする行為を阻止したことに激怒しているのは明らかだ。
だが、そんな彼女にウルガーは指示を出した。
「その女の魔法は厄介だからな。だが殺す気まではなかったのは力加減でわかっただろう?彼奴も顔と身体自体は良いからな、魔法を使えなくして使う予定なのだ。とりあえず……"持って来い"」
「っ!グッ、ギッ、ギギッ……」
その指示になんとか抗おうとしているようで、フェリスは必死な形相で頭を振り乱している。
しかし……その意思に反して身体はすんなりとタイアの下へ向かい、彼女を雑に抱え上げるとウルガーの方へ向かう。
下手に止めてタイアに止めを刺される可能性もないわけではないからか、ルカさん達はそれを悔しそうに眺めているしかないようだ。
厄介だと評するほどの魔法使いなのに、その魔法を封じて使うということは……タイアを女としてだけ利用するつもりだからであり、それならば余程のこだわりが無い限り彼女である必要はないからな。
そして手を出せないのは俺も同様で、タイアが蹴り飛ばされると同時に最前列へ出て来てはいたが……今はフェリスを操っている者を探し出すことを優先するべきか。
ガシッ、グニグニ……
「ご苦労。フン、中々のモノを持ってるじゃないか」
タイアを受け取ったウルガーは彼女の後ろから脇に右手を回すと、その大きな胸を揉みしだく。
「うぅ……」
怪我の痛みのせいか、もしくは力の抜けた身体でもその感覚はあるのか……タイアは嫌悪感を露わにする。
ウルガーは言葉通り彼女を殺す気はなかったようで、その反応があったことにより生存が確認できて俺は多少だが安堵した。
そんなウルガーは前に出てきた俺の姿に、ニヤけ面でその手を激しく動かす。
ワシワシワシワシッ
「お前、確かモーズとか言うのだったな?"銀蘭"に協力して馬車馬のように尽くしていたようだが、こういうメス共を目当てにご機嫌取りをしていたのではないか?どうだ、こちらに付けば何番目になるかはわからぬが……お前にも使わせてやるぞ?」
俺の力を聞いていたからか、見せつけるようにタイアの胸を捏ね回して勧誘してくるウルガーだったが……俺はそれを即刻拒否する。
『お断りします。その行為自体に興味がないわけではありませんが、俺はどちらかと言うと相手が悦んで動いてくれるのを見たいほうでして』
そう言って断ると、ウルガーは"美味い話に乗らなかった愚か者"を見る目で返してきた。
「フン、ならばお前がこれを味わう機会は来ないだろうな。まぁ、ボロボロになって誰も使いたがらなくなったらくれてやろう」
『……』
その言葉に返答する価値はなく、俺はフェリスを操る者を探していると……そこで、そのフェリスが唐突に提案する。
「私達をとっとと解放するなら……殺すのだけは許してあげてもいいわよ?」
その提案とも言えない提案に、ウルガーはタイアの先端を探って捻り上げた。
ギリッ
「イッ!?」
「なっ!?止めなさいっ!」
声を上げるタイアを前にし、その声を上げさせているウルガーへ抗議するフェリス。
そんな彼女に対して、ウルガーはバカにしたような態度で言葉を返す。
「……フゥ。状況の把握ができていないようだな。今、お前達の命を握っているのは俺の方だぞ?このようにな」
ワシッ、モミモミ……
「っ!?くっ……」
ウルガーは空いていた左手で無造作にフェリスを引き寄せて肩に腕を回し、彼女の前面をこちらへ向ける形で胸を捏ねだした。
それに対し、彼女は一切の抵抗なく奴に背を向けてその身を任せる。
こちらもその様子を俺達に見せつけるのは、フェリスの傀儡化を更にアピールするためだろうか。
「ふむ……傷は負わないというのに感覚だけはある、か。だったらどのぐらい伸びるのか試してやろうか」
ギュゥッ、グイィッ
「ぐぅっ!?」
そのままフェリスの胸を強く掴み込んだウルガーは、そこだけで彼女の身体を持ち上げる。
奴は体格に見合うぐらいの腕力はあるようで、若干体が浮くほどのその行為にフェリスは苦痛の声を上げた。
怪我をしないという彼女が苦痛を感じているのは意外というわけでもない。
2度ほどフェリスの身体を弄る機会があったが、どちらも普通に反応はあったからな。
おそらく彼女は感覚のコントロールが可能で、状況に応じて痛覚の遮断などを行っているのだろう。
怪我をしないこととはまた別の性質……というか能力なのかな。
となると、今ウルガーに握られている胸からの痛みを感じているのは、彼女の身体を操ることはできても彼女の特殊な力までは操れないからだろうか?
