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40.三人でお出かけ!編8~三人で『ただいま』~
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ミュエルさんとカイネさん。そしてレンくんノイくんユリたんに見送られ、俺たちの乗った馬車は走り出した。来る時は高い位置にあった太陽が、今はもう沈みかけており田園景色をオレンジ色に染めている。独特な風景に、少しだけお腹が痛くなった。
途中から一緒に作業をしていた行者さんは、どこにそんな体力があるの?と問いたくなるほど元気いっぱいに馬を走らせ、逆に俺はげっそりと腰を擦りながら馬車の振動に耐えていた。そして隣に座るコンと向かいに座るユキちゃんの無言によって、車内に気まずい空気が流れている。足も腕も筋肉痛を患っている俺に、この場を取り繕う余裕なんて、今はない。
俺も無言で揺られていると、コンがもじっと身体を動かした。太股に乗せられた拳が、緊張気味に強く握られる。彼の口から、息が漏れた。
「あ、あの、先輩・・・・・・」
緊張しているからか、掠れて上擦った声だった。突然自分に向けられた声に、視線を下げていたユキちゃんがビクッとあからさまに驚く。コンを見つめる目には、未だ怯えの色が見えた。
「ごめんなさい。先輩の家族が作った飯を、ダメにしてしまって、すいませんでした」
一体何を言ってくるのだろうか、と半ば覚悟を持ってコンを見つめるユキは、直後コンがとった行動に狼狽えた。あのコンが、自分に頭を下げているのだ。そして、『ごめんなさい』と、丁寧に謝ってきたのだ。
ユキは驚きのあまり、咄嗟に返事をすることができなかった。それが不安にさせたのか、コンは頭を下げたまま手をさらに強く握り占めている。
見せかけだけでない彼の真摯な謝罪に、自分も真剣に向き合おう、とユキは思った。だが返事をしようと思うと、どうしてもあの時の悲しい気持ちが蘇ってきてしまう。ユキはちらりとナナミを見たが、彼は何も言う気配はなかった。これは自分で何とかしなければいけない、ユキとコンの問題なのだ。
「正直、許すとかは難しい・・・・・・」
ユキの出した応えに、頭を下げたままのコンがびくりと動いた。
ユキは、正直に言った。いくら意地を張って食事を突っぱねるにしても、あれは酷かった。故意でなかったにしても、少しくらい罪悪感を抱いて欲しかった。
自分の両親が汗を流して作ったであろう貴重な食材が地面に無惨に飛び散った様子が、胸を鋭く抉った。とても、悲しかった。
でも、今日彼は、家族が作ったおにぎりを食べてくれた。食べて、笑ってくれた。
「でも今日、僕の家族が作ったおにぎりを食べてくれて、ありがとう。その・・・・・・、おいしかった?」
そう質問すると、コンは弾かれたように頭を上げた。
彼に食べてもらったとき、あのとき無駄になってしまったおにぎりが報われた、と思った。ああ、家族の作ったおにぎりは、今まで仏頂面だった彼を笑顔にできるんだと感動した。
ユキは、今にも零れそうな涙を拭うこともせずコンの目を見た。まっすぐに向けられた彼の瞳。
「はい、おいしかったです」
その目に嘘の色はなかった。
うん、仲直りできたみたいでよかった。なんとなくふんわりとした空気になった車内で、俺は夕焼けに照らされた雑草畑を窓から眺めていた。育った稲たちが夕日に染まり、黄金色がまた違った色を見せている。
今日は本当に、実りある一日だったと思う。コンにとっても、俺にとっても。コンと親しくなれたしな。
あの後本音を話してくれるようになったコンは、親への恨みを吐き出した。かなり昔に数回しか会ったことがなく、ずっと狭い場所に閉じ込められてきたという。その生活は窮屈で、世話をしてくる者たちからはいつも最低な扱いを受けていて、自分は親に見捨てられたのだと悟ったのらしい。
コンは、幸せになって親に復讐するのだと言った。コンの思っていることや彼の背景を知れた嬉しさに浮かれていたが、彼のその言葉に再び気持ちが暗くなってしまう。
しかし俺は、彼のその考えを否定することはできなかった。俺はコンとして生きてきたわけではない。俺の勝手な考えを彼に押しつけてはいけないと思ったからだ。
なんとも応えられない俺は、ただ静かに彼の話を聞き、そして相槌を打つことしかできなかった。
馬車は店の前で止まり、今日のお礼を行者さんに言う。馬車から降り、もはや我が家と化している『desire』の看板を見上げた。今朝、ここを出たときとは変わった三人の関係。今日一日の出来事を通して、確かに俺たちの仲は良くなった。
店の中からはキャストたちの賑やかな声が漏れて聞こえてくる。俺は片手に提げた、ユキちゃんの家族から貰ったお土産を覗いた。麻袋に一杯入っているのは、今日精米したお米だ。
そのどっしりとした幸せの重みを感じ、自然と笑みを作りながらドアに近づく俺。
に、コンが駆け寄ってきてぼそりと言った。
「小遣い、忘れてねえよな?」
その目の鋭い光に、ほわわんとしていた頭の中が引き締まった気がした。ちゃんと覚えてたのね・・・・・・。
『もし約束を破ったら・・・』と怖い顔をする彼に、また新たな一面を見る。
