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第九十一幕「可愛い闖入者」~路上ストリッパー・ジェスチーヌ~
しおりを挟む「・・・ちょっとっ、アンタらっ!待ちなさいよっ・・・」
二日目の激しい「ショー」を終えて、ボウルに入りきれないほど散らかったギュネール硬貨やルブール金貨をズダ袋に流し込み、そそくさと逃げるようにその場を立ち去って、変装用に衣服を替える為、路地裏の暗がりに入り込んだところで、不意に声をかけられる二人・・・。
「・・・・へっ?ぼっ、僕達ですかっ?」
文字通り「身体を張った」激しいショーで、今夜もヘトヘトのカミーロが汗を拭きつつ驚いて振り向く。
「・・・そうさっ、アンタら以外にここには誰もいないじゃないか!」
怒気を含んだ棘のある口調・・・若い女性のようだ・・・2人の後を尾行てきたのであろう。
月明かりで透かして見る声の主は、20代前半くらいだろうか・・・若くて小柄な女である。
この界隈の娼婦や踊り子が着るような、大きく胸と太股のスリットが開いたセクシー・・・というより、いささか品のない扇情的なドレスである。
顔は、丸顔で愛嬌のあるパッチリとした目がチャーミングな、なかなかの美人だ・・・が、どこか浮世の苦労を感じさせるやつれを感じさせる・・・「堅気」の女性では無いようだ、酌婦か踊り子、娼婦といった風体である。
長く美しいミルクティーカラーの髪をゆったりと纏め、髪飾り等で精一杯オシャレをしているが、女王アレクシアの流れるような美しい髪とは異なり、所々バサついており、手入れが行き届いていない様子印象を受ける。
女は、その笑えば間違いなく可愛に違いないせっかくの美貌を怒りに歪ませ、2人の前に仁王立ちしているのだ。
「・・・ぼっ、僕達に何か御用でしょうか・・・・」
「何か御用ですか・・・じゃないよっ!アンタら、アタイのシマを荒らしてタダで済むと思っているのかい?」
「・・・・シ、シマ?・・・」
「ああっ、そうさ!あの辺りはアタイのシマだったのに、イキナリやってきてシマを横取りしてっ、オマケに商売のジャマまでしてっ・・・」
何が何やら分からないが、険悪な雰囲気・・・オドオドしているカミーロに代わって、ロザリーナが口を開く。
「・・・ねえっ・・・貴女、ここではなんだから宿でゆっくり話しましょう?」
そこは、ロシュニア王国の女王様である、静かな中にも威厳のある一言で、頭に湯気を立てていた女もあっさり矛を収める。
「・・・えっ、ええっ・・・いいわ、でもそんな事言って、逃げるんじゃないわよっ!」
三人は、アレクシアとアラミスが仮の姿で宿泊している安宿に場所を移し対面する。
改めて、ランプの明かりの下で見る彼女は、身なりは下品でみすぼらしい姿だが、宝石の原石のように瑞々しい美しさを秘めている感じがする可愛らしい女だ・・・・。
「・・・・カミーロ、彼女にお茶を・・・・」
「はいっ、ロザリーナ様っ!」
「ショー」では、ずっと年下のカミーロに主導権を握られ、彼のペニスでオンオンとヨガリ泣きを見せる彼女だが、ここではすっかり立場が逆になっている・・・その姿に、女はやや不審そうな表情を見せる。
・・・2人の関係がよく判らないのだ・・・おそらく、ショーの口上で話していた、「放逐された女使用人とその情夫」というのは偽りであろう。
「・・・・貴女、お名前は?」
ロザリーナ・・・・つまり女王アレクシアが、落ち着いた表情で静かに口を開く。
「アタイかい?・・・アタイはジェスチーヌ!・・・ジェスチーヌ・イデアル・・・」
「そう・・・ジェスチーヌさんっていうのね・・・ところで、さっき言っていた「シマ」っていうのは何のことなの?」
「・・・アンタねぇ・・・人をバカにしているのかいっ?あの路地裏はいつもアタイがショーをしている、アタイのシマなんだよっ!アタイが居ない時は大道芸人も使っているけどさ・・・あの界隈で路上でショーや芸をしているヤツはそれぞれシマ・・・縄張りが決まっていて棲み分けているのさ・・・決して他人のシマではショーや芸をしない、それがあの界隈の暗黙の掟なんだよっ」
「・・・・ショー?・・・あなたも大道芸なんかをしているの?」
ロザリーナの問いに、ジェスチーヌと名乗った女は少し口ごもって下を向く・・・。
「・・・・ス、ストリップショーさ・・・・悪いかい?」
・・・・そう、ジェスチーヌ・・・この24歳の女は、あの界隈で路上ストリップを生業としているストリッパーだったのだ。
きまりが悪いのか、少し尖った口調でそれだけ言って下を向いてしまった、このジェスチーヌという娘を優しく見つめながら、ロザリーナが言う。
「・・・・ううん、ちっとも悪くないわ!・・・私達だって同じこと・・・いいえ、もっと恥ずかしい事をして観客にお金を恵んでもらっているんですもの・・・」
「・・・・・・・」
他所から流れてきて他人のシマを荒らす、食いつめ者の異邦人だと高をくくっていたジェスチーヌは、ロザリーナの落ち着いた、冷静で知性と威厳を感じさせる受け答えに少々面食らっているようだ。
「・・・・そう・・・あの辺りは貴女がショーに使っている場所だったのね・・・知らなかったものですから、ゴメンナサイね・・・」
宿の1階から湯と茶葉やティーセットを借りてきて、3人分の紅茶を入れて持ってきたカミーロは、ロザリーナ・・・つまりアレクシアの会話を聞いて少し奇異の感じを受けた。
・・・・以前に見られなかった優しい受け答え・・・慈愛・・・・。
「・・・ねえっ、ジェスチーヌさん、貴女どうしてあそこでストリップをしているの?もしイヤでなかったら貴女の身の上を聞かせてくださらない?」
「・・・・アンタ、そんな事聞いてどうするのさ?どうせ笑いものにしようってんだろ?」
「・・・ジェスチーヌさん、それは誤解だわ・・・だって、私達なんてストリップどころじゃない・・・女として最も恥ずかしい・・・そ、そのっ・・「男女の営み」・・・を大勢の前で披露してお金を恵んでもらっているんですもの・・・貴女のことを笑うなんて、そんな資格など有りはしない女なのよ・・・私は・・・」
ほんの少し寂しげで、ほんの少し優しげなロザリーナ・・・女王アレクシアの言葉。
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