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6話 命令は待つものではありません

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 翌日からは計画通りに行動が開始されました。
 王太子が居ないのならば、居ないなりの事をしたらいいのです。

「皆さん生き生きとしていますね。私もがんばらないと!」

 今日は教会でのお手伝いです。
 神の教えを説く事はできませんが、そのサポートなら問題はありません。
 そして計画通りの行動が開始されました。

「さあ皆さん、本日は孤児院で炊き出しを行います。お時間のある方はご協力をお願いします」

 神父さんが説教の後でそういうと、生活に余裕のある人たちが食べ物を持ち寄り、孤児院へと集まっていきます。
 そう、孤児院も予算が減らされ、食べる者に困っているのです。
 何度言っても反応が無く困っていたそうなので、食事会の際に私は言いました。
 『命令には背けませんが、命令されていない事をやっても問題がないのでは?』と言った所、皆さん鱗が落ちたような目をしていました。

 なので今日の炊き出しも命令外ですが、まずはお互いにフォローできるところをフォローし合う事になりました。
 他の部署でも色々とやっているようです。
 
 孤児院前には沢山の人が集まり、炊き出しというよりもパーティーに近い様相になって来ました。
 そして孤児院としても何とかお金を集めたいのですが……。

「あれ? 縫物ぬいものをやってくれるのか? 助かるよ、俺一人暮らしでさぁ」

「は、はい。職人さんにはかないませんが、精いっぱいキレイに仕上げます」

「あら包丁を研いでくれるの? たすかるわ~」

「ピッカピカにしますね!」

 本職の方にはかないませんが、そこまでの質を求めない方々も多いので、孤児の子達が出来る範囲での作業を行います。
 お小遣い程度ですが、少しでも孤児院の運営に役立つでしょう。




 別の場所では、衛兵さん達が木こりのお手伝いをしています。

「わるいねぇ、年を取ると丸太を運べなくて大変なんじゃよ」

「なに爺さん気にしないでくれ。俺達は体力が有り余ってるからな!」

 伐採した後の木を衛兵さん達が木そりに数本積み、半円形に切られた木の上を滑らせて運んでいきます。
 そして運ばれた余った木は木こりさんの手によって、衛兵さんが訓練に使う木の人形や木剣に加工されます。

 こうして足りない所をお互いに助け合い、予算不足を何とか切り抜けて行こうという作戦です。

「教会の活動が理解されればお布施も増えますし、善業を積めば神様は喜んでくれますよね?」

「その通りですよシオンさん。あなたのお陰でこれだけ沢山の人が助け合いを始めました。きっと神様も喜んでいらっしゃるでしょう」

 神父さんも進んで活動に参加してくださいました。
 本当に頭が下がる思いです。
 でも神父さんは、この活動だけでは長続きはしないとおっしゃいました。

「しかし……しばらくは大丈夫でしょうが、ずっと人々の善意にすがる訳にはいけません。根本的な解決をしなければ」

「そう、ですよね。やっぱり最終的には国が動いてくれないと」

 しかし今のところ国からの支援は期待できません。
 一時的には増額されても、すぐに元に戻ってしまうでしょう。

「せめて陛下が戻って来て下さればいいのですが」

 そう、国王陛下は現在長期遠征中で、お戻りになるのは数か月後です。
 早くお戻りになってほしいですが、国境沿いの様子が不安定らしく、中々帰る目途が立たないのだとか。

 次なる手を考えていますが、やはりいつまでも皆さんの優しさに甘えているばかりではいけません。
 しかも私は……そろそろハンスが戻って来るので、そちらに気を取られています。
 結局ブロンドウルフの姿を確認する事は出来ず、人が通る場所には柵を設置する事で完了としたそうです。

 そう、ハンスが帰ってきます!
 ど、どうしましょう、おめかしして、香水をつけて、そ、そうだわ、言うセリフも考えた方がいいですよね。
 えっと、えっと、他には、他にする事は……。

「え? 討伐は終わったのにまだ帰ってこれない?」

「そうなのよ、ハンス君はすぐに別の任務を与えられたそうよ? そんなに連続で仕事が割り振られるなんて、一体何があったのかしらねぇ」

 自宅での夕食の時間、お母様から衝撃的な言葉が出てきました。
 ハンスが……ハンスが帰ってこない? どうして。
 いえ、いくら何でもおかしすぎます。
 通常なら一つの任務が終われば、少しの間は仕事が割り振られません。
 それは一つの貴族に集中させてしまうと、人的・金銭的にも厳しくなるからです。

「ハンス君、次は森林火災の対策らしいんだ。確かに森林火災は危険だが、どうしてこう、連続して成果が薄い仕事ばかり回されるのか……不自然すぎる」

 お父様が言う通り、注意しないといけないけど、果たしてソレが功を奏したのかどうか判断が難しい。
 ブロンドウルフの討伐にしてもそうで、人里にあまり来ない魔物をどうやって討伐するのか。
 ……隊長さんの言葉が頭をよぎる。
 『ブロンドウルフの討伐は嫌がらせなんだ』
 では一体誰が嫌がらせをしているのでしょうか。
 そろそろ気のせいでは済まない所まで来ていませんか?
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