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42話
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私の体から眩い光が発せられ、聖女の力が暴走を始める。
部屋の調度品が砂のように崩れ、窓も扉も破裂したように外に飛び散る。
ヴァリビネ国王は両手で顔を覆い、床に屈み叫び声をあげ、目、鼻、口、耳から血が流れだす。
でもセルジュやアルバート神官長、ロナウド副団長は眩しそうに目を細めるだけで、特に苦しそうな様子はない。
そう、セルジュは普通に立っていた。
いつの間にか胸に刺さったナイフは抜け落ち、ナイフが刺さった傷口も塞がっている。
服と床に落ちた血だけが、怪我をしていた事を思い出させる。
「頭が! 頭が割れる! やめろ、やめてくれー!」
私の暴走は収まらない。
光は部屋どころか城全体、ううん、国全体にいきわたり、様々な物が砂となって崩れ落ちて行く。
ヴァリビア国の国民にも苦しみが行きわたる。いえ、一部の者だけが苦しみもがいている。
貴族や一部の商人、そして、関係者であろう人物、もちろん侯爵やマーテリーも苦しんでいるようだ。
「落ち着くのだアトリア! 私はもう平気だ、これ以上力を使ってはいけない!」
「聖女様! 心を静めてください! これ以上の破壊は必要ありません!」
「アトリア聖女様、あなたのお怒りは分かりますが、無関係の者を巻き込んではいけません」
3人にたしなめられるけど、ダメ……止まらない!!!
もうみんなの声が耳に入っているのに、やめようと思っているのに、力が勝手に暴れてる!
次第に部屋の壁が崩れ始め、天井が無くなってしまった。
このままだと、お城が崩れ落ちちゃう! 3人が……みんなが落ちてしまう!
3人も何とか私を止めようとしてるけど、光が3人を近づけようとしない。
近づけば、きっと体が破壊されてしまう。
どうして? 祈りもしないのに、感情だけで力が暴走しちゃうの?
力が……光が強くなる。
遂に絨毯が砂になってしまった。このままじゃ、このままじゃいけない!
私は覚悟を決めた。
世界の平和より、国の平和より、私は、この3人を助けたい!
部屋の外、崩れて壁の無くなった方向に向かって走り出す。
私が居なくなれば、力は、聖女の暴走は無くなるはず!!
床の淵を飛び越えて外に身を投げる。
ああ、目に入る町並みは、半分近くが崩れて無くなっている。
人々も……苦しんでいる……私のせいだ、力を制御できず、暴走させてしまったせいだ。
ごめんなさい、今、終わらせます。かたく目をつむり、落下に身を任せる。
ごめんなさいアルバート神官長、ロナウド副団長……セルジュ。
「バカ野郎!!」
私の体が止まった。
飛び出した場所から少しだけ下の位置で、何かが私を力強く抱きしめている。
聖女の力は、自らを終わらせることも出来ないの?
「このバカ娘め。俺が、お前を死なせると思っているのか?」
セルジュの声がする……どうして? 破壊の光で近づけないはず。
「もう少し……体力をつけた方がいいようですね」
アルバート神官長の声もする。
「私はもう少し瞬発力を付けましょう」
ロナウド副団長の声もだ。
ゆっくり目を開けると、目の前にはセルジュの胸が見えた。
ナイフの刺さった痕が目に入り、そっと指でなぞる。
「おいおい、くすぐったいから止めてくれ。流石に片手では長時間は無理なんだ」
セルジュは右手で私の体を抱きかかえ、左腕を上に伸ばしている。
その左手を、アルバート神官長とロナウド副団長が床に胸を付けて腕を伸ばし、掴んでいるみたいだ。
「どうして? 私が死なないと、破壊の力は収まらないのに」
「ん? もう光は出ていないぞ」
そういえば、もう光は出ていない。城や街の破壊は……止まっていた
「聖女様は自己犠牲が過ぎるようですね。少しは私達を頼ってもらいませんと」
「それが魅力でもありますが、私達を上手く使ってください」
ゆっくりと持ち上げられ、今にも崩れそうな床から急いで離れて、部屋の中心近くに倒れ込む。
真下ではセルジュが私を受け止め、右側ではアルバート神官長が手を握ってくれ、左側ではロナウド副団長が背中を押さえてくれている。
