お願いされて王太子と婚約しましたが、公爵令嬢と結婚するから側室になれと言われました

５話 お世話になっている人たちと食事会

　衛兵の隊長さんの話を聞いて数日後、私は我慢しきれずに調べる事にしました。
　ハンスが嫌がらせを受けている、そんな事は信じられないけど、もしも、もしも本当に嫌がらせを受けていたら……。

　幸い私は、ソレを調べられる部署に出入りしているます。
　軍の指令書が仕舞われた棚を探し、ハンスの隣の領地の事を調べてみると、隊長さんに言う通り兵士は再教育のため王都に来ていた。
　そして同時にハンスにブロンドウルフの討伐命令が出ていました。

　兵士が再教育を受ける理由は……書かれていない。

「理由もなく再教育を受けさせるはずがないわ。一体誰の命令なのかしら」

　指令書の指示者を見ると、一般兵のトップである団長の名が書かれていました。
　団長がどうして再教育を指示したのか知りたいですが、残念ながら団長との面識はありません。
　なんとか理由を知りたいのですが……。

「いえ、やめておきましょう。きっと何か理由があったから再教育をしたんです」

　領地の兵を理由もなく呼び戻す事などあるはずがありません。
　では次に行きましょう。ハンスに隣接領地のブロンドウルフ討伐の命令を出したのは？
　すぐに命令書が出てきましたが、これにも理由は書かれておらず、隣接する領地の兵が不在のためとだけ書かれていました。

　こちらも理由は分かりませんでした。

「……偶然です。きっとブロンドウルフが街に近づきすぎたため、怖くなった住民から声が上がったのでしょう」

　モヤモヤは消えませんが、今はハンスが無事に帰ってくることを祈るとしましょう。




　１０日ほどが過ぎ、私はあちこちでお手伝いをしていたのですが、最近皆さんが口々に言う事があります。
　『あの王子と公爵令嬢を何とかしてくれ』です。
　なんとか視察と銘打った旅行は減額出来ましたが、結婚式を国外で挙げる事を諦めないようで、周囲の説得に応じる事なく婚前旅行へと……視察へと行ってしまいました。

「シオン……お願いだからこのままウチで働いてぇ～！」

「まて！　シオンは俺の補佐官だぞ！」

「違うでしょ！？　美術館のものよ！」

「いえ、神の御使いとして……」

　どうにもらちが明かないので、私がお世話になっている各部署の方々に集まってもらいました。
　少しずつ交流を深めていたので、今回は私の家で夕食を共にする形で意見交換をしています。
　するとどうでしょう、出るわ出るわ、王太子と公爵令嬢への不満のオンパレードです。

「お前らの気持ちは分かるがな、今はあの２人をどうにかする事を考えようぜ」

　衛兵の隊長さんが大きなジョッキをテーブルに置き、一同を見回しました。
　ちなみに隊長さんも不満を一通り吐き出した後です。

「俺はな、あの王太子がバカでも構わねーんだ。そりゃ将来は苦労するだろうが、嬢ちゃんが妃になると聞いて安心したものさ。将来は女王ってのもいいんじゃねーかってな」

「まったくだ。それが婚約破棄をした上に、新しい相手はあのザビーネ公爵令嬢だと聞いて、私は倒れそうになったものさ」
　
　隊長さんの意見に書記官室長が同意します。
　いえ待ってください？　私が女王とか何の冗談ですか？
　否定しようとしますが、すぐさま他の人が声を荒げました。

「バカ王太子にバカ公爵令嬢だって！？　ハン！　別れさせろ！　陛下にお願いして何としても別れさせろ！　そうじゃなきゃこの国に未来はないぞ！」

「ですが、あの２人は見た目が麗しいので人気だけは高いのです。陛下としても既に発表された結婚を頭から否定する事は難しいのでは？」

　市庁舎の孤児院担当の屈強な男性がテーブルをバンバン叩きながら叫び、同じく市庁舎の環境保全担当の若い女性が現実を突きつけます。
　あの御二人、ここまで人望が無かったのですね……私が居たところで改善できたとは思えませんが。

「皆さん、皆さんが王太子と公爵令嬢に不満があるのは分かりました。しかし今すぐに改善する事は無理な以上、別の手を考えてはどうでしょうか」

　皆さんが私を見て少し困った顔をしています。
　ええ言いたい事は分かります、すでに出された命令は絶対ですし、従わなければ自分の立場が危ないのです。

「今2人はこの国には居ません。だからこそ出来る事があるとは思いませんか？」

「確かにいねぇけどよ、何が出来るって言うんだ嬢ちゃん」

「少々お耳をはいしゃくします」

　テーブルの中央に皆さんが顔を集め、ひそひそ話をします。

「ああそっか！　なんで今まで気が付かなかったんだろう！

「それではこの方針で行きましょう。皆さんも注意しながらお願いします」

　一斉に首を縦に振り、家を出てそれぞれの場所へと向かいました。