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41.お出かけ後日談~太陽の男~
しおりを挟む翌朝、ベッドから起き上がると信じられないくらい身体の節々が痛かった。久しぶりの筋肉痛に、あ゛あ゛~こんな感じだったな懐かしいー!と思うが、すぐにそれどころじゃないと思い直す。
今日は仕事絶対無理だ。
「はろ~・・・って、アレ、ナナミんどしたの?今日はカウンターなんだ~」
「ひゃわっ!」
店長に腰の痛みを相談すると、俺の死にそうな顔に相当の迫力があったのか今日の仕事をカウンターボーイに変えてくれた。その恩義に報いるため午前中のうちからせっせとグラスを磨いていると、突然背筋を指でなぞられ驚きに背中を反らした。グラス磨きに夢中になるあまり、人が来ていることに気づいていなかったのだ。
「痛゛って・・・・・・!!!」
急に逸らした腰に、激痛が走る。骨折れた!!今絶対骨折れたわ!
「あれあれごめん!って、え、なんで腰擦ってんのぉ?」
慌てて謝ってきたが、腰を擦る俺に目をまん丸にして驚いている目の前の男の名は“ニアル“といって、いつも『desire』で客に出している料理の食材を持ってきてくれる青年だ。
顔は勿論整っていて、こいつに限っては背が俺とほぼ同じくらい高い。クッソ、顔も背丈も手に入れやがって!と見る度に心の中に嫉妬の炎が巻き起こる。
くりっと大きな瞳は太陽の光を持っていて、時折金色に見えるときなんかは心臓がどきりと跳ねるほど美しく見える。明るいオレンジ色の髪は日光に透けるとまるで燃えている太陽みたいで(太陽は燃えてるんだけど)、ほんと、存在が太陽って感じの奴だ。口が大きくて笑うときも豪快だし。
で、そんな陽キャ代表みたいな奴が、何故かこの反応激うす陰キャ代表の俺によく絡んでくるのだ。全くもって理解できない。
「そうなんだ・・・・・・よかった。てっきり誰かにパックンて食べられちゃったかとおもった~。あ、“パックン”ていうより、“ずっぽり”か」
こんな風に彼は、時々信じられないくらい下品なことをイケメンな顔で宣う。ほんっとうに止めてほしい。顔と言葉が結びつかなすぎて、世界の終わりだ、とか思ってしまうから、
腰が痛い理由を話すと、安心した~と言って俺の腰を擦り続けるニアル。あの、そろそろ止めてほしいんですが・・・・・・。彼の擦り方がなんとなく怪しく、背筋がぞわぞわとこそばい。思わず身震いすると、んふふっと太陽にして黒い笑みを零す。
「ナナミーん、ナナミんのヴァージンは俺が食べるんだからね?それまで、ちゃんと死守してよね」
「はは、ははは・・・・・・何を仰っているのかちょーっとわかりかねますな・・・・・・」
こいつの変わっているところは陰キャな俺にしつこく絡んでくることだけでなく、この俺の“処女”を狙っていることだ。全く末恐ろしいし、マジで蓼食う虫も好き好きだ。
「ニ、ア、ル、くーん、ナナミくんを口説くなら、お客様として来て欲しいなぁ」
もうそろそろ仕事に戻りたかった俺が適当にあしらおうとすると、いつもの通り静かにニアルの背後に立っていた店長が、にぃっこりと笑ってアイスピックを掲げていた。
ちょっ、それ凶器!店長!何する気!?
「あはは~、俺はナナミんと、お金で得られる関係には興味ないんですよ~。それに、ナナミん指名する金もないしっ」
俺の腰から手を離し両手を挙げて無害をアピールするニアルは、軽い身のこなしでカウンターを飛び越えると逃げ足速く店から出ていってしまった。人騒がせな奴だな・・・と溜息を吐いてグラス磨きを再開させる。
「はいコレ。全部任せちゃっても大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
店長からアイスピックを受け取り、脇に置いておく。俺に渡してくれようとしていたのかはわからないが、先ほどの絵柄にまだ足が震えていた。マジで音もなくアイスピック片手に立ってるって、こわすぎじゃん!!
『じゃあ任せたよ』と言って優しげな笑顔で去って行った店長に、ふぅーっと詰めていた息を吐く。
ころん、と横たわったアイスピックが目に入り、それを持って悪魔のように笑う店長を想像したが、それを秒で打ち消しグラス磨きに集中することにした。
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