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43話
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ここは……どこ? 昼間のように明るいけど、4方向にある高いアーチ状の柱以外には、外が見えない。
目の前には木製の丸いテーブルがあり、背もたれのあるイスが向かい合って置かれている。
座ればいいの? 近い方のイスに座ると、正面のイスにはお父様が座っていた。
「アトリア、お前は本当に私の期待を裏切る娘だった」
(私はお父様のいう通り……!?)
声が出ない。口だけが動いているけど、少なくともお父様には聞こえていない。
「金をかけて教育し、習い事も沢山させ、家庭教師も沢山付けた。なのにお前はハロルド王太子に捨てられたばかりか、メジェンヌ国へ行き聖女となった。何回私を裏切れば気が済むのだ」
(だってお父様! 私が捨てられたのはハインツ様が薬で操られていたからだし、私自身が聖女だなんて知りませんでした!)
必死に訴えるけど、私の声はお父様には届かない。
一方的にお父様の話を聞かされるだけだ。
「ハロルド王太子とマーテリー王太子妃の結婚式もそうだ。あの場で聖女を捨てたなどど言う必要があったか? どうしてお前は私に迷惑ばかりかけるのだ。楽しいか? 父が苦しんでいるのを見て楽しんでいるのか?」
(私は、私はお父様の人形でも良いと思っていました! あれはマーテリーやヴェリビネ国の陰謀の結果です!)
「ヴァルプール国が他国から攻められた時もそうだ。タイミングを計っていたのだろう? 最も高くメジェンヌ軍を売りつけられるタイミングを待っていたのだろう? お陰で王族も貴族も名ばかりで、何の権限も無くなってしまった。何代も続いたプルッセル公爵家は地に落ちてしまった」
(お父様……あなたは本当に、本当に私の事を娘とは……愛してはいなかったのですね)
悲しい……いえ、みじめだった。
お父様に利用されるだけの人生でも良いと思っていた。せめて、お父様が喜んでくれたらと、そう思っていた。
でも私の事を道具としてしか見ていなかった。
前を見ていられなくて、下を向く。涙がでない。
悲しいのに、これっぽっちも流れてくれない。
「お父様なんて、大っ嫌い」
声が、出た。自分で驚いて顔を上げると、そこにはもう、お父様はいなかった。
今のはなに? どうして最後だけ声がでたの?
そもそもこの状況は何? 走馬灯?
席を立って、お父様が座っていたイスの背もたれに手をかける。
何なんだろう。
何気なくイスに座る。
すると今度は正面のイスに、ハロルド王太子が座っていた。
「アトリア、私は君と出会えて本当に幸せだった」
ハロルド王太子の顔は、私に愛を語っていた時の表情だ。
以前の私はこの顔が大好きだった。
きっと、お父様からはもらえなかった愛情を、この人は与えてくれる、そう思っていた。
「私も、ハインツ様の事を愛していました」
「しかし君は私の元を離れ、聖女として生きる道を選んでしまった」
(え? 私はハインツ様に追放されて……!?)
また、言葉が発せられなくなった。
「君に捨てられた私を慰めてくれたのは、マーテリー嬢だけだった。父上も母上も、聖女に捨てられた私につらく当たり、マーテリー嬢に心を許した私はマーテリー嬢との結婚を決めた。なのに君は結婚式当日になって現れ、マーテリー嬢を悪者扱いをする。なぜだ? なぜ私にばかりつらく当たる」
(そうだ、以前もそうだったけど、ハロルド様の記憶は混濁している。ツバルアンナの薬で記憶を塗り替えられ、マーテリーに良いように扱われたいたんだった)
目の前には木製の丸いテーブルがあり、背もたれのあるイスが向かい合って置かれている。
座ればいいの? 近い方のイスに座ると、正面のイスにはお父様が座っていた。
「アトリア、お前は本当に私の期待を裏切る娘だった」
(私はお父様のいう通り……!?)
声が出ない。口だけが動いているけど、少なくともお父様には聞こえていない。
「金をかけて教育し、習い事も沢山させ、家庭教師も沢山付けた。なのにお前はハロルド王太子に捨てられたばかりか、メジェンヌ国へ行き聖女となった。何回私を裏切れば気が済むのだ」
(だってお父様! 私が捨てられたのはハインツ様が薬で操られていたからだし、私自身が聖女だなんて知りませんでした!)
必死に訴えるけど、私の声はお父様には届かない。
一方的にお父様の話を聞かされるだけだ。
「ハロルド王太子とマーテリー王太子妃の結婚式もそうだ。あの場で聖女を捨てたなどど言う必要があったか? どうしてお前は私に迷惑ばかりかけるのだ。楽しいか? 父が苦しんでいるのを見て楽しんでいるのか?」
(私は、私はお父様の人形でも良いと思っていました! あれはマーテリーやヴェリビネ国の陰謀の結果です!)
「ヴァルプール国が他国から攻められた時もそうだ。タイミングを計っていたのだろう? 最も高くメジェンヌ軍を売りつけられるタイミングを待っていたのだろう? お陰で王族も貴族も名ばかりで、何の権限も無くなってしまった。何代も続いたプルッセル公爵家は地に落ちてしまった」
(お父様……あなたは本当に、本当に私の事を娘とは……愛してはいなかったのですね)
悲しい……いえ、みじめだった。
お父様に利用されるだけの人生でも良いと思っていた。せめて、お父様が喜んでくれたらと、そう思っていた。
でも私の事を道具としてしか見ていなかった。
前を見ていられなくて、下を向く。涙がでない。
悲しいのに、これっぽっちも流れてくれない。
「お父様なんて、大っ嫌い」
声が、出た。自分で驚いて顔を上げると、そこにはもう、お父様はいなかった。
今のはなに? どうして最後だけ声がでたの?
そもそもこの状況は何? 走馬灯?
席を立って、お父様が座っていたイスの背もたれに手をかける。
何なんだろう。
何気なくイスに座る。
すると今度は正面のイスに、ハロルド王太子が座っていた。
「アトリア、私は君と出会えて本当に幸せだった」
ハロルド王太子の顔は、私に愛を語っていた時の表情だ。
以前の私はこの顔が大好きだった。
きっと、お父様からはもらえなかった愛情を、この人は与えてくれる、そう思っていた。
「私も、ハインツ様の事を愛していました」
「しかし君は私の元を離れ、聖女として生きる道を選んでしまった」
(え? 私はハインツ様に追放されて……!?)
また、言葉が発せられなくなった。
「君に捨てられた私を慰めてくれたのは、マーテリー嬢だけだった。父上も母上も、聖女に捨てられた私につらく当たり、マーテリー嬢に心を許した私はマーテリー嬢との結婚を決めた。なのに君は結婚式当日になって現れ、マーテリー嬢を悪者扱いをする。なぜだ? なぜ私にばかりつらく当たる」
(そうだ、以前もそうだったけど、ハロルド様の記憶は混濁している。ツバルアンナの薬で記憶を塗り替えられ、マーテリーに良いように扱われたいたんだった)
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