なんだろう、とっても……落ち着く。
私は、ゆっくりと意識を失った。
部屋の調度品が砂のように崩れ、窓も扉も破裂したように外に飛び散る。
ヴァリビネ国王は両手で顔を覆い、床に屈み叫び声をあげ、目、鼻、口、耳から血が流れだす。
でもセルジュやアルバート神官長、ロナウド副団長は眩しそうに目を細めるだけで、特に苦しそうな様子はない。
そう、セルジュは普通に立っていた。
いつの間にか胸に刺さったナイフは抜け落ち、ナイフが刺さった傷口も塞がっている。
服と床に落ちた血だけが、怪我をしていた事を思い出させる。
「頭が! 頭が割れる! やめろ、やめてくれー!」
私の暴走は収まらない。
光は部屋どころか城全体、ううん、国全体にいきわたり、様々な物が砂となって崩れ落ちて行く。
ヴァリビア国の国民にも苦しみが行きわたる。いえ、一部の者だけが苦しみもがいている。
貴族や一部の商人、そして、関係者であろう人物、もちろん侯爵やマーテリーも苦しんでいるようだ。
「落ち着くのだアトリア! 私はもう平気だ、これ以上力を使ってはいけない!」
「聖女様! 心を静めてください! これ以上の破壊は必要ありません!」
「アトリア聖女様、あなたのお怒りは分かりますが、無関係の者を巻き込んではいけません」
3人にたしなめられるけど、ダメ……止まらない!!!
もうみんなの声が耳に入っているのに、やめようと思っているのに、力が勝手に暴れてる!
次第に部屋の壁が崩れ始め、天井が無くなってしまった。
このままだと、お城が崩れ落ちちゃう! 3人が……みんなが落ちてしまう!
3人も何とか私を止めようとしてるけど、光が3人を近づけようとしない。
近づけば、きっと体が破壊されてしまう。
どうして? 祈りもしないのに、感情だけで力が暴走しちゃうの?
力が……光が強くなる。
遂に絨毯が砂になってしまった。このままじゃ、このままじゃいけない!
私は覚悟を決めた。
世界の平和より、国の平和より、私は、この3人を助けたい!
部屋の外、崩れて壁の無くなった方向に向かって走り出す。
私が居なくなれば、力は、聖女の暴走は無くなるはず!!
床の淵を飛び越えて外に身を投げる。
ああ、目に入る町並みは、半分近くが崩れて無くなっている。
人々も……苦しんでいる……私のせいだ、力を制御できず、暴走させてしまったせいだ。
ごめんなさい、今、終わらせます。かたく目をつむり、落下に身を任せる。
ごめんなさいアルバート神官長、ロナウド副団長……セルジュ。
「バカ野郎!!」
私の体が止まった。
飛び出した場所から少しだけ下の位置で、何かが私を力強く抱きしめている。
聖女の力は、自らを終わらせることも出来ないの?
「このバカ娘め。俺が、お前を死なせると思っているのか?」
セルジュの声がする……どうして? 破壊の光で近づけないはず。
「もう少し……体力をつけた方がいいようですね」
アルバート神官長の声もする。
「私はもう少し瞬発力を付けましょう」
ロナウド副団長の声もだ。
ゆっくり目を開けると、目の前にはセルジュの胸が見えた。
ナイフの刺さった痕が目に入り、そっと指でなぞる。
「おいおい、くすぐったいから止めてくれ。流石に片手では長時間は無理なんだ」
セルジュは右手で私の体を抱きかかえ、左腕を上に伸ばしている。
その左手を、アルバート神官長とロナウド副団長が床に胸を付けて腕を伸ばし、掴んでいるみたいだ。
「どうして? 私が死なないと、破壊の力は収まらないのに」
「ん? もう光は出ていないぞ」
そういえば、もう光は出ていない。城や街の破壊は……止まっていた
「聖女様は自己犠牲が過ぎるようですね。少しは私達を頼ってもらいませんと」
「それが魅力でもありますが、私達を上手く使ってください」
ゆっくりと持ち上げられ、今にも崩れそうな床から急いで離れて、部屋の中心近くに倒れ込む。
真下ではセルジュが私を受け止め、右側ではアルバート神官長が手を握ってくれ、左側ではロナウド副団長が背中を押さえてくれている。
なんだろう、とっても……落ち着く。
私は、ゆっくりと意識を失った。
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