まぁ、彼女に苦痛を与えるためにあえて痛覚を遮断していないのかもしれないが……その点については置いておくとして。
ああして強い刺激を与えられ、普通の人と同じように苦痛を感じているフェリス。
彼女のことは別に嫌いではないし、今後イリス達のことで世話にもなる予定でもある。
なので早いところ彼女を操っている者を見つけ出し、解放してあげたいところなのだが……見る限りではそれらしい人物が見当たらない。
千人はいかないようだが、それに近い人数の中から目立っているわけでもない人物を探し出すとなれば中々面倒だ。
操られたフェリスが最初に指示もなくタイアを蹴り飛ばしたのは、それが予定として決まっていたからだろう。
首から下だけを操っている以上、フェリスの判断能力や視界を掌握しているわけではないようだし、それを実行するには彼女とタイアの位置関係を把握していなくてはならず、フェリスを操っている者は2人が視認できる位置に居るはずだ。
そして、使う予定だと言っていたぐらいだし倒れたタイアを運ばせるところまでは予定にあったのだろうが、ウルガーの言葉に応じて身を任せるように背を向けたフェリスを見るに、奴の声が聞こえなくてはそれに応じられないのでその声が聞こえる範囲なのも確かだろう。
ただ……この前提はテレビやネットの生中継に近いことができれば意味はなくなる。
少なくとも、俺はやろうと思えば可能なのでその可能性を考えないわけにもいかない。
ウルガーを始末してしまっても操っている者さえ無事であれば、フェリスがノーランド公爵家か操っている者個人の手駒となることに変わりはないのでなんの解決にもならないんだよな。
それに……可能であればウルガーだけは生きて捕らえてほしいとも言われている。
そう言ったのはシャーロットであり、ノーランド家が王家へ牙を向いた証拠の1つにするためだそうだ。
白を切る可能性が大きいと思うのだが、その辺りはどうするつもりなのだろうか?
まぁいい。
とにかく、どうにかフェリスを操る者を見つけ出そうとしていたのだが……ウルガーがアーロンに短く指示を出す。
「おい」
「はい。おう、お前ら」
「「へい」」
それも予定通りだったのか細かい指示は出されなかったが、ウルガーの指示をアーロンから受けた数人の男達はタイアとフェリスに手を伸ばし、2人の服に手を掛けた。
ビリリィッ!
