マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第86話

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ごぎんっ


その音が聞こえた直後、更に別の衝撃音が聞こえると同時にタイアは横へ吹き飛んだ。


ドォンッ!……ドッ、ドザザッ


"銀蘭"の後方にいた俺からだとフェリスの足がチラッと見えたぐらいだが、あの飛び方からすると攻撃されたのは頭部ではないな。


「タイアっ!」


そうルカさんが声を上げたときには、すでに30mほど離れた場所に転がっていたタイア。

こちらも戦闘態勢に入っていたわけだし、タイアも気を抜いていたわけではないはずだ。

だが、フェリスが相手ではその素早さに対応しきれず、彼女の回し蹴りと思われるものを躱すことができなかったのだろう。


「……」


距離もあって声などは聞こえず、動いてもいないので生死は不明である。

直接その光景を見たことはないが車に跳ね飛ばされたようなものなので、直接頭部を攻撃されなかったとしても着地の衝撃などで頭を打ってしまうことは十分にあり得るな。

まぁ、治癒魔法なんてものが存在するわけだし、生きてさえいれば助かるのかもしれないが……


ダッ


それは彼女も思ったのか、"銀蘭"と行動を共にしている聖職者のアンジュさんが駆け寄ろうとする。

だが……


ザッ

「フェリスさん!?」


そのアンジュさんの前にフェリスが立ちはだかり、タイアの下へ向かうのを妨害した。


ギリッ……
「お前らぁ……」


"銀蘭"の面々がタイアを心配する中で自由の利く頭部だけで振り返り、歯軋りをして"宝石蛇"を睨むフェリス。

自身を操って味方を攻撃させたことや、それを治そうとする行為を阻止したことに激怒しているのは明らかだ。

だが、そんな彼女にウルガーは


「その女の魔法は厄介だからな。だが殺す気まではなかったのは力加減でわかっただろう?彼奴も顔と身体自体は良いからな、魔法を使えなくして使予定なのだ。とりあえず……"持って来い"」

「っ!グッ、ギッ、ギギッ……」


その指示になんとか抗おうとしているようで、フェリスは必死な形相で頭を振り乱している。

しかし……その意思に反して身体はすんなりとタイアの下へ向かい、彼女を雑に抱え上げるとウルガーの方へ向かう。

下手に止めてタイアに止めを刺される可能性もないわけではないからか、ルカさん達はそれを悔しそうに眺めているしかないようだ。

厄介だと評するほどの魔法使いなのに、その魔法を封じて使ということは……タイアをとしてだけ利用するつもりだからであり、それならば余程のこだわりが無い限り彼女である必要はないからな。

そして手を出せないのは俺も同様で、タイアが蹴り飛ばされると同時に最前列へ出て来てはいたが……今はフェリスを操っている者を探し出すことを優先するべきか。


ガシッ、グニグニ……

「ご苦労。フン、中々のモノを持ってるじゃないか」


タイアを受け取ったウルガーは彼女の後ろから脇に右手を回すと、その大きな胸を揉みしだく。


「うぅ……」


怪我の痛みのせいか、もしくは力の抜けた身体でもその感覚はあるのか……タイアは嫌悪感を露わにする。

ウルガーは言葉通り彼女を殺す気はなかったようで、その反応があったことにより生存が確認できて俺は多少だが安堵した。

そんなウルガーは前に出てきた俺の姿に、ニヤけ面でその手を激しく動かす。


ワシワシワシワシッ

「お前、確かモーズとか言うのだったな?"銀蘭"に協力して馬車馬のように尽くしていたようだが、こういうメス共を目当てにご機嫌取りをしていたのではないか?どうだ、こちらに付けば何番目になるかはわからぬが……お前にも使ぞ?」


俺の力を聞いていたからか、見せつけるようにタイアの胸を捏ね回して勧誘してくるウルガーだったが……俺はそれを即刻拒否する。


『お断りします。その行為自体に興味がないわけではありませんが、俺はどちらかと言うと相手が動いてくれるのを見たいほうでして』


そう言って断ると、ウルガーは"美味い話に乗らなかった愚か者"を見る目で返してきた。


「フン、ならばお前がを味わう機会は来ないだろうな。まぁ、ボロボロになって誰も使いたがらなくなったらくれてやろう」

『……』


その言葉に返答する価値はなく、俺はフェリスを操る者を探していると……そこで、そのフェリスが唐突に提案する。


「私達をとっとと解放するなら……殺すのだけは許してあげてもいいわよ?」


その提案とも言えない提案に、ウルガーはタイアのを探って捻り上げた。


ギリッ

「イッ!?」

「なっ!?止めなさいっ!」


声を上げるタイアを前にし、その声を上げさせているウルガーへ抗議するフェリス。

そんな彼女に対して、ウルガーはバカにしたような態度で言葉を返す。


「……フゥ。状況の把握ができていないようだな。今、お前達の命を握っているのは俺の方だぞ?このようにな」

ワシッ、モミモミ……

「っ!?くっ……」


ウルガーは空いていた左手で無造作にフェリスを引き寄せて肩に腕を回し、彼女の前面をこちらへ向ける形で胸を捏ねだした。

それに対し、彼女は一切の抵抗なく奴に背を向けてその身を任せる。

こちらもその様子を俺達に見せつけるのは、フェリスの傀儡化を更にアピールするためだろうか。


「ふむ……傷は負わないというのに感覚だけはある、か。だったらどのぐらい伸びるのか試してやろうか」

ギュゥッ、グイィッ

「ぐぅっ!?」


そのままフェリスの胸を強く掴み込んだウルガーは、そこだけで彼女の身体を持ち上げる。

奴は体格に見合うぐらいの腕力はあるようで、若干体が浮くほどのその行為にフェリスは苦痛の声を上げた。

怪我をしないという彼女が苦痛を感じているのは意外というわけでもない。

2度ほどフェリスの身体を弄る機会があったが、どちらも普通に反応はあったからな。

おそらく彼女は感覚のコントロールが可能で、状況に応じて痛覚の遮断などを行っているのだろう。

怪我をしないこととはまた別の性質……というか能力なのかな。

となると、今ウルガーに握られている胸からの痛みを感じているのは、彼女の身体を操ることはできても彼女の特殊な力までは操れないからだろうか?

まぁ、彼女に苦痛を与えるためにあえて痛覚を遮断していないのかもしれないが……その点については置いておくとして。

ああして強い刺激を与えられ、普通の人と同じように苦痛を感じているフェリス。

彼女のことは別に嫌いではないし、今後イリス達のことで世話にもなる予定でもある。

なので早いところ彼女を操っている者を見つけ出し、解放してあげたいところなのだが……見る限りではそれらしい人物が見当たらない。

千人はいかないようだが、それに近い人数の中から目立っているわけでもない人物を探し出すとなれば中々面倒だ。

操られたフェリスが最初に指示もなくタイアを蹴り飛ばしたのは、それが予定として決まっていたからだろう。

首から下だけを操っている以上、フェリスの判断能力や視界を掌握しているわけではないようだし、それを実行するには彼女とタイアの位置関係を把握していなくてはならず、フェリスを操っている者は2人が視認できる位置に居るはずだ。

そして、使予定だと言っていたぐらいだし倒れたタイアを運ばせるところまでは予定にあったのだろうが、ウルガーの言葉に応じて身を任せるように背を向けたフェリスを見るに、奴の声が聞こえなくてはそれに応じられないのでその声が聞こえる範囲なのも確かだろう。

ただ……この前提はテレビやネットの生中継に近いことができれば意味はなくなる。

少なくとも、俺はやろうと思えば可能なのでその可能性を考えないわけにもいかない。

ウルガーを始末してしまっても操っている者さえ無事であれば、フェリスがノーランド公爵家か操っている者個人の手駒となることに変わりはないのでなんの解決にもならないんだよな。

それに……可能であればウルガーだけは生きて捕らえてほしいとも言われている。

そう言ったのはシャーロットであり、ノーランド家が王家へ牙を向いた証拠の1つにするためだそうだ。

白を切る可能性が大きいと思うのだが、その辺りはどうするつもりなのだろうか?

まぁいい。

とにかく、どうにかフェリスを操る者を見つけ出そうとしていたのだが……ウルガーがアーロンに短く指示を出す。


「おい」

「はい。おう、お前ら」

「「へい」」


それも予定通りだったのか細かい指示は出されなかったが、ウルガーの指示をアーロンから受けた数人の男達はタイアとフェリスに手を伸ばし、2人の服に手を掛けた。


ビリリィッ!

「イ、イヤッ……」


ダメージのせいか弱々しく声を上げるタイアを無視し、魔法の触媒などを収めている腰の鞄を取ると……男達は彼女の服を真ん中からナイフで斬り裂いた。

ブラ役の下着も同じように斬り裂かれてタイアの胸が晒されると、再びウルガーがそこを掴んで揉み始める。


モミモミ……

「ふむ、やはり直接のほうが感触は良いな。ん?どうした?」


タイアの感触に気を良くしていたウルガーだったが、そこでフェリスのほうに取り掛かる男達が手間取っていることに気づく。


「いえ、その……こいつの服、刃が通りませんで」

「なに?」


男の1人がそう言うと、ウルガーはフェリスが着ていたチャイナドレスの胸元を掴んで引っ張る。


グイッ

ぼろんっ


それによって彼女の胸が左右から零れるが、ウルガーはそこを気にせず服のほうに注目する。


グッ、グッ……

「ふむ……先ほど触って滑らかだとは思ったが、特殊な生地なのか?」

「まさか、マジックアイテムなんでしょうか?」


服をグイグイと引っ張るウルガーの疑問にアーロンがそう返すと、そこでフェリスが吐き捨てるように2人へ答えた。


「どっちでもいいでしょ、どうせ脱がすんだから。ほら、咥え込んであげるからとっとと脱がして突っ込みなさいよ」


その発言自体は色々と諦めたような内容ではあったが、彼女の目や声は反抗の意思を溢れるほどに孕んでいる。

それはウルガーも感じ取ったのか、首を横に振ってその申し出を断った。


「フン、そのつもりはない。お前の力をも持っている可能性があるからな。あぁ、丁度いい。その腰に提げている棒切れを突っ込んで、裸で街を歩かせるか」

「っ!?お前ぇ……」


彼女の腰にある、俺が貸したトンファーを指して言うウルガーに殺意を溢れさせるフェリス。

俺としては……本人が自発的に使ぶんには構わないが、こういう形で利用されるのは誠に遺憾である。

フェリスの怒りに俺のそんな心情まで含まれているのかは不明だが、そんな彼女の殺意を受けても状況が確実に優勢だと認識しているからか奴は更に指示を出した。


「フェリスは脱がした後にあそこの聖職者を狙え。タイアは……死なん程度になら使ぞ」

「「!?」」


その指示に俺や"銀蘭"の面々に驚きと動揺が生まれた。

もちろんタイアの事もあるが、聖職者にも手を出すと明言したからである。

そんなことをすれば、聖職者が所属する教会から聖職者の派遣を断られるようになると思うのだが……"宝石蛇"の男達には事前に言ってあったのか、動揺ではなく期待の笑みを浮かべる者が多かった。


「っ……」

スッ……


その反応に、アンジュさんは無意識にか右腕で胸を隠す。

それ自体は仕方のないことだが……セリア同様にやはり彼女も防具は着けておらず、その行動によって胸が形を変えて強調されてしまう。

結果、"宝石蛇"のほうからは「おぉっ♪」や「へへへ……」などの期待の声が聞こえてきた。

それによってアンジュさんが嫌悪の表情を濃くしていると、そこでフェリスが口を開く。


「教会を敵に回す気?街でも治癒魔法を受けられなくなるわよ?」


そうなれば派遣だけでなく、街での治癒魔法まで断られる可能性が大きい。

その辺りのことも含めて彼女は脅すように警告するも、ウルガーは大して気にした様子もなく返答した。


「問題ない。飽きて使なれば人前でお前に始末させればいいからな。操られていることを証明する手段もないのだし、教会に追われるとしてもそれはお前になる」

「指示を出すのはお前だろう」

「実行するのはお前だろう?」

「……」


何と言うか……他責思考によって王家になれなかったような家系だからだろうか?

まるで自分は何も悪くないと思っていそうなウルガーの態度に、フェリスは更に殺気を溢れさせる。


「もしも自由になったら……その日がお前の命日だ」

「そうか。なら、それまでお前にはメス共の調達に精を出してもらうとしよう」


自分の殺害予告を受けてもそれが実行されることはないという確信があるのか、ウルガーはそう答えるとタイアを囲む男達に指示を出す。


「やれ」

「「おおっ!」」

「ヒッ……イヤァッ!」


歓喜の声を上げる男達がタイアへ群がりその手を伸ばす。

怪我によって弱っていた声もその時ばかりは大きく、その後のことに対する強い恐怖と嫌悪が感じられる。

…………ハァ、ここまでかな。

この状況に俺はある程度の事を諦め……直後、フェリスとタイアの姿がその場から消えた。
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