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魔法学校編

52.

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「そんな存在がいるなら、そっち応援して当然だろ。そのことでお前が誰かに謝る必要なんてないだろ」
「でも、ミレーの気持ちを知っていたのに応援できなくて、それでも手伝わせて欲しいっていうのはなんというか、虫がいいというか、偽善っぽいというか……俺がもやもやするから」
「……ばか真面目」
「真面目ではないと思うけど……おれがもやもやしたくないただの自己満足だから」
「そうやってお前はどんどん……リヒトともめちゃくちゃ仲良くなってやがるし」

 カレルのため息はどんどん大きくなっていく。どうして今リヒトの話題が出たのか、どうしてカレルはこんなに沈んでいるのか、どうしたら元気になってくれるのか。
 もしかしての可能性を浮かべることはできても、今日のやりとりだけをあげてもセツの推理が当たる確率は低い。カレルはセツよりもずっと聡明だし感性も豊かでその内側にあはあらゆる考えや感情を持っているに違いないから、それを推しはかるのは至難の業なのだろうとは思う。
 それでもセツはカレルのことを考えたい。少しでもカレルのためになることをしたくて、少しでもカレルが傷つかないことをしたい。
 セツはカレルの背に手を回す。綺麗な形をした背骨のラインをそっと撫でてみる。

「俺、この学校のカレル以外の人と関わらない方がよかったりする?」

 カレルは小さく息飲んだ。
 それは図星の意なのか、それとも別の意なのか。
 思えばミレーの件だけでなく、セツがリヒトと一緒にいるときカレルは大概機嫌がよろしくなかった。
 単純に考えれば、表向きは世話係でも本当は夜伽相手という立場にあるセツがカレルの学校の知人友人と関わりを持つのは複雑な気持ちになるのも当然だろう。
 だが、そんな単純な理由でもない気がするのは、そういうときのカレルはやけにセツとの距離が近いのだ。今だってカレルはセツにキスをしたりぎゅうぎゅうと抱きしめている。
 うまく言えないけれど……自分の周囲から複雑な立場にあるセツを遠ざけようとしているというわけではないように感じるというか。じゃあ、カレルがどうしたいのか、どうしてセツが学校の誰かと関わっているときに不機嫌になっているのかはやっぱり分からないのだけれど。

「カレルがそう思うなら、俺、ちゃんと気をつけるよ」

 少しの間を持って、カレルは小さく答えた。

「……別に、お前が誰と関わろうがそれはお前の自由だ。でも」

 でも。

「お前が他のやつと関わった分」
「うん」
「俺に」
「うん」
「……」
「カレル?」

 カレルが急に黙りこむ。どうしたのかと思っていると、カレルはまたため息をついてセツの方に体重をかけていた。支えきれずに倒れれば、セツに覆い被さったカレルがまたキスを降らす。
 頬に、瞼に、唇に。ちゅ、という音は甘く、セツの胸をくすぐる。

「朝食と夕食は俺と食べること」
「え?」
「お風呂は一緒に入ること」
「カレル?」
「休みの日は俺と一緒に過ごすこと。それらがどうしても難しいときは、ちゃんと俺に話すこと」

 静かな声で淡々と告げられたそれらにセツはぱちくりと瞬く。

「約束しろ」
「それは、俺とカレルの話……?」
「この状況でそれ以外に誰がいるんだよ」
「えっと……」
「なに」

(なんか……少しでも一緒に俺と過ごしたいみたいに聞こえるのは気のせいだろうか……)
 カレルがセツのことを嫌いではないだけでなく、親しみを持っているだけでなく、それなりに好いてくれているのならば、そう思うのはおかしなことではない、だろうか?
 いまだ実感が湧ききらないけれど、胸と頬がほわほわとあたたかかくなる。

「約束する」
「言ったな」

 直後、カレルはセツの体を抱き上げた。急に高くなった視界にきょとんとしている間に、脱衣所に運び込まれ下される。それからカレルは浴室の戸を開けた。
 今日はまだお湯を張っていないから当然浴槽は空っぽ。しかし、カレルが手を一振りするとそこには水がとっぷりと出現する。カレルがもう一度手を振ればほかほか湯気が立つ。
 いつもは蛇口を捻って湯を張っているけれど、なるほど、魔法を巧みに扱える人はこうして生活に活かすこともできるらしい。
 セツは普段カレルの次に入浴しているが、そのお湯が毎度ちっとも冷めていないほどよい温度なのももしかして……などと考えていると、ふいに衣服を脱がされた。

「か、カレルさん?」
「一緒に風呂に入るって言ったろ」

 たしかに言っていた、言っていたけれども。
 それなりに好きだとしても他人と一緒に風呂に入るものだろうか、とちょっと引っかかったけれども。
 セツが知らないだけでそういう友情もあるのかもしれない。いや、セツとカレルの間にあるのは友情ともまた違うとは思うけれど。じゃあふたりの関係は何なのか。この世の何よりも推していたり、それなりに好いてくれていたり、それでいて夜伽もするのは、一体どういう関係と言えるのか。考えてみるけれど思いつかない。
 そうしているうちにもセツは丸裸にされる。それからカレルは自身も均整の取れた体を晒した。相変わらず白雪のようにきめ細かく澄んだ肌、しっかりと鍛えていることを感じる筋肉がついた胸や腹にほうっと見惚れる。昨日に見た美しく鋭い近接戦闘も思い出し、ほうっと浸っていると腕を引かれて現実に戻された。
 寮の部屋備え付けの浴槽は決して狭くはないがそれでも当然二人で入ることは想定されていないだろう。カレルに誘われるままに、カレルに後ろから抱きしめられるような形で入浴すれば、お湯が溢れ出た。

「ゆっくり温まろうな、セツ」

 耳元で悪戯っぽい声が囁く。セツの心臓はぎゅんと跳ねる。
それからは——カレルから甘く蕩けるようなスキンシップを施され、セツはすっかりのぼせてしまった。
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