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第九十二幕「ジェスチーヌの涙」~女王アレクシアの悔恨~

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 「・・・ジェスチーヌさん、それは誤解だわ・・・だって、私達なんてストリップどころじゃない・・・女として最も恥ずかしい・・・そ、そのっ・・「男女の営み」・・・を大勢の前で披露してお金を恵んでもらっているんですもの・・・貴女のことを笑うなんて、そんな資格など有りはしない女なのよ・・・・私は・・・」

 ロザリーナ・・・いや、今は本来のロシュニア王国の女王・アレクシアに戻っている彼女の、静かな・・・どこか威厳の漂うもの言い・・・ジェスチーヌは戸惑いを隠せない。

 と同時に、今まで怒りに眉を吊り上げていたジェスチーヌの顔に、24歳らしい瑞々しい美しさと可愛らしさが戻る・・・。

 「・・・・そういうアンタ達は、なんであんな・・・そ、そのっ・・は、破廉恥なショーをしているのさっ?見ればアンタ、すっごく綺麗だし、そこの男の人だって若いし、マトモな働き口だってすぐに見つかりそうなもんじゃないか?・・・どうしてこんな場末の路地裏で、あんな落ちぶれ娼婦でも嫌がるような恥ずかしいショーをする必要があるのさ?」

 アレクシアは少し寂しそうに笑って・・・ジェスチーヌの瞳を見つめて静かに言う。

 「・・・・私達はね・・・「訳アリ」なのよ・・・でも、その訳は言えないわ・・・勘弁して頂戴っ・・・それよりねっ、貴女の話を聞きたいわ」

 アレクシアがティーカップを口に運んで紅茶を一口飲み、アラミスが気を利かせて宿の主人から分けてもらったクッキーをジェスチーヌにも勧める。
 紅茶と菓子で、彼女も少し落ち着いてきたのだろう・・・ポツポツと身の上話を語りだした。

 ・・・・聞けば彼女は、戦争未亡人だという。

 町の中流の商人の娘だった彼女は、20歳の時にロシュニア王国軍の少尉と結婚した・・・親の反対を押し切っての大恋愛だったという。
 しかし、女王アレクシアの独占欲と野心のため、領土拡張の為の戦争・紛争が絶えないロシュニア王国軍は多くの軍を国外に展開している為、軍人の戦死も多い。
 ジェスチーヌの夫も、少尉としてイクソス公国との植民地争奪戦争に狩り出され、そこで戦死してしまったのだという・・・・。

 「・・・・この国は戦争ばかりしているから、みんな軍人のことを良く思っていないのさ・・・徴兵されて戦死した者の家族には同情が集まるけど、アタイのような職業軍人の妻が未亡人になっても世間は見向きもしてくれない・・・むしろ、いい気味・・・くらいに思っているのさ・・・」

 ジェスチーヌの丸顔の可愛らしい顔に悲しみが宿り、長いまつ毛が涙に濡れてくる。

 「・・・・夫と結婚した時、駆け落ち同然で家を出てきたから、今更家にも戻れず・・・それで、この港町に来て・・・色々職を探したけど・・・結局、路上で男達にハダカを見せて食っていく身の上に落ちぶれた・・・・そういうワケさ・・・ねえっ?笑えるだろっ?」

 そう言って、ジェスチーヌは乾いた笑いでその場を誤魔化そうとする・・・しかし、彼女の大きな目から涙が溢れ出るのは止められないのだ。

 ロザリーナ・・・・いや、ロシュニア王国の女王アレクシアは無言で、じっとジェスチーヌの顔を見つめる・・・。

 ジェスチーヌの長いまつ毛から落ちる真珠の涙がテーブルに小さな水溜まりを作る。


 ・・・この国は戦争ばかりしているから・・・・

 そう言ったジェスチーヌの言葉が、アレクシアの心に突き刺さる・・・・しばしの沈黙。

 突然アレクシアが席を立って、いつもアラミスが肩に担いているズダ袋を持ってくる。

 ・・・ドサッ・・・重そうな音を立ててテーブルの上に置かれる硬貨がタップリ詰まったズダ袋。

 「ジェスチーヌさん・・・これを・・・幾らあるかは判らないけど・・・」

 アレクシアは今夜のショーで得た金をそっくりジェスチーヌに与えようとしたのだ。
 おそらくは800ギュネールは下らないであろう重そうな袋・・・今夜の売上。

 「・・・・???・・・ロザリーナさん・・・こ、これは・・・・」

 「けっこうな額は入っていると思うから・・・これでどこかで商売でも始めなさい、そして今の生活から足を洗うの・・・貴方にあんな稼業は似合わないわ・・・・」

 アレクシアが静かに・・しかし優しくジェスチーヌに囁く。


 「・・・ダメだよっ!これは受け取れない!・・・受け取れないよ!」

 ジェスチーヌがドレスの袖で涙を拭きながら、大金の入ったズダ袋をアレクシアに押し返す。

 「・・・いいのよ・・・受け取ってちょうだい・・・」

 しかし、ジェスチーヌは頭を大きく振って頑なに拒絶する。

 「・・・・受け取れるワケがないでしょう?だって、アンタ達もお金が必要で・・・それで・・・あんなショーをしているんでしょ?さっきアンタは「訳アリ」って言ってたけど、金が要らないなら、好きであんな恥ずかしいショーをする女がいる筈がないじゃないの?そうでしょ?」

 ・・・・アレクシアは少し困った顔になる。
 確かに、彼女の言う通りなのだ・・・路上で大勢の男達を前にして、女として耐え難い「性行為」までして・・・それを見物させて金を得る・・・女の大事な貞操と引き換えに得た金が「必要でない」わけがないのだ。

 ・・・・世間的には・・・・そうなのである。

 アレクシアがあの恥ずかしいショーをしている「理由ワケ」・・・・魔女にかけられた「呪い」を解くため大勢の目の前で性行為を披露していることは、けっしてジェスチーヌには言えない秘密なのだ。

 ジェスチーヌは、自分がロシュニア王国女王として行ってきた膨張政策のいわば犠牲者である・・・アレクシアはどうしても彼女を助けたい気持が抑えられなくなる。

 「・・・・・ウフフッ・・・わかったわ!」

 ・・・突然、アレクシアが笑いだして、クッキーを頬張る。
 アラミスは彼女の意図が判らず、ただキョトン・・・と2人が対面しているテーブルを眺めているだけだ。

 「・・・・確かにそうね・・・ウフフフッ、貴女って本当にいい娘ねっ!気に入ったわ!・・・じゃあ、こうしましょ?」

 「・・・・???」

 その先が読めないジェスチーヌが言葉を発せずにじっとアレクシアの顔を見つめていると、アレクシアは、大きなクッキーを一つ取り、2つに割って半分を食べ、片方をジェスチーヌに差し出す。

 「・・・・明日から一緒に稼ぎましょうよ!取り分は半分ずつ!・・・このクッキーみたいにねっ♥」

 
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