本当に今日は、実り多き一日であった(後で銅貨三枚あげたよ。モモたちには『あげすぎだよー!!』と抗議されたが、ま、まぁあの眼球の鋭さに晒されたらね・・・)。
ということで、ソフトなカツアゲをされた俺でした。・・・ははっ。
途中から一緒に作業をしていた行者さんは、どこにそんな体力があるの?と問いたくなるほど元気いっぱいに馬を走らせ、逆に俺はげっそりと腰を擦りながら馬車の振動に耐えていた。そして隣に座るコンと向かいに座るユキちゃんの無言によって、車内に気まずい空気が流れている。足も腕も筋肉痛を患っている俺に、この場を取り繕う余裕なんて、今はない。
俺も無言で揺られていると、コンがもじっと身体を動かした。太股に乗せられた拳が、緊張気味に強く握られる。彼の口から、息が漏れた。
「あ、あの、先輩・・・・・・」
緊張しているからか、掠れて上擦った声だった。突然自分に向けられた声に、視線を下げていたユキちゃんがビクッとあからさまに驚く。コンを見つめる目には、未だ怯えの色が見えた。
「ごめんなさい。先輩の家族が作った飯を、ダメにしてしまって、すいませんでした」
一体何を言ってくるのだろうか、と半ば覚悟を持ってコンを見つめるユキは、直後コンがとった行動に狼狽えた。あのコンが、自分に頭を下げているのだ。そして、『ごめんなさい』と、丁寧に謝ってきたのだ。
ユキは驚きのあまり、咄嗟に返事をすることができなかった。それが不安にさせたのか、コンは頭を下げたまま手をさらに強く握り占めている。
見せかけだけでない彼の真摯な謝罪に、自分も真剣に向き合おう、とユキは思った。だが返事をしようと思うと、どうしてもあの時の悲しい気持ちが蘇ってきてしまう。ユキはちらりとナナミを見たが、彼は何も言う気配はなかった。これは自分で何とかしなければいけない、ユキとコンの問題なのだ。
「正直、許すとかは難しい・・・・・・」
ユキの出した応えに、頭を下げたままのコンがびくりと動いた。
ユキは、正直に言った。いくら意地を張って食事を突っぱねるにしても、あれは酷かった。故意でなかったにしても、少しくらい罪悪感を抱いて欲しかった。
自分の両親が汗を流して作ったであろう貴重な食材が地面に無惨に飛び散った様子が、胸を鋭く抉った。とても、悲しかった。
でも、今日彼は、家族が作ったおにぎりを食べてくれた。食べて、笑ってくれた。
「でも今日、僕の家族が作ったおにぎりを食べてくれて、ありがとう。その・・・・・・、おいしかった?」
そう質問すると、コンは弾かれたように頭を上げた。
彼に食べてもらったとき、あのとき無駄になってしまったおにぎりが報われた、と思った。ああ、家族の作ったおにぎりは、今まで仏頂面だった彼を笑顔にできるんだと感動した。
ユキは、今にも零れそうな涙を拭うこともせずコンの目を見た。まっすぐに向けられた彼の瞳。
「はい、おいしかったです」
その目に嘘の色はなかった。
うん、仲直りできたみたいでよかった。なんとなくふんわりとした空気になった車内で、俺は夕焼けに照らされた雑草畑を窓から眺めていた。育った稲たちが夕日に染まり、黄金色がまた違った色を見せている。
今日は本当に、実りある一日だったと思う。コンにとっても、俺にとっても。コンと親しくなれたしな。
あの後本音を話してくれるようになったコンは、親への恨みを吐き出した。かなり昔に数回しか会ったことがなく、ずっと狭い場所に閉じ込められてきたという。その生活は窮屈で、世話をしてくる者たちからはいつも最低な扱いを受けていて、自分は親に見捨てられたのだと悟ったのらしい。
コンは、幸せになって親に復讐するのだと言った。コンの思っていることや彼の背景を知れた嬉しさに浮かれていたが、彼のその言葉に再び気持ちが暗くなってしまう。
しかし俺は、彼のその考えを否定することはできなかった。俺はコンとして生きてきたわけではない。俺の勝手な考えを彼に押しつけてはいけないと思ったからだ。
なんとも応えられない俺は、ただ静かに彼の話を聞き、そして相槌を打つことしかできなかった。
馬車は店の前で止まり、今日のお礼を行者さんに言う。馬車から降り、もはや我が家と化している『desire』の看板を見上げた。今朝、ここを出たときとは変わった三人の関係。今日一日の出来事を通して、確かに俺たちの仲は良くなった。
店の中からはキャストたちの賑やかな声が漏れて聞こえてくる。俺は片手に提げた、ユキちゃんの家族から貰ったお土産を覗いた。麻袋に一杯入っているのは、今日精米したお米だ。
そのどっしりとした幸せの重みを感じ、自然と笑みを作りながらドアに近づく俺。
に、コンが駆け寄ってきてぼそりと言った。
「小遣い、忘れてねえよな?」
その目の鋭い光に、ほわわんとしていた頭の中が引き締まった気がした。ちゃんと覚えてたのね・・・・・・。
『もし約束を破ったら・・・』と怖い顔をする彼に、また新たな一面を見る。
本当に今日は、実り多き一日であった(後で銅貨三枚あげたよ。モモたちには『あげすぎだよー!!』と抗議されたが、ま、まぁあの眼球の鋭さに晒されたらね・・・)。
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