「イ、イヤッ……」
ダメージのせいか弱々しく声を上げるタイアを無視し、魔法の触媒などを収めている腰の鞄を取ると……男達は彼女の服を真ん中からナイフで斬り裂いた。
ブラ役の下着も同じように斬り裂かれてタイアの胸が晒されると、再びウルガーがそこを掴んで揉み始める。
モミモミ……
「ふむ、やはり直接のほうが感触は良いな。ん?どうした?」
タイアの感触に気を良くしていたウルガーだったが、そこでフェリスのほうに取り掛かる男達が手間取っていることに気づく。
「いえ、その……こいつの服、刃が通りませんで」
「なに?」
男の1人がそう言うと、ウルガーはフェリスが着ていたチャイナドレスの胸元を掴んで引っ張る。
グイッ
ぼろんっ
それによって彼女の胸が左右から零れるが、ウルガーはそこを気にせず服のほうに注目する。
グッ、グッ……
「ふむ……先ほど触って滑らかだとは思ったが、特殊な生地なのか?」
「まさか、マジックアイテムなんでしょうか?」
服をグイグイと引っ張るウルガーの疑問にアーロンがそう返すと、そこでフェリスが吐き捨てるように2人へ答えた。
「どっちでもいいでしょ、どうせ脱がすんだから。ほら、咥え込んであげるからとっとと脱がして突っ込みなさいよ」
その発言自体は色々と諦めたような内容ではあったが、彼女の目や声は反抗の意思を溢れるほどに孕んでいる。
それはウルガーも感じ取ったのか、首を横に振ってその申し出を断った。
「フン、そのつもりはない。お前の力を下の口も持っている可能性があるからな。あぁ、丁度いい。その腰に提げている棒切れを突っ込んで、裸で街を歩かせるか」
「っ!?お前ぇ……」
彼女の腰にある、俺が貸したトンファーを指して言うウルガーに殺意を溢れさせるフェリス。
俺としては……本人が自発的に使うぶんには構わないが、こういう形で利用されるのは誠に遺憾である。
フェリスの怒りに俺のそんな心情まで含まれているのかは不明だが、そんな彼女の殺意を受けても状況が確実に優勢だと認識しているからか奴は更に指示を出した。
「フェリスは脱がした後にあそこの聖職者を狙え。タイアは……死なん程度になら使ってもいいぞ」
「「!?」」
その指示に俺や"銀蘭"の面々に驚きと動揺が生まれた。
もちろんタイアの事もあるが、聖職者にも手を出すと明言したからである。
そんなことをすれば、聖職者が所属する教会から聖職者の派遣を断られるようになると思うのだが……"宝石蛇"の男達には事前に言ってあったのか、動揺ではなく期待の笑みを浮かべる者が多かった。
「っ……」
スッ……
その反応に、アンジュさんは無意識にか右腕で胸を隠す。
それ自体は仕方のないことだが……セリア同様にやはり彼女も防具は着けておらず、その行動によって胸が形を変えて強調されてしまう。
結果、"宝石蛇"のほうからは「おぉっ♪」や「へへへ……」などの期待の声が聞こえてきた。
それによってアンジュさんが嫌悪の表情を濃くしていると、そこでフェリスが口を開く。
「教会を敵に回す気?街でも治癒魔法を受けられなくなるわよ?」
そうなれば派遣だけでなく、街での治癒魔法まで断られる可能性が大きい。
その辺りのことも含めて彼女は脅すように警告するも、ウルガーは大して気にした様子もなく返答した。
「問題ない。飽きて使えなくなれば人前でお前に始末させればいいからな。操られていることを証明する手段もないのだし、教会に追われるとしてもそれはお前になる」
「指示を出すのはお前だろう」
「実行するのはお前だろう?」
「……」
何と言うか……他責思考によって王家になれなかったような家系だからだろうか?
まるで自分は何も悪くないと思っていそうなウルガーの態度に、フェリスは更に殺気を溢れさせる。
「もしも自由になったら……その日がお前の命日だ」
「そうか。なら、それまでお前にはメス共の調達に精を出してもらうとしよう」
自分の殺害予告を受けてもそれが実行されることはないという確信があるのか、ウルガーはそう答えるとタイアを囲む男達に指示を出す。
「やれ」
「「おおっ!」」
「ヒッ……イヤァッ!」
歓喜の声を上げる男達がタイアへ群がりその手を伸ばす。
怪我によって弱っていた声もその時ばかりは大きく、その後のことに対する強い恐怖と嫌悪が感じられる。
…………ハァ、ここまでかな。
この状況に俺はある程度の事を諦め……直後、フェリスとタイアの姿がその場から消えた。
75
お気に入りに追加
408
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる