異世界ホストNo.1

狼蝶

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42.満を持しての変態登場!~“クソ猫かぶりさん”~

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 ・・・ピンポンパンポーン
 え~、ここで俺、ナナミからの注意のお知らせです。
 これから先のお話では、俺でも予想のつかないほどのド変態な客が登場します。マジでドン引きするような人です!
 なので、ここから先は、マジで『なんでも来いやぁ!!』みたいな猛者様のみ、お進みいただくことをお勧めします。
 以上、ナナミからの注意のアナウンスでした~
 ピンポンパンポーン・・・

 これは、コンが『desire』に来る随分前のこと。まだアリスも店に通っていない頃のことである。ある一人の貴人が、ナナミのいる風俗店、『desire』に足を運んだのだった。

「あ~・・・・・・きもちっ」
 部屋に備え付けられているシャワーで朝シャンを終え、もっふもふのバスタオルで身体を拭く。
 今朝方、公務があるためぶーすか文句を言いながら帰って行ったリリアム兄弟を見送り、二人に挟まれて寝ていたため汗ばんでいた肌をさっぱりさせようとシャワーを浴びたのだ。太陽の良い匂いがするタオルに顔を埋め、しばし幸せを噛みしめる。窓の外からは街が起きて動き始めている音が聞こえてきており、自分も支度を済ませて下へ降りようと思った。
 朝シャンをして爽やかさを楽しんでいた俺であったが、このときは朝シャンをしたことを後悔することになるとは、露ほども思わなかったのである。
「ナナミくん、新規のお客様。お酒も一緒に持っていって」
「はい」
 ボーイの子にそう告げられ、俺はカウンターから渡されたドリンクを持って指定されたテーブルへと向かった。テーブルへ着くと、注意していないと見逃してしまうくらいなんと言ったら良いか・・・・・・とにかく地味な人が座っていた。俺も地味な人間だから、ちょっと親近感が沸く。
 ぼさっとした長い茶髪に、服もだぼっとしたものを着ていて、目元を覆うものすごい毛量の前髪と分厚い眼鏡によって全貌が見えない。だが、俺が近づいてくるまで周りを落ちつきなくおろおろと見ている姿が、どこか小動物を思わせ可愛らしさを感じた。
「お待たせ致しました。ご指名ありがとうございます。ナナミです」
「はっ、よっ、よろひく、おねがぃしまっ」
 めちゃくちゃ噛み噛みの挨拶に、心の中で悶え苦しむ。優しげな響きを持つ声は上擦っていて、緊張しているのか震えていた。動物に好かれそうな心優しき青年、というイメージだ。
「お隣、座ってもよろしいですか?」
「はひっ、どうじょ」
 客の中では珍しいほど大人しい人で、彼から話題を発することはなく俺から話を振っていた。それにぽつぽつと応える、という感じだ。
 それにしても、ああ~たまらん!!“セイレク”さんというらしいが、お酒を少し飲んだだけでほっぺたがぽわんと色づいているのも可愛いし、何より動作一つ一つがいじらしくて可愛いのだ。ぴったりと閉じた足は行儀が良くて、足の上で握られた手は始終もじもじ、そして時折指がぽってりとした唇をぷにぷに・・・・・・。
 俺が話しかけたときに『ぁっ、』とか『ぇっとぉ・・・』などと声を漏らすのも可愛いし、そもそも大人しい声が耳に染みる。聞いていると穏やかな気持ちになる声なのだ。
「何か召し上がりますか――っ!」
 メニュー表を取ろうと腰を浮かしかけたとき、袖がくん、と何かに引っ張られ動きが止められた。引っ張られた腕を見ると、前髪と眼鏡で表情は窺えないが、赤い顔をしたセイレクさんが俺の袖を摘まんでいたのだ。
「ぁあの、・・・・・・ぅ、・・・えっと・・・・・・」
 何度も唇を開いては閉じてを繰り返し、言葉を紡ぎ出せないでいるセイレクさんにもどかしさを感じる。言葉は出ないものの袖を離す気配はなく、ぐっと結ばれた唇が痛そうで胸が痛む。
「セイレクさん、あの・・・・・・上、行きますか?」
 もし間違っていたらくっそ恥ずかしい上にクソ自意識過剰野郎という認識を持たれてしまう可能性があったが、思い切って彼に聞いてみる。すると、袖を掴んだままコクン、と頷いた。

 で、in俺の部屋な訳だが・・・・・・。どうやってこの奥手な方とソウイウ雰囲気に持ち込めばよいのでしょうかね!?強引にいっちゃう?いや、でもそんなことしたら『きゃぁ!』とか悲鳴上げて逃げていっちゃそうだし。それとも、さっきみたいに彼がアクションを起こすのを待つか・・・・・・。
 よし、そうしよう。あまり早急に物事を進めない方がいい。・・・・・・なんて、悠長なことを考えておりました愚かな俺でございます。
「え~っと、セイレクさ――
 一応備えの紅茶セットから、何を飲むか尋ねようと彼を振り返ると、彼は自身の頭からわさっと茶色の髪の毛を取り去ったのだった。もうそりゃあびっくり。目の前で起こっていることが現実ではないみたいで、一瞬間を置いてから驚きがやってきた。
 へっ!?カツラっ!!?カツラなの!?って。
 彼はそれをぽいっとベッドの上に投げ捨て、次にかけていた眼鏡も同じように捨てた。そしてこちらを振り返った彼は・・・・・・紛う事なき美青年、しかも金髪碧眼という完璧すぎる王子様系イケメンだった。歳は・・・俺よりも少し年上くらいだろうか。
 バシッバシの金色の睫に縁取られた瞳はステンドグラスみたいな綺麗な青色で、マジで綺麗としか言いようがない。真っ白い肌に映えるのは明るい金色の髪で、それは肩下まで伸ばされていて金糸のように揺らめいている。もっちりとした唇は薄ピンク色で、動かなかったらまるで人形のように人間味がない。だが不機嫌そうに曲げられた眉で、この人は人間なのだとわかる。・・・ん?不機嫌?
「オイ、テメェの体臭どうなってやがんだ?ああ?」
 彼の歪められた表情に疑問を浮かべていると、突然ドスの利いた声が聞こえた。口を開いていたのは目の前にいるセイレクさんただ一人だし、そもそもこの部屋には俺以外に彼しかいないのだから、必然的に今喋ったのは彼のはずなのだが・・・・・・ん、え、え?あの優しい声と小動物みたいなビクビクした動きはどうしたんですか?
「オイ聞いてんのか?ちょっとこっち来い」
「へぁっ!?」
 ツカツカと近づいてきて、ティーカップを持っていた俺の腕を掴みベッドへと座らせると、セイレクさんもその隣に乱暴に腰を下ろす。そしていきなり顔を近づけてきたと思ったら、スンスンと俺の脇腹の匂いを嗅ぎ始めたのだ!!
「ちょっ、何するんですかっ!!?」
「うっせぇな、ジッとしてろよ!」
「はいぃ!!」
 腹に響く低い怒号に思わず従順な返事を叫んでしまう。だって、こわいんだもの!!何なのこの人!?金髪碧眼のドヤンキーなの!?見た目完璧王子系詐欺ヤンキーなの!!?
 と、俺はもうパニックである。だがその間にも、俺の身体の匂いを隈無く嗅いできて、服の上から当てられる鼻息が少々くすぐったい。首元や脇の近くまで匂いを嗅がれ、羞恥心がすごい。あまりにもくすぐったくて、そして匂いを嗅がれるということが恥ずかしすぎて『もうやめてください』と突っぱねると、射殺されそうな危険な眼力を向けられ、身体が萎縮する。
「なんで汗の匂い一つしねぇんだよ!!つまんねぇな!!!」
 至極理不尽に怒鳴られた俺は、眉間に皺を寄せ恐ろしい目力でもって俺を睨んでくる美青年を見て、心の中で思った。
 あ、この人 “クソ猫かぶり匂いフェチなんだ”と。

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